平成30(2018)年度展覧会・文化財を見てきました。

4月16日
金剛寺
 金堂落慶記念 新国宝三尊特別拝観
 (3月28日~4月18日)
 平成21年(2009)から行われていた金堂修理が完成し、同じく修理が施されて国宝指定された大日如来坐像・不動明王坐像・降三世明王坐像の三尊が復位して落慶。大日如来は金剛寺創建の治承2年(1178)ごろ造像、不動明王は今回発見された像内銘により天福2年(1234)行快の作と判明、降三世明王も同作。修理の成果として、大日如来の台座・光背が本体完成後も未完成のまま半世紀ほどをかけて順次整備されたこと、頭部背面側部材の上端に螺髪が刻まれ、薄板材を貼り回して隠されていることが判明。造像時に他像の部材を転用したのだろうとのこと(奥健夫「天野山金剛寺金堂三尊像の保存修理と国宝指定」『月刊文化財』650、2017・11)。結縁。

4月22日
四天王寺宝物館
 国宝「懸守」納入の仏像-科学調査による新知見速報-
 (4月21日~5月6日)
 京博国宝展出陳時に行ったCTスキャンで、現存最古の懸守(国宝)7懸のうち桜折枝文分の内部に円筒形の仏龕が納められていることが判明。仏龕そのものは懸守を解体しないと出せないが、スキャンデータを元に3Dプリンターで出力したレプリカを展示。極小サイズであるが、平安後期、12世紀(前半か)の如来立像で精緻な台座・光背を伴う。檀龕の蓋部分には案上に香炉・供華が表され、地には截金で菱繋文を施す。院政期小檀像の新資料(見れないけど)。檀像つながりで千手観音及び二天箱仏(平安後期・重文)を参考展示。企画展「地より湧出した難波の大伽藍-四天王寺の考古学-」(図録あり、40ページ、無料)、特集陳列「四天王寺の春」も開催中(3/11~5/6)も開催。

4月25日
東京国立博物館
 平成30年新指定 国宝・重要文化財
 (4月17日~5月6日)
 恒例新指定展。高野山領大田荘(広島県世羅町)の鎮守・丹生神社の丹生明神坐像・高野明神坐像に張り付いて鑑賞。高野山鎮守天野社祭神像の木型と推定される和歌山・三谷薬師堂女神坐像との類似は、そのかたちの先後関係とともに、鎌倉時代初期の高野山における地域支配と神像図像の整備・造像のあり方を考える上でも重要。ほかに鎌倉初期慶派様式を示す、絢爛豪華な彩色・截金の西光寺地蔵菩薩立像、「巧匠法眼快慶」銘を有する圓常寺阿弥陀如来立像、康俊の手になることが確実な大光寺乾峯士曇坐像、奈良仏師の手になる本山慈恩寺の釈迦如来坐像・文殊菩薩坐像・普賢菩薩坐像などなど、彫刻の優品をありがたく鑑賞。

 創刊記念『國華』130周年・朝日新聞140周年特別展 名作誕生-つながる日本美術
 (4月13日~5月27日)
 國華創刊130年記念展。日本列島に伝わった美術資料のうち、人々の心を揺さぶる「名作」が、いかなる「つながり」によってかたち作られたのかを作例の分類と比較によって提示する、まさしく美術史のアカデミックな研究手法を展示室内に立ち上げる。彫刻では、檀像→代用檀像→木彫像の隆盛という、木彫論の四半世紀の成果を提示。宗教美術ではほかに、法華経と女人救済と普賢菩薩像、縁起と儀礼の場と祖師絵伝を、それぞれテーマとしてピックアップ。ほか雪舟・宗達・若冲、伊勢物語・源氏物語などを取り上げ、正統としての中国美術、正統としての古典との関わり方(模倣、転写、転用、意匠化などなど)の諸相を提示。形式化や硬直化についても触れると「写し」のイメージは理解しやすいが「名作」展では難しいか。図録あり(320ページ、2500円)。

北区飛鳥山博物館
 企画展 徳川家光と若一王子縁起絵巻
 (3月17日~5月6日)
 徳川家光が寛永18年(1641)に制作した若一王子縁起絵巻、上中下巻の模本を極力長ーく広げて展示するとともに、巻頭から巻末までの図版と詞書全文もあわせて掲示する丁寧さ。寛永期幕府寺社政策と詞書編纂に当たった林羅山の思想など原本(幕末期焼失)の制作背景に迫りつつ、模本群の制作者についても精緻な検討を行って、資料の歴史的位置づけを明確にしており有益。図録(108ページ、800円)にも、全紙の図版(画面が分断されないよう配慮)、詞書、関連資料、論考を掲載。

5月3日
滋賀県立安土城考古博物館
 特別展 武将たちは何故、神になるのか-神像の成立から天下人の神格化まで-
(4月28日~6月17日)
 神像表現と肖像表現の諸相を踏まえ、戦国~安土桃山時代における武将の神格化についてクローズアップする。主題部分(Ⅳ章)では織田信長・豊臣秀吉(豊国大明神)・徳川家康(東照大権現)の画像と彫像、秀頼筆の豊国大明神神号を集め、Ⅰ~Ⅲ章で仏像・神像・垂迹画をぎっちり展示。本隆寺僧形神坐像、地主神社僧形神坐像、山門鳥居堂男神立像、玉祖神社男神・女神坐像、市比賣神社女神坐像、壺井八幡宮女神坐像・童子形神坐像、談山神社藤原鎌足像、菅山寺天神坐像、大田神社僧形天神坐像、摠見寺織田信長像、理智院豊国大明神坐像、大樹寺東照大権現坐像、徳川記念財団東照大権現霊夢像などなど。神像とは何かという難解かつ重要な研究課題に対して、展覧会という形でモノ資料をもって体系化する意欲的な取り組み。図録あり(146ページ、1500円)。所収の山下立「日本の神とその造形をめぐって」は18ページにわたる大論文。  

5月4日
奈良国立博物館
 創建1250年記念特別展 国宝 春日大社のすべて
(4月14日~6月10日)
 藤原氏の氏社である春日社の創建1250年記年展。国宝古神宝類と武器・武具などの神宝、および多様な春日曼荼羅と春日本地仏の遺宝を紹介。昨年初頭の東京国立博物館「春日大社 千年の至宝」に引き続いての大規模展示であるが、何より、バリエーション豊富な春日曼荼羅(春日宮曼荼羅・春日補陀洛山曼荼羅・春日浄土曼荼羅・春日社寺曼荼羅・春日南円堂曼荼羅・春日若宮曼荼羅・春日鹿曼荼羅・春日本迹曼荼羅・春日本地仏曼荼羅・春日名号曼荼羅)を徹底的に集成しているのは、これまで継続して春日信仰展を開催してきた奈良博の膨大な研究蓄積によるもので、図録(376ページ、2500円)所収の谷口耕生「春日曼荼羅の成立に関する覚書」とあわせ、現時点での春日曼荼羅研究の到達地点が提示される。古神宝、春日曼荼羅とも、前後期で(後期:5/15~)大半が展示替え。

春日大社国宝殿
 御創建1250年記念展Ⅱ 聖域 御本殿を飾る美術
(4月1日~8月26日)
 春日大社本殿修理に伴って剥ぎ取り保存された御間塀障壁画四面など、神の住まう空間を荘厳する調度や護衛する霊獣を集めて展示。四社殿それぞれに安置された鎌倉時代(一部室町時代)の獅子・狛犬4対、瑠璃灯籠、花菱螺鈿八足案など。

5月14日
法隆寺大宝蔵殿
 法隆寺秘宝展
(3月20日~5月31日)
 恒例、春の秘宝展。飛鳥~鎌倉時代の仏像のほか、建長6年(1254)絵仏師尭尊作の聖皇曼荼羅、貞治3年(1364)の法隆寺縁起白拍子、紺絹地金銀泥両界種子曼荼羅(鎌倉時代)、七大寺巡礼私記(展示部分は法隆寺条)など。西院伽藍で金堂諸尊と講堂諸尊、大宝蔵院のきらめく仏像群、東院伽藍の救世観音像もご拝観。

當麻寺
 練供養会式
 来年から4月14日(中将姫命日)に日程が変わるので、旧暦による最後の練供養(来迎会)を見学。平日ながら善男善女が大参集。来迎のリアリティを体験することは、(死後の)救済の確信を得るための行為。道具立てとしては、視線の集中する観音が奉持する往生者像が重要。しっかり写真撮る。

5月16日
東寺宝物館
 東寺の菩薩像-慈悲と祈りのかたち-
(3月20日~5月25日)
 食堂本尊千手観音立像の修理完成から50周年とのことで、菩薩をめぐる資料を集める。月輪内に結跏趺坐する聖観音を中央に描き、その周囲に八葉の蓮弁上の8駆の阿弥陀如来が取り囲む様子を斜め上から俯瞰する特殊な観音曼荼羅(阿弥陀曼荼羅)、9世紀の聖僧文殊坐像など。鎌倉時代とされる菩薩坐像(平成4年(1992)発行『東寺の菩薩像』16番の像)は、高髻(ただし大部分亡失)上部正面に髪束で花弁形を表し、背面臀部の横皺のある腰帯表現があって、平安時代末期の奈良仏師作例のよう。図版では全然分からなかったので、やはり展覧会はありがたい。リーフレットあり(8ページ)。

龍谷ミュージアム
 特別展 お釈迦さんワールド-ブッダになったひと-
(4月21日~6月17日)
 仏教総合博物館を表明する龍谷ミュージアムで、仏教の開祖であるガウタマ・シッダールタを真正面から紹介し、釈迦への思慕(信仰)の系譜をたどりながら、仏教芸術の基本たる仏伝の表象を紹介する好企画。奈良博仏伝浮彫はストゥーパを模した台上にぐるりと展示して効果的。鹿王院の伝顔輝筆釈迦三尊像や伝牧谿筆出山釈迦図、西来寺出山釈迦図、中之坊寺の周四朗筆仏涅槃図、叡福寺涅槃変相図といった宋元仏画の数々、そして涅槃図の周囲に釈迦の事蹟を配した涅槃変相図や釈迦八相図など仏伝の芸術を集め、現存唯一の写本である金剛寺十二問経や七寺釈迦譜など仏伝諸経典も充実。手塚治虫『ブッダ』の直筆原画も各所に効果的に展示。テーマの深さ、徹底した作品収集は龍谷ミュージアムの開館以来のよき伝統。展示室内のシアターでは展覧会に合わせたコンテンツを上映(釈迦の生涯を紹介)。図録あり(288ページ、2000円)。

京都国立博物館
 特別展 池大雅-天衣無縫の旅の画家-
(4月7日~5月20日)
 文人画家、池大雅の大回顧展。絵と書がぎっちり。文化庁前後赤壁図屏風、遍照光院山水人物図襖、瀟湘勝概図屏風など大作の代表作はもとより、李?筆腕底煙霞帖、張端図筆秋景山水図など手本とした中国画や画譜、指墨(頭)画のいろいろを集めて、その生涯の画風と書風の形成をたどる。祇園南海の跋文(展示なし)のある楽志論図巻、自賛に「奉以龍門祇園先生」とある浅間山真景図といった紀州関連の作品と、不思議にダイナミックな運筆の絵と書の騰雲飛濤図、横長で雄大な構図の四季山水図4幅(冬景のクリアーに見晴るかす遠景!)をじっくり。図録あり(304ページ、2500円)。

5月20日
MIHO MUSEUM
 特別展 猿楽と面-大和・近江および白山の周辺から-
(3月10日~6月3日)
 鑑賞2回目。大和(紀伊含む)・近江・白山周辺の社寺などに群として伝来する、作風に定形化の見られない個性溢れる魅力的な中世資料を初めとする多数の猿楽面を集める。中尊寺の翁、天河神社の尉(永享2年〔1430〕観世元雅奉納)、長滝白山神社の女(鎌倉~南北朝)、春日神社の笑尉(一トウ作)や小面(永和2年〔1376〕)といった仮面史上重要な資料多数。図録あり(402ページ、3000円)。

5月26日
名古屋市博物館
 企画展 博物館イキ!
(4月28日~6月10日)
 名古屋市博物館が多く市民の寄附により収蔵してきたコレクションを、集める・調べる・語る・活きるの4章(22節)に分類して紹介する。茶人・森川如春庵のコレクション、横井庄一生活資料、高力猿猴庵の本、伊勢湾台風資料といった作品群のほか、円空作十一面観音立像、名古屋東照宮祭礼図巻、秀吉文書、修理された伊勢参宮図屏風などなど。昨年開館40周年を迎えた同館の、コレクションを核とした多様な博物館活動のあり方を示すことで、博物館の社会的意義を表明する。図録あり(112ページ、900円)。

ヤマザキマザック美術館
 尾州徳川の花相撲 帝もサムライも熱中!いとしの植物たち
(4月20日~8月26日)
 名古屋園芸創業者収集資料である雑花園文庫のさまざまな近世の植物図譜類と、そうした日本の植物図譜を活用して模様が描かれたエミール・ガレのガラス作品を展示し、あわせて現代作家による植物図やアートフラワーで空間を埋める。タイトルは尾張で「花相撲」という行事が行われていたということではなく、江戸時代における花卉への熱狂の比喩表現。図録なし。

蟹江町歴史民俗資料館
 企画展 川と水に育まれたまち蟹江
(5月12日~7月15日)
 水郷のまち蟹江の生業や産業、食文化、文化人を紹介。常設展示の集約版といった内容。当地が黒川紀章の出身地と知る。リーフレットあり。

6月5日
神奈川県立金沢文庫
 企画展 御仏のおわす国-国宝 称名寺聖教がつむぐ浄土の物語-
(5月11日~7月8日)
 仏国土イメージの語られ方とその受容の展開を、称名寺聖教と宋版一切経をフル活用して提示する。冒頭で、仏国土としての娑婆(サハー)と、釈尊涅槃後の無仏時代(阿羅漢の時代)における弥勒下生を希求する物語を丁寧に提示するのは、もちろん称名寺本尊弥勒菩薩への信仰を踏まえてのこと。ずらり並ぶ経典は、雑阿含経・中阿含経・増一阿含経・仏般泥?経・阿毘達磨大毘婆娑論・四分律・注維摩詰経・大般若経・法華経・華厳経等々。展示後半は極楽浄土をめぐる様々な思想・言説を並べる。阿弥陀経、観無量寿経など浄土経典とともに覚鑁著作の五輪九字明秘密釈(建長6年〔1254〕書写本)、一遍上人法語集(播州法語)なども紹介。重厚な仏教史展示を見る幸せ。展示導線はかなりアクロバティック。図録あり(80ページ、1200円)。

神奈川県立歴史博物館
 開館51周年記念 つなぐ、神奈川県博-Collection to Connection-
(4月28日~7月1日)
 施設改修休館ののちの再オープン記念として、着任して2~8年の若き学芸員たちが、神奈川県博のコレクションを「ドームをつなぐ」「ひとをつなぐ」「空間をつなぐ」「研究をつなぐ」「チカラをつなぐ」「未来をつなぐ」の各テーマを受け持って分野横断的に資料を選択し、専門分野外の解説も行うチャレンジングな展示。資料のさまざまなつながりとともに、新たな学芸員が使命と博物館史を継承するねらいのよう。収蔵資料の多様さと、神奈川県博の活動の多様さが十分に伝わる一方、館蔵品のみ(一部寄託品含む)で各章のコンセプトを明快に示すことの難しさと、展示空間の使いこなしの生硬さも見受けられるが、そこは同館の活動の特色たる解説ボランティアさんたちがフォローして支える。さまざまな「ひと“が”つなぐ」神奈川県博を体現する展示。図録あり(168ページ、1000円)。

6月18日
高野山霊宝館
 企画展 室町時代の高野山
(4月14日~7月8日)
 室町時代(南北朝・室町・戦国時代)の高野山における信仰の所産を、絵画や古文書、工芸品を中心に紹介。南北両朝との距離を保った一山の体制を誓った貞和4年(1348)金剛峯寺衆徒契状写、 文和3年(1354)宥快が入手した梵本大般涅槃経断簡(空海筆として伝授)、天野社一切経会で用いられた舞楽装束類、続宝簡集により大永3年(1523)根来寺僧頼秀寄進が分かる筒型厨子入愛染明王像(五指量愛染)、奥之院納置の高麗版一切経など。紫雲殿の特集展示「仏涅槃図と仏さま」では、愛知県立芸術大学によって模写された国宝仏涅槃図のお披露目。ほか、嘉靖14年(1535)画員吉宋・霊云・宝□・道峯の手になる、本紙縦約4mの李氏朝鮮時代の釈迦八相図は、元和7年(1621)僧円秀寄進になるもの。円通寺地蔵菩薩曼荼羅図も李氏朝鮮時代の作例。図録なし。

6月20日
國學院大學博物館
 特別展 狂言-山本東次郎家の面-
(5月26日~7月8日)
 大蔵流山本東次郎家伝来の狂言面の中から優品を選んで展示。冒頭、中世の黒色尉が5面、ずらりと並び、中でも鎌倉時代とされる一面は実年代不明も、大ぶりで確かに古様(この面のみ面裏鑑賞可)。翁(白色尉)、父尉、延命冠者も伝来するのを知る。鬼、神鳴、青武悪など珍しいもの多く、良質な家元伝来仮面を堪能。図録あり(44ページ、1000円)。

半蔵門ミュージアム
 特集展示 神護寺経と密教の美術
(4月19日~7月29日)
 真如苑所蔵仏教美術公開施設、初鑑賞。運慶作の可能性が極めて高い大日如来坐像を常設展示。しばし像のまわりをぐるぐると行道しながら鑑賞。運慶作例と納入品について紹介するパネル展示もあり(別階)。特集展示では神護寺経2巻と経帙、画中に永享10年(1438)銘のある不動明王像、性霊集巻六の建久7年(1196)書写本、昌泰3年(900)の当時解由状(益信と聖宝の自署あり)など。

6月21日
東京国立博物館
 特集 平成29年度 新収品
(6月19日~7月29日)
 東博の新収蔵資料のお披露目。身の毛もよだつ恐ろしい表情を見せる梅若家伝来の山姥(伝赤鶴作)は、定形化する以前の中世仮面らしい個性的な魅力と、それでいてゆがみなく左右対称に整った造形が狂気をより強調する。怪異表現の一つの到達点。仮面の年代比定は本当に難しいが、南北朝時代(14世紀)とされる(観阿弥の時代)。後に定形化する能面では洗練度を高めて抑制される自然で奔放で生き生きとした感情表現こそ、中世猿楽面の魅力。

びわ湖長浜KANNON HOUSE
 高月町横山 横山神社 馬頭観音立像
(3月20日~6月24日)
 会期終了間際、ひと目だけでもとばたばたと飛び込み鑑賞。平安末~鎌倉初期造像の横山神社本地仏像。「再び会いたい観音さまリクエスト投票」で選出との由。自らが念じる観音さんにリクエストを送ると応現するというのは、観音信仰のメタファーでもある。長浜と東京をつなぐ細やかな仕掛けは、地域を特色づける宗教文化(観音信仰)自体の紹介という施設自体の目的を体現するもの。歴史や文化、信仰の尊厳を損なわずに「展示」するこうした練られた手法は、「消費」でない文化財活用のお手本ともいうべき理想的なあり方の一つ。

7月7日
堺市博物館
 企画展 堺県150年 堺県とその時代-近代地方行政のさきがけ-
(6月2日~7月8日)
 慶応4年(1868)から明治14年(1881)まで存在した堺県について取り上げる。堺県は現・堺市域を中心に、河内・和泉・大和を含み込む広大な県で、のち大阪府と合併し、奈良県が分離した。展示は基本的に堺市域にまつわる事蹟や資料を中心とするもので、堺事件、知事小河一敏と税所篤、明治9年堺博覧会(於南宗寺)、明治天皇堺行幸などを紹介。奈良については、奈良公園の前提として最古の公立公園浜寺公園に触れる部分、堺博覧会の影響として明治11年~13年奈良博覧会に触れる部分に留まる。宗教政策や古器旧物保存方には触れず。残念。図録なし。

7月15日
奈良国立博物館
 修理完成記念特別展 糸のみほとけ-国宝 綴織當麻曼荼羅と繍仏-
(7月14日~8月26日)
 綴織當麻曼荼羅修理完成を記念して、刺繍と織物によって表された仏を集め、繍仏・織成像の系譜をたどる。古代の国家寺院における大幅本尊像としての機能と、中世の阿弥陀信仰に基づいた死者追善のための小幅供養像という機能の断絶と転換を、作品によって明快に伝える。近世もフォローし、大人数の結縁による作例や大幅の復活など、再び大きな転換があったことをほのめかす。なにより貴重なのは、天寿国繍帳(中宮寺)・綴織當麻曼荼羅(當麻寺)・刺繍釈迦如来説法図(奈良博)・刺繍霊鷲山釈迦如来説法図(大英博物館)と、現存する7-8世紀東アジア製大画面繍仏・織成像が集まった奇跡の空間で、ケースの関係で導線も変更。織成像という用語が強調されたことも重要。今後、近世以降の織物仏画(かなり多い)を表現する際は織成像を使うことにする。昭和38年の奈良博・繍仏展以来55年ぶりのテーマで、次は半世紀先かも。必見。図録あり(320ページ、2500円)。

8月3日
神奈川県立金沢文庫
 特別展 安達一族と鎌倉幕府-御家人が語るもうひとつの鎌倉時代史-
(7月20日~9月17日)
 鎌倉幕府の有力御家人安達氏に着目して、その信仰と政治動向などを展示する初の機会。安達氏の拠点鎌倉甘縄に設けられた真言寺院無量寿院を称名寺文書や考古資料から復元するとともに、諸社寺勧進状写により秋田城四天王寺の観音像の写しを安置したことが判明した甘縄観世音寺については、宮城県・天王寺の四天王寺式の如意輪観音・四天王像の紹介を通じてその信仰の場のイメージを立ち上げる。秋田介ゆえに秋田城の守護仏を模刻し信仰したというのは、武士の信仰のあり方を考える興味深い事例。ほか安達氏の尽力により作られた高野山町石、舎利を巡る修法、蒙古襲来、霜月騒動についても紹介。霜月騒動に関わる重要史料である本證寺所蔵の霜月騒動聞書(凝然筆梵網戒本疏日珠抄紙背)も展示。図録あり(1600円、112ページ)。新発見の平安時代初期彫像である勝林寺釈迦如来坐像も公開中。
 
8月6日
東大寺本坊
 東京藝術大学が育む文化財保護の若き担い手達展
(7月27日~8月7日)
 東京藝術大学文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室の院生が、研究のため模刻・修理した仏像を、研究内容の詳細パネルとともに紹介。模刻による原像製作者の追体験を通じて体験的に得られた技法、構造の工夫やノミさばきなどの特徴を、理論として叙述する大切な取り組み。東京芸大所蔵の日光菩薩坐像など、目を凝らしても本物かと見紛う出来映え。東大寺中性院の弥勒菩薩立像の構造模型、その複雑さが一目で分かり、有益。修理が行われた個人所蔵の鎌倉時代の阿弥陀如来立象も展示。このたび同研究室によって新造された磐梯山慧日寺の薬師如来坐像についても、仕上げ検討用の縮尺像とともにパネルでその製作過程を紹介。同研究室の毎年の活動を紹介した分厚い年報は、寄付金の納付により入手可能。

8月16日
奈良国立博物館
修理完成記念特別展 糸のみほとけ-国宝 綴織當麻曼荼羅と繍仏-
(7月14日~8月26日)
 再訪。古代の大画面作品、中世の来迎図ワールドを見納め。勧修寺繍帳の立体絵画っぷり、中世の追善作例の表具裂をも刺?する徹底した荘厳の姿勢に嘆息。布帛を加飾するための基本的な技法が、尊像表現に用いられるとにわかに「作善」の意味が立ち上がることが興味深い。本展をリスペクトして、直近の担当企画展「和歌山の文化財を守る」でも心窓常圓の繍仏を参考出陳することにする。図録あり(320ページ、2500円)。

8月18日
高野山霊宝館
第39回大宝蔵展 高野山の名宝-“もののふ”と高野山-
(7月14日~10月8日)
 師檀契約を結ぶ高野山上の子院の伝来品を中心に、武士にまつわる資料を紹介。肖像では、豊臣秀吉像(金剛峯寺)、木食応其像(蓮華定院)、武田信玄像(成慶院)、長尾景虎(上杉謙信)像(清浄心院)、北条早雲像(高室院)、立花宗茂像(大円院)、浅井久政・長政・長政夫人像(持明院)、真田昌幸・信繁像(蓮華定院)など。ほか、等身大の束帯坐像(金剛峯寺)は、徳川家康像の可能性が高いもの。国宝・五大力菩薩像(有志八幡講)も公開中。図録なし。

8月26日
MIHO MUSEUM
 特別展 赤と青のひ・み・つ-聖なる色のミステリー-
(6月30日~8月26日)
 赤と青の色に彩られた世界の美術品を、館蔵品を中心に紹介。メキシコ・オルメカの変身する人物立像、辰馬考古博物館のみみずく土偶(重文)、伊藤若冲筆達磨像、二月堂練行衆盤、エジプト・ベス神形容器、イラン・白釉青線文碗、中国・青磁蓮弁文碗など。夏休みの展示として、展示室の各所に職員を配置してクイズやワークショップを行い、親子連れも多く来館。ワークショップ用の小冊子(16ページ)あり。

9月2日
和歌山県立紀伊風土記の丘
 学校にあるたからものⅡ
(7月21日~9月2日)
 最終日滑り込み。かつて県内の学校に集められ、伝えられながら、半ば忘れられた存在となり喪失の危機に直面しているさまざまな歴史資料を調査・再評価し、集約して展示公開する。和歌山市立川永小学校の立里荒神講の道具、和歌山市立和佐小学校の近世の鉄兜、和歌山市立山東小学校の蓋形埴輪、海南市立黒江小学校の鯨絵巻、県立日高高等学校の円筒埴輪などなど。こうした取り組みの中で構築される展示理論は広く全国の事例に敷衍しうるものであり、貴重な実践活動。図録なし。

9月22日
東寺宝物館
 東寺の如来・祖師像-悟りと祈りのかたち-
(9月20日~11月25日)
 寺蔵の如来像・祖師像を選んで展示。真言七祖像(国宝・唐時代・李真ら筆)のうち一行像(後期〔~10/23〕は不空像)が出陳。密教相承の歴史が凝縮する奇跡の巨幅を拝み見る。空海弟子を描いた和八祖像(南北朝時代)は真雅・源仁・観賢・淳祐を展示。十大弟子像とは異なるまとまりがあることを知る。ほか弘法大師像(談義本尊・重文・鎌倉時代)のほか、不空三蔵行状(南北朝時代)は類本中最古の写本。リーフレットあり(12ページ、無料)。

泉屋博古館
 特別展 仏教美術の名宝
(9月8日~10月14日)
 館蔵品を軸にアジアの仏教美術を、概ね中国・朝鮮半島の金銅仏、日本の木彫仏、仏画から紹介。優れた作行を示す新出の朝鮮・三国時代の作例として注目される妙傳寺の菩薩半跏思惟像(伝如意輪観音像)は地元京都で初披露ということで、展示室前ロビーに伝来した八瀬の地域的な説明も含めて紹介。江戸時代初期の同寺創建以来、八瀬童子が400年守った半跏像、というフレーズはとても魅力的。ほか、大和2年(498)銘弥勒仏立像(重文)、大治5年(1130)銘阿弥陀如来坐像(重文、伝河内国井深西恩寺伝来)、修理完成後初披露の毘沙門天立像(平安時代)、線刻仏諸尊鏡像(国宝・平安時代)など。図録あり(A5版・42ページ、600円)。

京都市歴史資料館
 企画展 京都市の文化財-新指定の文化財と明治の建物-
(前期9月21日~10月7日 後期10月10日~10月30日)
 近年京都市指定文化財に指定された優品を紹介。祇園祭の保昌山の胴懸下絵である円山応挙筆の巨霊人虎図(後期は張騫鳳凰図)の生き生きとした筆致に嘆息。安永2年(1773)ごろ作。綾傘鉾の巡柱で用いられた飛出と?見は宝永5年(1708)銘あり。善峯寺の色絵牡丹唐草透彫七宝繋文六角壺は享保17年(1732)に霊元天皇妃敬法門院寄進。古清水の基準となる華麗な作品。ほか、後期展示では立本寺の文永10年(1273)覚円作金剛力士像面部残欠が出陳。明治時代の建造物の詳細な紹介もあり。リーフレットあり(8ページ、無料)。見学後、近くの革堂行願寺参拝。
9月28日
和歌山市立博物館
 特別展 お殿様の宝箱 南葵文庫と紀州徳川家伝来の美術
(9月15日~10月21日)
 かつて紀州徳川家に伝来した数々の資料を、南葵文庫旧蔵品・南葵音楽文庫旧蔵品・紀州徳川家売立品の枠組みから集約する。紀州徳川家の赤坂邸内に設置された南葵文庫は、関東大震災により焼失した東京帝国大学図書館にその蔵書が引き継がれ、多くが現存する。南葵音楽文庫の資料は読売日本交響楽団に引き継がれ現在和歌山県博寄託。そして3度の売立により散逸した紀州徳川家伝来品は、さまざまな所蔵者の元に散らばって収蔵される。売立品が集約されるのはこれが初めての機会で、鹿苑寺の伝牧谿江天暮雪図(~9/30)、岡山県立美術館の牧谿筆老師図(10/2~)、個人蔵仇英筆山水人物図巻、たばこと塩の博物館収蔵(大蔵省専売局旧蔵)のたばこ盆4組、徳川治宝が収集し現在国立歴史民俗博物館所蔵の雅楽器(笙・龍笛・琵琶)など、優品が集まって絢爛豪華。江雪左文字(国宝・太刀銘筑州住左)はパネルで紹介。
 重要なのは最後に、南葵文庫を創立した徳川頼倫、南葵楽堂・音楽文庫を創立した徳川頼貞の社会事業についても、家財を費やしたミュージアム事業への先鞭と史跡名勝天然記念物保存協会の運営、そして芸術家をサポートした芸術文化支援事業として顕彰する視点を設定したことで、それらを現代につながる文化事業の先駆けとして肯定的に位置づけながら、高邁な諸事業による家産の破綻が売立にいたった経過をも如実に示していることである。一見、紀州徳川家の名宝展であっても、紀州徳川家の家産の整理から散逸にいたる近代史を展示室内全体で見事に立ち上げて、現代のミュージアムやライブラリー、文化財保護行政を巡る問題に接点を設けた重厚な内容となっているのは担当者の力量。図録あり(94ページ、1000円)。

10月4日
多摩美術大学美術館
 加東市×多摩美特別展 神仏人 心願の地
(9月1日~10月14日)
 加東市内に所在する主に宗教文化に関わる文化財を東京で紹介。清水寺の銅造菩薩立像(重文)、秘仏本尊厨子内安置の毘沙門天立像、朝光寺の秘仏本尊千手観音立像(重文、東本尊)、独特な風貌の翁面のほか、東古瀬地区の地蔵菩薩立像、花蔵院釈迦十六善神像、持宝院熊野観心十界図など、拝観・鑑賞の機会の限られる資料多数で貴重な機会。清水寺の大日如来坐像(五智如来坐像のうち)は、髻に毛束で表した花形飾りや、背面腰帯の横皺の表現、正中で左右矧ぎとする構造など、平安時代末期の奈良仏師作例と見られるもの。光背・台座も古様なところがある。各作例の年代比定には検討が必要なものもあるが(偉そうにごめんなさい)、この機会でなければ見られず、知ることのなかった作例に出会えたことの幸せ。図録あり(184ページ、2500円)。

三井記念美術館
 特別展 仏像の姿-微笑む・飾る・踊る-
(9月15日~11月25日)
 仏像の顔・装飾・動きに着眼し、造像に携わった仏師の感覚や技量を実作例を通じて共感的に鑑賞する試み。四天王寺阿弥陀如来及び両脇侍像(重文)、聖衆来迎寺薬師如来立像(重文)、誓願寺毘沙門天立像(重文)といった教科書的な名品とともに、鑑賞機会の少ない個人所蔵資料を積極的に集めて、バラエティに富んだ顔ぶれの出陳品群を形成する。かたちの面白さとともに、素材としての木の聖性にも目配りしていて、瀬古区十一面観音立像(重文)、長円寺十一面観音立像(重文)、本山寺観音菩薩立像(重文)、個人蔵の観音菩薩立像、個人蔵弥勒菩薩立像、四天王寺十一面観音立像と、檀像の系譜をたどるような見方も可能。東京藝術大学文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室による模刻像や修復作例も紹介。図録あり(108ページ、2000円)。

10月13日
愛荘町立歴史文化博物館・多賀町立博物館
 仏師の世界-文化財修理にかける心
(9月8日~10月14日)
 愛荘町と多賀町の2会場でテーマを揃え、美術院で活躍した仏師飯田雅彦氏の仕事を中心に、文化財修理の意義や実際を紹介。愛荘町会場は「文化財修理に携わる仏師」として飯田氏の生涯とその道具を紹介、多賀町会場では「木を刻む」として道具類とともに木材の樹種等を紹介。愛荘町会場に飯田氏が修理した五百井神社男神坐像と獅子・狛犬、多賀町会場に近隣の胡宮神社との関わりで重源上人坐像模刻を展示。元琵琶湖文化館学芸員の井上ひろ美氏の監修で滋賀における新しい展示作製のあり方であり、開催の経緯や対象の選定理由も今後知りたいところ。図録あり(16ページ、500円)。見学後、多賀大社にもご参拝。

櫟野寺
 日本最大坐仏観音秘仏本尊十一面観世音菩薩大開帳
(10月6日~12月9日)
 櫟野寺本尊十一面観音坐像の33年に一度の大開帳に結縁。先年の東博での展示はこれに合わせた本堂改修に伴うもの。ずらり並ぶ仏像群には東博キャプションを再利用。展示されていなかった平安時代の僧形神坐像あり。檀家・役員総出で拝観者対応されており祝祭感あり。拝観後、甲賀総社の油日神社も参拝。

10月16日
大津市歴史博物館
 湖信会設立60周年記念企画展 神仏のかたち-湖都大津の仏像と神像-
(10月13日~11月25日)
 大津市内の十社寺によって組織される湖信会60周年記念として、各社寺及び関連寺院所蔵の仏像・神像・仏画を、尊像の種類別に集めて紹介する。石山寺大日如来坐像(快慶作)や西教寺薬師如来坐像といった著名な作例とともに、聖衆来迎寺の愛染明王坐像や吉祥天立像など、近年の同館の調査によって見いだされた新出資料も多数。作品に付せられた各作例の特徴を的確に伝えるパネル(図録にも掲載)は、仏教美術を親しみやすく、またより深く鑑賞するための視点を提供する丁寧なもの。図録あり(144ページ、1200円)。

京都国立博物館
 特別展 京のかたな-匠のわざと雅のこころ-
(9月29日~11月25日)
 平安時代後期から現代までの山城鍛冶の作刀の歴史を、三日月宗近(東博・国宝)、後藤藤四郎(徳川美・国宝)、有楽頼国光(個人・国宝)、圧切長谷部(福岡市博・国宝)などなど、数々の名物を含む177口(展示替えあり)の刀剣(太刀・刀・脇差・短刀・剣・鑓・薙刀)によって凝縮して伝える意欲的な展示。刀剣ブームの中であえて総花的な内容にはせず、地域を絞った緻密で重厚な刀剣史叙述に徹していて好感。一方本館(明治古都館)のイベント展示は熱量不足。図録あり(276ページ、2600円)。

10月17日
福岡市博物館
 特別展 浄土九州-九州の浄土美術- 
(9月15日~11月4日)
 九州における浄土(阿弥陀)信仰の所産を、地獄・極楽の対比を導入にして、鎮西上人弁長による浄土宗の教線拡張、来迎美術の諸相、真宗寺院萬行寺の調査成果報告から構成して紹介。肥後国川尻荘の満善寺から禅林寺に伝来した正安4年(1302)制作の當麻曼荼羅(重文)、福岡・萬行寺の仁治3年(1242)快成作阿弥陀如来立像、事前調査で像内より承久4年(1222)仏師琳賢銘のある納入品が取り出された佐賀・弥福寺阿弥陀如来立像のほか、佐賀・称念寺、福岡・玉樹院、鹿児島・光明禅寺といった、歯吹き・螺髪植え付け・仏足文表現に伴う銅製棒?などを伴う生身像も集める。九州全体を俯瞰した仏教美術研究の最前線に接する貴重な機会。図録あり(240ページ、2500円)。
 
九州国立博物館
 特別展 オークラコレクション-古今の美を収集した父子の夢- 
(10月2日~12月9日)
 大倉集古館改修中の機会に、オークラコレクションの精華を紹介。類品の少ない十六羅漢像、普賢菩薩騎象像(国宝)、古今和歌集(国宝)、高麗時代の乾漆菩薩坐像など鑑賞。図録あり(256ページ、2400円)。実業家による広汎な美術品収集とコレクション形成のようすが整理されていて参考になる。
 また文化交流展示室の特集展示「坂本五郎コレクション受贈記念 北斎と鍋島、そして」は古美術商のコレクション寄贈を受けた展示であるが、特別展とも一部資料を連携させ、全体として個人コレクションに脚光を当てる構成とする。
 近現代期の古美術コレクション形成には正負両面の歴史があるが、歴史の断絶(伝来情報の喪失)を収集者のパーソナリティーによって上書きし正当化することではない、現代社会において共有すべき知見へと昇華する工夫は、公立館の場合特に考え続けないといけない課題。

10月21日
中之島香雪美術館
 珠玉の村山コレクション-愛し、守り、伝えた- Ⅳ.ほとけの世界にたゆたう
(10月6日~12月2日)
 大阪中之島にオープンした新たな美術館の、1年間にわたる開館記念展の第4期。朝日新聞創業者村山龍平の仏教美術コレクションを展示。平安時代前期の薬師如来立像(重文)、稚児観音絵巻(重文)、永禄2年に高野山西院・報恩院来義が寄進した旨を裏書きする阿弥陀二十五菩薩来迎図、独尊の釈迦金輪像など。不動明王八大童子像と阿弥陀如来・観音菩薩・地蔵菩薩像については、明治24年に宮内省臨時全国取調局が発行した監査状が付随することも紹介。図録あり(254ページ、2500円)。所収論考2編(臼倉恒助「新聞人と収集家がクロスする時」、勝盛典子「村山コレクション形成の軌跡を追って」)は村山が庇護した雑誌『國華』、そして朝日新聞紙面の記事を足がかりに、明治時代の収集家による古美術保護へのまなざしを浮かび上がらせるもので有益。

10月22日
高野山霊宝館
 企画展 “香り”の荘厳
(10月13日~1月14日)
 高野山に伝来する名品・稀品で、仏と儀礼の場を荘厳する“香り”を可視化した意欲的な展示。香炉が描かれる蓮華三昧院阿弥陀三尊像(国宝、前期)、壇木を用いた諸尊仏龕(国宝)、普門院釈迦如来及び諸尊像(重文)、竜光院蓮華形柄香炉(重文)などの名品から、天文12年銘のある香木沈香、寛文4年銘のある赤栴檀木片、桃園天皇遺品の香盆并香具といった稀品が並ぶ。不断経用の大きな香木をそびえ立てた青磁大香炉は、元文元年(1736)の寄進名があることから制作時期もそのころとするが、中国・元時代の作品のよう。本館紫雲殿では、正智院釈迦三尊十六羅漢像は、大画面の中央に釈迦三尊像、周囲に16の区画を設けて十六羅漢を描くもので、明~清時代とされるが、鎌倉時代前期ごろの類品の少ない新資料。高麗仏画では至正10年(1350)銘の五坊寂静院弥勒下生変相図、近世絵画では伝曽我二直庵筆鶏図屏風、海北友松筆周茂叔愛蓮図、近代絵画では親王院岩田正巳筆高野草創図「大師・明神」など見どころいっぱい。香りの体験として、五香(白檀・沈香・丁字・鬱金・龍脳)の嗅ぎ比べもできる。白檀や丁字のすかっとした香りに比べ、龍脳の湿ったような香りにくらくらする。図録なし。

10月25日
熊野本宮大社宝物殿
 御創建二千五十年奉祝式年記念特別展 時宗と熊野
(前期8月5日~9月25日・後期9月30日~11月11日)
 熊野本宮大社では崇神天皇65年を起点とした奉祝行事中。宝物殿では時宗と熊野の深いつながりを踏まえ、神奈川・遊行寺(清浄光寺)の寺宝を紹介。一遍所持の持蓮華、一遍筆の名号、一遍自筆の一期不断念仏結番(弘安元年〔1278〕)、名号と並び描かれる一遍上人像(神奈川県指定)、熊野大権現神輿などなど、遊行寺の「聖遺物」ともいうべき重宝が並ぶ。一遍上人縁起絵巻(神奈川県指定)の初期作例である遊行寺本は、巻一の本宮社殿前で山伏姿の熊野権現に一遍が諭され宗教的確信を得る熊野成道の重要場面を展示して熊野とのつながりを明示し、ほか熊野三所権現を描き込んだ西国三十三所観音像も地域性のある資料。近隣の世界遺産熊野本宮館会場では、展示資料を高精細な拡大パネルにして展示。図録なし。
 拝観後、往昔の宗教的景観を思い描きながら大斎原を参拝。河原に降りて熊野川を眺める。

10月26日
鎌倉国宝館
 開館 90 周年記念 鎌倉国宝館 1937-1945
(10月20日~12月2日)
 日中戦争から太平洋戦争時の国宝館の状況を、戦中の展示資料や疎開資料、公文書、行政文書から伝える。日中戦争中の昭和14年に開催された「元寇展」出陳品として、館蔵の元寇展覧会目録とともに明王院の異国降伏御祈祷記、円覚寺の巻頭下知状(重文)、建長寺蘭渓道隆像(国宝)、極楽寺の釈迦如来坐像・十大弟子立像(重文)など紹介。時局に迎合して戦意高揚の一翼を博物館が担った過去をしっかり胸に刻む。また太平洋戦争時の昭和19年に郊外へ疎開された資料として光明寺當麻曼荼羅縁起絵巻(国宝)、當麻曼荼羅図(重文)、十八羅漢及び道宣律師像(重文)など。戦況がまだ悪化する前の昭和17年に開催された、東京帝室博物館・奈良帝室博物館・恩賜京都博物館・靖国神社遊就館・大阪市立美術館と鎌倉国宝館の6館と文部省の協議会に関する「国宝関係博物館事務協議会」の書類中では、出席した学芸員の復命書で、本土攻撃に備えた対策として国宝館では遠隔地出陳品の返却、疎開の計画、防空壕の設置、八幡宮境内池水の防火利用などを既に計画していることが知られる。先の疎開もこの方針に基づくもの。ほか、庶務綴や庶務日誌も活用して戦時下の動向を伝える。鎌倉国宝館90年の歴史とは、まさしくこれら行政文書によって活写される近現代史であるといえる。図録あり(104ページ、800円)。所収の金子智哉「総論~戦時下の鎌倉国宝館~」は18ページに及ぶ大論文。

神奈川県立金沢文庫
 特別展 西湖憧憬-西湖梅をめぐる禅僧の交流と15世紀の東国文化-
(9月22日~11月11日)
 中世、金沢の内海の風光明媚な景勝は中国・杭州の西湖と重ねられた。北条実時は西湖の白堤・蘇堤に倣って瀬戸堤を作り、称名寺境内には金沢北条氏が西湖から取り寄せたという西湖梅があった。金沢の地に移植された西湖イメージのもと紡がれた禅僧の交流の痕跡を書画で示すとともに、西湖を描いた絵画作品を集約する機会とする。禅僧の交流は中国僧による景勝を愛でた詩を列記する応長元年(1311)東漸寺詩板、建長寺僧玉隠英?(1432~1524)と万里集九(1428~1507)が着賛した梅渓図(静嘉堂文庫美術館)、建長寺の書記である賢江祥啓筆の瀟湘八景図画帖(白鶴美術館)などから、西湖図は伝雪舟等楊筆西湖図(静嘉堂文庫美術館・前期)、如寄筆西湖図(天寧寺・後期)、欧斎筆西湖図屏風(京都国立博物館・10/23~11/11)、狩野元信筆西湖図屏風(出光美術館・前期)、雲谷等的筆西湖図屏風(瑞泉寺・後期)などなどを多数集める貴重な機会。図録あり(120ページ、2000円)。板倉聖哲・梅沢恵・畑靖紀・須田牧子・髙岸輝の五氏による論考を収載。充実。

東京国立博物館
 特別展 京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ
(10月2日~12月9日)
開創800年を間近に控えた大報恩寺の数々の鎌倉時代彫像の魅力を紹介する。タイトルには入っていなくとも、本展の見どころはなんといっても秘仏本尊、行快作の釈迦如来坐像(重文)の出開帳。その尊容に間近にまみえることのできる希有な機会に、保存状態良好な台座・光背も含めてじっくりと鑑賞。この像とともに安置されていたと想定される快慶晩年の作である十大弟子立像(重文)、貞応3年(1224)肥後定慶作の六観音立像(重文)も含め、それぞれ露出でゆったりと展示して四囲から鑑賞できるようにし(六観音は後期から全て光背を撤去する珍しい試み)、彫刻資料の魅力を存分に伝える国立館らしい鑑賞環境作り。ほか、銅造誕生釈迦仏立像(重文)の原型製作者は行快、地蔵菩薩立像(未指定)は肥後定慶作の可能性が示され、承久2年(1220)の創建から間を置かずに次々造像された慶派仏師の仏像が林立する空間を堪能。昨年同館で開催された運慶展からの継続性があり、好感。図録あり(260ページ、2300円)。図版多数で必携。所収論文の皿井舞「大報恩寺の創建と慶派仏師の競演」始め、コラムも充実。本館彫刻室も連動して鎌倉時代彫像と檀像を展示。

10月30日
奈良国立博物館
 第70回 正倉院展
(10月27日~11月12日)
 恒例の正倉院展は70回目。さすが平日でも善男善女大参集。絢爛豪華な平螺鈿背八角鏡、玳瑁螺鈿八角箱、精緻で華麗な犀角如意、沈香木画箱、?線鞋や錦紫綾紅臈纈?間縫裳などの染織品、新羅琴、胴匙などなど見どころ多い。麻布に墨で描かれた山水図、光明皇后発願一切経の経名を書き上げた続々修正倉院古文書第十六帙第八巻、押出仏の形である仏像形をじっくり鑑賞。図録あり(152ページ、1200円)。本館の、奈良時代木心乾漆造の新資料である如法寺毘沙門天立像には解説板が設置。

興福寺国宝館
 興福寺中金堂再建落慶記念特別展示 邂逅-「志度寺縁起絵」-
(10月1日~10月31日)
 興福寺中金堂再建落慶記念特別展示 再会-興福寺の梵天・帝釈天-
(10月1日~11月15日)
 中金堂の落慶記念展として、国宝館の一角で特別展示。「邂逅」は藤原不比等と海女の婚姻と海中の宝珠を得る説話を描く志度寺縁起絵(重文)を展示。海女が命と引き換えに得た宝珠は中金堂本尊釈迦如来坐像の眉間に入れたと語る。この説話の形式を転用する道成寺創建縁起理解の上でしっかり鑑賞。「再会」は明治時代に寺を離れて現在は根津美術館に所蔵される帝釈天立像を、本来一組となる梵天立像と並べて展示。昨年1月~3月に根津美術館で先行お披露目ののちの機会。両展内容を解説する資料(B4・1枚両面)あり。興福寺の文化(財)の広がりや影響、関係性を可視化する好企画であり、今後も期待。

元興寺法輪館
 元興寺創建千三百年記念 大元興寺展
(9月13日~11月11日)
 法興寺(飛鳥寺)が平城京に移され元興寺として建立されてから1300年の記念展。考古資料・文献資料・美術資料から、創建から現代に至る通史を、奈良町の形成と関わりにも目配りしながら紹介。徳融寺菩薩立像残欠は等身大木心乾漆菩薩像の断片で厚く盛られた乾漆の状況がよく分かるよい資料。真言律宗元興寺の厨子入智光曼荼羅(重文)は南都絵所松南院座の大輔法橋清賢作の可能性が高いもの。なお華厳宗元興寺蔵の薬師如来立像・十一面観音立像などを「里帰り」した「大元興寺諸仏展」は9月27日で終了済み。図録あり(56ページ、1000円)。

大和文華館
 特別展 建国1100年 高麗-金属工芸の輝きと信仰-
(10月6日~11月11日)
 高麗時代の金属工芸に着目して、国内の諸機関より在銘品を多数含む重要資料を集約する。奈良博銀製層塔形舎利容器及び金製内容品、東博銀製鍍金観音菩薩・毘沙門天蔵小仏龕、長谷寺銅製銀象嵌梵字唐草文香炉、照蓮寺と園城寺の梵鐘(重文)、東博金鼓、愛知県美鉄地金銀象嵌鏡架、大阪歴博龍樹殿閣文鏡、高麗美術館銅製匙などなど。館蔵品の高麗経や高麗仏画もうまく活用。同館の平成28年度特別展「呉越国-西湖に育まれた文化の精粋-」からの連続性を意識したテーマで、銭弘俶塔ずらりの余韻がふと蘇る。図録あり(152ページ、2484円)

11月4日
堺市博物館
 特別展 土佐光吉-戦国の世を生きたやまと絵師-
(10月6日~11月4日)
 堺を拠点に活動した戦国時代の土佐派絵師、光吉にクローズアップ。京博源氏物語図屏風、渡辺美術館曽我物語図屏風などの大画面作品から、和泉市久保惣記念美術館源氏物語手鑑(重文)、京博源氏物語図色紙帖(重文)などの小画面作品まで、光吉作品を集める。また雲龍院後円融天皇像(土佐光信筆・重文)、歴博足利義輝像、妙國寺三好実休像、あるいは京都市芸大土佐派絵画資料中の肖像粉本類など多数並べて土佐派の肖像画制作を分析するとともに、光吉工房作品を作風から跡付けて配列した正統派美術史展示。図録あり(88ページ、1970円)。末柄豊・泉万里・安井雅恵・河田昌之・宇野千代子の短い論考5篇収録。

歴史館いずみさの
 特別展 祈りと願いと信仰と
(10月20日~12月23日)
 泉佐野市域における信仰の諸相を、主に近世~近代の資料を活用して紹介。犬鳴山七宝瀧寺の尊勝曼荼羅(南北朝時代)、葛城峯中之宿次第深秘記など同寺の修験関係資料、蟻通神社三十六歌仙図絵馬や正徳2年(1712)の奉納百首和歌など同社の和歌関連資料、市内のだんじりを集約した写真パネルなど。図録なし。平成27年発行の『泉佐野の文化財』(68ページ、1000円)買っておく。

11月5日
島根県立古代出雲歴史博物館
 企画展 神々が集う-神在月と島根の神像彫刻-
(10月26日~11月26日)
 陰暦10月を神在月と呼ぶ出雲地方の習俗に合わせて、県内に伝来する200?を超える神像を一所に集める。第一部は多数の典籍から神在月伝承の形成史を紹介、第二部が神像展。成相寺の23?の神像群(県指定)はもと鎮守熊野権現(現在は廃絶)安置の諸尊とのことで、熊野信仰との関係性を念頭に置きつつ鑑賞(簡単に答えは出ないけれど)。騎馬神像は古代風の鎧を纏った特殊な姿。圧巻は出雲文化伝承館所蔵、日御先神社宮司小野家旧蔵の171?の神像群。一部は伝承館で常に展示されているが、その全貌は今回が初公開。展示室内に所狭しと林立するその群像に圧倒される。平安時代から江戸時代にかけて作られた、大きさ、尊格、表現の巧拙、保存状態もさまざまな神像群で、一所安置のものではあり得ない。推測であるが、神仏分離時の神像撤去、あるいは神社合祀による神体の整理に伴って、出雲地方の一定の範囲の神像が集約されたものと見られる。群として神像の文化史をさまざまに物語るもので、この量にこそ重要な意義があるといえる。神像研究の糸口は、まだまだ膨大に残されている。図録は展示の第2部のみ。『島根の神像彫刻』(96ページ、1500円)。必携。

上淀白鳳の丘展示館
 ミニ企画展 上淀廃寺の瓦
(10月13日~11月25日)
 鳥取県淀江町の国史跡上淀廃寺跡より出土した資料及び、金堂の堂内空間を原寸復元したガイダンス施設。同寺の建立は7世紀末(~8世紀初)で、出土塑像片等から本尊像は8世紀半ば~後半に交代した模様。大迫力の丈六三尊像(復元監修山崎隆之氏、松田誠一郎氏)は、未彩色の塑像風で仕上げて効果的。出土した壁画片や塑像片の一部も常設展示され充実。企画展では上淀廃寺跡より表採、発掘された瓦と、上淀廃寺式式軒丸瓦(細長い花弁に稜線と隆起がある特殊なもの)の広い分布を紹介。解説資料あり(A4・8ページ)。中原斉『よみがえる金堂壁画 上淀廃寺』(新泉社、1600円)も購入。鑑賞後、近隣の上淀廃寺跡(国史跡)を見学。発掘時の状況を再現するタイプの史跡整備。三塔並立の不思議(ただし北塔は心礎のみで基壇痕跡なし)。

鳥取県立博物館
 鳥取画壇の祖 土方稲嶺-明月来タリテ相照ラス-
(10月6日~11月11日)
 南蘋派や円山派に学んで京や江戸で活躍し、晩年には鳥取藩絵師となった土方稲嶺の画業を紹介。金箔地に濃彩で描く猛虎図屏風、銀箔地に墨のみで岩と波濤を描く荒磯図屏風、絹本に墨画で描いた葡萄栗鼠図等々、さまざまな技法、画風を駆使した幅の広い作品を集約する。お目当ては、平成28年度に和歌山県の興国寺より鳥取県立博物館に譲られ、本年8月には鳥取県保護文化財にも指定された旧興国寺書院壁画、22枚33面。複雑な気持ちではあるが、修理、指定と万全の体制で受け入れられていて、紀州において経てきた歴史も含めて、鳥取の宝として引き継がれることだろう。図録あり(232ページ、1500円)。稲嶺の画業を丁寧に追った概説(執筆山下真由美)とともに、印章・落款と売立目録収載品までを掲載した決定版。

11月10日
茨木市立文化財資料館
 テーマ展 総持寺 10月6日~12月3日
 市制施行70周年と西国三十三所草創1300年の記念展。総持寺の仁和2年(886)の創建期から近世の復興まで歴史を、考古・歴史・美術・民俗・建築の総合的な視点で紹介。西国霊場の札所寺院(第二十二番)にふさわしく近世の縁起絵巻が複数伝わる。展示は従来から知られていた海北友雪筆の一巻と、近年新たに見いだされた享保12年(1727)奥書を持つ豪華な一巻。平安時代後期の等身の二天立像は作風のやや異なる一対。仏画は画中の上部に金泥経文を配して八臂弁才天立像と童子を配した弁才天十五童子像が古様で、中世絵巻にも通ずる山水表現。鎌倉~南北朝時代か。地域の博物館による地域の拠点寺院の丁寧な紹介で、施設と専門職員の役割をしっかり果たす内容。図録あり(30ページ、300円)。

高槻市立今城塚古代歴史館・高槻市立しろあと歴史館
 合同特別展 藤原鎌足と阿武山古墳
(10月6日~12月2日)
 高槻市内、阿武山古墳の被葬者である藤原鎌足をクローズアップして、二つの博物館で紹介。今城塚会場は「第1部 藤原鎌足の足跡をたどる」。想像以上の飛鳥時代の宮都・寺院の展開を総括する内容で、川原寺、山田寺、穴太廃寺、崇福寺ほかの塑像・?仏が多数並んで見応え十分。しろあと歴史館会場は「第2部 藤原鎌足の姿・三島の大織冠信仰」。談山神社と奈良国立博物館の藤原鎌足像や、地域に残る地福寺藤原鎌足像、粉本類など、大織冠像がずらりと並ぶ稀有な機会。眼の描き方に複数のパターンがあるが、瞋怒相の粉本を知ることができ収穫。鎌足隠居地であり埋葬地である三島地域の大織冠信仰の痕跡も緻密に紹介。6世紀の古墳(将軍塚古墳)である大織冠神社(大織冠古廟岩屋)を鎌足墓として、江戸時代に九条家が祭祀を行っていたことも興味深い歴史。2館共通の図録あり(104ページ、500円)。鑑賞後、高槻市西安威の大織冠神社に参拝。どんな山の中かと思ったら、追手門学院と住宅地の開発で頂部以外は削平。

11月18日
備前長船刀剣博物館
 特別展 こんぴらさんの名刀展
(9月7日~11月25日)
 香川県・金刀比羅宮に所蔵される中世~近代の刀剣を、備前刀を中心に紹介。剣 銘則真(南北朝)、太刀 銘備州長船住重真(南北朝)、刀 銘備前国住長船与三左衛門尉祐定作(大永5年)など。図録なし。

大賀島寺
 大雄山大賀島寺ご本尊(千手観音立像)開扉供養大法要
(11月17日・11月18日)
 秘仏本尊の33年に一度のご開帳。像高124.8㎝、動きのある体?と脇手の一部、台座蓮肉部を含めてカヤとみられる一木より彫出した、厳しい風貌の9世紀彫像で、本来素地であったもよう。太い脇手、特殊な宝鉢手など唐本図像の直接的な影響も見られる重要作例。2002年に武田和昭氏が初めて確認し、調査成果は翌年浅井和春氏によって「岡山・大賀島寺の本尊千手観音立像とその周辺」(『佛教藝術』267、2003)として報告され、2011年重文指定。今般のご開帳に備え修理も行われた由。地域の方々が集まる祝祭の場に混じらせてもらいありがたく拝観の後、八幡縁起の遺跡地、牛窓の牛窓神社と五香宮を巡り、本蓮寺、弘法寺も拝観。

11月22日
神奈川県立金沢文庫
 特別展 顕れた神々-中世の霊場と唱導-
(11月16日~1月14日)
 瀬戸神社と龍華寺を参拝してから訪問。神々が立ち顕れる場とその姿を、神像・仏画・唱導資料を組み合わせて提示する。称名寺聖教の唱導資料を基層にしつつ、さまざまな個人コレクションから資料を選定し、初公開を含む珍しい資料が集約。中でも伝日光山伝来の銅製男神坐像は、笏を執って右足を踏み下げる束帯男神像で、両袖裏に嘉元3年(1305)銘を有する。輪王寺の男神坐像・女神半跏像と三神像を構成する1体であり大発見。八幡神華鬘(南北朝時代)二面には、薬師寺休ヶ岡八幡宮の国宝八幡三神像のうち中尊像と比売神像の姿を写し、自然景観の中に描く。神像の臨写がいかになされたのかを考える上で注目される資料。ほか、大威徳明王懸仏(鎌倉時代)は新宮・阿須賀神社伝来資料と伝えられ、作風からもほぼ確実。個人コレクションが神道美術の重要な鉱脈であることを痛感するとともに、それらを積極果敢に集め公開することで情報の共有化を図った意欲的な内容。図録あり(112ページ、1800円)。
 なお、金沢文庫・神奈川歴博・国文学研究資料館・國學院大學博物館と、名古屋大学大学院人文学研究科付属人類文化遺産テクスト学研究センターの連携事業で、「列島の祈り」をテーマにして各館でそれぞれ展示が開催中。今までになかった大規模な学術面での連携による新たな展示のあり方。

神奈川県立歴史博物館
 特別展 鎌倉ゆかりの芸能と儀礼
(10月27日~12月9日)
 鎌倉とその周辺で継承され、あるいは記録された芸能に着目して資料を集約する。特に仮面を使用する祭礼を中心に紹介。仮面をかぶる異形のものはいわば神仏であり、それらが顕れる儀礼の場を、古文書・絵画資料・仮面で展示室内に立ち上げる。御霊神社面掛行列の行道面10面は明和5年(1768)、乾漆製。独特の作風であるが、共通する形状の八雲神社行道面7面(天保10年銘)も合わせて並べ(御霊神社面の写しか)、古面からの作風の継承を示唆する。舞楽面からの影響のある鼻長、ゆがみのある祖父面との共通性をもつ火吹男など、今後の中世仮面の系譜の中に位置づける作業は、紀州の面掛行列研究にとっても有益。瀬戸神社の獅子頭(鎌倉時代)、阿弥陀寺の承安4年(1174)銘菩薩面をありがたくじっくり鑑賞。ほか、八菅神社の役行者像(室町時代)など、八菅山修験に関わる資料も集約していて有益。図録あり(176ページ、1500円)。

11月25日
岩出市民俗資料館
 企画展 覚鑁上人の法灯の伝承者たち-根来寺のあゆみ-
(11月1日~11月26日)
 根来寺(大伝法院)の歴史を、覚鑁、頼瑜、聖憲、法住、栄性を軸に、資料とパネルで紹介。稀少な中世興教大師像の一つである根来寺本(旧丹波国氷上郡金山城主赤井直実所持本)、根来寺聖憲像(江戸時代)、根来寺弁才天十五童子像(大永2年(1522)、中性院伝来)、和歌山県立博物館根来寺境内絵図、和歌山県立図書館所蔵の中世根来版である大毘盧遮那成仏神変加持経など。かつて自分が担当した特別展の成果がフル活用されていることのありがたさ。

12月2日
上原美術館
 特別展 伊豆の平安仏-半島にひらいた仏教文化-
(9月22日~12月9日)
 リニューアル1周年を記念して、同館が継続して調査を行ってきた伊豆半島の仏像のうち、平安時代に遡る魅力的な作例を集める。伊豆市金龍院千手観音立像は眦を切り上げ顎の張った雄偉な風貌、胴を強く絞った体型など平安時代前期の余風を強く残す。同寺の不動明王坐像も古様を示す10世紀彫像。下田市法雲寺如意輪観音坐像は、多臂像ながら極力一木から木取りし、風貌に沈鬱さをやや残した10世紀の作例。河津町地福院吉祥天立像も、像の大略を一木より彫出した10世紀に遡る作例であるが、薬師堂本尊として安置されてきたことに驚き。吉祥薬師の稀有な一例のよう。河津平安の仏像展示館(南禅寺)からは平安時代前期の不動明王坐像、梵天立像・帝釈天立像、そして仏手など仏像断片がお出まし。これら仏像を通じて伊豆半島の古代における宗教環境が濃密に立ち上がるとともに、各像の修理痕跡や伝来情報から幾層にも重ねられた地域の信仰史が浮かび上がる。同館の担ってきた伊豆地域仏教美術研究の蓄積と信頼によってなし得た優れた展示。図録あり(48ページ、500円)。

河津平安の仏像展示館(南禅寺)
 河津町南禅寺伝来の仏像の展示施設として2013年オープン。本尊薬師如来坐像は重量感に溢れる9世紀彫像。迫力ある風貌の二天立像など9~10世紀の彫像が林立して圧倒される。10世紀の男神立像、女神立像の大きさにも驚く。本堂も開けてくださり虚空蔵菩薩坐像、地蔵菩薩立像拝観。係の方からは榧製のお守りや銀杏まで頂戴する。地域の方々が主体となって施設を作り、また運営されているとのことで、地域に伝来してきた魅力的な仏像を大切に親しみをもって継承する素晴らしい活動事例。

願成就院
 20年ぶりぐらいに訪問。運慶作の文治2年(1186)造像の阿弥陀如来坐像、不動明王二童子立像、毘沙門天立像をご拝観。宝物館では像内納入の銘札と、地蔵菩薩坐像など拝観。本堂本尊もシルエットを遠くに眺めて拝む。

かんなみほとけの里美術館
 函南町桑原地区の桑原薬師堂伝来仏像群の安置施設として2012年オープン。とても洗練された展示空間に、平安時代後期の薬師如来坐像と鎌倉時代の十二神将像、実慶作の阿弥陀三尊像などが林立。仏像群は桑原区から町へ譲渡の上、施設を設置して公開という経緯で、地域の方々の理解と尽力、そして行政との協力によって地域のシンボルたる仏像を継承する注目すべき活動事例。

12月6日
国文学研究資料館
 特別展示 祈りと救いの中世
(10月15日~12月15日)
 表白・願文・縁起・唱導書・講式等と仏画類から、中世における仏事の場で人々を救済に誘った唱導(導師・講師らが行った説法)の魅力とその諸文芸への影響を紹介。最明寺往生要集(重文)、国立歴史民俗博物館江都督納言願文集(重文)・十二巻本表白集、称名寺転法輪鈔(国宝)・言泉集(国宝)、真福寺維摩会記・覚任表白集などなど、ずらり重要資料を集める。仏画では圓福寺観心十界図、金剛院地蔵十王図(清代)と東京都下の作例を選んでいて地域性にも配慮。経典では治承4年(1180)書写の諸家分蔵平基親願経のうち3巻を展示。見返し絵の菩薩と胡蝶の美しさ。図録あり(64 ,
無料)。凸版印刷の開発した高精細画像を閲覧できるモニターも設置(操作はタブレット)。金沢文庫・神奈川歴博・國學院大學博物館・名古屋大学大学院人文学研究科付属人類文化遺産テクスト学研究センターとの連携事業「列島の祈り」に基づく展示。

東京国立博物館
 8Kで文化財 国宝「聖徳太子絵伝」
(11月27日~12月25日)
 聖徳太子絵伝の高精細画像を自由に大画面で見られるモニター(操作はタブレット)と、原寸大パネル10面を設置。再現パネルと高精細画像の往還で、全体と細部とを鑑賞する。印刷の限界をモニターで補う展示手法。研究資料を鑑賞用資料に汎用化する一つの方向性。国立文化財機構文化財活用センターの企画、NHKエデュケーショナルの製作。

 特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」
(10月2日~12月9日)
 再訪。六観音像の光背外した展示空間を確認しておく。図録あり(260ページ、2300円)。

12月13日
國學院大學博物館
 特集展示 國學院大學図書館所蔵那智参詣曼荼羅巻子本の仕立てを探る-東京文化財研究所による光科学的調査の成果報告-
(12月5日~1月14日)
 那智参詣曼荼羅巻子本の東文研による光科学的調査の成果を紹介(同大文学部歴史地理学教室主催)。掛幅装から巻子への変更が、実に細かな調整によって切り貼りしていることが明らかにされており、驚きの連続。切り抜いた画面と画面の貼り合わせ部も精密で、展示されている原本を目を凝らして見ても、ただちに分からない。使用形態の変更時期は、木曳き部分の削除、本願の門・塀消去を重視して参詣曼荼羅本来の機能が変容した段階での改変と捉える。滝の上部を使用しなかったことも大胆と思う。解説シートあり。同調査の報告書として『國學院大學図書館所蔵那智参詣曼荼羅巻子本光学的調査報告書』(2018年2月発行)あり。またこの巻子本の画面の復元については吉田敏弘「那智参詣曼荼羅」(大学院六十周年記念國學院大學影印叢書編集委員会編『起請文と那智参詣曼荼羅』、朝倉書店、2017年3月)で成果が紹介される。

 企画展 列島の祈り-祈年祭・新嘗祭・大嘗祭-
(11月3日~1月14日)
 稲作に関わる国家祭祀である祈年祭・新嘗祭・大嘗祭の歴史的経緯を紹介。令義解(重要文化財、同大図書館蔵)、御田植巫女舞図屏風(館蔵)など。特集展示「記念の法会と神々」を同時開催。展示内容とは一致しないものの、会期途中から『資料で見る大嘗祭』(19ページ、300円)を頒布。金沢文庫・神奈川歴博・国文学研究資料館・名古屋大学大学院人文学研究科付属人類文化遺産テクスト学研究センターとの連携事業「列島の祈り」に基づく展示。

12月16日
堺市博物館
 企画展 堺・経典をめぐる文化史
(11月17日~12月16日)
 最終日に滑り込み。堺市域の仏教文化を経典を軸にして紹介する。館の調査で見いだされた法道寺の雑阿含経巻第三十六は、奥書部分が切断されているが天平15年(743)5月11日に書写された新出の天平写経(五月十一日経)と判明。金剛峯寺本・東博本と並べて比較展示する。また河内長野市の天野山金剛寺一切経中に含まれる、堺市域の寺院で書写された経典を選びだし、野々井寺、常楽寺、善福寺、華林寺、山井寺、長承寺、念佛寺、大野寺、釈尊寺、向泉寺、栄多寺などを復元しつつ展示。このうち廃絶した行基院山井寺から栂自治会に引き継がれ守られる千手観音立像は平安時代、10世紀の作例で、後補ながら板状の小手を多数取り付けた魅力的な真千手の像。経典奥書から地域史を立ち上げるのはとても効果的な手法。堺出身で鎖国下のチベットに入国した河口慧海も取り上げ、東洋文庫の梵文法華経貝葉写本(11世紀)など貴重な慧海請来経も並ぶ。充実。図録あり(80ページ、1240円)。

1月12日
京都文化博物館
 古社寺保存法の時代
(1月5日~3月3日)
 明治時代における文化財保護の黎明を、近世末から近代初頭の古器旧物の把握、臨時全国宝物取調局による監査、古社寺保存法の成立と国宝指定、初期の国宝修理と、先般重要文化財に指定された京都附行政文書などから制度が形成され運用されていく動きを押さえつつ、流れを追って紹介する意欲的な展示。集古十種所収の色々威腹巻(京都府蔵)、森寛斎筆武田信玄蔵模本(京都府蔵、原本成慶院蔵)、美術院が手掛け額装で仕上げられた十六羅漢像(長寿寺蔵)、奈良美術院で記録された紀州新宮速玉神社神像図(奈良国立博物館蔵)、新納忠之助の調査手帳((公財)美術院蔵)などなど。図録あり(56ページ、1300円)。充実のコラム7本(執筆:安江範泰・中野慎之・地主智彦・横内裕人・森道彦)収載、必携。

奈良国立博物館
 特別陳列 おん祭と春日信仰の美術-特集 大宿所-
(12月11日~1月20日)
 恒例のおん祭展。今年は願主人(大和士)が参籠して精進潔斎した大宿所を紹介。春日若宮御祭礼絵巻中巻をながーく展示するなど絵巻を活用して行列の壮麗さを示す。春日曼荼羅、春日本迹曼荼羅、春日地蔵曼荼羅のほか、春日講本尊の春日鹿曼荼羅などずらり。図録あり(64ページ、1500円)。
 
 特集展示 新たに修理された文化財
(12月26日~1月20)日
近年修理を行った収蔵品とその修理内容を公開。絵画・彫刻・工芸・書蹟・考古資料とまんべんなく。現光寺の絹本著色最勝曼荼羅は金光明最勝王経に基づく珍しい仏画。法明寺の木造天部立像は11世紀初めごろの作例で、来館者の寄付金による修理。

 名品展 珠玉の仏教美術【絵画】
(12月11日~1月14日)
 終了間際の絵画の展示に滑り込んで、和歌山・総持寺の釈迦三尊像を鑑賞。明治30年12月28日、古社寺保存法に基づく最初の国宝指定資料の一つ。指定に先だつ宮内省臨時全国宝物取調局の監査(明治21年5月18日、於和歌山城脇岡東館、九鬼隆一・岡倉天心・フェノロサら参加)では陳列品中「最も見事の出来」と評価された。当時は掛軸装で、その後額装に改変。ただし額は失われて本紙周辺の裂もなく画絹も傷む。修理必要。

1月20日
市立五條文化博物館
 特別展 五條の冬の行事-追儺-
(12月22日~2月11日)
 五條市内の修正会追儺行事に用いられてきた鬼面群二組の実物展示。念仏寺陀々堂の鬼はしり(国指定重要無形民俗文化財)で用いられてきた鬼面(父面・母面・子面・伝阿弥陀面)は墨書銘により文明18年(1486)、山陰村右兵衛次郎による制作と分かる基準作例。現在の行事では太田古朴作(!)の複製面を使用。坂井部郷にかかわる文書(個人蔵)から中世~近世の祭礼のようすを復元しつつ丁寧に展示。安生寺の鬼面(太郎~五郎面)も古様を残すおおらかな表現。先行する中世仮面を近世に写したものか。こちらは修正会は途絶えているが近年地元小学校で再興を進めている由。念仏寺父面の原寸大複製(樹脂製)のさわれる展示も開催中。充実の内容。展示内容を解説した資料(A4・8ページ)あり。

1月31日
和歌山大学紀州経済史文化史研究所
 特別展 加太・友ヶ島の信仰と歴史-葛城修験二十八宿の世界-
(1月10日~3月8日)
 葛城修験とその重要な行場である加太・友ヶ島について、向井家(迎之坊)に伝来した文書や資料を中心に紹介する。延宝9年(1671)役行者入峯以来伽陀寺由来書、葛城峯中記、葛城嶺中記といった葛城修験の行場に関わる史料のほか、大日如来懸仏、深蛇龍王の爪(鮫の歯か)、臥龍硯など、迎之坊の信仰の場を彷彿とさせる資料が並ぶ。展覧会のビジュアルイメージに使っている役行者像(神変大菩薩御絵像)は安政3年(1856)月海の筆。和歌山県博でも月海良融(利根川月海・1801?~1872)の肖像画を、大峰葛城千日満行者としての要素から数年前に収蔵したところだったので、こんなに近くに関連資料が出現して本当にびっくり。図録あり(16ページ、無料)、展示品目録附解説(9ページ、無料)あり。

2月10日
奈良国立博物館
 特別陳列 覚盛上人770年御忌 鎌倉時代の唐招提寺と戒律復興
(2月8日~3月14日)
 興正菩薩叡尊とともに自誓受戒(三師七証を伴わずに本尊に誓いを立てて菩薩戒を受ける方法)という跳躍的な方法によって日本に戒律を復興させた大悲菩薩覚盛を軸に、その前後を挟む貞慶と證玄の事蹟もあわせて鎌倉時代の唐招提寺を紹介する。応永2年(1395)招提寺仏師成慶(椿井成慶)の手になる大悲菩薩覚盛像をじっくり。銘記に「康慶法眼之流、興福寺住」とあるのも貴重な情報で、また半世紀~1世紀ほど古く見えるのは依るべき古典に囲まれた当該期の奈良仏師の特徴。ほか覚盛自筆の覚盛願経、覚盛所用と伝えられる二十五条袈裟、證玄造営の釈迦如来立像、證玄骨臓器(!)、東征伝絵など。南都の宗教史を寺社単位にてコンパクトに紹介する奈良博の真骨頂というべきありがたい機会。図録あり(56ページ、1000円)。

3月1日
高野山霊宝館
 平成30年平常展 密教の美術
(1月19日~4月14日)
 高野山麓、山上での仕事の合間に立ち寄り。今回の平常展の軸は孔雀明王。正治2年(1200)快慶作の、羽を広げた孔雀に座した孔雀明王坐像(重文)を安置する新館第2室は照明を落として演出し、あたかも孔雀経法を修する道場のように荘厳。中尊寺経から大金色孔雀王咒経(国宝)、荒川経から大孔雀明王経(重文)も並べる。金輪塔本尊の一字金輪仏頂坐像も並び、平安時代末期の奈良仏師作例から鎌倉時代初期の慶派仏師への作風展開をうかがう。冷え込む紫雲殿には凍るように鮮やかな彩色の宋元及び高麗仏画の優品が出陳。阿弥陀八大菩薩像は南宋~元代の作例、宝寿院の楊柳観音像は高麗時代、常喜院の薬師曼荼羅図は隆慶6年(1572)銘の朝鮮仏画。ほか正智院の影向明神像をじっくり。狩衣・烏帽子で立ち姿の高野明神像の図像成立時期について考える。図録なし。


3月3日
豊橋市美術博物館
 企画展 吉田天王社と神主石田家
(2月19日~3月24日)
 豪壮な手筒花火祭事で著名な吉田神社の社宝と神主家伝来資料から豊橋の信仰の歴史を浮かび上がらせる。神幸祭にて使用されている獅子頭(御頭様)は全長が短く全体に深い皺が刻まれて古様を見せる南北朝~室町時代ごろの作例。追儺の儀式で使われたとみられる鬼面は大ぶりで鼻が上へと反った室町時代の作例。中世の狛犬も二対。また牛頭天王信仰の広がりも紹介し、西尾市久麻久神社牛頭天王立像はやや素朴ながら神威を表出した平安時代後期の像。豊橋市椙本八幡神社の牛頭天王坐像は整った作風を示す鎌倉時代の新出作例。ほか鞍・鐙や絵馬、古文書、仮面など多様な資料を集約。図録あり(112頁、1000円)。

今年度訪問した館・寺院等はのべ82ヶ所、鑑賞した展覧会は81本でした。

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