令和4(2022)年度展覧会・文化財を見てきました。

4月3日
和歌山県立紀伊風土記の丘
 企画展 古代「紀伊国」の成り立ち-奈良・平安時代のわかやま-
(3月19日~6月19日)
 7~10世紀における「紀伊国」の成立と展開について出土資料から紹介。仏教関係では大洞寺墳墓出土の銅製骨臓器(和歌山県指定文化財)、鷺ノ森遺跡出土の鰐口は近時発掘された平安時代前期の資料。瓦は薬勝寺廃寺、上野廃寺、紀伊国分寺跡、西国分寺跡、佐野寺跡、田殿廃寺跡、山口廃寺、道成寺と充実。図録なし。

4月6日
奈良大学博物館
 奈良大学所蔵絵画優品展-初公開!南都・厳島図屏風-
(3月18日~4月23日)
 新職場内の博物館訪問。昨年度新たに収集した南都・厳島図屏風を初公開。南都図屏風は、春日社と御祭の行列を中心に、向かって右に興福寺伽藍及び奈良町と諸寺、左に東大寺伽藍と露座の大仏を描く、珍しい図柄の作例で、江戸時代前期の制作。露座大仏の面部はやや荒れたような描き方がなされ、今後の検討が必要だが、山田道安による銅板貼り付け修理の痕跡を描いている可能性あり。図録なし。

4月7日
薬師寺・唐招提寺・垂仁天皇陵・喜光寺
 新職場の新入生研修で西ノ京を歩く。薬師寺薬師三尊像、聖観音立像、唐招提寺金堂の三尊を久しぶりにご拝観。新入生があらゆるものに興味を持ってくれているようすを見て、こちらも初心を取り戻す。


4月15日
なら歴史芸術文化村
 開村記念特別展 やまのべの文化財−未来に伝える、わたしたちの至宝−
(3月21日~4月17日)
 開村記念の展示で、地元天理・桜井の山辺の道沿いの文化財を紹介。前半の考古資料は纏向遺跡出土の木製仮面(県指定)や茶臼山古墳出土資料、荒巻古墳出土の埴輪など。後半は仏教美術で、長岳寺の六道絵(県指定)9幅がずらりと並ぶ大ケースは壮観。天理市合場町の10世紀如来坐像(県指定)、天理市杣之内町の地蔵菩薩立像や焼損仏複製など。図録なし。奈良県の歴史・文化・美術を地域に密着して調査し展示公開する待望の県立施設であり、本展でも資料の伝わってきた場とその住民に寄り添う視点が示されていて、これからの活動にも大きく期待。

4月16日
高野山霊宝館
 企画展 鎌倉時代の高野山
(4月16日~7月10日)

 近時収蔵の龍光院承久記絵巻を軸に鎌倉時代の高野山を紹介。普賢院の五大力菩薩像の大幅(前期3幅・後期2幅)、不動院の善光寺式阿弥陀三尊像、丹生都比売神社の獅子・狛犬、正智院影向明神像、蓮華定院の伝行勝所持密教法具、宝寿院の伝叡尊所持密教法具、頼朝子貞暁が御社に奉納した梵字懸仏、金剛三昧院の高野版版木、金剛峯寺町石供養願文、金剛三昧院北条政子自筆書状、宝簡集から後宇多院院宣、源頼朝下文(後期)、阿弖河庄上村百姓等言上状(後期)、陀羅尼田関連文書などなど、多様な資料を公開。図録なし。

4月19日
東大寺法華堂
 美術史実習で東大寺へ。南大門仁王像を解説してから法華堂まで歩き拝観、観照。林立する仏像群を前に、近年の調査研究の進展と現在の各像位置づけについて説明。法華堂に入るの久しぶりで新鮮な気持ち。

4月23日
和歌山県立博物館
 特別展 きのくにの大般若経-わざわいをはらう経典-
(4月23日~ 6月5日)
 攘災の経典、大般若経にスポットを当て、和歌山県内の重要資料を集約して紹介。奈良朝写経を大量に含む紀美野町小川八幡神社経の東大史料編纂所との共同研究成果報告を軸に、600巻を一人で書写した一筆経の事例や、江湖僧や根来寺が関与して集積した取り合わせ経の事例、さまざまな版経の事例と、大般若経の受容と展開のあり方を地域史に即して提示する、大般若経受容史研究の到達点ともいうべき内容。奥書は地域史研究の上でも重要で、例えば小川八幡神社経中の奈良時代書写巻奥書に見える御毛寺は『日本霊異記』下巻17縁の「弥毛山室堂」との関連が指摘されるなど、寺院名や僧名など数多あり興味尽きず。展示室内にずらりと経典が34件125点(巻・帖・冊)並ぶ圧巻の大大般若経展。図録あり(98ページ、1200円)。

4月26日
京都国立博物館
 伝教大師1200年大遠忌記念特別展 最澄と天台宗のすべて
(4月12日~5月22日)
 学外実習で展覧会観賞。東京・九州・京都の国立博物館連携による伝教大師1200年大遠忌記念展の最終会場。最澄関係資料、天台教学及び密教関係資料、本山末寺の関連美術作品を集約。伝教大師請来目録(延暦寺)、刺納衣(延暦寺)、五部心観(園城寺)など宗門の重宝はじめ、宝相華蒔絵経箱(延暦寺)、六道絵(聖衆来迎寺)、線刻釈迦三尊等鏡像(泉屋博古館)など国宝を多数含む名宝ずらり。仏像では法界寺薬師如来立像、浄土曼荼羅刻出龕(耕三寺)、等妙寺菩薩遊戯坐像をじっくり観賞。興善寺釈迦如来坐像(寛治7年・1093)と薬師如来坐像は昨年度より修理事業が開始されていて寺外初公開となったもので、定朝様式の紀年銘作例を間近に観賞できるありがたさ。図録あり(416ページ、3000円)。

龍谷ミュージアム
 特別展 ブッダのお弟子さん-教えをつなぐ物語-
(4月23日~ 6月19日)
 令和2年春、展示作業完成しながらコロナウイルス感染症拡大により1日も開かれずに中止となった同名の展示を、一部資料を入れ替えつつ、満を持して再開会。仏弟子を巡る仏典の記述を追いつつ、十大弟子や羅漢などさまざまに表されたその姿を紹介。十六羅漢像の諸本を清凉寺本(北宗・国宝)、東博本(平安・国宝)、妙興寺本(元・重文)、月橋院本(鎌倉・重文)、禅林寺本(鎌倉・重文)、津観音大宝院本(明)と多数収集するほか、大徳寺五百羅漢図(南宋・重文)、長谷寺大般若経仏(朝鮮王朝)、如意輪寺龍華会図(朝鮮王朝)、白鶴美術館薬師如来説法図(五代)、西教寺礼仏弥陀懺法(明)など中国・朝鮮の資料を積極的に集積し、アジア全体を俯瞰しながら仏教の思想と文化を見つめる同館の特色を遺憾なく発揮。彫刻では京都国立博物館十大弟子立像(鎌倉・重文)、海雲寺迦如来坐像及び阿難・迦葉立像(南北朝・康俊作)、泉涌寺羅漢坐像(室町)など。図録は2年前に発行した同名図録(216ページ、2200円)及び、今回追加出陳した資料を掲載する別冊(72ページ、1200円)の2冊組み。


4月27日
奈良国立博物館
 特別展 大安寺のすべて-天平のみほとけと祈り-
(4月23日~6月19日)
 
大安寺1300年の歴史と文化を、奈良時代彫像と多数の考古資料による古代寺院の姿、著名な霊験像たる大安寺釈迦像への追憶、大安寺に関わる古代の高僧、中世大和における大安寺の位置づけにテーマを分けて紹介。同寺伝来の9軀の奈良時代彫像が全て四囲より観賞できる貴重な機会であり、その中でも秘仏本尊十一面観音立像は、頭部を江戸時代の後補とするものの、請来檀像を彷彿とさせる諸表現とともに、誇張のない自然な抑揚の肉身表現の中に、腰を捻って左大腿部を前へ出す動きを的確に表し、立体表現として際だった完成度を示す。四天王立像のうち伝持国天立像も緊張感にあふれた造形。眼福。ほか、展示文脈構築にあたり、長谷寺法華説相図、奈良博刺繍釈迦如来説法図(前期)、東大寺倶舎曼荼羅(後期)、岡寺義淵僧正坐像、文化庁虚空蔵菩薩坐像、薬師寺八幡三神坐像、西大寺金銅透彫舎利容器といった奈良博所蔵・寄託資料の名品を有効に活用しつつ、神護寺釈迦如来像(赤釈迦・後期)、西住寺宝誌和尚立像、神応寺行教律師坐像、永興寺四天王立像など、大安寺との意外な接点を有する資料も集め、展覧会名からの想像を超えるバラエティに富んだ内容。必見。図録あり(224ページ、2500円)。


5月10日
大和文華館
 特別企画展 泰西王侯騎馬図屏風と松浦屏風-越境する美術-
(4月8日~5月15日)

 学外実習で展覧会観賞。前近代の日本美術における洋風画に着目して資料を集める。戦国期のキリシタン絵師による泰西王侯騎馬図屏風(重文・サントリー美術館)、婦女弾琴図や、江戸時代前期の南蛮屏風、南蛮風モチーフを含む松浦屏風(国宝)、江戸時代後期の小野田直武筆江の島図、司馬江漢筆海浜漁夫図、亜欧堂田善筆駿河湾富士遠望図、石川孟高筆少女愛猫図など、館蔵の名品をフル活用して、初期洋風画、南蛮美術、後期洋風画の諸相を一望する貴重な機会。サントリー美術館から特別出陳の資料について解説したリーフレットあり(カラー4ページ)。 

5月13日
なら歴史芸術文化村
 企画展 観音のいます地−三輪と初瀬−
(4月29日~6月19日)

 開村記念展示に引き続き桜井・天理の文化財をクローズアップ。三輪と初瀬、それぞれを観音というタームでつなげ、展示室に9体の十一面観音像を林立させる。桜井市三輪・平等寺の秘仏本尊十一面観音立像は広葉樹の一木より大略を彫出した11世紀の作例、桜井市狛・長福寺十一面観音立像は狛寺伝来資料とみられる12世紀の作例、桜井市白木・安楽寺の十一面観音立像は元貝ヶ平山麓金平山寺伝来と伝わる南北朝時代の作例(市指定)。天理市福住・西念寺の十一面観音立像は、享禄4年(1531)実清作で宿院仏師源四郎・源次が番匠として助作にあたった宿院仏師研究上の重要作例。聖林寺十一面観音立像の精巧な模刻像は東京藝術大学朱若麟氏の手になるもので、ライティングも工夫されて荘厳な雰囲気。聖林寺像の木心部構造模型(東京芸大製作)や、大正4年に修理された際の奈良県庁文書(奈良県立図書情報館蔵)も紹介。地域に密着した調査活動によって見いだされた初公開資料を含む文化財に間近に接し、情報を共有化することのできる施設がある素晴らしさ。大学等との積極的な連携による仏教美術・文化財の普及啓発用資料の製作も特筆される活動。図録あり(38ページ、1000円)。

5月15日
鳥取県立博物館
 企画展 三蔵法師が伝えたもの-奈良・薬師寺の名品と鳥取・但馬のほとけさま-
(4月9日~5月15日)

 同館開館50周年と薬師寺玄奘三蔵院伽藍30周年の記念展。薬師寺の寺宝とともに、鳥取県の仏像や仏画を集約。薬師寺から慈恩大師像(国宝)、十一面観音立像(重文)、東塔塑像残欠・木彫像(重文)、薬師寺縁起絵巻など多数出陳して寺史・法相宗史を紹介する1章では、薬師寺僧玄賓ゆかりの伯耆国阿弥陀寺後身とされる豊寧寺伝来の聖福寺阿弥陀如来立像、白山神社十一面観音坐像、賀祥区と吉祥院分蔵の鉄造白山本地仏造(県指定)を関連展示。2章では北栄町・観音寺の仏像群のうち8体(重文・県指定)のほか、三佛寺十一面観音立像(重文)、大山寺銅造観世音菩薩立像(重文)などを一堂に展観。観音寺の千手観音立像は長身で量感を強調しない引き締まった体型や、柔らかく揺れる衣縁の自然な形状など、形式化のみられない古様な表現で、平安初期(9世紀)とされる造像時期を上げて考えうる作例。3章では玄奘三蔵に関連して鳥取県・兵庫県北西部の釈迦十六善神像や大般若経を集める。城崎町温泉寺本釈迦十六善神像(重文)は玄奘が手綱を曳く馬に経典を乗せる珍しい図像。事前調査で把握した近世の釈迦十六善神像も多数パネルで紹介。図録あり(90ページ、1500円)。
 50年にわたり県内文化財の調査研究・普及啓発・保存活用に関わってきた同館でこそ可能な地域文化財展であり、他に代えがたい重要施設であることを地域の方々にも再認識してもらう内容。これからの50年に向けた博物館・美術館の再編(2025年に鳥取県立美術館分離独立)と現施設改修の動きも要注目。

5月17日
中之島香雪美術館
 企画展 来迎 たいせつな人との別れのために 
(4月9日~5月22日)

 現前する仏の救済が自らに及ぶことを確信させる来迎の表象を、館蔵絵画資料を核に重要資料を集めて紹介。斜め構図で阿弥陀が坐るタイプの阿弥陀来迎図、阿弥陀立像を聖衆がぐるりと囲む円陣来迎図、複数幅で群像の臨場感を強調する来迎図、観音や地蔵の来迎図など来迎表現の多様さを一望できるよい機会。正覚寺阿弥陀二十五菩薩来迎図は中尊の左右に地蔵・龍樹が並ぶ珍しい事例。現状三幅対の館蔵阿弥陀二十五菩薩来迎図は、画絹の痕跡から本来五幅の可能性。褪色もあるが暗い背景に諸尊が浮かび上がる静謐な印象。ほか稚児観音延喜絵巻(重文)、矢田地蔵縁起絵巻、鎌倉時代後期の地蔵菩薩立像(台座に雲をあらわす春日地蔵)など。展示の最後に、修理完成後初披露の帰来迎図や瀧上寺九品来迎図(重文)を並べる印象的な一室を設け、往生者のみならずそれを見送る人々のまなざしにも着目して、来迎図の機能をより広く捉える視点を提示。図録あり(116ページ、2200円)。論考、コラムとともに、充実した参考文献リストあり。有益。

5月22日
三次もののけミュージアム
 企画展 妖怪のかたち2 あつめて・くらべて・かんがえる
(3月10日~6月7日)

 同館所蔵の湯本豪一妖怪コレクションを活用して、妖怪の形がどのようにイメージされ表現されたのかを錦絵や典籍類などから丁寧に考証。冒頭に合計136体に及ぶ妖怪坐像・妖怪立像を並べる圧巻の展示空間を構築。坐像・立像のそれぞれで面貌部をさまざまな図像に基づき大きさも変化させて表現する一方で、体部は全く画一的に表して群像としての統一感を表出する。その体部は、立像では隆々とした筋肉表現と大きさをデフォルメした肢体に鎌倉時代前期仏像からの学習があり、坐像では偏袒右肩で降魔印を結び結跏趺坐する座り姿に平安時代前期如来像からの学習が顕著に見られる(坐像は正面観重視)。像表面は、全像がほぼ同様に著しく劣化が進んで素地を呈し(一部漆下地が残る)、表面に土が付着している像があり土中しているようだが、木肌の痩せや割れ、毛羽立ちが見られるのに関わらず、腕や手先、足先、角、耳など細かな部材の欠失部がほぼ見られないことは不自然な点。江戸時代とされる製作時期や福島県の旧寺伝来とする情報について慎重な検討が必要ではあるが(近現代の美術史研究を踏まえた造形である可能性が考慮される)、多種多様な妖怪を表した造形水準の高い彫像群であり、本展で示される妖怪がいかに形づくられ、物語られ、言い伝えられるかを体現するような、謎含みの魅力的かつ完成度の高い妖怪群像といえる。図録なし。妖怪群像を掲載した『湯本剛一コレクション 古今妖怪累累』(パイインターナショナル、256ページ、3110円)購入。

大田庄歴史館
 企画展示 せらの仏教美術-仏像・仏画・経典・版木・梵音具を中心として- 
(4月8日~7月18日)

 広島県・世羅町の今高野山龍華寺と鎮守丹生神社を参拝してから、参道にある高野山領大田荘をテーマとする資料館訪問。世羅町内の寺院伝来資料を集めて展示。企画展示室では永寿寺の南北朝時代の大般若経や、珍しい塑像の福田寺阿弥陀如来坐像(室町~江戸時代)のほか、近世の仏像・仏画・梵音具を紹介。常設展示室に安置の善法寺薬師如来立像残欠(県指定文化財)は平安時代後期、11世紀ごろの作例。指定名称の立像残欠とする根拠や事情は不明ながら、襟を高く立てる特徴的な姿。同寺阿弥陀如来坐像(県指定文化財)は平安時代中期、10c末~11c初ごろの作例。図録なし。常設展示で大田荘のお勉強。

5月24日
奈良国立博物館
 特別展 大安寺のすべて-天平のみほとけと祈り-
(4月23日~6月19日)

 後期展示観賞。本尊十一面観音立像から伝不空羂索観音立像に展示替え。奈良時代彫像を正側背ぐるり観賞できる機会にあっち行きこっち行きぐるぐる。絵画の展示替えでは東大寺倶舎曼荼羅、東大寺縁起絵、奈良博釈迦霊鷲山説法図、、神護寺弘法大師像、住馬大社生駒宮曼荼羅など。図録あり(224ページ、2500円)。

5月31日
大阪市立美術館
 特別展 華風到来-チャイニーズアートセレクション-
(4月16日~6月5日)

 学外実習で展示観賞。同館収蔵の大コレクションを活用して、中国美術の日本での受容と様式伝播の歴史を、憧憬と収集の諸相に着目して紹介。本年秋より3年間の改修工事に入るにあたり、本展及び併催の「大阪市立美術館のあゆみとコレクション」をあわせて市民・財界人の寄贈により形成されてきたコレクションの歴史を一望し、大阪の宝を守ることの重要性を展示を通じて共有する。阿部コレクションの元~清の中国書画、山口コレクションの北魏~唐の石仏、ガザールコレクションの漆工品、師古斎コレクションの碑文拓本などなど。同館としては珍しい館蔵品のみの展示ということで全資料写真撮影OK。昔必死にスケッチした龍門石窟の仏頭や、天安元年(466)如来坐像、天保8年(557)如来三尊像龕などありがたくスマホに記録。図録なし。

6月5日
和泉市久保惣記念美術館
 開館40周年記念 コレクションのあゆみ 第1部 所蔵名品撰-和泉市久保惣美術館の国宝・重文-
(4月10日~6月5日)

 最終日に滑り込み。同館所蔵の国宝・重要文化財のほぼ全てを含むコレクションを、その形成史と資料群の特徴に分けて前後期で公開。装飾経の優品である平安時代後期の法華経、嘉暦元年(1326)清拙正澄讃達磨図、五代~北宋時代の十王経図巻、元時代の鍾馗像、鎌倉時代の伊勢物語絵巻、山崎架橋図のほか、胎蔵界八葉曼荼羅刻出龕(平安~鎌倉)などなど。図録なし。

6月12日
観峰館
 企画展 隠元隆琦350年遠諱 黄檗インパクト
(4月16日~6月12日)

 隠元隆琦350年遠諱にあわせ、黄檗宗・臨済宗寺院伝来の書画を中心に黄檗文化の表象を紹介。頂相では、萬福寺費隠通容像(自讃・張琦筆)、小松寺隠元隆琦像(自讃・喜多道矩筆)、木庵性瑫像(自賛・喜多道矩筆)、鉄眼道光像(月潭道澄讃)、正明寺龍渓性潜像(即非如一讃・喜多元規筆)、正法寺如雪文巌像(自賛・木村徳栄筆)、照山元瑶像(自讃)などずらりと並んで壮観。黄檗禅のインパクトが顕著に及んだ近世画人の作品として、隠元の書にのちに鶴亭の群鶴図を合わせた萬福寺の八十自祝偈、曹源寺の葛蛇玉筆鯉魚図、細見美術館の伊藤若冲筆瓢箪・牡丹図、円満寺の小原慶雲筆涅槃図、正明寺の蘭渓若芝筆十八羅漢図など紹介。萬年寺の蘭谷元定作観音菩薩立像は堅実な黄檗彫刻で像背面に「僧蘭谷定」の白文方印を刻出するもの。リーフレット(8ページ)あり。黄檗禅の資料をまとまって見られる貴重な機会であることに留まらず、書画を切り口に東近江地域の文化財を公開・共有する地域密着型の展示となっており、同館の公益性を高める重要な展示活動。

栗東歴史民俗博物館
 隠元禅師350年大遠諱記念展 黄檗の華
(5月21日~7月3日)

 隠元隆琦350年遠諱にあわせ、栗東市内の黄檗宗寺院伝来の文化財を中心に黄檗文化の表象を紹介。萬年寺から隠元隆琦像(自讃・喜多長兵衛筆)、木庵性瑫像(自賛)、慧極道明像(自賛)など頂相や、黄檗様式の布袋坐像、蘭谷元定刻出の観音菩薩立像、慧極道明の墨蹟など多数出陳。萬年寺の観音菩薩立像(鎌倉時代)や円光寺の薬師三尊像(室町時代)など、黄檗転宗以前の寺院史を伝える資料も紹介。近江における黄檗寺院の調査研究をリードしてきた同館ならではのバラエティに富んだ堅実な展示内容。図録ないが、1992年の特別展「近江と黄檗宗の美術」図録(96ページ)は観峰館展示資料も含めてカバーする重要な参考資料となるもの。

6月14日
奈良県立美術館
 特別展 ジャパニーズ・ウェディング 日本の婚礼衣装
(4月23日~6月19日)

 学外実習で展示観賞。江戸時代後期から昭和戦前期までの女性の婚礼衣装の展開を武家・町人のそれぞれに分けて紹介。武家の色直しから町人(商家)の三つ揃いへの展開など、婚礼にまつわる文化史をも踏まえつつ、その歴史を実際の着物を通じて示す。共立女子大学博物館の所蔵資料を中心に、近江八幡市、千總、田中本家博物館など所蔵の多数の衣装が全室にずらりと並び圧巻の展示風景。図録あり(192ページ、2500円、東京美術)。

6月25日
和歌山県立博物館
 企画展 幕末から明治のきのくに文人画-偉大なる師、野呂介石を慕いて-
(6月11日~ 7月10日)

 江戸時代後期の和歌山を代表する文人画家野呂介石の弟子に着目し、師弟の交流や師風の学習のあり方を紹介。養子野呂介于、甥野呂松廬、野際白雪、濱口灌圃、前田有竹ほか、上品で涼やかな山水図がずらり。介石晩年に、年を経て弟子となった湯浅福蔵寺住職平林無方のもとに送られた四碧斎印譜や墨蘭図、介石が題字を記して弟子10名が寄り合い書きで絵を描いた泉石嘯倣図、介石の那智図に後に野際白雪が富士図を組み合わせた那智・富岳図、介石弟子の小笠原簡斎に宛てた新出の書簡群、弟子が師を慕ってまとめた語録である介石雅画話・四碧斎画話など、館蔵品・寄託品を有効に活用して文人の交流活動を丁寧に展示。図録なし。

6月29日
京都府立山城郷土資料館
 企画展 やましろ新文化財展-館収蔵の指定・登録文化財から-
(4月29日~7月3日)

 開館40周年を記念し、同館にて調査・研究、収集・保管されてきた南山城地域のさまざまな文化財を紹介。宗教美術では、松尾神社牛頭天王坐像(京都府暫定登録文化財)、宝寿院阿弥陀如来立蔵(京都附指定文化財)、西福寺狛秀綱像(京都府登録文化財)、鶯瀧寺袋中上人絵詞伝(木津川市指定文化財)、高神社獅子頭(京都府登録文化財)、正法寺紺紙金泥浄土三部経(京都附指定文化財)など。ほか考古資料や、相楽木綿に関する資料など。図録ないが、2016年発行の『南山城の歴史と文化』(48ページ、500円)掲載資料多し。南山城地域の民俗や歴史、美術、考古のさまざまな分野の調査研究や維持継承の活動において同館が果たしてきた役割は大きく、また地域の人口減少や高齢化による文化財の維持継承の困難に直面する今こそ、その設置意義(郷土についての歴史資料、考古資料、民俗資料等の保存及び活用を図り、もつて府民の文化的向上に資する)はより高まっているといえ、今後もその機能の維持が必須の施設。丹後郷土資料館とともに、老朽化する施設の更新は喫緊の課題。

7月5日
京都国立近代美術館
 没後50年 鏑木清方展
(5月27日~7月10日)

 学外実習で展示観賞。鏑木清方の周年展2会場目。近時東京国立金だ美術館に収蔵された《築地明石町》《浜町河岸》《新富町》の「美人画」を中心としつつ、時代性をよくあらわすさまざまな風俗画や、挿絵、表紙絵など、その活動の全貌をうかがう内容。図録あり(312ページ、2800円)。

7月20日
奈良大学博物館
 ミニ展示 会津八一のまなざし-奈良大学所蔵品から-
(7月20日~8月19日)

 博物館および奈良大学図書館所蔵の會津八一関係資料を公開。昭和18年に東大寺清水公俊に贈った東大寺大佛讃歌や、東大寺上司海雲宛てを含む會津八一書簡など紹介。書簡については『奈良大学図書館所蔵 上司海雲宛 會津八一書簡図録』あり(88ページ、1000円)。

7月30日
高野山霊宝館
 第43回大宝蔵展 高野山の名宝 数字と高野山
(7月16日~10月10日)

 尊名や尊像構成、寺院名から仏教用語まで、数字をキーワードにして高野山伝来の文化財を紹介。蓮花三昧院阿弥陀三尊像(国宝)、正智院八字文殊曼荼羅図(重文)、宝寿院六字尊像(重文)、宝寿院金銅三鈷杵(重文、伝覚鑁所持)、正智院銅五鈷四天王鈴(重文、伝道範所持)など指定物件のほか、金剛峯寺の四臂不動二童子像、両頭愛染明王坐像、銀造双身歓喜天立像、千体弘法大師像や奥之院六祖像、中尊弁才天の周囲を15体の弁才天(持宝珠)が丸く囲んだ図像の西南院弁才天十五童子など、特殊な図像の作例も多数出陳。正智院の釈迦三尊十六羅漢像は中央区画に宋風の釈迦如来と騎象の普賢、騎獅の文殊を配し、周囲に16ヶ所の区画を設けて十六羅漢を配した縦2mをこえる大画面の一幅で、鎌倉末まで遡る佳品。西門院釈迦涅槃図は室町時代の南都絵所作例とみられる一幅で、三千仏像は一幅に三千仏を配した大幅で紀年銘を有する16世紀の作例(年紀メモするの忘れた)。図録なし。

7月31日
奈良国立博物館
 特別陳列 わくわく美術ギャラリー はっけん!ほとけさまのかたち
(7月16日~8月28日)

 夏休み期間に合わせ、仏教美術の観賞基礎知識を実物資料とイラストを多用して軽やかに紹介。元興寺薬師如来立像、林小路町自治会弥勒菩薩立像、正寿院不動明王坐像、聖衆来迎寺十二天像、奈良博釈迦如来霊鷲山説法図、十一面観音立像など館蔵・寄託の優品を活用。仏画類は高さを下げて展示し、オリジナルイラストによる仏像キャラクターも約束事を踏まえた洗練度の高いもの。会場内に設けられた裸形阿弥陀如来立像模造を活用した如来着衣の着付け再現コーナーは、対象年齢層も幅広く設定でき、実験美術史学の様相も示す斬新な手法。仏像のお絵かきコーナーや貼り出す壁も設け、ボランティアさんたちが活躍。展示室内にさまざまなつながりを構築する今回の手法は、重厚な印象を伴いがちな仏教美術を広く普及する同館のこれまでの取り組みの、新たな展開といえるもの。図録あり(96ページ、1000円)。

 特別展 中将姫と當麻曼荼羅-祈りが紡ぐ物語-
(7月16日~8月28日)

 貞享本當麻曼荼羅修復の完成を記念しその修理成果を公開するとともに、當麻曼荼羅を巡る文化史の広がりを紹介。根本の綴織當麻曼荼羅と同寸の縦横4m強の貞享本は、高誉上人性愚の発願により延宝5年(1677)に行われた根本曼荼羅の修理に引き続いての事業で、延宝7年(1679)作画完成ののち、貞享3年(1686)に霊元天皇宸筆の金泥銘が施され完成。貞享本軸内納入文書、そして根本曼荼羅軸内納入文書を多数紹介(全点図録掲載)。ほか前半では光明寺・清浄心院・當麻寺の當麻曼荼羅縁起、當麻寺本當麻寺縁起絵巻、清浄光寺一遍聖絵、西寿寺・檀王法林寺・誕生寺の當麻練供養図など當麻寺の縁起と聖地景観を描く資料を多数集めて、當麻寺縁起展の様相。後半は中将姫による當麻曼荼羅の発願・作成に関する縁起言説とその受容と物語化の展開を幅広く紹介。中将姫肖像やその縁起の絵画化作品に留まらず、謡本、浄瑠璃本、浮世絵、引き札までさまざまな資料を博捜して紹介。蓮糸を紡いで絹に織り込んで制作された藕糸織阿弥陀三尊来迎図・霊山浄土図・阿弥陀聖衆来迎図(福聚寺)にて藕糸織のことをしっかり勉強。図録あり(212ページ、2600円)。

なら歴史芸術文化村
 文化財研究中!-なら歴史芸術文化村×連携4大学-
(7月23日~9月19日)

 なら歴史芸術文化村と協定を結んで活動を行っている天理大学・立命館大学アートリサーチセンター・奈良県立大学・東京藝術大学の連携活動を紹介。立命館大学アートリサーチセンターによる當麻寺金堂内部仏像群の三次元計測画像のVR体験、奈良県立大学によるさわれる3Dプリンター製複製制作、天理大学による古墳の地中レーダー探査、東京藝術大学の3次元計測データを活用した模造制作など、文化財と最先端技術の融合のあり方を紹介。奈良県立大の来館者による展示仏像の撮影画像を集約して3Dデータを作る#みんなで仏像プロジェクトも興味深い試み。リーフレットあり(16ページ)。

8月5日
大野市歴史博物館 
 収蔵品紹介展 星
(7月16日~8月31日)

 同館寄託品の中から、星をキーワードに妙典寺紺紙金字法華経と縹糸素懸威六十二間小星兜を紹介。妙典寺経は法華経8巻及び開結からなる十巻本で、各巻に見返しに経絵が施された、元弘3年(1333)奥書を有する基準作例。大願主沙門宗俊により八幡宮宝前に施入されたものながら、この八幡宮がどこかは不明。同時期の経箱も付属する。福井県指定文化財。図録なし。

大津市歴史博物館
 伝教大師最澄没後1200年記念企画展 仏像をなおす
(7月23日~9月4日)

 延暦寺十二神将立像修復にて把握された最新の情報報告を核としつつ、大津市域の信仰にまつわる文化財がいかに継承されてきたのかを、仏像修復という視点から紹介。現在修復事業継続中の延暦寺十二神将立像はこのたび確認された銘記により、元徳2年(1330)~正慶元年(1332)に仏師頼弁によって造像されたことが判明。元岡崎の元応寺安置像。願主、作者、勧進僧と旧安置場所も分かる基準作例で、元応寺から根本中堂に移された経緯も含め、天台宗の歴史を物語る重要資料。延暦寺護法童子立像は、修理の際、頭部内からに銅造不動明王立造と水晶製五輪塔が発見。龍谷ミュージアム保管の仏像雛形からは比叡山や日吉社関連の作例をピックアップ。日吉大社の百大夫神立像とその雛形を並べるなど(そっくり!)、本雛形の美術史上の重要性を再認識。注目されるのは園城寺の阿弥陀如来坐像や西教寺の十一面観音立像、参考出品の北保町自治会菩薩立像など、前近代の修理における後補部材や彫り直し部分にクローズアップする(美術鑑賞の方法論とは真逆の)斬新な展示方法で、後補部分も修復履歴による伝来史を考えるための大切な歴史情報であることを具体的に示す。「仏像をなおす」ことで生じる結果の重層性(信仰性の向上/鑑賞性の向上・減少/歴史情報の復活・喪失、など)について考えるありがたい機会。図録あり(30ページ、800円)。

8月7日
和歌山県立博物館
 夏休み子供向け企画展 地名のなぞ!?
(7月16日~8月21日)

 和歌山県内の地名にスポットを当て、地名形成の由来や歴史の諸相を紹介。紀伊国全体を描く紀伊国絵図等や、郡部の様相を描いた有田郡絵図や伊都・那賀両郡絵図等、和歌山城と城下のようすを一望する和歌山城下町絵図等々、同館が長年に渡り収集を続けてきた絵図・地図類をフル活用。宝来山神社の紀伊国桛田荘絵図(重要文化財)や紀美野町教委所蔵の那賀郡志賀荘絵図、紀伊国那賀郡田中荘山之絵図、日高郡下惣川村検地帳写、日高郡初湯川村検地帳写、那賀群動木村検地帳写など、荘園や村に関する資料も盛りだくさん。「地名について、あれこれと考え、“なぞ”解きすることの楽しさを知り、自分たちが住む土地に対しても愛着を持つきっかけにしていただけたら」という展示目的も明確。図録なし。

8月12日
京都国立博物館
 特別展 河内長野の霊地 観心寺と金剛寺-真言密教と南朝の世界-
(7月30日~9月11日)

 観心寺と金剛寺の様々な文化財を真言密教・南朝の括りで集約し一堂に展観する。観心寺勘録縁起資財帳、伝宝生如来坐像、伝弥勒菩薩坐像など観心寺創建期の重宝や、現存最古本の弘法大師像や伝阿観上人所持の宝剣、多宝塔本尊大日如来坐像など金剛寺の平安末伽藍整備期の重宝など、国宝・重文を多数展示。平成28年度~令和元年度に同館が実施した科研「河内地域の仏教文化と歴史に関する総合的研究」による調査成果の公開を兼ね、あらたに断簡多数が発見された金剛寺遊仙窟(重文)の紹介のほかにも、悉皆調査により把握された中世末~近世の仏画や密教法具を積極的に取り上げ、真言寺院における修法の場と儀礼のあり方を紹介するとともに、中世末~近世仏教美術を研究の俎上に上げる機会とする。昭和50年代より続く、美術工芸品を中心とする社寺伝来文化財の悉皆調査と報告書及び展示による共有化という同館の手法を、大阪南部地域の名刹を対象としてエリアを拡大して取り組んだものであり、多分野にわたる研究者を擁する稀少な博物館としての社会的責務を果たすもの。図録あり(172ページ、2200円)。

龍谷ミュージアム
 企画展 のぞいてみられぇ!“あの世”の美術-岡山・宗教美術の名宝Ⅲ-
(7月16日~8月21日)

 リニューアル中の岡山県立博物館コレクションを活用し、浄土信仰と熊野信仰の観点から“あの世”への憧れと畏れの種々相を紹介。ずらり並ぶ法然上人伝法絵断簡は6幅中5幅が岡山県博所蔵で、収集方針の確かさがうかがえる。遍明院阿弥陀二十五菩薩来迎図や木山寺阿弥陀三尊十仏来迎図、吉備津神社菩薩面などで極楽への憧れを、日光寺地蔵十王像や宝福寺寺蔵十王図、熊野観心十界曼荼羅にて地獄への恐怖を提示。笠加熊野比丘尼関係資料からは那智参詣曼荼羅や熊野観心十界曼荼羅、熊野権現縁起絵巻、熊野牛王版木、懸守などを紹介。熊野比丘尼の勧進道具をありがたく拝見。お盆の時期に、時宜に叶ったテーマ設定で、優れたコレクションを活用する好企画。図録あり(変形判型の小冊子、46ページ、500円)。

8月29日
天野山金剛寺宝物館
 天野山金剛寺と神様たち-高野・丹生明神と水分明神の神像-
(4月29日~8月31日)

 金剛寺境内の鎮守社に伝来した平安時代~室町時代の神像群の中から17軀を一挙公開。『神像彫刻重要資料集成』収載資料で現物確認できる貴重な機会。図録なし。

8月31日
和歌山県立博物館
 企画展 あの人からの手紙
(8月27日~10月2日)

 同館が積極的に収集し続けている、紀伊国・和歌山県の中世~近現代の書状・書簡・手紙類を活用して、紀伊国ゆかりの人物を紹介しつつ、さまざまな歴史的事象を浮かび上がらせる。中世文書では康永4年(1345)高師直施行状(藤並彦五郎宛)、寛正6年(1465)畠山政長書状(隅田能継宛)、天正13年(1585)羽柴秀吉書状写(佐竹義重宛)、天正13年木食応其書状(長老坊宛)、近世文書では慶長4年(1599)浅野幸長書状(吉村橘左衛門宛)、徳川頼宣書状(朽木植綱宛)、徳川吉宗黒印状(相良長興宛)、祇園南海書状(奥野鶴渚宛)、本居宣長書状(本居大平宛)、近現代では陸奥宗光書簡(伊東巳代治宛)、南方熊楠書簡(宇井縫蔵宛)、徳川頼貞書簡(喜多村進宛)、島崎藤村葉書(喜多村進宛)など。読売日本交響楽団所蔵のベートーヴェン自筆書簡(C.F.ペーターズ宛)ほかも出陳。図録なし。

9月2日
京都国立博物館
 特別展 河内長野の霊地 観心寺と金剛寺-真言密教と南朝の世界-
(7月30日~9月11日)

 2回目鑑賞。金剛寺の奈良仏師の大日如来坐像2軀と観心寺の伝弥勒菩薩坐像(仏眼仏母像)・伝宝生如来坐像(弥勒菩薩像)との間をぐるぐる回りながら鑑賞。図録あり(172ページ、2200円)。

9月27日
大和文華館
 一笑一顰-日本美術に描かれた顔-
(8月19日~10月2日)

 美術史実習の見学講義。コレクションを駆使して日本美術の多様な顔貌表現に着目。同館を代表する寝覚物語絵巻(国宝)、佐竹本三十六歌仙絵断簡小大君像(重文)、維摩居士像(文清筆、重文)、呂洞賓図(雪村筆、重文)、婦人像(重文)、中村内藏助像(尾形光琳筆、重文)をはじめ、物語絵や歌仙絵などずらり。応永30年(1423)の賛がある龍湫周沢像をじっくり。図録なし。

10月4日
龍谷ミュージアム
 特別展 博覧-近代京都の集め見せる力-初期京都博覧会・西本願寺蒐覧会・仏教児童博物館・平瀬貝類博物館
(9月17日~11月23日)
 
美術史実習の見学講義。資料を集め供覧する博覧・蒐覧のあり方を、明治初期に開催された博覧会のごく初期事例である西本願寺を会場として行われた明治4年京都博覧会、明治8年から開催された西本願寺蒐覧会、真宗僧中井玄道による仏教児童博物館と西本願寺周辺の事例と、民間の貝類研究者平瀬與一郎による平瀬貝類博物館を取り上げて紹介。京都博覧会の実態が詳細に明らかにされていることや、西本願寺蒐覧会の開催内容と宗派による末寺法宝物の鑑査と鑑査状の発行といった、国の古器旧物保護の動きとも連動した実態を示していることなど、明治時代の「文化財」を巡る動きが、本山内の資料も含めて集められた多数の資料から展示室内に立ち上がり、極めて重要な学術成果を共有する機会となっている。博覧をテーマにした展覧会自体が、微に入り細を穿つ種々多様な資料を博捜し供覧して成り立っているという「博覧」の二重構造になっている。図録(260ページ、2500円)もまさに博覧の二重構造で、単なる資料カタログには留まらず、担当和田秀寿学芸員による単著とみなすにふさわしい膨大な文章量で展示内容が詳述されていて、参考文献も充実。近代期の「文化財」保護と普及を巡る研究分野において、必見の展示であり必携の図録。

10月11日
春日大社国宝殿
 特別展 春日大明神に祈る 時代を変えた兵-頼朝・義経から幕末まで-
(7月16日~12月13日)
 美術史実習の見学講義。春日大社に武家によって奉納された武器武具類を多数展観。常設の国宝鼉太鼓も源頼朝奉納伝承あり。赤銅造太刀銘友成、黒漆山金作太刀の平安刀や、楠木正成奉納の胴丸(国宝)、足利将軍家奉納の金装花押散兵庫鎖太刀(国宝)など武器武具の重要資料がずらり。大東文書や春日大社文書から関東御教書や足利尊氏御教書、豊臣秀吉朱印状などもあわせて並べる。春日本春日権現験記をうまく活用し、武士の風体も提示。刀剣大好きゼミ生に解説してもらう。図録なし。本殿、若宮参拝して禰宜道歩いて散策。

新薬師寺
 奈良時代本堂に安置される本尊薬師如来坐像(国宝)、塑造十二神将立像(国宝)をぐるぐる巡りながら心ゆくまで拝観できる幸せ。香薬師の複製像見て仏像盗難問題を思う。


10月15日
和歌山県立博物館
 特別展 濱口梧陵と廣八幡宮-法蔵寺・養源寺・安楽寺の文化財とともに-
(10月15日~11月23日)
 広川町の廣八幡宮及び別当明王院と町内寺院3か寺の文化財調査に基づく成果を公開。広村出身の実業家・政治家濱口梧陵の安政地震津波時の活動をあわせて紹介する。廣八幡宮別当明王院の十一面観音立像は、像内納入の法華経に元徳元年(1329)に納められたことが記され、制作時期を把握できる基準作例。この明王院旧蔵の仏像群が大阪・四天王寺に引き継がれていることが知られるが、そのうち元廣八幡宮多宝塔本尊の、鎌倉時代後期の大日如来坐像を展示。同様に移動した四天王寺薬師如来坐像と阿弥陀如来坐像もパネルで紹介。資料散逸により把握しづらくなっている廣八幡宮のかつての神仏習合のあり方を、実物に即して把握できる貴重な機会。ほか、法蔵寺一空上人坐像や十六羅漢像、安楽寺光明本尊や馬上清江筆の徳本上人像、富岳図、玉龍筆の極めて雄渾な書「天鑑」「無私」、養源寺に江戸青山御殿資材により建築された堂舎に関する資料など、海に開かれた湊町の寺院に伝わった多様な絵画・墨蹟・工芸品・典籍類が並ぶ。地域に密着した地道で丁寧な資料調査活動に基づき、新たに把握され価値評価がまだ定まっていない資料群をただちに公開して広く共有することで、地域文化の知られざる一面を紹介しまたそれを地域に還元する学術的な営みは、「各地域で知的、文化的中枢として奉仕すべき」(ユネスコ「博物館をあらゆる人に開放する最も有効な方法に関する勧告」)博物館が果たすべきあり方を体現するもの。図録あり(240ページ、2000円)。


10月16日
野洲市歴史民俗博物館
 企画展 近江湖南に華開く宗教文化-野洲・守山の神と仏-
(10月8日~11月27日)
 滋賀県立琵琶湖文化館と野洲市・守山市が連携し、琵琶湖文化館寄託品を活用して、旧野洲郡の宗教文化を紹介。鎌倉初期仏画の優品である法蔵寺如意輪観音像や、快慶風を示す西林寺の鎌倉時代前期の阿弥陀三尊像、兵頭神社護摩堂伝来の不動明王立像、応永26年(1419)施入とわかる下新川神社の和韓混交鐘、本願寺赤野井別院の光明本尊、御上神社の平安時代後期造像の相撲人形、益須寺遺跡出土の瓦類等々、多様な資料を展示。近世近江国の寺社研究をするうえで重要な地誌である近江輿地志略も活用。地域の歴史を信仰史から眺める貴重な機会。図録あり(49ページ、1700円)。

百済寺
 秘仏御本尊 十一面観音菩薩 特別参拝
(10月1日~10月16日)
 聖徳太子千四百年御聖忌を記念して、今春新たに重要文化財になった本尊十一面観音立像を御開帳。最終日に滑り込み。同像は、従来奈良末~平安初期の作例とする説(『東近江市史』)、白鳳期金銅仏との類似を指摘する説(伊東史朗「百済寺十一面観音立像について」『国華』1407)のあった針葉樹製の一木彫像で、重文指定の際には装身具表現等から奈良時代後期作例と判断された。ただし耳の形状は白鳳期作例にも見られるたいへん古様なもので、今後なお制作時期についてはさまざまな意見を出していくべき重要作例。像高280㎝の巨像であることを含め、古代における木彫像の成立と展開を考える上で貴重な情報を伝えており、ありがたくご拝観。厨子前の室町時代彫像は、卒論執筆の折りに一生懸命に眺めた思い出あり。


10月18日
道明寺・葛井寺・野中寺
 美術史実習で道明寺本尊十一面観音立像(国宝)、葛井寺本尊千手観音坐像(国宝)、野中寺弥勒菩薩半跏像(重文)と、河内の名刹の御開帳をめぐる。道内安置のほかの仏像や荘厳具、周辺の古墳も見ながらてくてく歩く。

10月22日
なら歴史芸術文化村
 特集展示 奈良県指定の文化財
(10月22日~12月11日)

 古代〜中世の美術工芸品を中心に奈良県指定文化財を集めて、県としての文化財保護の活動と意義を紹介。仏像では陽雲寺菩薩坐像、朝護孫子寺銅造毘沙門天立像、東南院大日如来坐像、野迫川村平区平等寺釈迦如来坐像、絵画では唐招提寺薬師十二神将像、元興寺智光曼荼羅(後期[11/15~])、如意輪寺吉野曼荼羅、金峯山寺吉野曼荼羅(後期)、工芸品では室生寺水晶五輪塔納置黒漆宝筐院塔形舎利殿、十輪院多宝塔、書籍・典籍として観世世阿弥能楽伝書佐渡状、歴史資料として県有の明治十二年七月大和国平群郡寺院明細帳、有形民俗として念仏寺の陀々堂鬼面、考古資料として宮瀧遺跡出土品、纏向遺跡太田池土坑出土品の木製仮面、等々、重要資料を幅広く集める。令和三年度の新指定県指定文化財も紹介(うち興福寺濮陽大師像は(11/29から展示)。同施設の開村以来、施設内の工房(美術院)で修理を進めてきた東南院大日如来坐像、十輪院多宝塔については、修理工程の折々に撮影した動画による映像コンテンツがそれぞれ設置され、修理前・途中・修理後を実物資料も確かめつつ鑑賞。普段拝見の難しい手業の映像は、工房と日々密接に関わる同施設ならではのもの。県指定文化財という枠組みから、文化財の多様さと、文化財保護の歴史の過去・現在(そして未来)を展示室内に展開する充実した内容。図録あり(56頁、1200円)。

10月25日
興福寺
 美術史実習で興福寺拝観。国宝館、東金堂、北円堂で仏像多数見学。

10月30日
京都国立博物館

 特別展 京に生きる文化 茶の湯
(10月8日~12月4日)

 茶の湯の歴史と美術の諸相を幅広く資料を集めて紹介。喫茶文化の展開、唐物賞玩、わび茶と町人・天下人と、薬湯としての茶から文化的象徴としての茶の湯への展開を近代まで示す。大名物を始めとする多数の名器、垂涎の的の唐物の数々を鑑賞する貴重な機会。図録あり(420ページ、3000円)。

奈良国立博物館
 特別展 第74回 正倉院展
(10月29日~11月14日)

 吉例正倉院展。何度か予約失敗(ばたばたして振り込み忘れ)。漆背金銀平脱八角鏡、全浅香、鸚鵡﨟纈屛風・象木﨟纈屛風、銀壺、大歌白絁衫、鉄三鈷、錦繡綾絁等雑張など59件。伎楽面力士(天平勝宝4年将李魚成作)と呉公を耳の形状を比べながらじっくり鑑賞。図録あり(148ページ、1300円)。

11月1日
神戸市立博物館
 開館40周年記念特別展 よみがえる川崎美術館-川崎正蔵が守り伝えた美への招待-
(10月15日~12月4日)

 美術史実習で訪問。川崎正蔵が収集し日本初の私立美術館である川崎美術館(ただし限定公開)に出陳された美術資料の数々を集約して公開。よくぞこれだけ集まったと感嘆する充実した内容。文化庁所蔵の平安仏画である孔雀明王像、MOA美術館の春日曼荼羅、九州国立博物館の南宋・阿弥陀三尊像、静嘉堂文庫美術館広目天眷属像など仏教美術をしっかり鑑賞。東京国立博物館の円山応挙襖絵28面ほかの再現展示は見応えあり。大部の図録(358頁、2800円)は参考資料満載で、石沢俊氏の巻頭論文の注は99まであり。

小野市立好古館
 特別展 小野市仏堂悉皆調査速報展-江戸時代の在銘資料を中心に-
(10月1日~12月4日)

 小野市内の仏堂を同館および市民文化財調査ボランティア好古人の皆さんで調査を行った成果報告展。延宝3年(1675)民部作大部地区三十三所観音像や、万治2年(1659)長谷川仁兵衛作下東条地区薬師如来坐像など江戸時代の宗教文化資料多数。図録なし。近くの浄土寺にも久しぶりの訪問。快慶の阿弥陀三尊像を、ぐるりぐるりと行道しながらご拝観。

11月2日
高野山霊宝館

 企画展 仏を護る入れ物-納める・容れる・包む-
(10月15日~1月15日)

 数々の文化財を今日まで守り伝えてきた入れ物に着目。快慶作の執金剛神立像は像内に納められた宝篚印陀羅尼の「入れ物」として紹介。唐時代の普門院釈迦如来及び諸尊像の厨子は万治2年(1659)に調進されたもの。龍光院の五鈷杵は把部に舎利を納入。天野社伝来の舞楽装束は木製櫃とともに紹介。図録なし。

11月8日
元興寺法輪館

 特別展 念仏寺開創四百年記念 袋中上人と山の上念仏寺
(10月22日~11月13日)

 美術史実習で訪問。戦国~江戸前期の浄土宗僧袋中上人創建の念仏寺伝来資料を中心に、近世奈良町の浄土信仰について紹介。袋中上人坐像や袋中自筆六字名号、鎌倉時代の阿弥陀如来立像、愛染明王坐像のほか、徳融寺の貞享元年(1684)竹坊栄信筆當麻曼陀羅図、檀王法林寺異相智光曼陀羅版木など。図録あり(184ページ、1500円、念仏寺・元興寺文化財研究所編、一般社団法人なら文化交流機構発行)。

11月9日
京都府立山城郷土資料館

 開館40周年記念特別展 南山城の芸能資料と人形浄瑠璃
(10月29日~12月11日)

  同館の寄託品を中心に南山城地域における中世~近世の芸能に関わる資料を一堂に紹介。猿楽座初見史料の文永9年高神社流記、大永3年手猿楽による「守屋」「七騎落」など上演記録を示す木津天神宮下行物注文、金春座年預として興福寺薪能と春日若宮御祭に出勤した長命茂兵衛家の史料などたっぷり充実。リーフレット(4ページ)あり。

11月13日

東大寺

  前日開催した奈良大学・奈良県主催の高校生歴史文化フォーラム参加者を連れて東大寺盧舎那仏の蓮弁登壇。その後奈良町散策。

11月15日
中之島香雪美術館

 特別展 伊勢物語-絵になる男の一代記-
(10月8日~11月27日)

 美術史実習で訪問。香雪美術館所蔵の伊勢物語図色紙を軸にして、伊勢物語絵の諸相を紹介。大和文華館梵字経刷白描伊勢物語絵巻、和泉市久保惣美術館伊勢物語絵巻、盛安本源氏物語絵巻など。自館収蔵資料(村山コレクション)を丁寧に分析し関連資料と比較しながら再評価する過程を展示・図録で共有する「香雪方式」の展示で、ミュージアムの公益に資するあり方の好例。図録あり(120ページ、2300円)。

11月16日
高知県立歴史民俗資料館

 企画展 武吉孝夫写真展-高知県の山村を歩く-
(10月7日~12月4日)
 写真館経営の傍ら高知の山村を歩き現代を記録する武吉氏の写真展。生業にいそしむ人びとが笑顔で並ぶモノクロの画面は、今なのか昔なのか、時が融合したかのような高知の過疎地域の現代史を浮かび上がらせる。図録あり(288ページ、1200円)

高知県立高知城歴史博物館
 企画展 没後150年山内容堂 後期 報恩と勤王の狭間で
(11月2日~12月11日)

 土佐藩15代藩主の山内豊信の事蹟を紹介。個人蔵大政奉還建白書草稿(長岡謙吉筆)、海の見える杜美術館蔵新政府布達書など100件。図録あり(190ページ、3,410円)。

11月22日
東寺宝物館

 企画展 鎌倉時代の東寺-弘法大師信仰の成立-
(9月20日~11月25日)

 美術史実習で東寺拝観。食堂の四天王像から伽藍講堂、金堂、五重塔とじっくりまわり、宝物館では東宝記、東寺文書、観智院文書から鎌倉時代の東寺の建物や法会、組織について紹介。仏像群もじっくり鑑賞。観智院五大虚空蔵菩薩坐像も拝観。

大谷大学博物館
 特別展 仏法東帰-大仏開眼へのみち-
(10月11日~11月28日)

 仏教公伝1470年、聖徳太子没後1400年、東大寺盧舎那大仏開眼1270年を捉えて、日本への仏教伝来から大仏開眼までの200年史と宗教的世界観に基づく国家のアイデンティティ形成の過程を紹介。奈良博金光明最勝王経(国宝)、京博日本書紀巻二十二(国宝)、醍醐寺東大寺要録巻二(重文)、名古屋市博三宝絵中巻(重文)など重要資料多数集める。図録あり(88ページ、2000円)。

佛教大学宗教文化ミュージアム
 特別展 ほとけのドレスコード
(10月29日~12月10日)

 仏像の着衣のさまざまについて、仏像・仏画と諸文献、及び実際の袈裟や木彫モデル、再現パネルなどを駆使して詳細に紹介。着衣法のみならず、衣文表現への視点や僧衣の伝来や正統性への視点など、衣にまつわる多様な関心のあり方についても提示。転宝輪寺の裸形阿弥陀如来立像、神光院薬師如来立像、清浄華院不動明王立像などじっくり鑑賞。図録あり(64ページ、1000円)。

11月23日
奈良大学博物館
 企画展 古写真のなかの奈良-奈良大学図書館所蔵北村信昭コレクションのガラス乾板写真-
(11月21日~3月20日)

 奈良大学図書館が所蔵する北村写真館旧蔵の近代期ガラス乾板をデジタル処理し、パネルにしてその一部を展示公開。東大寺大仏殿の明治期修理開始早々のころの棟や軒のゆがんだようすや、興福寺五重塔から眺めた奈良の風景、猿沢池の池ざらえと見学するたくさんの人びとのようすなど、歴史資料として重要な情報をもたらす写真群。リーフレットあり(12ページ、無料)。

11月25日
奈良県立万葉文化館
 特別展 こもりくの初瀬 祈りのかたち
(10月15日~11月27日)

長谷寺の歴史と文化について、長谷寺縁起など長谷寺の文化財とともに、万葉文化館らしく万葉集の世界とも接続しつつ、近世〜現代の名所としてのあり方まで目配りし紹介。法華経(国宝)、興教大師像(県指定)、春日南円堂曼荼羅(以上長谷寺)、春日浄土曼荼羅(重文)、長谷寺式十一面観音像(重文)(以上能満院)のほか、本紙縦16mを超える十一面観音三尊像の高精細複製を展示室内に広げる。図録あり(90ページ、1000円)。

11月29日
平等院

 美術史実習は宇治へ。平等院鳳凰堂の堂内拝観ののち、平等院ミュージアムで運中供養菩薩像を比較しながらじっくり鑑賞。宇治上神社も立ち寄り。

12月4日
和歌山県立紀伊風土記の丘資料館
 特別展 紀氏、大地を開く-宮井用水と耕地開発-
(10月1日~12月4日)

 宮井用水の成立と展開を古墳時代から現代まで通して、考古資料と古文書等を活用して紹介するとともに、機内における大溝造営のあり方についても各所から資料を集約して紹介。岩橋千塚古墳群や井辺遺跡、鳴神遺跡出土品のほか、紀伊国造印(個人蔵)、紀伊国造次第(個人蔵)、歓喜寺文書(県指定・歓喜寺蔵)、林家文書(和歌山市立博物館蔵)、栗栖家文書(個人蔵)など。奈良県纏向遺跡、布留遺跡ほか出土資料も集約。図録あり(109ページ、1200円)。

和歌山県立博物館
 企画展 きのくにの信仰-霊地がつなぐカミ・ホトケ-
(12月3日~1月22日)

 同館寄託品を活用して、きのくにの仏像仏画の諸相を幅広く紹介。仏像では飛鳥時代の極楽寺菩薩半跏像(重文)、奈良時代の円満寺十一面観音立像(重文)、文治2年(1186)銘龍福寺阿弥陀如来坐像(県指定)、神像では田殿丹生神社の丹生明神・高野明神坐像、熊野速玉大社の伊邪那岐神坐像・伊邪那美神坐像(重文)、安楽寺の熊野権現本地仏坐像(県指定)、絵画では和歌山県立博物館の熊野垂迹神曼荼羅、日光社参詣曼荼羅(県指定)、高野山参詣曼荼羅、個人蔵狩場明神蔵(県指定)などなど多数紹介。特別展級の品揃え。図録なし。

12月6日
東大寺

  美術史実習で東大寺盧舎那大仏の蓮弁登壇。蓮華蔵世界を間近にじっくりご拝観。

12月16日
東大寺

 講義の合間に学校抜け出て良弁忌の東大寺参拝。法華堂執金剛神立像(国宝)、開山堂良弁僧正坐像(国宝)、俊乗堂重源上人坐像(国宝)・阿弥陀如来立像(重要文化財)をご拝観。

12月18日
紀の川市歴史民俗資料館
 企画展 藤崎弁天
(11月16日~12月18日)

 粉河寺領の南東端、名手川と紀の川の合流点付近の小丘陵上に建つ藤崎弁天の堂舎修理完成記念に、同堂伝来資料や幕末~近代に同堂を拠点に活躍した古岳幽真に関する資料を紹介。弁才天及び毘沙門天立像は弁才天坐像が南北朝時代ごろ、毘沙門天立像は宮内法橋の作。愛染明王坐像は室町時代の作。古丘幽真の幕末明治ごろの肖像(個人蔵)、天保5年(1834)銘を有する七弦琴など。図録なし。修理された藤崎弁天堂は江戸中期の建立で、一時期陸奥宗光の所蔵で、現在紀の川市所蔵。

12月21日
奈良国立博物館
 式年造替記念特別展 春日大社 若宮国宝展-祈りの王朝文化-
(12月10日~1月22日)

 春日若宮の式年造替を記念して国宝・若宮御料古神宝の数々を紹介。古神宝では金鶴及銀樹枝と、復元制作された金鶴洲浜台を並べるほか、毛抜形太刀、金地螺鈿毛抜形太刀、平胡籙、蒔絵箏など実物と復元制作品を並べて、神宝の鑑賞を助ける。細部の技法や文様をじっくり鑑賞。ほか春日曼荼羅の善本、東博文殊菩薩立像(善円)、春日権現験記絵(国宝)など春日信仰の美術、南都絵所絵師奉納の絵馬、神前調度品など造替関連資料、おん祭関連資料などなど。図録あり(163ページ、2500円)。

12月28日
上原美術館
 特別展 無冠の仏像-伊豆・静岡東部の無指定文化財-
(10月8日~1月9日)

 同館の調査活動で見出された伊豆・静岡東部の仏像神像紹介。副題の「無指定」は「未指定」に対して指定を前提としない信仰の営みにより継承されてきた文化財と定義づける。茶畑浅間神社四面神坐像、随身倚像、宗徳寺僧形神坐像の平安時代彫像など近年見いだされたばかりの新資料多数。国清寺の南北朝時代の多数の仏像断片類には束帯像や僧形像の部材が複数分含まれ、上杉氏関連造像の可能性あり。断片にも地域の歴史を読み解く重要な情報が満載。修理を繰り返した古代の仏像、断片となりながら伝わった中世仏像、木が痩せ節があらわとなった像、小さな小さな中世仏など、仏像神像が継承されるさまを展示室に浮かび上がらせる意義深い内容。図録あり(104ページ、1000円)。

箱根神社宝物館
 特別企画展 曾我兄弟と箱根信仰
(会期不詳)

 曾我兄弟の敵討ちに関する歴史と伝承、そして曾我兄弟への信仰や物語化の諸相を、関連資料を集約して紹介。もと金剛王院金堂安置の曽我十郎祐成像、五郎時致像や錦絵など。リーフレットあり(B5、4ページ)。万巻上人坐像をじっくりご拝観。神像は展示されておらず残念。『箱根の宝物』(146ページ、2000円)、『二所詣-伊豆箱根二所権現の世界』(76ページ、1500円)入手。

1月16日
北向不動院
 秘仏本尊不動明王坐像開帳

 年に一度の本尊ご開帳。久寿2年(1155)奈良仏師康助作。しっかり拝観して、鳥羽院陵、近衛天皇陵、安楽寿院散策。

2月4日
和歌山県立博物館
 企画展 戦いの記憶
(1月28日~3月5日)
 中世の合戦がいかに記憶され記録されあるいは改変されたかを、古文書や古記録、絵画資料から紹介。紀伊徳川家の軍学者宇佐美定祐が監修して作られた紀州本川中島合戦図屏風と、楠木正成、正季兄弟らの戦いを描く類例まれな湊川合戦図屏風がともに並ぶ久々の機会。壬辰倭乱図屛風、根来寺境内絵図、享徳3年(1454)畠山義夏書状(久木小山家文書)、貞享元年(1684)根来藤伍大夫橘重定由緒書(栗栖家文書)、寛文元年(1661)宇佐美駿河守定行父子三代働覚書(軍学者宇佐美定祐文書)などなど。図録なし。


2月5日
高野山霊宝館
 平常展 密教の美術
(1月21日~4月9日)
 高野山上の遺跡より出土した考古資料を多数紹介。金剛峯寺境内出土の地鎮・鎮壇具(県指定)のうち、大門・霊宝館・宝性院・徳川家霊台出土の諸資料や、奥之院出土の金銅菩薩立像(重文)、南保又二郎納骨遺品のうち金銅宝篋印塔(重文)、比丘尼法薬経塚遺物のうち金胎種子曼荼羅、法華経、経筒など。紫雲殿は近代絵画特集で富岡鉄斎南山宝刹図、高屋肖哲白衣観音菩薩像、青木栖古虎図、三好藍石層巒暖翆山水図など。図録なし。

2月9日
東京国立博物館
 特別企画 令和5年 新指定国宝・重要文化財
(1月31日~2月19日)

 国の新指定文化財お披露目展。観音寺の特殊な図像の不動明王立像、乙訓寺の一日造立仏として造像された長谷寺式十一面観音立像、善派仏師の作風を示して玉唇を嵌入する上徳寺阿弥陀如来立像、丹生川上神社の笑相を表す古い女神坐像、小網寺の密教法具などありがたく鑑賞。令和3~5年の指定物件を掲載した図録あり(136ページ、18000円)。

 特別企画 大安寺の仏像
(1月2日~3月19日)

 昨年の奈良博大安寺展に引き続き、収蔵庫建築中の大安寺から奈良時代木彫群の長期間の寺外公開。ぐるりと間近に鑑賞できる多聞天立像をじっくり。図録なし。

 特集 近世能狂言面名品選-「天下一」号を授かった面打-
(1月2日~2月26日)

 館蔵品・寄託品の能面のうち、優れた職人の称号である天下一を賜り名乗った面打の作例を紹介。天下一是閑(出目吉満)、天下一友閑(出目満庸)は面裏の知らせ鉋も紹介。ほか天下一備後(出目満喬)、天下一大和(大宮真盛)、天下一近江(児玉満昌)、天下一河内(井関家重)面を並べる。天下一河内が打った十六の面裏が雪の小面の写しであることを紹介、制作途中での改変と判断。リーフレットあり(A4・4ページ)。

国立歴史民俗博物館
 特集展示 来訪神、姿とかたち-福の神も疫神も異界から-
(1月17日~5月14日)

 来訪する鬼や神に扮装し、その祝福あるいは追い払いの諸相を、同館所蔵の複製仮面を活用しつつ紹介。追儺では五條市陀々堂鬼走り、オコナイでは伊賀市観菩提寺正月道の鬼頭、幸福をもたらす来訪神として西表島の節祭のミルク(弥勒)、盆に帰る祖先神は石垣島のアンガマ、中国貴州省トン族の儺劇仮面など。リーフレットあり(A4・4ページ)。

2月11日
亀岡市文化資料館
 企画展 文化財と過去・現在・未来
(1月26日~3月5日)
 亀岡市文化財保存活用地域計画の認定を受け、今後の文化財保護と活用に資するべく、亀岡市域の文化財の継承のあり方と明治時代における宝物把握と保護のようすを紹介。金輪寺の阿弥陀如来坐像(10~11世紀)とその臨時全国宝物取調局鑑査状及び小川一真撮影古写真、穴太寺宝物に関する宝物取調局からの書簡や帝国博物館への寄託書類、宝物什器並財産に関する書類など。金輪寺旧蔵で、現在高山寺と東博、東京芸大に分蔵される奈良時代の薬師三尊像のうち両脇侍像の模刻作例を紹介。図録あり(64ページ、1300円)。

2月19日
大和文華館
 特別企画展 麗しいほとけと仏教工芸-中国・朝鮮・日本の仏教美術-
(1月13日~2月19日)
 館蔵品の中国仏像と仏教工芸を、個人所蔵資料を加えて紹介。刺繍五髻文殊菩薩像、金銅蓮華形馨、銅版地螺鈿花鳥文説相箱、常暁請来目録の重文資料のほか、延興2年(472)銘釈迦如来坐像、李昌2年(526)銘二仏並坐像、金銅如意輪観音坐像、高麗仏画の羅漢図、栄西書状などなど。一部資料を紹介した図録あり(32ページ、800円)。

2月26日
堺アルフォンス・ミュシャ館
 企画展 Bon Voyage!-ミュシャと巡る旅-
(12月3日~4月2日)
 初訪問。同館所蔵のアルフォンス・ミュシャ作品を活用し、その画業と作品制作の場を重ねて旅になぞらえて紹介。《ジスモンダ》や《ビスキュイ》のポスター、肉筆油絵の《ハーモニー》、《1918-1928::独立10周年》など祖国のためのポスターなど。図録あり(20ページ、800円)。

3月3日
聖林寺・安倍文殊院

 午後からの調査の前に聖林寺十一面観音立像と安倍文殊院快慶作五台山文殊を学生と巡ってご拝観。


3月10日
奈良国立博物館
 特別陳列 お水取り

(2月4日~3月19日)
 東大寺修二会の時期に合わせた恒例のお水取り展。二月堂本尊光背頭光、小観音図像を描く類秘抄、南都絵所絵師による二月堂縁起、二月堂神名帳、二月堂練行衆盤など。なら仏像館の二月堂本尊光背も拝む。図録なし。

 特集展示 新たに修理された文化財
(2月21日~3月19日)

 同館施設内修理工房にて近年修理された文化財を紹介。天正8年(1580)源三郎作の銘を有する朝護孫子寺毘沙門天王三尊懸仏は宿院仏師-下御門仏師研究の上で貴重な新資料。仏体は漆薄仕上げ。ほか大蔵寺旧蔵の鎌倉時代の聖徳太子絵伝(奈良博蔵)、鎌倉時代の整った出来映えの二十八部衆立像(迦楼羅王・五部浄居天・毘沙門天・毘楼博叉天)、法隆寺金堂天蓋附属の飛天像(横笛)、聖護院の熊野宮曼荼羅(本宮から大峰への峰入りの様子が描かれる作例。
 名品展の絵画(展示期間2月4日~3月19日)は密教画特集。子嶋寺の巨大な両界曼荼羅(国宝)、文化庁建久5年(1194)の五部心観、南法華寺一字金輪曼荼羅、個人蔵五秘密曼荼羅、聖護院の珍しい図像の南天鉄塔図、談山神社不動明王四十八使者像。なら仏像館では初見資料として東慶寺の木心乾漆釈迦如来坐像が奈良時代の作例、個人蔵如来立像は頭部過大な平安時代前期の木彫像。

3月14日
名取市歴史民俗資料館
 令和3年度発掘調査報告展
(1月8日~3月26日)

 名取市内の発掘調査速報。市内遺跡出土の墨書土器、多賀城南面出土の人面・人体墨書土器など。図録なし。常設展示で名取熊野三山に関する情報をしっかりお勉強。とてもありがたい。

名取老女の墓・下余田熊野三社
 名取市内の小さな熊野三社を巡見。全て個人宅に附属していて、お声がけしながらお参り。

名取熊野三社
 名取熊野那智神社、名取熊野新宮社・新宮寺、名取熊野本宮社を巡見。配置や地形、周辺地名も確認しながら。熊野三山を丁寧に移植していることを実感。

みやぎ東日本大震災津波伝承館
 東日本大震災報道写真展 3.11「あの日」から
(3月1日~4月2日)

 東日本大震災における報道写真を多数ポスター展示して振り返る内容。図録なし。

石巻市博物館
 企画展 石巻の板碑-調査の記録をたどる-
(1月28日~3月26日)

 板碑の実物、複製、拓本を大量に展示し、石巻市域の板碑の全体像と研究の到達点を示す。調書や写真も活用。残念ながら図録なし。写真撮影可。光拓本の体験コーナーあり。常設展には震災後のレスキューについても紹介あり。

3月27日
和歌山県立博物館
 企画展 川とともに生きる-川と人の関係史-
(3月11日~4月16日)

 和歌山の河川と人の関わりを水運、水利、治水、水害、景観などの視点から眺める。蓬莱山神社紀伊国桛田荘絵図(重文)、三船神社安楽川荘山川惣絵図など絵図多数。近時発掘調査を行ってきた慈尊院堤防の調査成果も速報。神奈川・海照寺高野山周辺図の大幅も公開。図録なし。

3月30日
なら歴史芸術文化村
 開村一周年記念展 山辺の道
(3月21日~5月28日)

 開村一周年に、同施設が所在する山辺の道に着目。山辺の道が中世の文献では語られず近世から確認され、近代期に観光の面からクローズアップされたことを示しつつ、櫛山古墳、小墓古墳の副葬品・埴輪から、石上神宮禁足地出土太刀、海獣葡萄鏡、平安時代の琵琶残欠、和邇下神社の柿本人麻呂像、内山永久寺跡出土の中世瓦、長岳寺六道絵(複製)、氷室神社大般若経など多様な資料紹介。「レベッカ・ソルター展」(3月21日~4月23日)も開催中。英王立美術院理事長。

桜井市立埋蔵文化財センター
 特別企画展 桜井市文化財協会34年の軌跡-協会の発掘調査が残したもの-
(12月7日~3月30日)

 最終日滑り込み。今年度で解散となる桜井市文化財協会を振り返る内容。纏向遺跡、上之宮遺跡、上之庄遺跡、安倍寺跡、磐余遺跡群などなど、重要な調査が目白押し。纏向遺跡第149次調査で古墳時代初頭の土坑から見つかった日本最古の木製仮面(常設展示に実物あり)をじっくり鑑賞。図録あり(16ページ、無料)。

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