平成31・令和元(2019)年度展覧会・文化財を見てきました。

4月30日
中之島香雪美術館
 特別展 明恵の夢と高山寺
(3月21日~5月6日)
 自分の担当展覧会をオープンさせ、約2ヶ月ぶりの展覧会鑑賞。村山コレクションに収蔵される、明恵筆の夢記1巻(建仁4年〔1204〕ごろ)を結節点として栂尾高山寺の文化財を核としつつ自館コレクションを散りばめた明恵&鳥獣戯画展。樹上座禅像と夢記、そして仏眼仏母像を通じて明恵とまみえるありがたい機会。溢れる慈悲と真摯さ、そして明晰な思考、かくあるべしと背筋を伸ばす。鳥獸戯画も贅沢に参考出品。行列もほぼなく、かくあるべし。図録あり(176ページ、1800円)。

5月1日
東京国立博物館
 特別展 国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅-
(3月26日~6月2日)
 東寺宝物の東京出開帳展。風信帖(空海筆)、御請来目録(最澄筆)の国宝書蹟に始まり、真言七祖像、五大尊像、西院曼荼羅、京博十二天像の国宝絵画、唐請来密教法具、西院御影堂天蓋の国宝工芸品、そして講堂諸尊の数々と女神像の国宝彫像と、タイトル通りのラインナップ。東博平成館の強みである大空間を活かして広々と林立させた講堂諸尊像は、等間隔に配置された丸い台、そしてその間に多数参集する善男善女も一体となって、仏の充満する立体的な曼荼羅空間を実現しているかのよう。空海の意楽による特殊な羯磨曼荼羅であるので、いろんな再解釈や再構成も許されましょう。普段見られない背面のようすをたどりながらぐるり一周。図録あり(272ページ、2700円)。本館では特集「密教彫刻の世界」(3/19~6/23)を連動させて開催中。東博のおなじみの彫刻コレクションをうまく再配置。

 特集 2019新指定国宝・重要文化財
(4月16日~5月6日)
 恒例の新指定国宝重文お披露目展。彫刻主体に大阪・壺井八幡宮の頼円・実円作の神像をじっくり鑑賞(ちょうど自館で同じ頼円・実円作の広利時十一面観音立像を展示中)。ほか兵庫・朝光寺千手観音立像や新薬師寺地蔵菩薩立像、萬行寺阿弥陀如来立像といった、地域の中で地道に調査され評価されてきた作例をピックアップしているのが、素晴らしい方向性。和歌山県からは阿須賀神社の懸仏群が考古の分野で阿須賀神社境内(蓬莱山)出土品として指定。戦後、台風被害で倒れた社殿裏の木の根元から出土し、東博が発掘調査しているという珍しい事例。世が世なら東博収蔵品だったかも。

埼玉県立歴史と民俗の博物館
 特別展 東国の地獄極楽
(3月16日~5月6日)
 地獄極楽をテーマとしつつも、3章副題の「浄土宗第三祖良忠と関東三派の東国布教」を基軸として展覧会構成。白旗派・名越派・藤田派の浄土宗関東三派の教線拡大の状況を地道な資料調査と地域史研究の成果を踏まえて丁寧に提示。善光寺式阿弥陀三尊像は、下野国那須伝来の東博建長6年(1254)在銘像、栃木・円通寺(名越派)の作例、福島県いわき市所蔵の如来寺旧蔵嘉元2年(1304)修理銘を有する作例(伝良忠所蔵像)を紹介。ほか熊谷市東善寺の快慶風が顕著な阿弥陀如来立像も出陳。図録あり(128ページ、1000円)。

群馬県立歴史博物館
 企画展 大新田氏展
(4月27日~6月16日)
 新田義貞を巡る研究の大幅な進展を、実物資料を集約して展覧会として共有化を図る意欲的な内容。昨年発見された足利尊氏像(神護寺の肖像と似るもの)や福井・藤島神社の新田義貞像、太田市総持寺の伝儀貞像(本来は怖い顔の随身像)など肖像を集めるとともに、長楽寺文書など多数の中世文書を集約して、堅実な歴史叙述に努めて新田一族の鎌倉~南北朝期の動向をあきらかにする。地域史研究の観点から仏像・神像の調査も行われ、その成果も反映。太田市十二所神社の神像は正元元年(1259)造像。神仏分離で隣の円福寺から神社に移されたという、普通とは逆のパターンで、重要な新資料。その円福寺からは南北朝時代とされる毘沙門天立像も出陳。総持寺の不動明王立像は10世紀の重量感あふれる作例で県指定文化財指定。迫力満点。世羅田の長楽寺の文化財も多数出品され、新田荘の中世をモノ資料から見つめる。図録あり(152ページ、920円)。

5月5日
弘法寺(岡山県瀬戸内市牛窓)
 弘法寺踟供養(岡山県指定無形民俗文化財)
 阿弥陀如来と菩薩・天童の仮面をかぶった聖衆が来迎を再現する迎講のうち、現在唯一阿弥陀如来について鎌倉時代の被仏を用いて行われる貴重な事例。聖衆は菩薩6人、地蔵2人、天童2人の10人からなり、往生者は中将姫。脇を支えられながら、ゆっくりと移動し、またお辞儀を行う阿弥陀の姿は、来迎の光景を臨場感をもって再現するもので感動。昭和42年に主要堂宇の火災により中断されていたが、平成9年から復活。『千手山弘法寺踟供養』(關信子著、1000円)に詳細が記される。

5月9日
石川県立歴史博物館
 特別展 いしかわの神々-信仰と美の世界-
(4月27日~6月2日)
 石川県内の資料を中心に神像・本地仏像・垂迹画・懸仏・神社奉納品及び祭祀に関わる考古資料を集める。七尾市・久麻加夫都阿良加志比古神社の男神坐像(木心が二つあり神木を使用したか)、珠洲市・須須神社の男神坐像5軀のうち3軀など重要文化財を含む約20軀の神像の中では、能登半島の突端、珠洲市・白山神社の男神坐像、同・古麻志比古神社の男神坐像がともに10世紀に遡る法量も大きな作例で重要。ほか志賀町・龍護寺薬師如来坐像(県指定)は少彦名社本地仏、羽咋市・正覚院阿弥陀如来坐像(重文)は気多神宮寺講堂本尊。冒頭ごあいさつに過疎化・高齢化による文化財継承への危惧が開催動機とされていて、共感。図録あり(172ページ、2000円)。会期中無休。

石川県埋蔵文化財センター
 春季公開 
(4月27日~5月26日)
 同センター収蔵の「重要文化財 加賀郡牓示札(津幡町加茂遺跡出土)」(4/27~5/6)と「県指定文化財 野々江本江寺遺跡出土品(珠洲市)」(4/27~5/26)の展示公開。加賀郡牓示札は嘉祥2年(849)銘を有する現存する唯一の古代の牓示。本江寺遺跡出土品からはこれも現存最古の木製笠塔婆と木製板碑。笠塔婆は梵字バンを表した額が残存。歴博展示の神像も含め、宗教文化を考える上で能登半島先端の珠洲市の資料が極めて重要であることをしっかり把握。手作りリーフレットあり。

5月14日
奈良国立博物館
 特別展 国宝の殿堂 藤田美術館展-曜変天目茶碗と仏教美術のきらめき-
(4月13日~6月9日)
 現在休館中の藤田美術館コレクションの優品を、指定文化財の全件を含んで網羅的に紹介。曜変天目茶碗(国宝)を展覧会のアイコンとして押し出しつつ、奈良に伝来し明治期の混乱の中で流出した仏教美術・宗教文化に関わる資料群を重厚に選定。興福寺大乗院伝来の玄奘三蔵絵、内山永久寺伝来両部大経感得図(前期)、快慶作の地蔵菩薩立像、千体聖観音菩薩立像(興福寺千体仏)、伝西大寺旧蔵の仏像彩画円柱、灯明寺旧蔵四天王像扉絵、東大寺戒壇院伝来十六羅漢図、薬師寺休ヶ丘八幡宮伝来の花蝶蒔絵挾軾、手向山八幡宮伝来の唐鞍などなど。仏教美術の再発見・再評価と、「国宝」保護の営みへの啓発的視点を通底させることで、他機関コレクション展でありながら文化財保護法に基づき設置された仏教美術の殿堂という奈良博の特徴が存分に発揮されていて違和感がないのはさすが。図録あり(286ページ、2300円)。

高野山霊宝館
 企画展 高野山と不思議な話
(4月20日~7月15日)
 山内伝来の数々の文化財を展示し、高野山における祖師や先師、神々、聖地や神器にまつわる伝承や神話を紹介。地蔵院本高野大師行状図画(重文)は大師と狩場明神出会いの場面を展示。竜光院厨子入倶利伽羅竜剣(重文)、伝船中湧現観音像(国宝)、成福院天河弁才天像、影向した姿を描いた宝寿院高野明神像・丹生明神像のほか、正智院道範大徳像、浄菩提院の覚海尊師像、金剛峯寺の応其上人像、豊臣秀次の辞世の句を書いた直筆短冊、江戸時代に雷に打たれて割けた大塔心柱などなど。図録なし。ついでに壇上伽藍の御社にお参り。

5月17日
龍谷ミュージアム
 企画展 因幡堂 平等寺-京に飛んできたお薬師さん-
(4月20日~6月9日)
 因幡堂平等寺の伝来資料と関連資料を集約して展観。東京国立博物館所蔵の因幡堂縁起(重文)のほか、因幡堂縁起の諸本を徹底集約。本尊薬師如来立像(重文)は因幡堂縁起に長保5年(1003)に因幡国から橘行平邸に飛来したと語られる「飛んできたお薬師さん」。造像時期を検討する上でも縁起の「飛来」時期は示唆的。やはり因幡国から飛来と伝承される延算寺薬師如来立像(重文)も関連資料として出陳。ほか平等寺伝来の中近世仏像が多数公開され、中でも元和7年(1621)康正作の弘法大師坐像はその最晩年の作で、近世仏像研究の上で重要な発見。平等寺近隣西念寺の阿弥陀如来坐像は、湛慶あるいはそのごく周辺の有力仏師の手になる洗練された鎌倉時代の作例で、ありがたい出陳。仏教文化をテーマとする博物館として、京都の寺院の文化財を新規調査を踏まえて水準高く紹介するこうした活動は重要で、大学ミュージアムの地域貢献のありうべきかたちをも体現している。図録あり(104ページ、1800円)。

京都国立博物館
 特別展 時宗二祖上人七百年御遠忌記念 国宝 一遍聖絵と時宗の名宝
(4月13日~6月9日)
 真教上人700年遠忌の西国での先行展示。時宗本山清浄光寺と、七条道場金光寺を引き継ぐ長楽寺の資料群を中心に時宗(時衆)の歴史を紹介し、真光寺・清浄光寺・金蓮寺ほかの遊行上人縁起絵の諸本を集約して二祖他阿真教を顕彰する。目玉の一遍聖絵(国宝)12巻の全巻公開にあたっては、その美術史的鑑賞の便に留まらず、各巻模本も活用しつつ多数の場面を展開して一遍と時衆の(縁起的)歴史の紹介にも目配りする。また長楽寺・蓮台寺・常称寺の真教像、長楽寺・西郷寺・迎称寺の一鎮像をはじめ、鎌倉~南北朝期の遊行上人像を集める貴重な機会。各地の時宗道場伝来の仏像仏画も取り上げ、阿弥陀寺・聞名寺の行快作例ほか鎌倉時代彫像や、金蓮寺阿弥陀如来像(南宋)や阿弥陀浄土変相図(南宋~元)の宋元仏画など、時宗の幅に留まらないラインナップ。図録あり(282ページ、2500円)。

5月20日
東大寺ミュージアム
 特集展示 華厳経の絵画
(4月24日~5月28日)
 華厳経にまつわる経典と絵画を展示。紺紙金字華厳経(重文)は建久6年(1195)の大仏殿落慶供養会に際して書写された後鳥羽天皇奉納品。華厳五十五所絵断簡は、勝熱婆羅門、大願精進力救護一切衆生主夜神、堅固解脱長者の3面。貴重な平安仏画。図録なし。同行の皆さんと多聞天立像・持国天立像をじっくりと鑑賞。

6月18日
香雪美術館
 羅漢さん-仏教を護る聖者たち-
(5月18日~7月15日)
 村山コレクション中の羅漢に関する資料を、絵画と画中に描写される調度から紹介。展示面積的には南北朝~室町の十六羅漢図と江戸時代(古様に見えるように写したもの)の十六羅漢図が大きく占めるが、通底するのは明恵上人の羅漢信仰への接近。ポスト「明恵の夢と高山寺」(於中之島香雪美術館)展の様相。
 明恵の羅漢信仰を示す重要資料として十六国大阿羅漢因果識見綬頌(建久10年、明恵・喜海写、個人蔵)。パネル展示で明恵上人樹上坐禅像に影響を与えた図様の羅観図を含む和歌山浄教寺の十六羅漢を取り上げ(大心院系)、この系統の羅観図の零本を紹介。大心院系十六羅漢は西大寺本(室町後期)、聖林寺本(桃山)も写真で紹介され、研究が一気に進展。この系統の羅漢図は十八羅漢の可能性がありそう。パネルの内容も掲載したリーフレット(A3両面)あり。

6月20日
東京国立博物館
 特別企画 奈良大和四寺のみほとけ
(6月18日~9月23日)
 国宝・重文の本尊を擁する奈良県中央部の四ヶ寺からなる「奈良大和四寺巡礼」(H27年結成)の構成寺院の仏像を本館第11室に集める。岡寺義淵僧正坐像(国宝)、菩薩半跏像(重文)、天人文甎(重文)、室生寺釈迦如来坐像(国宝)、十一面観音立像(国宝)、長谷寺銅造十一面観音立像(重文)、難陀龍王立像(重文)と、古代~中世の重要作例がずらり。安倍文殊院からは快慶作文殊菩薩坐像(国宝)の納入経巻。大和の古寺の長期出開張展。図録あり(48ページ、864円)。

びわ湖長浜KANNON HOUSE
 野瀬町大吉寺聖観音立像
(5月28日~終了日未定)
 大吉寺の秘仏本尊のお前立ちの聖観音像がお出まし。平安末~鎌倉初の作例ではあるが、正面観では首が肩に沈み、随分腰高で足の長いプロポーションで何か古様で個性的。大吉寺と集落の結びつきは密接で、自治会長経験者が信徒総代をつとめるとともに、観音の分霊を預かる「頭人」制度があり、またその経験者で構成する大吉寺史跡保存会もあるとのこと。仏像の継承の背後には、信仰の場を地域の人々が維持し関わる仕組みがある。解説カードあり。

6月21日
三井記念美術館
 特別展 鎌倉禅林の美 円覚寺の至宝
(4月20日~6月23日)
 円覚寺大用国師・釈宗演老師の大遠諱を記念して、円覚寺とその一門寺院の文化財を展示公開。円覚寺開山の無学祖元に関する資料が充実。円覚寺無学祖元坐像(重文)、慈照院無学祖元像(春屋妙葩讃)、相国寺無学祖元墨蹟(国宝)、無学祖元所持品と伝わる開山箪笥収納品(重文)からは丹地霊芝雲文金襴九条袈裟、木印、堆朱・堆黒の優品、払子等々。頂相では、建長寺蘭渓道隆坐像(重文)、正統院高峰顕日坐像(重文)、瑞泉寺夢窓疎石坐像(重文)、白雲庵東明慧日坐像(重文)、正伝庵明岩正因坐像を集めて豪華。ほか円覚寺銅造阿弥陀三尊像(重文)、清雲寺瀧見観音菩薩遊戯坐像(重文)、東慶寺観音菩薩立像(重文)など仏像多数。図録あり(172ページ、2300円)。

6月25日
佛教大学宗教文化ミュージアム
 特別展 ほとけの手-黙して大いに語る-
(5月25日~6月30日)
 本体から分離して伝えられた仏像の手を集め、そこから「ほとけの手」の宗教的機能を推察する。京都大学人文科学研究所所蔵のパキスタン・タレリ寺院とメハサンダ寺院出土の手部断片23点、徳島県・雲辺寺の千手観音像腕部26点、兵庫県・達身寺の天部形像腕部4点など。仏手に着眼してテーマとすることで、仏像断片を展示する文脈を構築した点が重要で、断片となってなお廃棄されずに維持継承してきた人々の信仰の歴史をも背後にうかがわせる。図録あり(58ページ、1000円)。常設部分では壬生狂言の仮面等資料を展示中。

7月21日
奈良国立博物館
 わくわくびじゅつギャラリー いのりの世界のどうぶつえん
(7月13日~9月8日)
 夏休み期間にあわせ、館蔵品・寄託品を活用して宗教美術における動物表象にクローズアップし、職員作画のイラストで雰囲気を和らげつつ、親しみやすい展示作りに努める。普賢十羅刹女像(前期)、普賢菩薩像(後期)、一字金輪曼荼羅(前期)、孔雀明王像(法隆寺・後期)、星曼荼羅(前期眞輪院本、後期法隆寺本)、鳥獣戯画残欠(藤田美術館、前期)、辟邪絵(前期)、地獄草紙(後期)等々、絵画資料の優品・佳品の贅沢なお蔵出し展の様相。彫刻では海住山寺の普賢菩薩騎象像のうち象は大倉集古館の像を彷彿とさせるもの(ただし後補もあり)。ほか鳳凰文塼(南法華寺)、法華経妙音菩薩品(施福寺)など。図録あり(154ページ、1000円)

 特別陳列 法徳寺の仏像-近代を旅した仏たち-
(7月13日~9月8日)
 近年個人から奈良町の法徳寺に寄進された仏像のうち27体を紹介。鎌倉時代の文殊菩薩坐像(五髻文殊)、飛鳥時代の銅製観音菩薩立像(橋本関雪旧蔵)、平安時代中期の如来坐像、興福寺千体仏20軀、平安時代後期の地蔵菩薩立像(興福寺旧蔵)など、近代期に寺院より流出し巷間に伝えられた未紹介の彫像を、速報的に展示する意欲的な内容。興福寺千体仏については、春の藤田美術館展出陳の20軀(50軀のうち)に引き続いての大量出陳で、一気にアカデミックの対象としての水準に引き上げた(平安後期南都における造像功徳による作善の事例)。図録あり(42ページ、1000円)。

8月16日
MIHO MUSEUM
 紫香楽宮と甲賀の神仏-紫香楽宮・甲賀寺と甲賀の造形-
(7月27日~9月1日)
 紫香楽宮・甲賀寺の歴史(及び発掘調査の足跡)を紹介するとともに、甲賀地方の特色ある仏像・神像をかつての宮都の文化的遺芳として集める。甲賀寺跡出土の瓦、宮町遺跡出土の柱根、北黄瀬遺跡出土の大きな井戸枠、鍛冶屋遺跡出土の梵鐘内型等々、主要出土遺物が結集。甲賀市常明寺の大般若経、布施美術館の光明皇后五月一日願経などの奈良朝写経も充実。仏像・神像では、奈良時代の小金銅仏である極楽寺の観音菩薩立像、阿弥陀寺の薬師如来立像は量感ある充実した体躯の10世紀彫像、矢川神社の威相を示す10世紀の男神坐像、櫟野寺からは10世紀の観音像のほか、10~11世紀の拱手する僧形坐像と、甲賀市内の重要作例を集約する。信楽に所在する同館が、信楽と甲賀郡の歴史的・文化的重要性を伝える展覧会を開催するのは、博物館の公共性という観点からも意義深いもの。図録あり(212ページ、2600円)。
 鑑賞後、紫香楽宮遺跡(甲賀寺跡)に足を伸ばして散策。小丘陵上の伽藍には大仏作るスペースはないなあ。

8月21日
九州国立博物館
 室町将軍-戦乱と美の足利十五代-
(7月13日~9月1日)
 室町時代の文化史を、歴代将軍の動向を軸にしつつ重要資料を集めて俯瞰する。九博での開催は、足利尊氏の筑紫落ちからの快進撃ののち室町幕府が開かれたことに基づくもよう。前田育徳会宝積経要品など尊氏自筆資料、久遠寺夏景山水図など東山御物の数々、禅林寺融通念仏縁起絵巻など将軍家が製作に関与した絵巻、黒川能の絢爛豪華な装束など猿楽の資料(輸入唐物の観点も)、そして等持院の歴代将軍肖像などなど。
 等持院足利将軍坐像13軀がずらり円形に並ぶ最後の部屋は、迫力ある展示空間が構築された優れたデザインであるが、この部屋のみ撮影可とし、またフロアー中央に撮影ポジションを限定して観覧者動線との衝突を防ぐ手法はよく練られたもの。
 本展に彫刻資料が少ないのは、足利将軍坐像でさえも評価が定まっていないように、これまでの室町時代彫刻史研究の停滞によるものに違いない(自戒)。室町時代政治史・文化史の中における仏像(神像)研究の必要性を痛感。図録あり(304ページ、2650円)。

熊本県立美術館
 日本遺産認定記念 菊池川二千年の歴史 菊池一族の戦いと信仰
(7月19日~9月1日)
 熊本県・菊池川流域の文化遺産を核とした「米作り、二千年にわたる大地の記憶」の日本遺産認定を記念して、流域の武士の消息を伝える資料群、そして信仰に関わる文化財を集めて展観する。菊池一族の精神的支柱であった大智禅師の肖像彫刻(広福寺蔵)、その大智に継承された道元所持の二十五条袈裟(広福寺蔵)、時宗の祖師像である僧形倚像(願行寺蔵)、平安時代前期の地蔵菩薩立像(康平寺)、鞠智城跡出土の金銅菩薩立像など、仏像も多数出陳。神像では玉名大神宮の男神坐像(平安時代)と菊池神社の僧形神坐像(応永10年[1403])に注目。前者は菊池則隆像、後者は菊池武士像という伝承を付随している由。神仏分離時の対応措置かと想像するが、要検証。図録あり(227ページ、2300円)。

8月24日
高野山霊宝館
 第40回大宝蔵展 高野山の名宝-きらめく漆工の美-
(7月20日~10月6日)
 恒例大宝蔵展は、高野山伝来の平安時代~近代までの漆工資料をお蔵出し。澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃(平安時代・国宝)や、灌頂道具を収めた花鳥漆絵竹編箪笥(竜光院・明~清・重文)などのほか、宝簡集巻三四・後白河院御手印起請文(国宝)とそれを収めてきた梨地蝶菊文蒔絵文箱、紺紙金銀字一切経(国宝)とそれを収めてきた経箱(国宝附)、大正天皇下賜の螺鈿秋草蒔絵文箱などの多彩な奉納品を紹介。紫雲殿の小特集「天野社と丹生高野明神」では鎌倉時代の丹生・高野明神像(重文)など展示。隅廊で開催中の「新発見!圓通寺 八万四千塔」は近時発見された木製小塔を速報展示。天保7年(1836)に円通寺の龍海が発願・供養。近年の霊宝館の活発な展示活動は、毎回新たな高野山史を紐解き掘り起こす作業であり、新鮮な驚きに満ちている。

9月8日
高野山別格本山西南院
 第1回 西南院寺宝展
(9月5日~9月8日)
 近年整理作業が進められている西南院聖教調査の成果をもとに、平安時代から室町時代までの聖教類を特別公開。平安時代後期のオコト点(宝幢点)が付された蘇悉地羯羅経巻上、安元2年(1176)明空書写、高野山印接院の朱方印を有する略釈毘盧遮那経中義、奥書に「紀州名手荘江河村千手寺常住」とある永禄7年(1564)の神名帳、元中3年(1386)書写と推定される荒神祭文は南都伝来の可能性。ほか天正8年(1580)、春日社の神官が書写した神祇陰陽鈔など神道書もピックアップ。
 従来の西南院聖教に関する研究の蓄積を踏まえつつ、新資料も多数公開され、それらを共有化する貴重な機会。調査を担当されている高野山大学坂口太郎講師による解説集(16ページ・100円)あり。ぜひ第10回まで継続して、高野山の新たな歴史を紐解いて欲しい。

9月12日
泉屋博古館
 住友財団修復助成30年記念 文化財よ、永遠に
(9月6日~10月14日)
 住友財団による文化財修復への助成事業30周年の節目に際して、住友コレクションの展示施設である泉屋博古館を中核に全国4会場(泉屋博古館・同分館・九州国立博物館・東京国立博物館)で開催する文化財修理と保存の啓発展示。
 泉屋博古館会場では京都府下の修理助成作例を中心に集める。彫刻では平安末奈良仏師作例の浄瑠璃寺大日如来坐像、正和4年(1315)の躍動的な動きを見せる院派作例の大興寺十二神将立像(巳・午)、絵画では神護寺の山水屏風、栗棘庵の八幡若宮神像、聖護院熊野宮曼荼羅、ほか冷泉家時雨亭文庫の明月記など。
 図録あり(164ページ、1200円)。図録は4会場それぞれで発行するが、総論・概説・座談会は全て共通で、出品資料の解説付きのカラー図版部分(及び表紙)が異なる。オープン前の東博分以外は同時販売(分館分192ページ、1200円、九博分132ページ・1080円)。

京都市歴史資料館
 企画展 ICOM京都大会開催記念 京都市指定の文化財
(8月30日~10月20日)
 ICOM京都大会にあわせて、市指定の優品を集めて展示する貴重な機会。勝光寺聖観音立像は9世紀の作例で、真如寺伝来。真如寺は貞観4年(862)創建と伝承。鳥羽地蔵浄禅寺の十一面観音立像は等身に近い10世紀作例。赤間薬師堂の薬師如来坐像と慈眼堂(中院町文化財保存会)の千手観音立像は、修理の際の情報も紹介。ほか八幡宮社の室町時代懸仏や鎌倉時代鏡像、十念寺の曾我蕭白筆雲龍図(安永7年〔1778〕)など。図版・解説付きのリーフレットあり(A4・8ページ、無料)。

京都国立博物館
 ICOM京都大会開催記念 特別企画 京博寄託の名宝-美を守り、美を伝える-
(8月14日~9月16日)
 ICOM京都大会開催を記念して、京博寄託品から選りすぐって、日本美術史叙述の上で骨格をなす重要資料の数々を全館で展示。優品優品また優品で出陳品列記にきりがないけれど、仁和寺孔雀明王像、清浄華院阿弥陀三尊像の宋仏画並びや、仁和寺宝相華迦陵頻伽蒔絵𡑮冊子箱、宝相華蒔絵宝珠箱、延暦寺宝相華蒔絵経箱の平安蒔絵並び、正伝寺兀庵普寧(or東巌慧安)所用品と天授庵無関普門所用品の宋元袈裟並びなど、「美」にのみ収斂されない信仰の証の伝領の歴史にも思いをいたす。
 本展出陳資料とも重なりつつ、今回の機会に京博寄託品を選んで編集した同名の図録(248ページ、1800円)あり

9月26日
和歌山市立博物館
 特別展 雑賀衆と鷺ノ森遺跡-紀州の戦国-
(8月24日~9月28日)
 戦国時代の紀州惣国の動向と様相を、近年発掘された鷺ノ森遺跡の調査成果報告を核として、真宗の信仰を伝える仏画や戦国期の古文書から紹介。紀州の真宗道場の展開を考える上で象徴的な位置づけにある二尊像(親鸞蓮如像)や顕如像、准如像など鷺森別院の仏画をじっくり。真宗寺院や個人所蔵の雑賀衆関連の古文書を丁寧に集めて釈文も用意。図録あり(96ページ、1000円)。

10月2日
神奈川県立金沢文庫
 特別展 聖徳太子信仰-鎌倉仏教の基層と尾道浄土寺の名宝-
(9月21日~11月17日)
 中世の真言律宗周辺の聖徳太子信仰に基づく美術資料を集約。茨城県から善重寺聖徳太子立像(重文・摂政像)、妙安寺の聖徳太子立像(孝養像)と聖徳太子絵伝(重文)、上宮寺聖徳太子絵伝(重文)、小松寺如意輪観音坐像、千葉県・円勝寺聖徳太子立像(二歳像)と関東地方における太子信仰の優品を揃える。また広島県・浄土寺からは聖徳太子立像3軀(摂政像・孝養像・二歳像〔重文〕)、釈迦涅槃図(文永11年〔1274〕、重文)、弘法大師絵伝(県指定)、定証起請文(嘉元4年〔1306〕、重文)などなど、多数出陳されて有益な機会。幸俊作の暦応2年(1339)聖徳太子立像の体型と衣紋処理をじっくり。図録(112ページ、1800円)は鋭意製作中で、校正刷り見本による予約販売中(現在館内でのみ受付)。

東京国立博物館
 住友財団修復助成30年記念 文化財よ、永遠に
(10月1日~12月1日)
 住友財団による文化財修復への助成事業30周年を記念し、その成果を4会場(泉屋博古館・同分館・九博・東博)で紹介。東博会場では、東日本大震災において被災した福島県の杉阿弥陀堂阿弥陀如来坐像、楞厳寺釈迦如来坐像および迦葉阿難立像、龍門寺虚空蔵菩薩坐像のほか、埼玉県・保寧寺の宗慶作阿弥陀三尊像、福井県高成寺の千手観音立像、滋賀県・金剛輪寺十二神将立像、三重県・一色町能楽保存会の能面、和歌山県・熊野那智大社の下御門仏師作の神像、高知県・北寺の仏像群など、全国(九州・京都府以外)のバラエティに富んだ彫刻資料を集約。文亀元年(1501)高野山龍光院より伝来したと伝わる長野・不動寺の不動明王立像、2015年の長野県信濃美術館「“いのり”のかたち」以来のうれしい再会で、風貌の新様と体型の旧様を眺めつつ平安時代末の転換期の作例と想像。もっと調べてみよう。図録あり(112ページ、1100円)。

びわ湖長浜KANNON HOUSE
 余呉町上丹生 源昌寺 聖観音坐像
(8月27日~10月27日)
 小さいながらも平安時代後期風が顕著な源昌寺の観音像を紹介。実際の制作時期は、建保3年(1215)作の同寺本尊薬師如来坐像、翌年造像の洞寿院観音菩薩立像と表現が近く、鎌倉時代に入るとの評価。「仏の本様」たる定朝様の惰性が地域の仏師の中でとても強く残り続ける事例。彫刻史のムズカシイところをさらりと示す貴重な機会。東博にお出かけの皆様、例え5分でも隙間があれば、ぜひ観音ハウスにお立ち寄りを。解説カード(無料)あり。

泉屋博古館分館
住友財団修復助成30年記念 文化財よ、永遠に
(9月10日~10月27日)
 住友財団による文化財修復への助成事業30周年記念展。泉屋博古館分館会場では、称名寺の十二神将像、大倉集古館の十六羅漢像、永青文庫の長谷雄草紙、慈光寺の法華経一品経、泉屋博古館の水月観音像、練馬区立美術館池大雅筆比叡山真景図、アルカンシェール美術財団円山応挙筆淀川両岸図巻、増上寺狩野一信筆五百羅漢像などなど、修理助成した関東地方の所蔵者を中心に絵画資料に特化して集約。永青文庫・伝雪舟筆富士三保清見図の落款と印がはめ込みとの指摘。へえー。図録あり(192ページ、1200円)。後は九博会場だけ。

大倉集古館
 リニューアル記念特別展 桃源郷展-蕪村・呉春が夢みたもの-
(9月12日~11月17日)
 5年半の工事を終えてリニューアルなった同館の再オープンにあたり、吉祥図像の桃を取り上げる。新収蔵資料の呉春筆武陵桃源図屏風をメインテーマとして、その師与謝蕪村の武陵桃源図(個人蔵)と比較しながら、画中に亡き師を投影した呉春の画風変遷の画期を示す資料と位置づける。新たな作品解釈に果敢に踏み込む一方で、桃や桃源郷をモチーフとした中国絵画(林原美術館武陵桃源図巻ほか)から、日本における桃源郷イメージの受容と展開を示す作例(三井記念美術館中村来章筆武陵桃源図ほか)まで目配りして堅実。図録あり(112ページ、2200円)。1階では名品展。古今和歌序(国宝)、普賢菩薩騎象像(国宝)、石清水八幡曼荼羅(重文)、一字金輪像(重文)などなど。ミュージアムショップは地下1階に移動。

10月7日
東寺宝物館
 東寺御影堂と弘法大師信仰
(9月20日~11月25日)
 屋根葺き替え工事中の御影堂の歴史と奉納品について紹介。大師将来の真言七祖像を忠実に模写した浄宝本真言七祖像、東寺御影堂牛王宝印版木、鎌倉時代の両界種字曼荼羅、大師御筆と伝わる十喩詩跋尾(平安時代)のほか、昭和9年の大師千百年遠忌の際に旧女官により寄進された明治天皇・皇后御下賜品の金工・漆工・染織・竹工がずらり。リーフレットあり(12ページ)。見終えて京博に走り文化庁のセミナー登壇。

10月19日
龍谷ミュージアム
 日本の素朴絵-ゆるい、かわいい、楽しい美術-
(9月21日~11月17日)
 前近代における、ゆるくおおらかな絵画の系譜を「素朴絵」と定義づけて作品を集める。この種のテーマといえばこれ!の日本民藝館のつきしま絵巻や、サントリー美術館の鼠草子絵巻、西尾市岩瀬文庫のかみ代物語絵巻など御伽草子を骨格として、白隠・仙厓の禅画のほか、円空・木喰の行者系彫像や素人手の神像、石工・陶工による狛犬まで目配りして資料選択。「素朴」という表象で括った上で、それらが現れる背景の多様性にも目配りする。意図的でない「素朴」は始原に接続する。図録あり(216ページ、2000円)。

大津市歴史博物館
 企画展 大津南部の仏像-旧栗太郡の神仏-
(10月12日~11月24日)
 大津市南部、栗太郡・滋賀郡内の9地区別に、継承された宗教美術を紹介。承暦4年(1080)銘を有する若王寺大日如来坐像や同寺如来立像(重文)、須賀神社薬師如来坐像(県指定)、安楽寺薬師如来坐像(重文)など仏像だけでなく、建部神社の神像群(重文)や近津尾神社、毛知比神社などの神像も紹介。不動寺不動明王像、雲住寺不動明王二童子像、荒戸神社仏涅槃図など中世の仏画が、朽損甚大ながらも継承されているのも地域性。制作時期の判断が難しい立木観音安養寺の大日如来坐像の立体表現や細部形式を興味深く鑑賞。図録あり(112ページ、1400円)。

滋賀県立安土城考古博物館
 特別展 『動物美術館』開演! 
(10月12日~11月24日)
 動物をモチーフとした宗教美術に着目し、埴輪・絵馬・禽獣座から牛頭天王、涅槃図などなど広く目配りしながら、狛犬に特に着目して資料を集約。展示室に入ると、うわっと思わず声が漏れてしまうほどの狛犬大集合で隙間なし。木造狛犬は県下から集め、天皇神社像(平安)、石山寺像(平安)、大宝神社像(鎌倉)、小山田元宮保存会像(南北朝)、日吉大社像(江戸)、竹田神社像(江戸)、石造では京都・高森神社像(南北朝)、和歌山・薬徳寺像(長禄3年[1459])のほか、小谷神社像(室町)など県下の笏谷石製狛犬を集約、陶製狛犬は京都・高倉神社像(桃山)や愛知県・伊勝八幡宮像(室町)、愛知県陶磁資料館のコレクションを展示。琵琶湖文化館のコレクションからは円山応挙の狗子像、森狙仙の猿猴図もチョイス。図録あり(130ページ、1500円)。出陳品以外の滋賀県下の狛犬も多数掲載され、特論「近江の狛犬たち」(執筆山下立)は滋賀県の狛犬研究の研究史と到達点を提示。

10月26日
堺市博物館
 企画展 描かれた仏の世界-堺の仏教絵画-
(10月5日~11月4日)
 県内自治体の講演会を終えてから急ぎ閉館間近の堺市博へ。堺市内に伝わる仏画と縁起絵巻を、中世に遡る資料を軸に集約。福成寺仏涅槃変相図は涅槃図の周囲に区画なしで八相を描き並べる。過去の修理で永正12年(1515)に紀三井寺瀧本坊で南都住人茶三郎が製作した銘が軸木にあったという(現在確認できず)。如来の風貌は南都絵所の特徴を示す一方、画面全体は一見すると鎌倉末~南北朝の作風を示していて要検討ながら重要資料。ほか、長谷寺の長谷寺縁起は巻末に「長谷寺十三重等供僧中」とあり明応4年(1495)の塔焼失後の勧進に関わる製作の可能性。法道寺阿弥陀三尊像は高麗仏画を代表する優品。ほか北十萬の鎌倉時代前期の阿弥陀三尊来迎図、高倉寺宝積院の星曼荼羅図や南都絵所松南院座清賢作の法起菩薩曼荼羅図、法道寺の興教大師像(室町)など、重要資料満載。堺市博の長年に渡る調査の成果を反映。図録あり(56ページ、600円)。

11月2日
大和文華館
 特別展 聖域の美-中世寺社境内の風景-
(10月5日~11月17日)
 全国主要寺社の聖地景観を描いた絵画作品を集約して展観。冒頭、笠置曼荼羅・柿本宮曼荼羅・日吉曼荼羅・春日宮曼荼羅の館蔵品を導入に、高野山水屏風、園城寺境内古図の大画面を広げて壮観。高野山の境内図については他に奥之院を描く高野山曼荼羅(東京芸大)、山上山麓を一望する高野山図屏風(堺市博)を展示するほか、説経節「かるかや」の絵入り本(サントリー美)を提示し、その整いの対極にある筆致に中世高野山イメージの投影を見る視点に身震い。ほか慧日寺絵図(恵日寺)、松尾神社絵図(松尾大社)、伊勢曼荼羅(正暦寺)などなど。図録あり(120ページ、1500円)。泉万里「総論 中世寺社境内の風景」「付論 高野山の風景」所収。

天理大学附属天理図書館
 開館89周年記念展「奈良町-江戸時代の「観光都市」を巡る-」
(10月19日~11月10日)
 近世における南都の寺社と奈良町を描いた景観図や地誌、旅行記を、館蔵保井文庫を活用して展示。大乗院尋尊自筆の大和国小五月郷指図、二条宴乗記、興福寺寺務日記など中世末のようすから、寧楽清勝絵巻による幕末のようすまで、近世奈良町イメージの流布の状況を通覧。奈良坊目拙解の村井古道自筆稿本みてテンション上がる。図録あり(32ページ、500円)。

11月4日
国立民族学博物館
 特別展 驚異と怪異-想像界の生きものたち-
(8月29日~11月26日)
 シンポジウム「日本におけるユニバーサル・ミュージアムの現状と課題」の合間に急ぎ観覧。人魚や怪鳥、霊獣など世界の怪異表現を集約。中でもライデン国立民族学博物館収蔵品や大阪瑞龍寺などの河童や人魚、龍などの日本の作り物ミイラを多数集めて壮観。聖俗の交わる境界の神秘の光景が、「見る」「見られる」に対置されていく怪異の位相の変化を体感する。展覧会内容は書籍化される(240ページ、2700円)。

11月5日
福井県立歴史博物館
 特別展 ふくいの鎮守さま-神と真宗道場が織りなす信仰世界-
(10月26日~11月24日)
 鎮守の場を規定し構築する信仰の所産を、主に福井県内の神社伝来の神像・本地仏等を集約して紹介。核となる坂井市大湊神社の神像群は、10世紀の雄偉な伊邪奈岐命坐像や男神坐像や、珍しい猿面の男女神坐像(鎌倉)、鎌倉時代の秀麗な女神坐像など多様。また越前町八坂神社からは、著名な十一面を頂く女神坐像のほか、多種多様な男女神像や翁面断片、陵王面、獅子頭断片(鎌倉)、中世の小さな獅子頭(室町)、随分古様で大ぶりな獅子狛犬(鎌倉)など、重要な資料群が出陳。福井市八幡神社の平安時代後期の阿弥陀如来坐像や大日如来坐像などは、現在も古拝殿内に安置される。祈りの場の歴史的推移を復元的に考える上では、こうしたモノ資料のもつ豊饒な情報が極めて重要な手がかりとなることを、体現するような展示。図録あり(124ページ、1200円)。

能生白山神社
 福井から、石川・富山を横断し、立山に見守られながら新潟へ。新潟県糸魚川市能生の能生白山神社訪問。永正12年(1515)建立の本殿は修理中。能生の舞楽(重要無形民俗文化財)では、振舞、候礼、童羅利、地久、能抜頭、泰平楽、納曽利、弓法楽、児抜頭、輪歌、陵王、獅子舞の12曲が、中世の舞楽面とともに伝わる。平安後期の観音立像(重文)ほか神仏習合資料も伝来し、境内に収蔵庫兼展示施設あり(事前予約必要)。

11月6日
長野市立博物館
 特別展示 神と仏が宿る里-北信濃の山寺-
(9月14日~11月17日)
 長野県北部の山寺(山岳寺院)に着眼し、その信仰の場のあり方を伝来する仏像・神像から浮かび上がらせる。小県郡山家の山寺として実相院の馬頭観音坐像は馬頭をいただき瞋怒相としない作例。平安時代まで遡りそう。同寺の十一面観音立像は山家神社神宮寺旧蔵の像。筑摩郡麻積の山寺として岩殿寺の男神立像3軀のうち2軀はもと岩殿山山頂の三所権現安置像。浄衣・折烏帽子を付けた神官の姿は山の神の一つの現れ方で、眦の切れ上がった風貌は現実感があり、ガラスを挟んでしばし見つめ合う。福満寺賓頭盧尊者坐像は、背面に応保元年(1161)の刻銘あり。作風も平安後期で造像銘とみられる。高井郡小菅の山寺では小菅神社の馬頭観音坐像。朽損も激しいが平安後期の作。元小菅山元隆寺本堂「賀耶吉利堂」本尊。図録あり(116ページ、700円)。

諏訪市博物館
 企画展 佛法紹隆寺-諏訪の真言道場 古刹の歴史-
(9月14日~11月24日) 
 諏訪市の佛法紹隆寺に伝わる仏像・仏画・聖教類を紹介。普賢菩薩騎象像(長野県宝・南北朝時代)はもと諏訪神社上社神宮寺の如法院伝来。細密な光背も当初。伝法灌頂次第は徳治3年(1308)三宝院権僧正が室生寺で書写し、のち紀州福寿院舜乗房から遠州大山寺明王院に伝来。ほか秘密灌頂道具一式のほか、南北朝時代の沙石集、鎌倉時代の釈迦十六善神像(長野県宝)など。リーフレットあり。

諏訪大社上社宝物殿
 上社参拝して宝物殿立ち寄り。かつての信仰対象である法華経を納めた鉄宝塔が拝殿先の区画に描かれている諏訪大社上社古図や諏訪大社上社文書のほか、室町時代と江戸時代の狛犬2対。もと御宝殿内の神輿周囲の四隅に安置とのこと。

飯田市美術博物館
 トピック展示 光明寺の文化財
(10月29日~2月11日)
 飯田市久米の光明寺伝来の仏教美術を紹介。保延6年(1140)在銘の薬師如来坐像をじっくり鑑賞。銘記写真のパネルもあって有益。鎌倉時代の千手観音懸仏は鏡板を失うが大ぶりで優れた出来映え。ほか江戸時代の十二神将立像、仏涅槃図など。

11月11日
奈良国立博物館
 御即位記念 第71回 正倉院展
(10月26日~11月14日)
 吉例正倉院展。国家珍宝帳筆頭の七條刺納樹皮色袈裟、次項の赤漆文欟木御厨子を始め、礼服御冠残欠、衲御礼履など聖武天皇着用品や、鳥下立女屏風六扇、乙亥年(唐開元23年〔735〕)製の金銀平文琴、紫檀金鈿柄香炉など豪華な資料とともに、州浜と山形を表す仮山残欠や袈裟付木蘭染羅衣など、作り物や僧衣の稀少な残存事例も紹介。お目当ては伎楽面師子。大仏開眼供養が行われた天平勝宝4年(752)に基永師により作られたことを示す墨書銘あり。躍動感ある造形の最古の獅子頭を、復元品で当初表現を補完しつつ鑑賞。なお仏像館では同じく基永師が同年に製作した伎楽面酔胡従(東大寺蔵)を展示中。図録あり(144ページ、1300円)。概説「正倉院宝物の成立」(執筆内藤栄)では大仏への宝物・薬物献納自体に生前の聖武による成道のための持戒・喜捨の意思が反映しているとする説得力ある新論提示。 

11月16日
 高野山霊宝館
 企画展 祈りのかたち-密教法具の世界-
(10月12日~1月13日)
 金剛峯寺はじめ山内子院に伝来した密教法具の歴史を体現する重要資料をずらり展観。唐招来品として、大ぶりで鋭利に尖った独鈷杵(金剛峯寺・重文)、四天王独鈷鈴(金剛峯寺・重文)、五大明王五鈷鈴(正智院・重文)。ほか招来品では宋代の梵釈四天王五鈷鈴(竜光院・重文)、元~明の九鈷杵・九鈷鈴(金剛峯寺)、七鈷鈴(竜光院)、近代のネパールの八鈷杵・八鈷鈴まで。伝覚鑁所持の三鈷杵(宝寿院)、伝行勝所持の三鈷杵(蓮華定院)など所持者との関わりも密教法具の場合重要。なお弘法大師所縁の一山の重宝飛行三鈷杵は今回未出陳。調伏に用いられた特殊な三角炉もさらりと展示(第二次世界大戦時に使用?)。錦秋の高野山で密教法具三昧で充実。図録なし。

11月17日
兵庫県立歴史博物館
 特別展 お城ができる前の姫路
(10月5日~11月24日)
 姫路の中世史を、寺社と地域史、赤松氏と地域支配の観点から紹介する、同館の調査研究活動を集大成した展示。円教寺性空上人坐像(寛弘4年〔1007〕の可能性)、円教寺根本薬師堂伝来の舎那院薬師如来坐像、南宋・嘉煕元年(1137)造像の法恩寺菩薩坐像、正八幡神社男女神坐像、八正寺の文保2年(1318)銘)鬼面、津田天満神社の北野天神縁起絵巻(重文)のほか、中世文書を多数集めて地域史を立体的に叙述する。お目当ては大覚寺の天正17年(1589)芝琳賢筆の当麻曼荼羅図。中近世移行期の南都絵所絵師の画風をしっかりチェック。芝琳賢は天文頃と天正頃に活躍した二人がいるが、本図の旧軸木には「後之琳賢」との呼称が用いられている点は重要で、『多聞院日記』の「前ノ琳賢」〔文禄2・12・14条〕の表記(拙稿「南都絵所座の後裔」『仏教史研究』34、1998)と対になるもの。図録あり(1900円、192ページ)。

大阪市立美術館
 特別展 仏像 中国・日本-中国彫刻2000年と日本・北魏仏から遣唐使そしてマリア観音へ-
(10月12日~12月8日)
 中国の仏像様式の展開とその日本への伝播の2000年史を、請来された国内の仏像の数々を集めて紹介。北魏~唐の石仏は同館中国仏像コレクションをフル活用してその意義と重要性を自ら高める。堺市博観音菩薩立像・神福寺十一面観音立像の隋唐の檀像、観心寺聖僧坐像・善願寺僧形坐像・浅草寺僧形坐像の唐代木彫像、泉涌寺楊貴妃観音(~10/20)・清雲寺観音菩薩坐像・仁和寺観音菩薩坐像の南宋木彫像、隠元所持の泉涌寺釈迦如来坐像・萬福寺韋駄天立像・長崎奉行伝来のマリア観音像など明清・黄檗彫刻と、そのかたちの特徴とともに、真の仏像を希求し中国から請来した人々とそれを継承し続けた信仰の歴史を展示室内に浮かび上がらせる。図録あり(202ページ、2200円)。

11月22日
静岡県富士山世界遺産センター
 企画展 富士山の曼荼羅-参詣曼荼羅にみる富士山信仰の世界-
(10月12日~11月24日)
 富士曼荼羅・富士山参詣曼荼羅6幅の複製を並べて富士信仰の諸相を紹介し、あわせて身録曼荼羅(ふじさんミュージアム)なども紹介して、霊山としての富士山の描かれ方を示す。リーフレットあり(A3両面)。多数の映像で富士山の歴史・文化・魅力を紹介する常設展示は、富士登山に擬してぐるぐると螺旋に登る動線で、これもまた富士塚の一つだと感心。神仏分離による富士山下山仏が民間で守られているとのことで、移動する仏像事例として興味深い。

富士山かぐや姫ミュージアム
 秋のテーマ展 瑞林寺地蔵菩薩坐像と富士市のお地蔵さま
(9月28日~12月15日)
 瑞林寺地蔵菩薩坐像の像内銘が見出されて40年。その調査・指定・研究の展開を示しつつ、富士市内の地蔵信仰の分布とともに伝来する仏像等を紹介する。一室に修理前の姿を写している瑞林寺地蔵菩薩坐像の複製を中心に、修理時に取り外した両手部材や元禄9年の福寿山瑞林寺記ほかを並べ、□慶→雲慶→運慶→康慶と推移した40年間の学術調査の流れをパネル化。もう一室に市内各地の地蔵菩薩立像・閻魔王像ほかを展示。仏像は全て江戸時代との評価だが、個性的な風貌で耳の形状が中世風の天澤寺地蔵菩薩立像や、厚く塗り直されているもののやや角張った体型の子安地蔵堂地蔵菩薩坐像は室町時代に遡るかも。リーフレットあり(A3両面)。過去の図録をまとめ買い。

11月23日
東京国立博物館
 御即位記念特別展 正倉院の世界-皇室がまもり伝えた美-
(10月14日~11月24日)
 即位記念の正倉院宝物東京出開張。古代アジア文化の精華が凝縮された正倉院宝物及び東博所蔵法隆寺献納宝物とをコラボレーションさせながら紹介。国家珍宝帳を冒頭に、平螺鈿背八角鏡、鳥毛帖成文書屏風、幡残欠や花氈など多数の染織類、蘭奢待ほかの香木、螺鈿紫檀五弦琵琶、伎楽面、漆胡瓶、白瑠璃碗ほかガラス製品等々が並び、開封時や修理時の記録や古写真も紹介。会場入口に正倉扉(の造作)・海老錠・櫃を配置して「開扉」を、会場出口の鍵をかけた原寸大正倉扉で「閉扉」を示して、会場全体で正倉の開封・宝物開陳・勅封を追体験するよく錬られた空間作り。「正倉院」の守り伝える機能にコミットし、国立博物館らしい文化財保護のスタンスを明確に提示した地に足のついた展示。図録あり(270ページ、2700円)。鑑賞後、文化財活用センターシンポジウム「複製がひらく文化財の未来」に登壇。

11月27日
三重県総合博物館
 企画展 三重の仏像-白鳳仏から円空まで-
(10月5日~12月1日)
 同館の開館5周年を記念して、満を持しての仏像展。冒頭から白塚地区自治会連合会(津市)の如来立像、鳥居古墳出土押出仏など7世紀の作例、慈恩寺(亀山市)薬師如来立像、瀬古区(津市)十一面観音立像、常福寺(津市)千手観音立像、普賢寺(多気町)普賢菩薩坐像、伊奈冨神社(鈴鹿市)男神坐像の9世紀彫像がずらりと並び、10~12世紀彫像の数々、新大仏寺(伊賀市)如来坐像や新発見の安楽寺(松坂市)阿弥陀如来立像・地蔵菩薩立像の快慶仏、明福寺(菰野町)両面仏などの円空仏まで、列記が追いつかないほどの県内の重要作例を集約して、7世紀から17世紀の間の三重県の仏像千年史を叙述した充実の内容。近長谷寺(多気町)の像高6.6mの十一面観音立像写真測量図スクリーン(原寸にどうしても高さが60㎝足りなかったとの由)も本来の姿をうかがう上で貴重な情報を伝えるもので、ナイスアイデア。必見。図録あり(144ページ、1400円)。瀧川和也「総論 三重の仏像」のほか、藤田直信「松坂市安楽寺とその仏像」、山口隆介「三重・安楽寺所蔵「安阿弥様」二作品のX線CTスキャン調査報告」、拙稿「熊野の仏師浄慶」所収。鑑賞後、三重県文化財講習会にて登壇。

12月6日
和歌山大学紀州経済史文化史研究所
 特別展 七宝瀧寺と志一上人-葛城修験二十八宿の世界-
(10月31日~12月13日)
 葛城修験の歴史と文化について、犬鳴山七宝瀧寺伝来資料を中心に紹介し、同時中興志一上人に関わる伝承についてもフォロー。七宝瀧寺の金銅装笈(室町)、建久六年摩利支天法、不動明王八大童子像(室町)のほか、粉河寺の粉河寺御池海岸院本尊縁起(江戸)、神於寺の神於寺縁起絵巻模本(明治)、根来寺の根来寺伽藍古絵図(複製)など。紀の川市梵釈寺の至一上人像は応安元年(1368)着賛の頂相。ありがたく鑑賞。図録あり(16ページ、無料)。

12月29日
奈良国立博物館
 重要文化財 法隆寺金堂壁画写真ガラス原板-文化財写真の軌跡-
(12月7日~1月13日)
 昨年保存修理が完成した昭和10年撮影法隆寺金堂壁画ガラス原板(重文)のお披露目に際して、近代における文化財写真による記録の軌跡を紹介。東京国立博物館の旧江戸城写真帳(H12重文指定)、同写真原版(H13重文指定)、壬申検査関係写真(H15重文指定)、臨時全国宝物調査関係資料(H28重文指定)の写真や宝物精細簿、法隆寺と便利堂の法隆寺金堂壁画写真原板とガラス原板(H27重文指定)がずらり並び、国による文化財としての「文化財写真」保存の達成点をも提示する。ガラス原板と模写と焼損後壁画の高精細写真と会場内映像コンテンツで再現された法隆寺金堂壁画の隔絶された高い芸術性を堪能。図録あり(112ページ、2300円)。
 
 特別陳列 おん祭と春日信仰の美術-特集 春日大社にまつわる絵師たち-
(12月7日~1月13日)
 春日若宮おん祭の光景を多数の絵画資料で紹介するとともに、中世後期の南都絵所絵師、近世・近代の春日絵所絵師に注目して、春日社と絵師の関わりにクローズアップして資料選定。とくに江戸中・後期の春日絵所の展開(勝山琢眼→原在照)や活動について、古記録や粉本類を活用して明らかにしており有益。図録あり(80ページ、1500円)。

 特集展示 新たに修理された文化財
(12月24日~1月13日)
 昨年度修理完成した館蔵品・寄託品のお披露目。館蔵の絹本著色親鸞聖人像(熊皮御影・重文)、釈迦十六善神像、聖護院役行者八大童子像、達磨寺玄奘三蔵十六善神像と重要な大幅の作品がずらり並んで壮観。彫刻では元吉野山個人蔵で館蔵となった弘安九年(1286)慶俊作役行者倚像、元興寺町共和会の10世紀の大日如来坐像(県指定)。配布資料なし。

1月
展覧会鑑賞なし。

2月11日
奈良国立博物館
 特別展 毘沙門天-北方鎮護のカミ-
(2月4日~3月22日)
 奈良時代から鎌倉時代までの毘沙門天像の優品を集約して展示する貴重な機会。愛媛如法寺の稀有な奈良時代乾漆毘沙門天立像や、像内から保安5年(1124)銘が確認された島根岩屋寺旧蔵の大型の毘沙門天立像といった新資料とともに、東寺の兜跋毘沙門天立像、道成寺の毘沙門天立像、鞍馬寺の毘沙門天・吉祥天・善膩師童子立像や、誓願寺像、雪蹊寺像、観世音寺像等々、代表的な作例が勢揃いして壮観。図録あり(176ページ、2000円)。なにより側面背面等の図版が豊富でありがたく拝み見る。

 特別陳列 お水取り
(2月4日~3月22日)
 東大寺二月堂の修二会の時期にあわせた恒例お水取り展。天文14年(1545)亮順筆の二月堂縁起を長めに展示。図録あり(72ページ、1300円)。二月堂縁起上下巻の図版を全部掲載)。二月堂本尊光背はなら仏像館に展示。

2月21日
東京国立博物館
 日本書紀成立1300年特別展 出雲と大和
(1月15日~3月8日)
 古代の祭と政の構造を日本書紀を基軸に出雲・大和を対比的に捉え、祭祀や葬送の場とかたち、そして仏教受容の様相を紹介。島根県・奈良県と東博の共同企画。前半は出雲大社の心御柱・宇豆柱、荒神谷遺跡出土の銅剣・銅矛、加茂岩倉遺跡出土の銅鐸など島根県立古代出雲歴史博物館の収蔵品、メスリ山古墳の埴輪や黒塚古墳の鏡、藤ノ木古墳の副葬品など奈良県立橿原考古学研究所の収蔵品を中心に重要資料を紹介。後半の仏像ゾーンでは法隆寺献納宝物の仏像、鰐淵寺金銅仏、當麻寺持国天立像、石位寺浮彫伝薬師三尊像、大安寺楊柳観音立像や多聞天立像、矢田寺十一面観音立像、萬福寺四天王立像など飛鳥・奈良・平安前期彫刻がずらり並んで壮観。八重垣神社本殿板壁画の可憐な神の風貌を間近に確かめる。図録あり(342ページ、2500円)。

 特集 伝説の面打たち
(1月2日~2月24日)
 室町時代に活動し、その後能面制作者や能役者の間で語り継がれ、また創作仮面に名を残した半ば伝説化した数々の面打について、鑑定銘を伴う収蔵資料から紹介。赤鶴作の山姥、一透作の大癋見、日光作の三番叟、文蔵の鼻瘤悪尉、龍右衛門の中将、越智の深井、増阿弥の増女、福来の阿古父尉、日氷の痩女などずらりと並ぶが、真にそれらの面打の作と確証を得られるものは一つとしてないところが重要。鑑定の真偽の問題ではなく、いかに能面が受け継がれたのかという受容史に果敢にコミットして共有化を図る、科学的な能面研究のあり方を提起していてキラリと光る(山姥の眼もギロリと光る)。図録あり(24ページ、660円)。

びわ湖長浜KANNON HOUSE
 高月町西野 正妙寺 千手千足観音立像
(12月24日~3月15日)
 10月での閉館を表明された同施設の定点観測。瞋怒相で額に三目を配し、真手を伴わない千手を表して、条帛を着けず、君裾をまくって膝頭を出し、千足を表した稀有な図像の観音像。台座形状から17世紀末~18世紀前半ごろの制作かと思われるが、上記特徴には古像に類例のあるものもあって大変興味深い。1点集中で鑑賞するという手法(長浜方式)は汎用性があると思う。小冊子『観音さま』(26ページ、300円)に図版と解説掲載。

2月22日
福島県立博物館
 特集展 震災遺産を考える-それぞれの9年
(2月11日~4月12日)
 東日本大震災と原発事故からの9年を、同館が収集を続けている震災遺産と、それらの資料に深く関わる福島の人々の生き様や活動を通じて紹介する。展示の冒頭に設置された、福島県博が作成した南相馬市半杭牧場牛舎の柱のレプリカは、原発事故後の避難で放置せざるを得なかった牛が飢餓のために齧った痕跡が生々しく再現され、餓死した牛の苦しみと、生産者の癒えぬ苦しみを伝える負のモニュメントとして、場を規定する力を持つ。ほか、避難所運営・寺子屋的活動・情報伝達・歴史の記録と、突き動かされるように活動した人々の痕跡を、丁寧に収集した資料が伝える。天災・人災ののち、翻弄されながらも精一杯生きる福島の人々の同時代史をどれだけ残すことができるか、県立博物館がその機能を活かしつつ役割を果敢に果たしていることを、そしてこれから果たしていくこととなる長い道のりへの決意表明を展示の行間に見る。心揺さぶられる。図録なし。

2月23日
龍谷ミュージアム
 特集展示 仏像ひな型の世界
(1月9日~2月9日・ 2月22日~3月22日)
 京都仏師畑治良右衛門家に引き継がれた七条仏師の仏像雛形をずらりと並べて紹介。明暦4年(1658)3月康知作の妙心寺花園法皇坐像の10分の1の雛形にはその1ヶ月前の年紀が付されていて、事前の作と判明。ほか四条天皇(康乗作)、東照大権現、慈眼大師、徳川家光(康知作)など幕府筋の肖像のほか、清凉寺式釈迦胸像(康朝作)、東寺御影堂の弘法大師頭部(康傳作)、専修寺の親鸞聖人坐像(康傳)の写しといった特別な像の模刻が含まれるのも正系仏師ならではで、さまざまな僧侶の胸像も頭部のみを取り替えて体部を定型とする造像の現場をうかがわせる。仏師の工房研究や江戸時代彫刻史を大きく進展させるものであり、展示そのものが重要な研究の途中成果報告の体を成す。今後の論文化を期待。京都ならではの重要資料を掘り起こし、信頼を得て寄託を受け、ただちに共有化するという、「公共」の博物館としての活動を同館が果たしていることはとても重要。リーフレットあり。

3月1日
和歌山県立紀伊風土記の丘
 企画展 古墳から古代寺院へ-紀伊における儀礼の変遷を探る-
(1月18日~3月1日)
 用事にかこつけて最終日に滑り込み。終末期古墳から寺院への転換期の様相を、紀伊国内の古代寺院出土資料を中心に紹介。西国分廃寺・北山廃寺・最上廃寺・佐野寺・神野々廃寺・名古曽廃寺・薬勝寺廃寺・田殿廃寺・道成寺・三栖廃寺・堂ノ谷瓦窯・上野廃寺・荒見廃寺・山口廃寺・紀伊国分寺と、和歌山の主要な古代寺院を網羅的に扱う。出土瓦がずらりと並び、瓦当文様の分布から見える地域間の関係性をパネルで示しつつ、日本霊異記の内容ともリンクさせていて丁寧な展示。佐野寺跡と最上廃寺出土の塼仏をありがたく鑑賞。図録なし。

3月4日
紀の川市歴史民俗資料館
 企画展 葛城修験と前鬼の村 中津川-中津川と紀の川市内の経塚-
(1月29日~3月8日)
 葛城修験における本山派の拠点、中津川地域に残る修験道資料や古文書を紹介。中津川行者堂の慶長13年銘を有する碑伝や熊野神社の康正3年の棟札のほか、聖護院の文書や絵図を用いてその密接な結びつきを明らかにする。葛城修験の日本遺産登録に向け、こうした展示が地域の中で開催され機運が醸成されていくのは重要。図録なし。

3月28日
奈良市史料保存館
 企画展示 昭和の奈良町の仏像研究家の足跡-太田古朴・仏像修理研究資料展示-
(3月3日~3月31日)
 多数の仏像修理に携わり、また研究を行った仏像修復家太田古朴(1914~2000)の遺品の発見と整理の完了に伴い一部を公開。特に日本彫刻史上に重要な意味を有する納入品を伴う仏像として、金峯山寺聖徳太子及び二童子像(文永11年〈1274〉)、伝香寺寺像菩薩立像(安貞2年〈1228〉)、東大寺中性院弥勒菩薩立像(研究4年〈1193〉)、円成寺南無仏太子立像(延慶2年〈1309〉)、興善寺阿弥陀如来立像(源空・証空消息納入)の納入品納置状況を示す図面や写真を紹介して、その資料価値を再評価する。リーフレットあり(6ページ)。  


今年度訪問した施設はのべ65ヶ所、鑑賞した展覧会は67本でした。