令和2(2020)年度展覧会・文化財を見てきました。
4月12日
高野山霊宝館
冬期平常展 密教の美術
(1月18日~4月12日)
コロナ禍で閑散とする高野山に登り霊宝館の冬期展最終日を一人鑑賞。近時修復した資料を紹介。快慶作の執金剛神立像・深沙大将立像の像内納入品の宝篋印陀羅尼は、建久8年(1197)銘で、源阿弥陀仏や名阿弥陀仏の名あり。円通寺の十巻抄(鎌倉時代・重文)、白描不動明王二童子毘沙門天倶利伽羅龍像(鎌倉時代・重文)も修理後初公開。ほか、光台院毘沙門天像(平安時代・重文)のほか、西南院の熊野曼荼羅(南北朝時代)は兵庫・温泉神社と同系統の図像の作例、成福院の春日鹿曼荼羅(室町時代)は鹿の背に載せた鏡面中央に長谷寺式十一面観音が描かれる作例、親王院の三十番神像(南北朝~室町時代)は堅実な出来映えで、五坊寂静院伝来。同院には日蓮(是聖房蓮長)も遊学。彫刻では金剛峯寺の厨子入三宝荒立像が天正17年(1589)木食真山人作の銘が厨子にあり。図録なし。鑑賞後、参拝者の姿の見えないがらんとした壇上伽藍を巡って悪疫悉除を祈念。
5月19日
高野山霊宝館
企画展 ほとけさまと動物たち
(4月18日~7月5日)
仏教美術のなかに表される動物の表象を収蔵資料の中から紹介する。宝寿院六字尊像(重文・前期)、金剛峯寺両頭愛染曼荼羅(重文・前期)、竜光院屏風本尊(重文)、遍明院文殊菩薩及使者像(重文)や天野社伝来の舞楽装束(重文)、竜光院灌頂法具類のうち龍頭(重文)、大津絵の摩利支天像、親王院阿闍梨遍照尊像(昭和2年・福田恵一筆・帝展出品、250㎝×191㎝)などバラエティーに富んだ資料選定。ほか竜光院弘法大師二大弟子像は、大師と二弟子を中央に、左上に一身二頭像(伝奥砂子平尊、殊蛇死平尊)、右上に金剛薩埵、左下に両頭愛染、右下に不動明王を配し、中尊頭上に宝珠・日月・龍・内側に格子を描いた楕円形・白蛇を並べる特殊な修法の本尊像で、南北朝~室町時代前期の作。初公開の清高稲荷社関係品(地蔵寺蔵)の木札には寛文10年銘とともに真徳院の名あり。桃山期に活動した面打真徳院と関わるなら重要情報。動物という観点で間口を広く設定しながら、高野山の密教世界の奥深さを存分に伝える内容。図録なし。
6月
なし。
7月6日
八尾市歴史民俗資料館
企画展 道鏡に出会う-木造道鏡禅師坐像造立記念-
(4月25日~7月13日)
道鏡を知る会が発願し、彫刻家・東京芸大教授の籔内佐斗司氏に依頼して制作された道鏡坐像の完成お披露目展示。八尾市民を中心に40年前に設立された道鏡を知る会の歩みを、設立者である郷土史家の山野としゑ氏を中心に紹介することで、市民による歴史顕彰の情熱的な活動を広く共有する機会ともする。近年史跡指定された称徳天皇と道鏡ゆかりの由義寺跡から出土した軒瓦も展示(常設展示にも出陳中)。籔内氏により造像された道鏡像は、奈良時代末~平安時代初期の僧形像をモデルとした重厚な作風で、眉目秀麗な風貌は市川海老蔵をイメージした由。道鏡坐像はこの後10月に西大寺に奉納されるとのこと。道鏡の実像を追求する民間活動を基盤に、由義寺跡塔基壇跡の発見と史跡指定を好機として、広く寄附を募って(クラウドファウンディングも併用)道鏡像製作を成し遂げ展覧会を開催した流れは、住民と行政が協力して地域文化を掘り起こす理想的なあり方といえる。いつか由義寺跡に道鏡像安置できれば最高。図録なし。
7月25日
京都国立博物館
特別展 聖地をたずねて-西国三十三所の信仰と至宝-
(7月23日~9月13日)
会期変更し満を持しての開催。西国三十三所草創1300年を記念し各札所寺院から名宝を集めて展観。粉河寺・長谷寺・石山寺・総持寺ほかの観音の霊験を描いた縁起絵巻、数々の観音の姿を描いた中世仏画とともに、多数の参詣曼荼羅が並ぶ一角が本展の見どころで、展示替えも含めて那智山・紀三井寺・粉河寺・施福寺・葛井寺・清水寺・善峯寺・中山寺・成相寺・松尾寺・長命寺の各幅が出陳。
その絵の中にいるのは「私」であると実感(錯覚)させることが参詣曼荼羅という唱導の道具の目的である。そのために絵解きも付随した。そのように見れば、参詣曼荼羅の中に描き込まれた聖地を巡錫する巡礼者と、京博展示室内を観音像を求めてへめぐる来館者は重なる存在である。堂塔造営の勧進状やご詠歌等の版木、そして納経帳や巡礼札といった民衆との接点となる信仰の道具がしっかり目配りされて集められており、そのことを強調する。収束の見えない疫病流行下での出開帳展示も、民衆の救済への渇望を受け止め続けてきた西国三十三所の歴史そのものを体現しているかのようである。困難の中に、信仰の花が咲く。
ほか、一乗寺観音菩薩立像、岡寺菩薩半跏像、華厳寺毘沙門天立像などの仏像、青岸渡寺と東博に分蔵される那智経塚出土の羯磨曼荼羅の復元など出陳資料多数。図録あり(310ページ、2700円)。
8月9日
高野山霊宝館
企画展 如来-NYORAI-
(7月11日~9月27日)
高野山霊宝館収蔵資料の中から、「如来」にスポットを当てて優品や稀品を選定。絵画では清浄心院九品曼荼羅図(重文)、高屋肖哲模写の阿弥陀聖衆来迎図、成福院阿弥陀如来像(南宋・重文)、金剛峯寺釈迦誕生図(鎌倉・未指定)など。後期(8/25~)には応徳3年銘仏涅槃図(国宝)が出陳。彫刻では、普門院釈迦如来及び諸尊像(重文)、壇上伽藍御社伝来の大型の大日如来懸仏(鎌倉・未指定)、五坊寂静院阿弥陀三尊像(重文)を間近に拝観。経典では中尊寺経、荒川経、高麗経をチョイスして見返絵を展示。初見資料として桜池院の十三尊像(室町)は、上段に薬師、2段目に金剛薩埵・阿弥陀・釈迦、3段目虚空蔵・愛染・文殊、4段目龍猛・如意輪・空海、5段目に毘沙門・弁才・高野明神を配列する用途不明の一幅。宝寿院の十二所権現垂迹尊写と十二所権現本地尊写は、江戸時代に熊野曼荼羅の尊像配置を、貼り継いだ紙に簡単な枠線と尊名のみで写したもの。元本は不明(西南院本ではない)。宝寿院は無量寿院・宝性院の合併寺院であるが(大正期)、ともに学侶方であり、江戸時代の高野山の学僧が熊野十二所権現の神名や本地に関する基本情報を学習・把握している実態が分かる重要資料。展示のたびに必ず新資料があらわれ、毎回新鮮な気持ちで学ぶ。図録なし。
8月22日
京都国立博物館
特別展 聖地をたずねて-西国三十三所の信仰と至宝-
(7月23日~9月13日)
再訪して後期展示鑑賞。狩野信光の壺坂観音縁起絵巻、狩野永納の穴太寺観音縁起絵巻、伝住吉如慶の播州書写山縁起絵巻や、華厳寺の三十三所観音曼荼羅図、長谷寺法華一品経など展示替え資料を重点的に。和歌山の資料では、出光財団の補助による修理後初公開の紀三井寺参詣曼荼羅と熊野観心十界図の2幅は、本展終了後、和歌山市立博物館の特別展「紀三井寺展」(10/31~12/13)で公開。やはり修理完成後寺外初公開の粉河寺千手観音立像は、和歌山県立博物館の特別展「国宝粉河寺縁起と粉河寺の歴史」(10/17~11/23)で公開。両寺とも本年が開創1250年の区切りの年で、それにあわせての修理事業。西国巡礼の周年記念特別展で先にお披露目をしてもらい、国・県・市の博物館が協力しつつ、引き続きの公開に向け事業進行中。
吹田市立博物館
ミニ展示 新型コロナと生きる社会-私たちは何を託されたのか-
(7月18日~8月23日)
同館が「100年後の人々への情報源」として収集を開始している、新形コロナウイルス感染症との対峙・対応の諸相を示す生活資料と写真資料を紹介。感染防止対策と市民生活・経済活動・政治動向・世界情勢が複雑に重なりあう今般の事態は、渦中にある当事者にその全貌は見えにくい。地域社会の防疫・感染症対策と市民生活の推移を示す資料を維持する(本庁の公文書も保管期限で廃棄せずピックアップして移管できれば最善)ことの重要性を、展示にて共有する。
新聞折り込みチラシ、行政の広報物、店舗の掲示物、手作りマスクや配布マスク、医療関連資料等々、資料は多岐に亘る。千里寺門前に4月15日設置された「千里山・小さな食品庫」のクーラーボックスは象徴的で、中に缶詰やレトルト食品等を入れて自由に持って行ってもらっていたもの。給食と子ども食堂の休止で満足に食事を取れない子、アルバイトが減り実家にも帰れない大学生、ぎりぎりの経済状況で困窮状態となった人に思いを致して副住職が設置し、その後インターネットを活用した寄附者の協力で5月31日まで活動を継続した。モノ資料として、この歴史の一断面を伝える「物語」を背負ったクーラーボックスを確保、保管することは、博物館の可能性を体現するもの。
博物館による同様の注目される活動としては、福島県立博物館が精力的に進めている震災関連資料の収集がある。現代をいかに資料化し収蔵して発信できるか。世界の博物館情勢を把握し交流する近現代史研究者である担当学芸員による、博物館の可能性を未来へ開く最先端の取り組み。図録なし。
9月2日
奈良国立博物館
特別展 よみがえる正倉院宝物-再現模造にみる天平の技-
(7月4日~9月6日)
春に予定していた展示を延期して開催。明治時代以来行われ続けている模造制作による復元品「再現模造」を活用して、正倉院宝物の他に比類のない重要性・希少性・芸術性を広く紹介する。残欠部品から復元された箜篌、この世に唯一残る琵琶袋、作者不明の蘇芳地彩絵箱、糞掃衣を織りで表現した七条袈裟、良質の材料を使用した黒柿両面厨子、儀仗用の金銀鈿荘唐太刀、正倉院古文書の複製など、おおよそ全ての種類の宝物がずらり。こののち全国で巡回。図録あり(224ページ、2400円)。
10月21日
神奈川県立歴史博物館
特別展 相模川流域のみほとけ
(10月10日~11月29日)
神奈川県の中央、相模川の流域を一つの文化圏と捉えて、伝来する古代・中世の仏像を集約する。冒頭、龍峰寺千手観音立像は、再調査により古代彫刻の要素を強調しつつ、そこに奈良時代の遺風を残すことを果敢に指摘。展示でも側面、背面を鑑賞でき、調査者のまなざしを追体験しながら鑑賞。国分寺不動明王坐像は平安時代末期の奈良仏師作例。小像ながら肉付きよく、腰が立ち背中を伸ばした姿勢で、かつ怒りの表情は抑制されて穏やかで、移行期の特徴を示す。背面に奈良仏師特有の腰帯表現があり貴重な新資料。慈眼寺十一面観音菩薩立像、宝積院薬師如来立像は等身大の鎌倉時代彫像。蓮台時他阿真教坐像、栖雲寺中峰明本坐像など肖像彫刻の重要作例も集める。光明寺観音三十三応現身像など南北朝~室町時代の小像を中心に多数集約して紹介する点も重要。地域の歴史・文化を掘り起こし整理して共有化を図る地域博物館としての仏像展の役割をしっかり果たしつつ、展示最後に第二次世界大戦時の文化財疎開に関わる公文書を示して「継承」の軌跡をも伝える入念の構成。図録あり(144ページ、1400円)。
10月26日
高野山霊宝館
大師号下賜1100年記念大宝蔵展 高野山の名宝 皇室と高野山
(10月3日~12月6日)
延喜21年(921)に醍醐天皇から空海へ贈られた大師号の諡号から1100年を記念して、天皇と高野山の関係にまつわる資料を展観。地蔵院高野大師行状図画(重文)、金剛峯寺根本縁起後醍醐天皇後手印並御跋(重文)、紺紙金字一切経(荒川経・重文)、御室御所高野山御参籠日記(又続宝簡集巻三〇、国宝)、弘法大師・丹生・高野明神像(問答講本尊・重文)、西南院後小松天皇宸翰秘調伝授書(重文)、白河上皇高野山御幸記(重文)など。本館紫雲殿ではパネル展「象徴の歌-皇室のこころ-」開催。図録なし。
10月31日
和歌山市立博物館
創建1250年記念・日本遺産認定記念特別展 紀三井寺展
(10月31日~12月13日)
創建1250年の節目の年に、初公開資料を多数含む紀三井寺の文化財を地元博物館にて公開。重要文化財の十一面観音立像(平安時代)のほか、昨年から和歌山市を核にして行ってきた寺宝調査で把握された天部立像(平安時代)、弥勒菩薩坐像(鎌倉時代)、開山為光上人坐像(室町時代)、地蔵菩薩像(鎌倉時代)、釈迦十六善神像(南北朝時代)など初公開の仏像仏画がずらり。特に注目されるのは、これも寺外初公開の四天王五鈷鈴で、唐末~宋代の新資料。ほか古文書や版木類も多数。このたび出光財団の助成と市補助金を得て修理を行った紀三井寺参詣曼荼羅・熊野観心十界図(市指定)については、その修理の過程や軸木に記された修理名など最新の成果を紹介。
私自身も紀三井寺調査に大きく関わって、調査の中で新たに確認できた文化財の数々が、このようにしてお披露目の機会を得られたこと、そして同じ創建1250年の粉河寺展と開催時期を重ねられたのもたいへん感慨深い。図録ないが、昨年来の文化財調査を踏まえて寺が発行した寺宝図録を用意。紀三井寺の秘仏本尊十一面観音立像と千手観音立像(ともに平安時代、重文)のご開帳は12月20日まで。
11月8日
大津市歴史博物館
企画展 聖衆来迎寺と盛安寺-明智光秀ゆかりの下坂本の社寺-
(10月10日~11月23日)
明智光秀を導入として、天台宗の名刹聖衆来迎寺と盛安寺の文化財を一堂に公開する。聖衆来迎寺の国宝六道絵15幅を集める(前期)ほか、十二天像、楊柳観音像、本尊釈迦如来坐像、元徳2年(1330)の地蔵菩薩立像、盛安寺の四臂十一面観音立像などなど既知の重要資料だけでなく、新たな調査によって把握された信仰資料の数々が紹介され壮観。仏像では聖衆来迎寺の鎌倉時代の新資料が続々と見出されていて驚くばかり。位牌堂の阿弥陀三尊は各尊別々のものが組み合わされているが、勢至菩薩立像が13世紀半ばごろの秀作で、観音菩薩立像は江戸時代にそれを踏まえて補作。仏像の継承を考える上での好事例。客殿灌頂間安置の愛染明王坐像は鎌倉時代前期の優品。展示では作者系等は慎重に保留。本坊仏間安置の善導大師(阿難)立像は合掌する青年僧の風貌で、阿難と判断。鎌倉時代中期の洗練された肖像彫刻。ほか絵画・経典・聖教類も、列記しきれないくらい多数の新出中世資料が展示室に並ぶ。
寺院伝来文化財の総合的調査とその公開・共有化を、高いレベルで、迅速に、継続的に果たし続けている同館の「かけがえのなさ」が浮き彫りになるような展示。図録あり(144ページ、1200円)。
栗東歴史民俗博物館
企画展 栗太郡の神・仏-祈りのかがやき-
(9月19日~11月15日)
滋賀県南部栗太郡に伝わる仏像・神像、仏画、経典類を、同館寄託品及び滋賀県立琵琶湖文化館の寄託品を活用して一堂に紹介する。善勝寺旧蔵の薬師三尊像、金勝寺の僧形神坐像・女神坐像、小槻大社男神坐像、浄厳院の薬師如来立像や火焔宝珠嵌装舎利厨子、観音寺熊野垂迹神曼荼羅など多様な内容で、滋賀県の宗教美術の精華を展示。常設展示室でもコーナー展示「栗東の神・仏」を開催中で、企画展内容と連動して大宝神社・金勝寺・小槻大社などの仏像・神像を多数紹介。
展示資料の充実ぶりは、そのまま栗東歴史民俗博物館と滋賀県立琵琶湖文化館の調査研究、収集保存の活動の蓄積を示すものでる。地域のアイデンティティであり、魅力の根源であり、人々を結合する重要な結節点たりうる「歴史」と「文化」、そしてその所産としての「文化財」を維持継承する上で、博物館が健全に活動できる(施設の健全さ、人員配置の健全さ、活動に対する評価の健全さ)ということが、そのまま住民の幸福にまで直結する重要な社会的環境であることに思いを致す。リーフレットあり(8ページ、無料)。
金勝寺
栗東歴民の展示を見て、そのまま山を登って、久しぶりに金勝寺拝観。本堂釈迦如来坐像、二月堂軍荼利明王立像、虚空蔵堂虚空蔵菩薩半跏像、毘沙門天立像、地蔵菩薩坐像など平安時代の重文仏像の数々を満喫。仁王門の大きな金剛力士像も中世彫像。改めてすごいお寺だなあと実感。狛坂磨崖仏はまだ現地未踏なので、いつか行きたい。
12月6日
大阪市立美術館
特別展 天平礼賛-高遠なる理想の美-
(10月27日~12月13日)
天平時代の資料を博捜し、天平文化受容とその古典化・理想化の諸相を中世から現代までオムニバス的に紹介。展覧会のメインとなる資料として作風・法量の釣り合う兵庫・金蔵寺阿弥陀如来坐像と神奈川・龍華寺菩薩坐像を初めて並べる。金蔵寺像の旧所在が、同館に近い摂津国分寺(及び神呪寺)であった可能性があり、両像の天王寺での邂逅は地域史という観点においても重要。ほか巷間に伝わる天平時代の仏像断片類、正倉院裂、古筆の手鑑類を多数集約して、資料の伝存そのものが、上代文化への憧憬に基づくことを提示。近代期の天平文化の理想化と古典化を示す「天平幻想」の章は、そのままボリュームアップして細分化し一つの展覧会にしてもよいもの。図録あり(220ページ、2000円)。
中之島香雪美術館
特別展 聖徳太子-時空をつなぐものがたり-
(10月31日~12月13日)
同館所蔵の絹本著色聖徳太子像と絹本著色聖徳太子絵伝の修理完成を記念して、そのお披露目とともに調査研究の成果を紹介。香雪美術館本の聖徳太子絵伝3幅とボストン美術館本5幅が本来一具でもと住吉家に伝来しフェノロサに譲られたこと、ボストン本は集古十種に載るが香雪本は載らないこと、全9幅のうち1幅は失われ(焼失か)、他の幅の修理用の補絹に部分的に使われている可能性があることなど、近代期における伝来の様相を精緻に積み上げるとともに、同じ図様に基づく愛知県・本證寺本を並べて共通点・相違点を比較して、香雪本の学術的価値を自ら高める。またあわせて、聖徳太子1400年遠忌を来年に控えて、四天王寺細字法華経と法華経蒔絵経箱など、太子信仰と太子慶讃の資料も紹介。修理に関する情報もパネルにて極めて詳細に紹介。図録あり(224ページ、2600円)。出陳品以外の参考資料も多数掲載。
12月10日
奈良国立博物館
特別陳列 おん祭と春日信仰の美術-特集 神鹿の造形-
(12月8日~1月17日)
恒例おん祭展。田楽能で使用された能面は初見。尉面は堅実な出来映えで、女面はやや面長で個性的。ともに中世風を残す。神鹿を表した資料に着目し、館蔵の春日鹿曼荼羅(重文)を始め春日講で用いられた春日鹿曼荼羅をずらりと集める。画風から多くは南都絵所の作と推定。春日名号曼荼羅は白鹿がたたずむ松樹に藤がからみ、その蔦がうねって「南無春日明神」の名号を表す墨絵の珍しい一幅。さまざまな記号が重なった神の奇瑞の発露と見たいところだが、そういえるのかどうか…。不思議な絵。櫟屋絵師の制作の可能性を推定。図録あり(80ページ、1500円)。名品展では、東大寺倶舎曼荼羅(国宝)、法華寺阿弥陀三尊および童子像(国宝)出陳。
12月15日
龍谷ミュージアム
企画展 ほとけと神々大集合-岡山・宗教美術の名宝
(11月21日~12月27日、1月6日~1月24日)
岡山県立博物館の改修工事にあわせて同館に寄託された収蔵資料を、密教美術、神仏習合の美術の2章に分けて紹介。瀬戸内市寶光寺両界曼荼羅(重文)、美作市長福寺不動明王八大童子像(重文)、十二天像(重文)、津山市高野神社板絵女神像、獅子(重文)、岡山市西大寺の西大寺縁起(永正本・寛文本・延宝本・貞享本・享保本が勢揃い)、岡山市吉備津神社神官家伝来の女神坐像2軀、真庭市福田神社の舞楽面、赤磐市熊野神社の宋風の石造獅子などなど、岡山の宗教美術の精華を一堂に展示。眼と口を顰めて顎を突き出した独特の風貌で神像研究上注目される宇南寺男神坐像は、両体側と背面に記された梵字(後補)の赤外線写真を配置し、光明真言と薬師小咒の可能性を提示(図録コラム)。本像安置の場を考える材料となるか。図録あり(96ページ、1800円)。
1月5日
長浜市長浜城歴史博物館
企画展 竹生島弁才天-仏から神へ、その信仰の展開-
(11月28日~1月17日)
令和二年の春秋に大阪城天守閣と長浜城歴博で開催予定だった「豊臣家ゆかりの“天女の島”-びわ湖竹生島の歴史と宝物」展が新型コロナウイルス感染拡大防止のため中止となり、内容を竹生島弁才天信仰に絞り改めて企画。
叡山文庫の渓嵐拾葉集や仁和寺妙音天像(土佐行広筆)、石山寺天河弁才天像等で弁才天の諸相を踏まえた上で、仁和寺本別尊雑記巻四十四の八臂弁才天立像(注記に「竹生嶋弁才天定智筆/三井寺法輪院本也」とあり)、塩津港遺跡出土の起請文木札にみられる「鎮守竹生弁才天女」等の記述、日吉山王曼荼羅や本地仏像に含まれる竹生島弁天の姿、竹生島蓮華会のようすから、平安時代後期以来、神として祭祀される竹生島の弁才天信仰のあり方と、近世に周辺地域に展開する弁才天信仰の広がりを提示。
井口日吉神社の日吉山二十一社本地仏像(南北朝~江戸)、宝厳寺の弘治3年(1557)銘枚方仏師重清作の弁才天坐像、慶長19年(1614)銘枚方仏師鹿介ほか作の弁才天坐像などの彫像や、浄信寺弁才天十五童子像等々、弁才天像がずらり。図録あり(62ページ、1400円)。開催されなかった先の展示の図録(158ページ、1200円)も入手。
図録論考「竹生島弁才天考-中世における信仰を中心に-」(執筆坂口泰章)では竹生島弁才天と地主神浅井姫命の集合関係を否定して別々の神と位置づけるのも堅実な態度。地域の博物館が、長年の調査研究活動を踏まえて、地域の特徴ある信仰を時系列に沿ってまとめ上げた好企画。
京都国立博物館
文化財保存修理所開所40周年記念 文化財修理の最先端
(12月19日~1月31日)
京都国立博物館内に設けられている文化財保存修理所の開設40周年を記念して、文化財修理の諸相を紹介。当初6~7月開催予定であったが新型コロナウイルス感染拡大防止のため延期となり、満を持して開催。こうした修理をテーマとする展示は、文化財保護法のもとに設置される国立博物館でこそ可能なもの。
安楽寿院孔雀明王像、阿弥陀二十五菩薩来迎図、京博の仏涅槃図、病草子、十二天像などの院政期絵画をはじめ、立本寺金字法華経宝塔曼荼羅8幅、京博騎馬武者像、伊藤若冲石燈籠図屏風、俵屋宗達筆蓮池水禽図、池大雅筆西湖図など絵画資料を中心として、京博金剛般若経解題残巻、仁和寺三十帖冊子、東寺熊文様蛮絵袍、正伝寺九条袈裟(無準師範所用)などなど、さまざまなジャンルの重要資料をずらり展観。
また軸木内墨書によりセット関係が把握された興聖寺兜率天曼荼羅図と海住山寺阿弥陀浄土図、透過赤外線撮影にて御衣絹加持の痕跡が確認された園城寺黄不動像(パネル)、像内から納入品を確認した文化庁釈迦如来立像、軸木内から納入品を得られた西寿寺當麻寺練供養図(元和7年(1621)竹之坊藤吉・藤三筆)など、修理によって新たな学術情報を得られた事例も多数紹介。
紹介されるような最先端・最高水準の修理事例は限られた業者・技術者でこそ可能とはいえ、身の回りの数多くの未指定文化財を修理する際にも、その修理理念や方法論を参考にして、施主や施工者とコミットすることで改善できることも多い。そうした点で図録(128ページ、2200円)に文化財修理に関する豊富な参考文献を付されていることも重要な普及活動。
1月22日
高野山霊宝館
冬季平常展 密教の美術-経典と仏さま-
(12月12日~4月11日)
霊宝館に収蔵される経典を中心に展示。竜光院大毘盧遮那成仏経(平安)、金剛峯寺細字金光明最勝王経(奈良、重文)、紺紙金字法華経(高麗、重文)、金銀字一切経(中尊寺経)のうち大般涅槃経(平安、国宝)、紺紙金字一切経(荒川経)のうち不空羂索神変真言経(平安、重文)など。金剛峯寺の筒型厨子入愛染明王像(鎌倉時代)はいわゆる五指量愛染の小像で、その典拠となる金剛峯楼閣瑜伽瑜祇経の当該部分も展示し、経典と尊像の関係を提示。不動明王坐像及び二童子立像は中尊像内に文明7年(1476)銘あり。紫雲殿では出陳機会の少ない名号や種子、三摩耶形の資料を蔵出し。金剛峯寺の如法愛染敷曼荼羅、建部快運筆両界種子曼荼羅、高屋肖哲筆弘法大師像、釈迦門院の五字明(中世末か)など。図録なし。
2月
なし。
3月4日
和泉市久保惣記念美術館
物語の中へ-源氏と伊勢-
(2月14日~3月28日)
館蔵品の中から『源氏物語』と『伊勢物語』を題材とした絵巻や屛風、扇面、関係資料を紹介。重文源氏物語手鑑(土佐光吉筆)、冷泉為恭筆雪月花図、慶長2年・里村紹巴奥書の伊勢物語など。図録なし。
3月14日
有田市郷土資料館
特別展 資料から読み解く浄妙寺・多宝塔と薬師堂の歴史
(1月23日~3月21日)
有田市浄妙寺の重要文化財多宝塔・薬師堂の建築史的位置づけについて、近代期の複数の修理における資料を博捜しながら紹介。同寺に伝来する蓮弁が刻まれた断片部品について検討し、薬師堂内の重文須弥壇の関連部品と特定するなど、着実な研究成果を展示に反映。多宝塔内部の真言八祖・八相成道図(和歌山県指定文化財)については、パネル化して実際の内陣と同様に配置しその荘厳空間を体験できるようにするなど、近年出色の建築史展。図録あり(42ページ、700円)。
3月21日
奈良国立博物館
特別陳列 帝国奈良博物館の誕生-設計図と工事録にみる建設の経緯-
(2月6日~3月21日)
最終日滑り込み。明治27年(1894)竣工の帝国奈良博物館(現・なら仏像館)の設計図・工事録から、その建築計画と遂行の詳細を追跡。近代建築の歴史的魅力を自ら増幅させる好企画。図録あり(88頁、1000円)。名品展では仏涅槃図の優品をお蔵出し。眼福。0日