平成27(2015)年度「展覧会・文化財を見てきました。」

4月1日
高野山霊宝館
 高野山開創1200年記念展 初公開! 高野山の御神宝
(3月21日~7月5日)
 開創1200年記念として、高野山壇上伽藍・御社(山王院)の修理事業に際して、社殿内に納められていた御正体(懸仏・鏡像)や刀剣を一挙初公開。丹生高野両明神の本地仏、金胎の大日如来を表したものでは、承元3年(1209)権少僧都貞暁供養のもの(梵字「アーク」)、弘安9年(1286)定智が開眼供養したもの(梵字「バン」)、正応元年(1288)西教が施入したもの(金剛界大日如来)など、紀年銘作例も含まれ、また堅実な作風のものも多く、重要。特に頼朝子貞暁奉納のものは貴重。鏡板に観音を線刻した円形華鬘形荘厳具は、鞆淵八幡神社沃懸地螺鈿金銅装神輿(国宝)の吊具と近似するもの。鳥頸太刀(中身銘国次)4口はかつらぎ町・丹生都比売神社の鳥頸太刀(中身銘国次)4口と深く関連する資料。ほか、狩場明神・丹生明神像(重文)、高野大師行状図画(重文)、弘法大師・丹生高野両明神像(問答講本尊、重文)など多数。図録あり(100ページ、1500円)。4月2日から5月21日の開創法会期間には、限定特別公開「高野山三大秘宝と快慶作孔雀明王像」も開催。運慶作八大童子像(国宝)、快慶作孔雀明王坐像(重文)、空海筆聾瞽指帰(国宝)、唐代彫刻の精華である諸尊仏龕(国宝)がずらり。八大童子は本館紫雲殿の正面に並んで、荘厳。(3月31日鑑賞)。

4月15日
慈尊院
 本尊弥勒仏開帳
(4月2日~5月21日)
 高野山開創1200年記念の御開帳。仕事の途中に立ち寄って、御縁を結ぶ。

4月26日
長野県信濃美術館
 善光寺御開帳記念 “いのり”のかたち-信濃の仏像と国宝土偶-
(4月4日~5月31日)
 善光寺御開帳に合わせて、長野県内に残る仏像を集める。観松院の菩薩半跏像は朝鮮半島・三国時代の貴重な作例。善光寺本尊、関山神社菩薩立像も視野に入れた、長野県における優れた請来仏受容の歴史と文化を喚起させる。ほか、覚音寺の治承3年(1179)銘千手観音立像、真光寺の建仁3年(1203)銘阿弥陀如来及び両脇侍像、仏師妙海作、辰野町上島区の元亨3年(1323)銘十一面観音立像、性慶作伊那市薬師堂の暦応3年(1340)銘の薬師如来坐像と、寛慶寺の明応7年(1498)銘金剛力士立像と、彫刻史上に重要な紀年銘作例を多く集める。正安3年(1301)銘の塩尻市・真正寺大日如来坐像と、鎌倉時代前期の長野市・不動寺不動明王立像が高野山伝来と知る。図録あり(160ページ、1800円)。

長野市立博物館
 特別展 信仰のみち 善光寺・戸隠・飯縄・小菅・斑尾・妙高
(4月25日~5月31日)
 善光寺御開帳に合わせて、北信濃から上越にかけての霊山とその信仰の特徴を紹介。善光寺式阿弥陀三尊として、宝治3年(1249)銘の向徳寺阿弥陀如来及両脇侍像、飯縄山別当本地院旧本尊の応安2年(1369)銘公明院地蔵菩薩半跏像。妙高山・関山三社権現中尊像として伝来した関山神社菩薩立像(朝鮮半島・三国時代、または中国南朝)と同十一面観音坐像(南北朝~室町時代)といった銅造の資料が多く、山岳信仰と金属による造像の関係も資料を通じて示唆する。図録あり(120ページ、600円)。

 特別展 狐にまつわる神々
(4月25日~5月31日)
 「信仰のみち」展と同時開催。飯縄信仰における祭神像である飯縄権現の、狐に載る烏天狗という図像のルーツを探る。飯縄神社別当の永福寺に伝来した応安13年(1406)銘飯縄権現像は銅造の作例。輪王寺の伊頭那曼荼羅図(南北朝~室町時代)、仁和寺の保延5年(1139)多聞荼枳尼経、称名寺の荼枳尼法<秘>(寂澄手沢本)、園城寺荼枳尼天騎獣像(鎌倉時代)、大阪市立美術館荼枳尼天曼荼羅図(室町時代)、親王院天河弁財天曼荼羅図(室町時代)、毛越寺刀八毘沙門天像(室町時代)と、全国から異形の神にまつわる資料を丹念に集め、天台教学・修験道を背景にカルラとダキニ天の習合したその姿を浮かび上がらせる。図録あり(64ページ、400円)。

5月6日
吹田市立博物館
 特別展 生誕100年 西村公朝展-ほとけの姿を求めて-
(4月25日~6月7日)
 美術院で長年仏像修理に携わって所長を務め、文筆、作品製作にも独自の境地を得、愛宕念仏寺住職、吹田市立博物館長もつとめた西村公朝の生涯を、修理記録や修理作例、製作作品から紹介する。
 修理作例としては、元興寺聖徳太子立像(重文、文永5年<1268>、善春作)、布袋姿の万福寺弥勒菩薩坐像(江戸時代、笵道生作)、清水寺釈迦如来坐像(平安時代後期)のほか、愛宕念仏寺の千手観音立像(平安時代後期)を展示。公朝が古道具屋で購入した仁王像雛形も。製作作品としては、清水寺大西良慶像、法隆寺勝鬘夫人・維摩居士坐像、愛宕念仏寺十大弟子立像ほか。美術院の修理記録も多数出陳。熊野速玉大社家津御子大神坐像、慈尊院弥勒仏坐像の図面をじっくりと眺める。ありがたや。
 華やかではないかもしれないが、文化財を未来へ引き継ぐための活動の歴史は、まさしく博物館という場で率先して伝えていくべきことである。私も、職場で近・現代の文化財保存にまつわる展示をやらねばと、強くおもう。図録あり(40ページ、400円)。

5月8日
東京国立博物館
 特別展 鳥獣戯画-京都 高山寺の至宝-
(4月28日~6月7日)
 国宝・鳥獣戯画の修理完成記念公開を軸に、栂尾高山寺の歴史的性格を示して、鳥獣戯画伝来の背景に迫る。なにより高山寺中興である、釈迦を思慕し、戒を護って厳密(華厳宗・密教)の研鑽に励み、菩提心の堅持と易行化による衆生の宗教的救済に努めた明恵上人の、思想と生涯を関東で紹介する初めての機会。前半では高山寺に所蔵される明恵上人樹上坐禅像(国宝)ほか各種肖像画、仏眼仏母像(国宝・高山寺)、仏涅槃図(重文・浄教寺)、華厳海会諸聖衆曼荼羅(重文・高山寺)、華厳海会善知識曼荼羅(重文・東大寺)、五聖曼荼羅(重文・高山寺)、華厳宗祖師絵伝(国宝・高山寺)と、明恵の信仰世界を明らかにする重要資料がずらり。
 後半は、鳥獣戯画(国宝・高山寺)の甲・乙・丙・丁巻をどっと展示。白描図像の十二神将図像(重文・醍醐寺)、薬師十二神将像(重文・仁和寺)、後期では将軍塚絵(重文・高山寺)なども展示して、鳥獣戯画の様式やモチーフへの理解を助ける。各巻の前には善男善女の行列が十重二十重。鳥獣戯画は、そのユニークな画風とモチーフによって人々を誘い(すなわち菩提心を起こし)、仏菩薩の荘厳な姿(と教え)へと導く宗教装置でもあることを、ミュージアムという「殿堂」に披瀝されたことで明らかになる。明恵上人の寺にあるべき法宝物だなあと、つくづく思う。
 図録あり(336ページ、2700円)。鳥獣戯画、華厳宗祖師絵伝はもとより、三国祖師影(大谷大学博物館)、先徳図像(重文、東博)、高僧像(重文・高山寺)等々が、全巻全図掲載されていることの貴重さ。資料を共有化するというミュージアムの役割は、こういうかたちでも果たされると思う。鑑賞後、当方も、リレートークで「故郷に残る明恵上人のおもかげ」と題して、明恵の故郷である紀州・有田川流域のゆかりの資料についてご紹介。いつか、また、和歌山でも明恵上人に関わる展示をしたいと思う(しかし体がいくつあっても足りない)。

 特集 平成27年新指定 国宝・重要文化財
(4月21日~5月10日)
 恒例の新指定文化財の公開。国宝に指定替えされた虚空蔵菩薩立像(醍醐寺)、弥勒仏坐像(東大寺)、新指定の地蔵菩薩坐像(新町地蔵保存会)の9世紀彫像を堪能。熊本・荒茂毘沙門堂管理組合の二天王立像・毘沙門天立像は、平安時代後期の在銘彫像。静岡・岩水寺の地蔵菩薩立像像内納入品一括は、願文から同像が建保5年(1217)運覚作であることを示すもので、運慶配下の重要仏師運覚の作例がついに見つかった。今回は展示される指定物件も多く、展示室も広いところ。指定資料リストあり。

5月11日
法隆寺大法蔵殿
 法隆寺秘宝展-至宝の世界-
(3月20日~6月30日)
 春秋恒例の法隆寺秘宝展。伎楽面太狐父(重文・奈良時代)、厨子入阿弥陀三尊及び二比丘像セン仏(重文・飛鳥時代)のほか、銅板鋳出三尊像(飛鳥時代)、五重塔伏鉢(奈良or平安後期)、鳳凰文浮彫光背(飛鳥時代)などは法隆寺でなければ全部指定物件。平安仏画の優品である星曼荼羅(重文)のほか、南都の地域性を反映して、春日曼荼羅(鎌倉時代)、明恵所持の伝承を持つ春日鹿曼荼羅(南北朝時代)、赤童子像(室町時代)、長谷寺式十一面観音像(室町時代)などを出陳。重要文化財の五尊像(鎌倉時代)は、円相の中の金剛界大日如来像を中心に、やはり円相内に配された弥勒菩薩像と六臂如意輪観音像を上部左右に並べ、下部左右に牀座に座る聖徳太子像(塵尾と柄香炉を持ち左足を垂下する)と弘法大師像を並べる特殊なもの。聖徳太子を観音・弥勒の化身とする信仰と、聖徳太子が弘法大師の前世であったとする信仰が融合した特殊な別尊曼荼羅で、法隆寺の密教を象徴する作例。彫刻では、龍王立像(重文・鎌倉時代)、不動明王二童子立像(平安時代・南北朝時代)、大正10年(1921)の聖徳太子1300年遠忌法要の際に作製された八部衆面(高村光雲、平櫛田中、山崎朝雲ほか作)も。眼福。出陳資料目録あり。

5月18日
高野山伽藍金堂
 御本尊特別開帳
(4月2日~5月21日)
 高野山開創1200年記念法要に際して開帳中の秘仏金堂本尊(薬師如来、あるいは阿シュク如来)を拝観。昭和9年(1934)、高村光雲作。秋にも開帳の由。あわせて金剛峯寺本堂の持仏本尊弘法大師坐像(江戸時代)も拝観。足を伸ばして金剛三昧院多宝塔内の五仏(重要文化財)も拝観。

5月24日
奈良県立美術館
 特別展 奈良礼讃-岡倉天心、フェノロサが愛した近代美術と奈良の美-
(4月11日~5月24日)
 娘を連れて、最終日駆け込み。明治期における古典美の「発見」と、その近代美術に及ぼした影響を作品を通じて示すとともに、岡倉天心、フェノロサの足跡を紹介。文化財保護の始まりの諸相が、細やかに提示されていて、興味津々。岡倉天心との交友が紹介されていた丸山貫長は曾祖父。娘にそっと「ひいひいおじいちゃん」だよと伝える。図録が完売のため入手できず、残念無念。

飛鳥資料館
 開館40周年記念特別展 はじまりの御仏たち
(4月24日~6月21日)
 飛鳥時代の金銅仏、セン仏、押出仏、塑造片を集める。橘寺出土の火頭形三尊セン仏、山田寺と石光寺の同氾のセン仏、南法華寺(壺阪寺)と川原寺の同氾のセン仏、川原寺裏山遺跡出土塑像、三重県鳥居古墳出土の押出仏など比較的小さな資料ばかりではあるが、初唐様式摂取の様相を意識しながら鑑賞。常設展示にも関連資料多数。図録あり(72ページ、1100円)。

5月25日
春日大社
 第六十次式年造替記念 国宝御本殿特別公開
(4月1日~6月30日)
 造替記念の本殿公開。第一殿と第二殿裏側にある磐座(いわくら)が初公開とのことで、拝観する。実際には岩に真っ白の漆喰が塗られていて、不思議な光景。一部剣形をしたいかにも「宝石」風のところもあって、作っている部分もあるのかも知れないが、磐座が人為的に加工される興味深い事例。若宮の奥の、紀伊社にも御参拝。

6月2日
石川県立美術館
 北陸新幹線金沢開業記念 加賀前田家 百万石の名宝-尊經閣文庫の名品を中心に-
(4月24日~6月7日)
 前田育徳会が所蔵する尊經閣文庫の優品を並べる。日本書紀、三朝宸翰、古今集巻第十九残巻(高野切)、古今集(清輔本)、両京新記、太刀銘光世(名物大典太)、賢愚経残巻、(以上国宝)、源氏物語柏木、枕草子、土佐日記、宝積経要品、古語拾遺(釈無貳本)、荏柄天神縁起絵巻、四季山水図屏風(伝周文筆)、豊明絵草紙絵巻、(以上重文)、等々、ずらりずらり…。歎息。図録あり(216ページ、2500円)

6月14日
神奈川県立金沢文庫
 特別展 平成大修理記念 日向薬師 秘仏鉈彫本尊開帳
(4月24日~6月14日)
 最終日に滑り込む。本堂修復に合わせ、秘仏鉈彫本尊の薬師三尊像が出開帳。中尊は着衣部、脇侍は面部を含む全身に、概ね横方向の鑿目を表して仕上げる。中尊の台座框部にも整然と鑿目を揃えて(縦方向)荘厳していていることからも、鑿目が作者の意図的な技法であるのは間違いなく、かつての未完成品という評価から、現在は霊現付与のための表象方法との判断がなされているところ。造像時期は難問で、緊張を解いた姿勢は平安時代後期の様式ながら、唇を尖らせた風貌、太い耳輪や耳脚の形状、両脚部の厚み、鎬立つ翻波式衣紋と古様が残り、1000年前後とする今回の展示の見解は当面の落としどころ。ほか、近年再評価なされた平安時代後期の十二神将像も展示。地域の古刹の歴史を、仏像を核として叙述しようとする態度に共感する。本堂の修復が完成したら、現地を訪問して、2躯の丈六仏(鎌倉時代)や賓頭盧尊者像(鎌倉時代)も拝観したい。図録あり(64ページ)。

東京都庭園美術館
 フランス国立ケ・ブランリ美術館所蔵 マスク展
(4月25日~6月30日)
 ケ・ブランリ美術館所蔵のアフリカ・オセアニア・アジアの仮面を、旧朝香宮邸内に展示。同館のアフリカ・オセアニアの仮面コレクションは、近代期におけるヨーロッパの人々の異文化へのまなざしと、それらを「収集」して「所有」した経緯から形成されており、現在では構築することが難しい貴重な資料群となっている。こうした仮面を、アール・デコ様式の旧朝香宮邸で展示するとなると、必然的にコレクション形成期における西洋-非西洋の非対称的なまなざしが投影されてしまうことを避けられない。例えば、「プリミティブ」な造形のアフリカの仮面の先に同様に並べられた日本の仮面に接した時の戸惑い(自らもまた収集の対象であることへの気づき)、どこにもヨーロッパの仮面が並んでいない不思議さ(収集の対象でない)、など。ただしかし、図録論考を見るとこうした点は十分に考慮されており、異文化の本質を展示を通じて敬意をもって伝えるという態度で現在的な課題へ対応している。コートジボワールのダン族やバウレ族の精霊仮面、ブルキナファソの動物の精霊仮面、パプアニューギニアのアベラム族の精霊仮面、ネパールのシャーマンの仮面など、早くに収集された仮面と、その研究史の一端を垣間見て学ぶことが多い。図録あり(144ページ、2500円)。ミュージアムショップで販売していたアフリカの仮面のおみやげ品を、同行した子にねだられて購入。異文化への敬意を持って。

6月15日
八尾市立歴史民俗資料館
 大坂夏の陣400年記念特別展 八尾地蔵常光寺
(4月25日~6月15日)
 最終日に滑り込む。八尾郷の中核寺院である常光寺の文化財を公開。本尊の秘仏地蔵菩薩立像は寺外初公開。等身大の、鎌倉時代後期~南北朝時代初期ごろの作例。鎌倉時代前期~中期ごろの堅実な出来映えの毘沙門天立像は、常光寺中興の以心崇伝(金地院崇伝)が一刀三礼して造り、徳川家康の武運を祈ったとする縁起が付随する。以心崇伝により同寺へ移された仏像かもしれない。ほか中世文書など多数。こうした展示を通じて、地域の拠点寺院の歴史を容易に把握できることのありがたさ。図録あり(72ページ、500円)。いつも細かく史料翻刻がなされていて、丁寧。

6月16日
京都国立博物館
 特集陳列 日本の仮面 人と神仏、鬼の多彩な表情
(6月9日~7月20日)
 同館に収蔵されるさまざまな仮面34面をずらりと展示。東寺伝来の十二天面は10世紀に遡る希有な仮面群。ほか行道面では、丹後国分寺の毘沙門天面、桑野本区の菩薩面、久留美神社の王舞面など。翁面は瞼に深い皺が表され、歯が上顎側が左、下顎側が右にのみ表された不思議な表現のものが展示。大きさも大ぶりで、形式化しておらず重要。解説によれば「和歌山橋口の伝来」とのことなので、貴志荘橋口家伝来の伝承が付随するもよう。橋口家仮面伝承は雨を求めて淵の主を退治すると水中より仮面3面が浮かび上がったとするもので、古様な翁面と雨乞い習俗の重なりは極めて興味深いもの。文明7年(1475)銘の猿べし見は、右衛門大夫幸重の作。同じ作者による文明11年(1479)制作の阿吽の鬼神面が宮崎・えびの市の菅原神社にあり、作風も一致する。仮面が語ってくれる微かな歴史に耳を澄ましながら鑑賞。リーフレットあり(A4・4ページ)。

7月18日
高野山霊宝館
 第36回高野山大宝蔵展 高野山の名宝-高野山内寺院所蔵名品展-
(前期7月11日~8月17日 後期8月20日~9月27日)
 恒例の大宝蔵展。高野山内寺院の様々な信仰のあり方を、戦国武将との寺檀関係については、今般修理成った持明院浅井久政・浅井長政・浅井長政夫人像(重文・前期)、成慶院武田信玄像(重文・後期)、清浄心院長尾景虎像(後期)ほかから示し、阿弥陀信仰の広がりは有志八幡講十八箇院の阿弥陀聖衆来迎図(国宝・後期、前期は複製)、西禅院阿弥陀浄土曼荼羅(重文・前期)、清浄心院当麻曼荼羅縁起(重文・後期)、九品曼荼羅図(重文・前期)、南宋仏画の成福院阿弥陀如来像(重文・前期)などから示す。宝城院地蔵曼荼羅(南北朝時代)は、千体地蔵の興味深い絵画作例。密教関連資料としては、正智院仏頂尊勝陀羅尼経(重文・後期)、銅五鈷鈴(重文)、善集院八宗論大日如来像(重文・前期)、金剛峯寺孔雀明王坐像(重文)ほか。図録なし。

7月20日
生駒ふるさとミュージアム
 夏休み特別展示 異界をのぞいてみよう
(7月20日~8月21日)
 法薬寺矢田地蔵縁起并地獄絵図(江戸時代)の大幅を展示。画面上部は矢田寺の縁起、下部に地獄絵を拝する。中央の矢田地蔵は額の鉢周りが大きい面貌で、なんだか平安時代前期風なのが不思議。生駒市の文化財Ⅰに図版掲載。なつかしい。そのほかは妖怪等のパネルのみ。図録なし。

奈良国立博物館
 開館120年記念特別展 白鳳-花ひらく仏教美術-
(7月18日~9月23日)
 近年、政治史の区分により飛鳥時代後期と捉え直され、用語として用いられなくなった「白鳳時代」(7c半ば~710年)の仏教美術を一堂に集め、文化史上の区分としての「白鳳」という枠組みの意義を展示を通じて再検討する。
 薬師寺の聖観音立像(国宝)、薬師三尊像のうち月光菩薩立像(国宝)、東塔相輪水煙及びサツ銘(国宝)という白鳳-天平論争の核となる作例を中心に、膨大な金銅仏・木彫像・塑像・セン仏・押出仏、軒丸瓦・軒平瓦、金属工芸、絵画資料などを集約して白鳳仏・白鳳美術の多様な素材・表現(南北朝~隋唐様式の影響による童形像からインド風の作例まで)の展開を提示することで白鳳様式の独自性を明示し、それにより薬師寺金堂薬師三尊像を白鳳様式のなかに位置づけるという、長い長い論争に正面から立ち向かう挑戦的な展示。
 時期区分としては飛鳥時代後期ということであっても、様式の独自性を区分する用語として美術史・建築史・考古学で使用されてきた「白鳳」の有効性は今日的課題の上においても十分に検証されたといえ、白鳳様式へのまなざしを広げる本展開催の意義は大きい。個人研究ではなく、機関研究としてこそこうした大きな問題に総合的に取り組むことができるといえ、仏教美術史研究の上で奈良博の果たす役割は、やはり大きい。
 林立する仏菩薩の中を歩いていると、美術史の歴史が、また一つの区切りを迎えたその一場面に立ち会っているという実感がわき上がる。美術史学徒はぜひお見逃し無く。図録あり(298ページ、2300円)。

7月27日
石山寺豊浄殿
 重要文化財「石山寺校倉聖教」冊子本平成大修理完成記念展覧会
(7月26日~8月2日)
 石山寺に伝来する膨大な聖教類のうち、重要文化財・石山寺校倉聖教(約2,000点)の中に含まれる冊子本全点の修理完成を記念して、一部を公開。冒頭に淳祐筆の胎蔵私記、朗澄筆の金剛三密鈔を配置して石山寺聖教類の形成過程を示唆しながら、院政期の資料を中心に、修理によって判明した銘記、特殊な綴じ方、料紙の特徴などをパネルとともに紹介する。白点で訓点がうたれる天暦2年(948)書写の妙吉祥教令輪儀軌、油紙に写し取られた釈迦如来坐像図や不動尊図といった白描図像、天養元年(1144)書写の北斗七星護摩秘要儀軌、平安時代中期の一字儀軌など、密教僧の秘伝の数々が眼前に並ぶのは圧巻。修理を担当した坂田墨珠堂が会期中毎日、11時からと13時からの2度解説されるのをはじめ、31日にはシンポジウム「石山寺校倉聖教修理をめぐって」、28日・29日には石山寺文化財綜合調査団団員によるミュージアムトークと、見ただけではどうしても分かりにくい文化財修理の実際について、意を尽くして伝えようとする姿勢に感銘。図録なし。
 石山寺からの帰路、せっかくだから立木観音に行ってみよう!と無謀にも思い立ち、暑い最中、800段の石段をのぼって初参拝。息も絶え絶え。本堂にはいったいどんな立木仏が祀られていらっしゃるのだろうか。興味深い。

8月23日
奈良国立博物館
 開館120年記念特別展 白鳳-花ひらく仏教美術-
(7月18日~9月23日)
 約1か月ぶりの展覧会訪問は、奈良博再訪。興福寺仏頭(国宝)を隣の深大寺釈迦如来像で体部をイメージしながら鑑賞。図録あり(298ページ、2300円)。
 
大和文華館
 特別企画展 中世の人と美術
(8月21日~10月4日)
 中世の人々を描いた肖像、日記、消息、墨蹟等を館蔵品から選択し、一部重要資料を館外から借用。南北朝時代を研究する上での重要史料であり、現在修復作業中の中院通冬(1315-63)の日記『中院一品記』(東京大学史料編纂所)の断簡が、大和文華館双柏文庫(中村直勝収集史料)中の洞院公賢書状紙背に含まれていることから、料紙解体中の『中院一品記』の関連部分を組み合わせて、本来のあり方を復元して展示。おそらく二度とない機会。洞院公賢(1291-1360)つながりで、その公賢が制作主導した石山寺縁起巻五(石山寺蔵・重文)を展示。さらにその絵を担当した粟田口隆光のつながりで、永享5年制作の誉田宗ビョウ縁起下巻(誉田八幡宮・重文)を展示。巻頭の弘法大師の誉田八幡宮参籠(八幡神影向)、神泉苑祈雨部分が開かれる。ほか、笠置曼荼羅図(重文)、柿本曼荼羅図(重文)、日吉曼荼羅図(重文)の3幅が並び、常暁請来目録(重文)は深沙神王条から巻末まで。9月20日にはシンポジウム「文化財を守り、未来へ伝えるために-「中院一品記」修理事業から-」(13:00~16:30)開催の由。図録あり(60ページ、972円)。ただし図録は石山寺縁起巻五、誉田宗ビョウ縁起下巻、中院一品記の修理とその関連研究のみ掲載。

8月25日
原爆ドーム・広島平和記念資料館
 夏休み終盤の子を連れて、用事の途中、原爆ドームと資料館へ。長男の修学旅行が奈良・京都だったので(なんでやねん)、平和学習の機会を家庭で設ける。子に求められ展示図録購入(128ページ、1000円)。台風通過直後で風強し。

8月26日
呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)
 用事を済ませた帰りの道中も、広島へ立ち寄り。初の呉市訪問。海軍工廠としての呉市の近現代史を展観。子も、前日の平和記念資料館と来館者や展示の方向性の違いを感じたもよう。向かいの海上自衛隊呉史料館(てつのくじら館)も見学。

8月30日
越前市武生公会堂記念館
 合併10周年記念特別展 ふるさとの名品-新指定の文化財-
(7月17日~8月30日)
 資料集荷のため移動の途中、立ち寄り。越前市合併後に指定された文化財を、実物とパネルにより紹介。大寶寺阿弥陀如来坐像は平安時代後期風を強く残す穏健な鎌倉時代前期の作例。精緻な截金による装飾に優れ、玉眼が嵌入される。慶長8年(1603)に知恩院より授与された像で、京都の鎌倉時代前期様式の一面を示すもの。引摂寺金銀鍍金菊花文散銅水瓶は、堅実で整った形姿をみせる鎌倉時代の志貴形水瓶。延徳2年(1490)に真盛上人が後土御門天皇より下賜されたもの、という。ほか永泉寺地蔵十王図(鎌倉~南北朝時代)など。図録あり(16ページ、500円)。『たけふの文化財』(184ページ、3000円)も購入。

福井市立郷土歴史博物館
 夏休み企画展 博物館の名品大集合
(7月27日~8月31日)
 夏休みにあわせ、博物館寄託の重要資料をお蔵出し。お目当ての泰澄寺僧形神坐像(伝泰澄大師像)は、もと大虫神社伝来の可能性が高い平安時代前期、9~10世紀ごろの作例。大虫神社の伝塩椎神坐像が同時期の作例であり、関連性に注目される。俗体と法体と捉えたいが、寸法も作風もやや異なる。ほか性海寺地蔵菩薩像(重文)は鎌倉時代の地蔵来迎図の優品。図録なし。松平家史料展示室では企画展「資料が語る幕末という時代」開催(8月26日~10月13日)。

9月1日
東大寺ミュージアム
 特集展示 江戸時代の大仏開眼・大仏殿落慶供養
(8月11日~9月14日)
 石川から京都、奈良を巡る集荷の旅。合間に隙間の時間ができたので、いそいそと立ち寄る。 公慶上人による江戸時代の東大寺大仏と大仏殿再建事業に関わる資料を展示。大仏開眼・大仏殿落慶供養図は六曲一双の屏風。大仏開眼図には輿に載る公慶の姿が、大仏殿落慶供養図には大仏殿完成を待たず逝去した公慶をまつる公慶堂が見える。南都大仏修復勧進帳は近年まで大仏胎内に納められていたもので、巻首に大仏の姿と寸法、勧進沙門公慶の名(自筆)、巻末に過去の勧進造営の歴史と重源の姿が刷られ、中間に勧進に応じた人々の名と布施の額(5文、10文が多い)が記される。まさに一枝の草、一把の土による結縁。図録なし。

9月6日
京都国立博物館
 特別展観 第100回大蔵会記念 仏法東漸-仏教の典籍と美術-
(7月29日~9月6日)
 京都・滋賀の諸本山、仏教系大学、京博のコレクションを駆使して、経典、聖教、祖師の墨蹟、法脈のつながりを示す名宝ばかり、平成知新館1階の彫刻を除く各室にずらりと展観。凡夫(すなわちあらゆる人)にとって、仏宝の存在は、これら法宝と、それらを伝え受け継ぐ僧宝によってしか認知されない。大蔵会はまさしく経典を通じた仏教の顕彰であり、教学の場が集中する京都ならではの催し。自分の直近の仕事に関わる弘法大師関連資料をありがたく拝見。展観にあわせて2階でもテーマを揃えて「京都諸本山の仏画の名宝」「京都諸本山の中国仏画」「禅僧の肖像画-頂相-」「御仏の救済-地獄と浄土-」(全て8月11日~9月13日)を開催する充実ぶり。図録あるも完売。残念。

龍谷ミュージアム
 企画展 三蔵法師 玄奘 迷いつづけた人生の旅路
(8月11日~9月27日)
 三蔵法師玄奘の事績とその顕彰の歴史を、玄奘の天竺(インド)への求法の旅路、その後の膨大な翻訳作業、そして没後の聖人化のあり方を通じて紹介する。断片も含むが敦煌写経やサンスクリットの法華経、ゾグド語法王経など龍大のコレクションを活用して玄奘の見た景色を偲ばせるほか、沙悟浄や猪八戒ほかのキャラクターを使ったパネルや、五天竺図を拡大して床に貼り玄奘の旅路を図示するなど、玄奘三蔵を身近に感じるための工夫を凝らす。また大般若経の請来、訳出とその信仰の広がりのあり方を、釈迦十六善神像、深沙大将像を集めて紹介。見る機会の少ない特殊な玄奘三蔵十六善神図(釈迦三尊の代わりに中央に玄奘三蔵と深沙大将が並ぶ)もまた、大般若経転読の際に使用されたものであろうか。「唐三蔵法師玄奘奉詔訳!調伏一切大魔最勝成就!」と修法の際に訳出者の名が叫ばれる経典は他にはない。図録は薬師寺による発行の『玄奘三蔵と薬師寺』(144ページ、1800円)。龍谷ミュージアム独自の選定資料は未掲載で、根幹部分の展示は今後巡回の由。次会場は平山郁夫美術館「玄奘三蔵と薬師寺の宝物」(10月3日~12月6日)。

9月26日
有田市郷土資料館
 高野山開創1200年記念特別展 ありだのみ仏たち-有田市指定文化財から-
(9月19日~11月1日) 
 有田市内に所在する仏像、仏画、25件を一堂に集めるもので、旧正善寺(里自治会)の聖観音立像は平安時代後期に造られた足のすらりと長い等身大の像。同寺の不動明王立像も平安時代末~鎌倉時代前期(展示では室町時代とする)の等身大の像。どちらも康平五年(1062)銘を有する同寺大日如来坐像(未出陳)とともに伝来した像で、その歴史がほとんど分からない正善寺(もとは浜中荘金剛寺)の重要性がしのばれる。安養寺大日如来坐像は平安時代後期の洗練された作例で、腰帯表現などから奈良仏師の関与が想定される。仁平寺の聖観音立像も、平安時代後期ごろの等身大を超える大作。仏画では得生寺当麻曼荼羅は状態のよい鎌倉時代後期の作例、神光寺仏涅槃図は室町時代初期ごろの作で、元長保寺伝来資料。有田市域の仏像がまとまって展示されるのはちょうど20年ぶり(前回は和歌山県博「有田川下流域の仏像」)で、鑑賞しながら改めて有田川流域の高度な宗教文化の蓄積に思いをはせる。来週末に資料館で行われる担当講演会(演題「有田川下流域の仏像と地域史」)にむけて、新鮮な感動を得て帰る。図録あり(34ページ、500円)。

10月5日
高野山霊宝館
 企画展 宥快・長覚没後600年記念 宝寿院の名宝 
(前期10月3日~11月23日・後期11月28日~1月11日)
 南北朝~室町時代における高野山教学興隆の中心人物であった、宝性院宥快(宝門)と無量寿院長覚(寿門)の没後600年企画として、明治時代に宝性院と無量寿院が合併した宝寿院伝来の名宝を展観。国宝・文館詞林残巻(唐時代・前期)、重文・文殊菩薩像(鎌倉時代・前期)、重文・六字尊像(鎌倉時代・後期)、重文・決定往生集(平安時代・前期)、重文・日本法華験記上(平安時代・後期)、重文・金銅三鈷杵(伝覚鑁所持、平安時代)のほか、至徳元年(1384)祐円作の重文・地蔵菩薩像(前期)は、流れ落ちる滝を配した山水の中に地蔵が坐す、彩色と截金が鮮やかな南北朝時代の重要な基準作例。裏面に紀年銘とともに導師宥快、念誦僧宥信・尊宥・宗有の名が記され、宥快開眼の尊像とわかる。見る機会の少ない宥快・長覚の肖像(絵・彫刻)を拝観。宥快像は右手に紙に包んだ棒状の持物を持つが、その中身は独鈷杵とされるが不明とのことで、事相家の特殊な思想があることをしのばせる。図録なし。

10月10日
島根県立古代出雲歴史博物館
 企画展 百八十神坐す出雲-古代社会を支えた神祭り-
(10月9日~11月29日)
 古代における神祀りの場と神祀りの諸相を、災害、水分、境界など自然環境との関わりから発生した神祀りと古代王権との関わりに注目して叙述。群馬県・宮田諏訪原遺跡、東京都・伊豆大島和泉浜遺跡、奈良県の大神神社や石上神宮、茨城県・鹿島神宮の境内、岡山県・大飛島祭祀遺跡、大阪府・神並・西ノ辻遺跡などなど、全国の神祀りに関する考古学的成果を集め、あわせて出雲地域における「百八十」の神社の数について追求する。島根県・青木遺跡出土品のうちの神像は10世紀後半と穏当な評価。滋賀県・塩津港遺跡出土品の神像も展示。図録あり(158ページ、1620円)。 

島根県立石見美術館
 企画展 祈りの仏像-石見の地より-
(9月19日~11月16日)
 山陰地方(及び中国地方)の仏像を、中央や外国との関わりの歴史を軸にして多数集め、一堂に展観する。新出資料として注目の圓福寺(大田市)十一面観音立像は、カヤと報告される一材から彫出される像高42.1㎝の小像で、異国風(西域風)の細長い頭部、胸飾や石帯の細かな表現、素地仕上げとすることなど、請来檀像をもとにして写された奈良時代の代用檀像。寸胴の体型などは、同会場に出陳される山口県・神福寺十一面観音立像(唐時代、重文)にも似る。会場内を行き来して比較しながら鑑賞。9世紀の出雲市・万福寺四天王立像(重文)に対して、12世紀の益田市・萬福寺二天立像は冠飾や面貌表現などに似たところがあり、表現の影響関係がありそう。また、院豪作の松江市・浄音寺十一面観音菩薩立像(重文)とともに、江津市・清泰寺の文永7年(1270)院豪作の阿弥陀如来立像を並べて前像の製作時期を示唆し、大田市・福城寺の銅製阿弥陀如来坐像、益田市・教西寺阿弥陀如来立像、津和野町・永明寺の元応2年(1320)大日如来坐像といった鎌倉時代の新資料を紹介。正平12年(1357)銘を有する山口県・仏光寺文殊菩薩騎獅像、応安4年(1371)銘を有する益田市・医光寺の釈迦如来坐像など南北朝~室町時代の作例を紹介するのも貴重。外国との関係では、鳥取県・大山寺観音菩薩立像(重文・北宋時代)、江津市・福泉寺観音菩薩坐像(高麗時代)、出雲市・本願寺観音菩薩坐像(高麗寺代)などを集める。仏像と仏像の関係性へ目配りしながら、地域の地理的・歴史的特色を示唆していく展示手法に感銘し、たくさん学ぶ。図録あり(200ページ、2200円)。

10月11日
広島県立歴史民俗資料館
 平成の大修理完成記念 尾道・浄土寺の寺宝展-瀬戸内の精華-
(10月9日~11月23日)
 広島歴博・歴民による浄土寺調査の成果を公開。浄土寺中興の定証(叡尊高弟)が記した嘉元4年(1306)定証起請文から、伽藍再建時の具体的状況を提示。聖徳太子立像(孝養像・重文)は乾元2年(1303)院憲作で、定証が子息の菩提のために造像したことが起請文に示される。阿弥陀如来坐像(重文・未出陳)の脇侍観音菩薩・勢至菩薩立像(パネル)は室町~江戸時代とされるが、鎌倉時代後期の善派系仏師の作風に通じ、起請文に「観音勢至二菩薩立像各一体/金泥行有作光阿弥陀本仏修復之時造副之」とあるのに一致するか。多宝塔安置の大日如来・釈迦如来・薬師如来坐像は、展示では大日を南北朝時代、釈迦・薬師を室町時代とするが、3躯の作風は一致し、ややふくよかな体型など鎌倉末~南北朝初の作風。多宝塔建立の嘉暦3年(1328)が造像の一つの画期と捉えられ、それならば定証没後すぐの造像。文殊菩薩騎獅像は、厨子底板の銘に永和4年(1377)銘、浄土寺僧交名、大工名とともに「奉安置大聖文殊一体南都都波居作」と記され、早くから椿井仏所の作例として知られるが、文殊の側面観、獅子の洗練された出来映えなど鎌倉時代(前期~中期)の作にしか見えない。椿井仏師がうまいのか、それとも別の要因があるのか悩ましい。ほか仏像では金胎の大日如来坐像2躯(重文・平安時代後期)。文保2年(1318)益圓筆の両界曼荼羅図(重文)は、尊像表現に優れた貴重な紀年銘作例。描表装。こちらも定証活躍期のもの。定証は紀伊国出身の真言律僧で、粉河寺近辺に拠点を持つ武士であったらしい(これも定証起請文による)。後期展示の仏涅槃図(重文)の旧軸木に「文永十一年粉河寺僧随覚房生年四十也」(文永11年=1274)とあることも含め、和歌山との連なりを考えながら鑑賞。主催者と異なる私見も述べたが、なんといっても展示公開・情報共有化の機会を作っていただいたからこそのこと。さらなる勉強にはげむことが鑑賞者の務め。図録あり(158ページ、1800円)。浄土寺の全仏像が図版紹介され、極めて貴重。

木山寺
 高野山開創1200年記念事業 木山寺・木山神社の宝物とその歴史
(10月9日~10月11日)
 木山寺開創1200年、木山神社鎮座1200年の記念として、両寺社の調査を継続してきた大阪大学大学院文学研究科招聘研究員中山一磨氏を中心とする科学研究費補助金による展示事業。木山神社奥宮本殿改修事業竣工の祭礼も合わせて行われ、地域をあげての開催。木山寺伝来で、調査によって確認された棟札、古記録、古文書、聖教類を客殿内に展示。また普段は岡山県立博物館寄託の遣迎二尊十王十仏図(鎌倉時代・県指定)、阿弥陀三尊十仏来迎図(南北朝~室町時代・県指定)など仏画も展示。合わせて木山神社奥宮に安置され、社殿改修に際して平成25年に調査され、新たに見出された神像10躯が公開。作風が共通する鎌倉~南北朝時代とされる6躯は、俗体男神坐像2躯(趺坐・倚坐)、法体男神坐像、俗体男神立像2躯(随身?)鬼神立像からなる群像。製作時期の判断が難しいが、貴重な中世の神像にまみえることのできた奇跡。今後、図版やデータの紹介がなされることを切望。木山寺本堂の諸像、木山神社随身門の応安3年(1396)定祐作門客人(随身)立像も拝観。展示資料キャプション集(30ページ、200円)、江戸時代の版木から刷った境内絵図(1000円)入手。科研に関わる研究者が結集して会場整理されており、神仏習合研究の権威から資料解説を受ける贅沢。開催にあたってのご苦労も多かったろうと思うが、研究活動の地域へのフィードバックとして、そして速報的な情報共有化の場として、とても貴い実践活動。

10月18日
大津市歴史博物館
 企画展 比叡山-みほとけの山-
(10月10日~11月23日)
 開館25周年記念企画として、同館が継続して実施してきた調査の蓄積をもとに、比叡山及び周辺地域の仏教文化の諸相を紹介。注目される新資料として、大津市木戸・西方寺十一面観音坐像は木心乾漆造の奈良時代の作例。台座蓮肉部(現状その上部のみ残存)を共木とする。肉身の立体把握、着衣形式、衣紋の細部表現など、後世の奈良仏師が影響を受けた作風を目の当たりにする。大津市仰木地区某所伝来の菩薩立像はエキゾチックな風貌の平安時代初期の檀像彫刻。華やかな冠飾、花をつなげた条帛状の飾り、腰帛といった特殊な形式的特徴を持つ。腰帛は北九州の仏像に類例があることを解説で指摘。腕釧、冠の瓔珞には当初の銅製部品が残る。神像でも、大津市和邇中・天皇神社の男神坐像は、顎髭を蓄えた厳しい風貌で、同社祭神の牛頭天王というより、豪族の祖霊神像というにふさわしい大作。袍の合わせを着崩してはだけるという類例のない着衣。苦悩する神の表象なのか。その他オーソドックスなものから、特殊な図像的特徴を持つものまで、他地域との影響関係を想起させる重要な仏像多数。こうした資料が着実な調査の中で次々に見出されることこそが、まさしく本展の目指した比叡山という宗教的場の持つ求心性・発信性を象徴的に示しているといえる。また、叡山文庫の全面的協力で比叡山に関わる古文書・絵図・典籍もずらり展観し、あわせて開催中のミニ企画展「阿娑縛抄」(10月14日~11月23日)でも、叡山文庫・天海蔵本、同・真如蔵本、元山上正教坊伝来で明治時代に西教寺に寄進された正教蔵本、及び旧山上行泉院伝来の行泉院本(博物館保管)の4セットを、経巻のボリュームと、伝来のあり方も示しながら展示。宗教テクストの生成・伝達によって築かれる「総合大学」としての比叡山の重要性を提示する。図録あり(160ページ、1500円)。

茨木市立文化財資料館
 テーマ展 龍王山をめぐる信仰と人々-山岳寺院の軌跡-
(10月17日~12月14日)
 北摂山地のランドマークの一つであり、七高山の一つ神岑山(かぶさん)に比定される竜王山の宗教的場と伝来資料を紹介する。大門寺の熊野十二所権現立像は、近年の市史編纂で見出された新資料で、各30㎝ほどの阿弥陀・薬師・釈迦・大日・聖観音・十一面観音・如意輪観音・龍樹菩薩・男神3体・金剛童子からなる本地仏形と垂迹神形が入り交じった12躯の群像。現状の名称比定など混乱もあるようで、本来、立体の本迹曼荼羅を形成した一部なのかもしれない。鎌倉時代末~南北朝時代初期の造像。今後の熊野信仰研究の上で重要な資料となるもの。ほか大門寺、忍頂寺の仏像をパネルで紹介。図録あり(22ページ、200円)。

10月25日
歴史に憩う橿原市博物館
 企画展 顔、カオ、かお-顔面表現の考古学-
(10月10日~11月29日)
 顔が表現された考古資料を集める。桜井市大福遺跡出土の仮面状木製品は、全体の3分の1を残す板に片方の眼と紐穴があり、下方の欠損部分を口の輪郭の一部と見なされている。上部の縁を削る加工痕があり、やはり鋤等の転用か。コウヤマキ製で2世紀後半。最古の木製仮面と思うけれど、表記ないのであっさりと展示。奈良市菅原東遺跡出土の仮面は室町時代のものと報告される。土中して変形したのか、現状では板状で、鼻は欠落して穴があき、顎は切顎にみえなくはない。額に皺は確認できる。黒色尉といえばそうであるけれど、遺構の性格が分からないと位置付けが難しい。ほか頭蓋骨とそれからの複顔の資料など。図録なし。

奈良県立橿原考古学研究所附属博物館
 特別展 人物埴輪創生期-人のかたちの埴輪はなぜ創られたのか-
(10月3日~11月23日)
 人物埴輪の発生と展開に関する研究の最先端を、関西圏の重要資料を一堂に集めて提示。盾埴輪から、武人をともに表した盾持埴輪への展開の中で、人物埴輪が成立したことを明確に示し、その最初期の遺物である桜井市・茅原大墓古墳出土の盾持埴輪を展示。西暦370年前後の製作とされ、形式化していない初発性の高さを指摘する。入れ墨(or化粧)を施した板状の面部は、飛躍するようだが、縄文時代の土面と表現も製作技法もかなり近いように見える。橿原市・四条2号墳の力士埴輪(西暦475年ごろ)は、耳の造形がかなり具象的。大和高田市・池田9号墳の靫負埴輪(西暦475年ごろ)でも頭髪や美豆良のかたちの再現性は高い。眼・口を穴で表現するという形式が強固であって画一的に見えるが、耳や鼻には個性がでるもよう。埴輪製作者の顔貌表現へのまなざしは、人物埴輪発生からの100年間で随分進化していることを理解する。図録あり(104ページ・700円)。

11月7日
奈良国立博物館
 第67回正倉院展
(10月24日~11月9日)
 恒例の正倉院展。伎楽面をじっくり。銀泥が塗られた力士の目と歯の、かつての輝きを想像する。聖武天皇遺愛の七条褐色紬袈裟は、金剛智三蔵所持品と伝わる。金剛智所持の伝を肯定的に捉える研究があり(児島大輔「金剛智の袈裟」『奈良美術研究』8、2009)、唐時代の(触れば穴があきそうな)軽やかな羅の袈裟が、そのまま健全に残る奇跡を目の当たりにし、心震える。図録あり(144ページ、1200円)。
 
京都府立山城郷土資料館
 特別展 南山城の神社と祈り
(10月10日~11月29日)
 南山城の神社にまつわる文化と文化財を紹介。神像は石清水八幡宮、松尾神社(木津川市)、旦椋神社(城陽市)から、小像も含め22体。神事の能に関わる資料として、方堅めの儀式に猿楽が出仕した初見資料である文永9年(1272)高神社流記、翁猿楽に関わりその楽頭職を有した長命家に関する資料、長命茂兵衛家伝来の三番叟面など興味深い資料多数。ほか西福寺(井手町)の神道灌頂関連資料など。図録あり(48ページ、400円)。

海住山寺
 海住山寺文化財特別公開
(10月31日~11月15日)
 木津川市2015秋の社寺秘宝・秘仏特別開扉事業に連動した特別公開。五重塔(国宝)初層内陣を拝観したのち、本堂で、本尊十一面観音立像(重文)、檀像の十一面観音立像(重文)、四天王立像(重文)のほか、法華経曼荼羅図(重文)、元時代の地蔵十王図、春日曼荼羅十六善神図などを間近に拝観。境内の高台から平城京を見晴るかす。寺宝図録『海住山寺の美術』(96ページ、1300円)入手。

観菩提寺(正月堂)
 三十三年に一度の公開 秘仏本尊十一面観世音像御開帳
(11月1日~11月8日)
 伊賀市島ヶ原の観菩提寺本尊ご開帳。周辺に広がる山村と寺院の景観に心洗われながら、善男善女が多数集まる本堂内陣拝観。本尊像は特殊な六臂十一面観音立像で、素木(檀色)仕上げとする。「森厳神秘にして威相に近く、偉丈夫の相をなし」(井上正「観菩提寺十一面観音立像について」『学叢』5、1983)た風貌に、安置され続けてきた中世の堂内で相まみえる喜びに、心震える(今日2度目)。9世紀の本像を始め、本尊左右の2躯の天部像(作風異なるがともに10c。奈良博だより95号収載の笠置町法明寺の天部立像とよく似る)、後方右側の観音菩薩立像(12c)、十一面観音立像(11c)、左側の2躯の十一面観音立像(10~11c、12c)のほか、仁王門後方の二天立像(10~11c)と、重要な平安時代彫刻がずらり。結縁できて本当によかった。

11月15日
高槻市立しろあと歴史館
 特別展 大阪の修験と西方浄土-神峯・葛城山と日想観の山寺-
(10月3日~12月6日)
 修験と日想観を切り口に、大阪府下の山岳寺院の聖地性を、環境・縁起・仏像等を通じて紹介する。紹介寺院は、和泉・葛城山系では七宝瀧寺、交野山廃岩倉開元寺、河内往生院、北摂山系では神峯山寺、本山寺、安岡寺、霊山寺、金龍寺、安満山。神峯山寺聖観音立像(重要文化財)は平安時代、11c前半ごろの作例で、一具同作といってよいほど類似する滋賀県栗東市、金勝山麓・大野神社の十一面観音立像のパネルを並べる。山寺のネットワークと仏師の活動圏の広がりを示すものか、あるいは後世の移動か、興味深い。ほか、本山寺不動明王立像(平安末~鎌倉初)、愛宕念仏寺千観内供坐像(重要文化財)など。図録あり(80ページ、500円)。

大山崎町歴史資料館
 企画展 河陽離宮と水無瀬離宮
(10月24日~11月29日)
 大山崎に設けられた嵯峨天皇の河陽離宮、後鳥羽上皇の水無瀬離宮について、近年の考古学的成果を中心に紹介。水無瀬神宮の後鳥羽天皇像(重文)の原本展示は11月8日で終了しているが、同神宮所蔵の延応元年(1239)後鳥羽天皇宸翰御手印置文が展示。私の死後の救済を弔えという近臣藤原信成・親成への遺言が、手印により生々しく立ち上がる。ほか、大念寺阿弥陀如来立像納入品の種子月輪牒と未敷蓮華は、後鳥羽院皇子道覚法親王と証空の名があるもの。本体(未出陳)は他の納入品から仁治4年(1243)造立と想定される、真正極楽寺本尊像(平安時代)を模刻した像(『日本彫刻史基礎資料集成 鎌倉時代6』収載)。図録あり(33ページ、800円)。

八幡市立松花堂美術館
 特別展 ようこそ、神と仏の男山へ-石清水八幡宮太子堂の遺宝-
(11月7日~12月13日)
 かつて石清水八幡宮境内の太子堂に伝来した南無仏太子像ほかの重宝は、神仏分離の際に膳所藩士眞田武左衛門に譲られ、その後裔が継承し続け、現在は大津市の国分聖徳太子会が保存・顕彰している。それら文化財を近年の調査成果をもとにして展示公開する。南無仏太子(滋賀県指定文化財)は像内銘により元亨元年(1321)、仏師法眼宗圓の作と分かり、またこの年は聖徳太子七百回忌にあたり、石清水八幡宮の太子信仰の痕跡を捉える上で重要。ほか、江戸時代初期の多宝小塔とその像内安置小仏像、貞和3年(1347)奥書のある紺紙金字法華三部経など展示。
 関連資料として、石清水八幡宮所蔵の銀造童形倚像を展示。同像は近代以降は聖徳太子像とされるものの、尊名、製作時期に諸説あるが、若宮神像のもよう(福地佳代子「八幡若宮に対する一考察-石清水八幡宮所蔵の童形像を通じて-」『東北福祉大学研究紀要』32、2008年)。鎌倉後期、あるいは近代とされる製作時期は悩ましいが、平安時代末ごろでもありえるのではなかろうか。いずれにせよ興味深い作例。図録あり(44ページ、1200円)。

11月18日
埼玉県立歴史と民俗の博物館
 特別展 慈光寺-国宝 法華経一品経を守り伝える古刹-
(10月10日~11月23日)
 国宝法華経一品経全三十三巻の修理完成を記念し、所蔵文化財の悉皆的調査に基づいた最先端の慈光寺史を提示する。ずらりと並ぶ鎌倉時代を代表する装飾経である法華経が圧巻(前後期でおおよそ半数ずつ展示替え)であるが、そうした経典が収蔵され維持され伝来した場としての慈光寺の中世・近世を、資料を通じて少しでも解明しようとする意図が明確。古様な形式を持つ平安時代後期の観音菩薩・勢至菩薩坐像、鎌倉時代前期の宝冠阿弥陀如来坐像(以上2件は『国華』1401(2012年)に報告あり)、寛元3年(1245)「天台別院慈光寺」銘のある梵鐘(複製)や永仁3年(1295)「慈光寺聖僧大聖文殊」銘のある僧形坐像(複製)、徳治2年(1307)銘のある金銅密教法具(重文)など、中世前期の慈光寺の勢力の大きさを偲ばせる。ほか、貞観13年(871)書写の大般若経(重文)も展示。常設展示に復元されている高さ5mの慈光寺開山塔も拝観。すごいお寺だとしっかり理解する。図録あり(80ページ、800円)。

五島美術館
 特別展 一休-とんち小僧の正体-
(10月24日~12月6日)
 一休宗純(1394~1481)の頂相、墨蹟、師僧との関係、目にしていた典籍類をずらりとならべてその歴史的実像を提示する一方、近世~現代において構築された一休イメージの形成と展開の諸相を細かく披瀝することで、破格の禅僧の実像と虚像の交ざりあった魅力に迫る。少林寺の朱太刀の一休宗純像(享徳元年<1452>)、真珠庵の円相の一休宗純像(康正3年<1457>)、東博の半身の一休宗純像、酬恩庵の半跏の一休宗純像、正木美術館の一休宗純・森女像等々、一堂に並ぶことで得られる情報は多い。全ての賛などの文字情報を翻刻して提示するのも作品理解を大きく助ける。副題は柔らかいがとても硬派な展示。図録あり(232ページ、2500円)。

11月23日
 慈尊院
 木造四天王立像公開
(9月12日~12月6日)
 秘仏本尊弥勒仏を守護する四天王立像(鎌倉時代前期・和歌山県指定文化財)の特別開帳。資料返却にあわせてご拝観。
 
11月29日
熊本県立美術館
 特別展 ほとけの里と相良の名宝-人吉球磨の歴史と美-
(10月14日~11月29日)
 最終日に滑り込み。人吉球磨地域の日本遺産認定を記念して、古代~中世の同地域の歴史と仏教美術を紹介。中山観音堂の聖観音菩薩立像は、すらりと長身で胴の絞られた、北部九州に類似作例が見られる平安時代前期彫像(カツラ材)。新たに重文指定された勝福寺跡毘沙門堂の毘沙門天立像(カヤ材)・天部立像(ヒノキ材)のうち毘沙門天像には久安3年(1147)銘、同堂本尊の巨大な毘沙門天立像(クス材)は久寿3年(1156)銘。ほか在銘資料多数。多良木町長運寺(ないし西光寺)伝来の釈迦如来坐像は大治5年(1130)銘、城泉寺阿弥陀堂の阿弥陀三尊像(重文)は寛喜元年(1229)銘。弘法大師の在銘資料として、下里大師堂像は応永7年(1400)銘、槻木大師堂像は応永19年(1412)銘、等々。相良三十三観音の寺々からは、栖山観音堂の千手観音立像(平安後期)や宝陀寺観音堂の十一面観音立像(鎌倉後期)など大きな仏像も積極的に紹介。
 貴重な在銘資料によって様式の基準点を示し、それとの関係によって地域の仏像を評価していく仏像研究の王道というべき方法を背景に、そうした仏像を地域史理解のための資料として位置付け、他の史料と関連させながら展示することで、地域史像を緻密に明らかにさせた労作。熊本県立美術館と、八代市立博物館、熊本学園大学、崇城大学、熊本城調査研究センター、あさぎり町・多良木町・人吉市の各教育委員会ほかの県内研究者の共同作業としての成果でもあり、美術館という枠組みをはるかに超えた活動によって、美と知の殿堂を実現されているのを目の当たりにし、頭が下がる。図録あり(288ページ、2500円)。

九州歴史資料館
 特別展 四王寺山の1350年-大野城から祈りの山へ-
(10月24日~12月6日)
 古代山城大野城が築城された四王寺山(大野山)を巡る古代~近代までの歴史を資料を通じて叙述する。四王寺山の聖地性を象徴するものとして、多数の経塚埋納品がずらり。宇美八幡宮・石造如来形立像(重文)は滑石製、平安時代後期の作。伝四王寺山出土の銅製瓔珞付経筒の、平安後期の瓔珞に見入る。仁治元年(1240)創建の臨済禅の拠点、崇福寺跡出土の陶製地蔵菩薩坐像(南北朝~室町)は、同氾の像が九州北部で多数確認されるものと知り、興味津々(左手宝珠、右手与願印、袈裟と裙裾が垂下)。大須観音宝生院の新発見栄西自筆書状断簡(改偏教主決・重修教主決)が、四王寺山南東麓原山無量寺の僧との論争のものと学ぶ。ほか、大分県・安国寺の足利尊氏坐像(重文)、北野天満宮の日本書紀巻第二七(重文)等々、重要資料を積極的に集めて学ぶこと多し。図録あり(188ページ、1000円)。

九州国立博物館
 開館10周年記念特別展 美の国 日本
(10月18日~11月29日)
 最終日の閉館間際に滑り込み。同館開館記念展とあえて同名として、日本の「古くからアジア諸地域との文化交流のなかで独自の美を育んできた歴史」(図録「ごあいさつ」より抜粋)を紹介。空海筆金剛般若経開題残巻(京博)、最澄筆久隔帖(奈良博)、十一面観音像(奈良博)、釈迦如来像(神護寺)、十二天像(京博)、重源上人坐像(東大寺)などの国宝の数々をありがたく拝見しつつ、やはり九州でまみえる栄西筆誓願寺盂蘭盆縁起(誓願寺)、四王寺山出土青釉経筒(九博)、長崎県清水寺の不動明王三童子の巨幅、那覇市歴博の玉冠等が場につきづきしく、新鮮な思いを抱く。戦後70年を経た現代において「日本の美」の「独自性」を提示するとすれば、それは日本列島の各地域の美の「独自性」を把握し、その相互の関係性を細やかに、等価値的に捉えるなかで、中央(洗練)-周縁(非洗練)という中央集権的な枠組みのみに留まらない多様な美のかたちを視野に入れる必要がある。同展でアイヌ・琉球の文化財を取り上げるのもその文脈であるが、東アジア諸国との交流の窓口という九州の地理性を基盤においた同館のこれまでの10年の展示と研究活動の蓄積を、もっともっと盛り込むことができれば、「アジア諸地域との文化交流のなかで育んできた九州国立博物館の独自の美」の提示につながったのではないかとも思う。図録あり(256ページ、2500円)。

12月1日
大阪大学総合学術博物館
 企画展 金銅仏きらきらし-いにしえの技にせまる-
(10月24日~12月22日)
 平成25~28年度科研費基盤研究(A)「5~9世紀東アジアの金銅仏に関する日韓共同研究」(研究代表者藤岡穣)の研究成果報告展。蛍光X線を用いた金銅仏の成分分析により製作地(場合により製作時期)を判定するという、金銅仏研究の未来をがらりと変えうる最新の研究手法。実際に調査を行った東京藝術大学所蔵の金銅仏群(全29躯)を核に、大阪市立美術館、逸翁美術館に所蔵される中国・五胡十六国~明、朝鮮半島・三国~高麗、チベット、日本・飛鳥~鎌倉時代の金銅仏がずらりと並び壮観。最も重要な成果として、初公開の京都・某寺所蔵の如意輪観音半跏像(展示期間:12月1日~12月14日)は、像高50.4㎝と大型の作例で、髻頂部の宝珠や瓔珞根元の獣面、肩にかかる三束の輪状の垂髪、耳朶底部の切り込み表現、水平に重ねる髪際の毛筋、紐で吊り下げる着衣等々が、南朝及び百済の作例に類例が見られることを緻密に提示し、また錫が1割ほど含まれる成分も朝鮮半島の仏像の傾向と合致することから、朝鮮・三国時代(7c)と結論づけている。装飾性豊かで完成度の高い本像の出現は、朝鮮半島の金銅仏研究の上で、またそれとの影響関係によって考えられる日本古代彫刻史研究に影響を与えるものであり、今後無視できない重要資料といえる。同様に、パネル展示であるが兵庫県・慶雲寺の本尊如意輪観音半跏像像についても朝鮮・三国時代の制作と位置づける。従来、類似資料がなく判断が難しいため等閑視されていた個性的な金銅仏を、こうした萌芽的な最新の研究手法により果敢に評価しえたことは、同手法の今後の可能性を大きく広げるものといえる。鋳造方法を紹介する資料やパネルも親切で、鋳造資料の魅力を伝える好企画。図録として、出陳全作品を掲載した科研報告書(56ページ、無料)を配布。

12月4日
遊行寺宝物館
 特別展 国宝 一遍聖絵
(10月10日~12月14日)
神奈川県立歴史博物館
 特別展 国宝 一遍聖絵
(11月21日~12月13日)
神奈川県立金沢文庫
 特別展 国宝 一遍聖絵
(11月19日~12月13日)
 遊行寺宝物館リニューアルを記念した、一遍聖絵全巻公開展。ただし単なるお祝いではなく、神奈川歴博、金沢文庫と連携することで展示面積を広げ、絵巻を長大に鑑賞する展示環境を整えるとともに、多くの研究者の知見を結集させることで一遍聖絵研究の到達点を引き上げ、それをただちに共有化して研究環境をも整えた一大プロジェクトであり、これからのミュージアムの理想的な連携のあり方を実現している。
 絵巻物という資料の性質上、展示替え・巻き替えが多いものと思っていたが、遊行寺宝物館では巻1、神奈川歴博では巻4,5,6,10、金沢文庫では巻2,8を全巻公開するなど、制限を極力減らし、来館者の「見る」ことへの渇望にしっかりと寄り添っている姿勢も、開かれた公共の場としてのミュージアムにつきづきしい。
 一気に十二巻を鑑賞することで眼が慣れ、各場面や詞書きの差異に気づくとともに、単体で鑑賞していると「名所図」的に捉えがちな諸国の聖地の連なりが、マジカルアイテムとしての縁起を形づくるための一種の作法(諸国を踏みしめ地固めをし祝福する)をあらわすようにも見えてくる。一遍の実像は、まさしくその生涯を叙述した縁起からもたやすくは見えてこないという事実を、しっかり確認する。図録は、3館統一の図録(232ページ、2000円)と、金沢文庫独自の図録(80ページ、1000円)の2種類あり。これは必携。

12月16日
東山寺
 仕事帰りに立ち寄り。石清水八幡宮護国寺旧本尊の薬師如来立像(平安時代初期・重文)、日光・月光菩薩立像(江戸時代)、十二神将立像(平安時代後期・重文)をご拝観。

12月19日
京都国立博物館
 新春特集陳列 さるづくし-干支を愛でる-(12月15日~1月24日)
 特集陳列 獅子と狛犬 (12月15日~3月13日)
 名品ギャラリー 地蔵と十王像 (12月15日~3月21日)
 刀剣を楽しむ-名物刀を中心に- (12月15日~2月21日)
 京博収蔵品をフル活用した諸展示を堪能。「さるづくし」では壬生寺の壬生三面、「獅子と狛犬」では個人所蔵で東寺伝来の獅子・狛犬(9世紀)一対、「地蔵と十王像」では常念寺の富士山仏師珍慶作の十王・司命・司録・奪衣婆像を主体に鑑賞。「刀剣を楽しむ」は、朝一番から大行列。ただし2列目からの鑑賞は自由なので混乱なし。刀剣展のキラーコンテンツっぷりをようやく実見する(遅っ)。

京都文化博物館
 日本のふるさと 大丹後展
(12月5日~1月17日)
 丹後地方の古代から現代までの歴史と文化を、交流・伝説・霊地・生産の各章により紹介する。事業継続中の京丹後市史編纂の成果をベースに、京都府立大学教員が多数参画して学術面での信頼性を担保した真面目な展示で、いわば「(仮称)京丹後市立博物館」の通史展示のプロトタイプといったおもむき。第2部の「伝説」では、浦島太郎、羽衣伝説、大江山鬼退治、麻呂子親王伝承を伝える資料群を集め、清園寺縁起(清園寺・府指定)、等楽寺縁起(竹野神社)、松尾寺参詣曼荼羅(松尾寺、前期)、成相寺参詣曼荼羅(成相寺、後期)等の室町時代の縁起類が多く有益。仏像では成願寺薬師如来坐像(12c、府指定)を展示。同寺は麻呂子親王造像の七仏薬師安置の伝承を伴うが、同像は法界定印を結んで薬壺を執る特殊な図像の薬師如来。ほか、籠神社の鎌倉時代と室町時代の扁額、大宮売神社の鎌倉時代の扁額が並ぶのも迫力あり。展示の締めは丹後縮緬。図録あり(146ページ、1000円)。

龍谷ミュージアム
 アンコール・ワットへのみち-ほとけたちと神々のほほえみ-
(10月10日~12月20日)
 コレクター所蔵品によるヒンドゥーの神々や仏教の仏菩薩諸天等のアンコール彫像を、時代・地域の様式区分に基づいて系統的に展示する。比較作例としてタイ・ミャンマーの作例も取り上げ、東南アジア彫刻史研究の「王道的」な成果展といった内容。6~7cのインド彫像の強い影響のもと作られた古典的整斉ある彫像が、強い規範性を持ちながら官能性を増やし、写実味あるバイヨン様式へと展開する経過を学ぶ。会場に整然と林立する100㎝内外に大きさがそろった彫像群は、まさしく美術史的まなざしによる体系だった収集(コレクション)の賜物であるが、また必然的に、その行為の背景に潜むさまざまな暴力性(西洋による非対称的な調査と接収、クメール・ルージュによる非人間的な暴力統治、その後の混乱期の非倫理的な盗掘犯罪)の歴史をもまとっていることを、思わずにいられない。会場最後のパネルに、これら資料群を通じての多様性へのまなざしと世界平和への祈念が表明されており、神と仏の微笑みにようやく救われた気持ちになる。図録あり(192ページ、2300円)。今後、姫路市書写の里・名古屋市博・東北歴博に巡回。

12月22日
大阪府立狭山池博物館
 ボランティア企画展 片桐且元-ともに語ろう夢のあと ともに歩もう作事の跡-
(12月19日~1月24日)
 片桐且元の没後400年展として、同館の市民ボランティア「且元集額会」による15か月の準備期間に基づく展示。実物資料はほぼ取り扱わない写真パネル展示であるが、豊臣秀頼の膨大な寺社作事と水利事業において奉行を勤めたその足跡を紹介する。河内、和泉、大阪市内、京都、奈良の関連諸寺社ほかを巡って調査された成果は、そのまま冊子にできる整った構成となっており、感服。脆弱な資料を取り扱うことや、限られた実物資料から文脈をつなげて歴史を立ち上げる作業は専門的なスキルが必要で、市民参加型展示の場合のネックとなるが、その点で、調べたものをまとめてパネル展示とする本展のスタンスは堅実。ただしチラシにほぼパネル展示であることを示すことも大切。図録なし。

金剛寺鎮守丹生高野明神社(河内長野市)・南近義神社(貝塚市)・蟻通神社(泉佐野市)
 片桐且元が奉行となって造営した天野山金剛寺の伽藍は、現在平成の大修理中。五仏堂の五智如来坐像(重文)、宝物館の多宝塔本尊大日如来坐像(重文)、五秘密曼荼羅(重文)、阿観・阿鑁像ほかを拝観し、境外の鎮守丹生高野明神社参拝。高野山僧阿観によって承安3年(1173)勧請。現社殿は慶長11年(1606)の建立で、府指定文化財。麓に新しい社があるためか参拝者はほとんどないようで、参道はかなり荒れる。丹生明神つながりで、次に南近義神社(貝塚市王子)参拝。中世天野社領近木荘の荘鎮守。近木荘は元寇(モンゴル襲来)時の丹生高野明神の戦績により弘安7年(1284)に報償として寄進された荘園。最後に蟻通神社(泉佐野市長滝)参拝。丹生高野四社明神の第三殿は、近世半ばまで実は蟻通神であった。ただし和泉長滝荘の蟻通神でなく紀伊渋田荘の蟻通神で、両蟻通神社の関係は不明。第三殿祭神はのち気比神に変わる。

1月
展覧会鑑賞なし。

2月13日
あべのハルカス美術館
 長谷寺の名宝と十一面観音の信仰
(2月6日~3月27日)
 長谷寺一山内に伝来した文化財と、末寺の文化財を集めて展観する。長谷寺本尊、天文7年(1538)造像の巨大な十一面観音立像(像高1048.0㎝)の脇侍である難陀龍王立像(重文、像高199.0㎝、正和5年(1316)、舜慶作)と、雨宝童子立像(重文、像高164.9㎝、天文7年、運宗他作)を寺外初公開とするほか、錫杖を持ち方形台座(金剛宝盤石)に立つ長谷寺式十一面観音像を集める(8躯)。そのうち乙訓寺十一面観音立像は鎌倉時代末期の等身大の像で、護持院隆光により秋篠寺より移されたもの。ほか長谷寺法華経(国宝)、銅板法華説相図(国宝)、高雄曼荼羅図像(重文)、当麻曼荼羅(重文)、興教大師像(県指定)、岡寺如意輪観音半跏像(重文)、宝厳寺法華経(国宝)、能満院春日浄土曼荼羅(重文)や、承応2年(1653)観世重清奉納の繋馬図絵馬や長谷寺牡丹品種画帖などをずらり。図録あり(144ページ、2000円)。

2月23日
奈良国立博物館
 特別陳列 お水取り
(2月6日~3月14日)
 東大寺二月堂修二会の時期にあわせた恒例のお水取り展。天文14年(1545)制作の二月堂縁起2巻を長めに展示。東大寺の勧進に用いられたとみられる絵画資料で、図録には上下巻全紙を図版紹介する。ほか、二月堂修中料理板(文化18年〔1813〕)や参籠宿所の堂司宿所にに掛ける掛板(江戸時代)、二月堂牛玉関連資料(江戸時代)など、美術資料だけでなく、修二会執行を支えてきた歴史資料(民俗資料)をずらり。奈良の歴史を顕彰し浮かび上がらせる同館のコンセプトが明確。図録あり(72ページ、1300円)。

 特別陳列 銅造伊豆山権現像修理記念 伊豆山神社の歴史と美術
(2月6日~3月14日)
 伊豆山神社の銅造伊豆山権現像の像表面を覆っていた厚い錆を、奈良国立博物館・奈良文化財研究所が連携して除去・安定化した修理の完成を記念して、同社にまつわる文化財を展観。伊豆山権現像の錆は特に面相部に厚く発生していたが、造像当初の凛々しく威厳のある風貌が顕わとなり、像自体の評価も再検討が可能となった。今後、鎌倉時代後期、13世紀後半とする本展での評価を基準として、さまざまな歴史的背景と接続させながら、伊豆山神社の鎌倉時代を考える新しい手がかりとなるだろう。X線CTによる調査成果も、中世鋳造像研究の上で貴重。そしてなにより、伊豆山神社本殿奥宮殿東の間に安置される、像高212.2㎝の男神立像を展示する大迫力の空間に圧倒される。本像については、平安時代後期成立の『走湯山縁起』に、康保2年(965)に講殿に安置された「権現之像一体高六尺」に相当するという可能性が提示されたのも極めて重要。ほか同社伝来の、明徳3年(1392)銘を有する銅製伊豆山権現立像、明徳5年(1394)周慶作の男神・女神立像など立像神像が群立し、神像研究の上で見逃せない。図録あり(64ページ、1000円)。

神戸市立博物館
 特別展 須磨の歴史と文化展-受け継がれる記憶-
(2月6日~3月21日)
 須磨地域でで育まれた文化の諸相を総合的に展示。仏教美術では、福祥寺(須磨寺)の十一面観音立像(重文)は鎌倉時代中期の素木像。釈迦如来坐像(南北朝時代)は等身大の作例で、延文5年(1360)須磨寺火災後の復興像の可能性が指摘される。禅昌寺十二面観音坐像は、像内納入の木札(慶安2年〔1649〕)にその特殊な尊名とともに、明徳3年(1392)11月1日の造像を示す記述がある。南北朝時代最末期(~室町時代初期)における重要な新資料。現光寺元三大師坐像は建保6年(1218)造像の作例。ほか、中世の仏画や工芸資料など多数。須磨の地域史の具体像を文化財を通じて示すとともに、須磨という場の持つイメージの生産/再生産の歴史にも目配りして、地域の歴史の重層性を丁寧に紹介する力作。図録あり(195ページ、2400円)。

 企画展 四季山水図屏風重要文化財指定記念 太山寺展
(2月6日~3月21日)
 狩野正信筆四季山水図屏風の指定と、平成28年(2016)に開山1300年を迎えることを記念して、太山寺伝来の仏教美術をずらり展観。不動明王立像(平安時代後期)は膝を出してやや歩みを進める特殊な姿の像。伝三所権現像は白山・熊野・吉野の三所権現と伝わる平安時代後期の神像。ほか両界曼荼羅図(鎌倉時代)、法華曼荼羅図(鎌倉時代)、楊柳観音像(高麗時代)など重文指定のものを含む仏画がずらり。1993年発行の「太山寺の名宝展」図録(152ページ、2000円)を用意。

須磨寺
 本堂秘仏特別ご開帳
(2月18日~2月24日)
 本堂の重要文化財宮殿内に安置される尊像のご開帳。本尊像は、平安時代後期の堅実な出来映えの聖観音坐像。嘉応元年(1169)安置とされ、作風も12世紀後半のもので齟齬がない。脇侍の不動明王立像は足ほぞに応安2年(1369)、法印康俊作の銘あり。康俊最晩年の作。もう1躯の脇侍毘沙門天立像も鎌倉時代の作例のよう。

神戸ゆかりの美術館
 招き猫亭コレクション 猫まみれ展-アートになった猫たち 浮世絵から現代美術まで-
(1月22日~3月27日)
 個人コレクションの猫アート(絵画・彫刻)200点をずらりと展示。浮世絵の擬人化された猫を見ていると、なんだかニヤニヤしてしまう。

神戸ファッション美術館
 BOROの美学 野良着と現代ファッション
(1月23日~4月10日)
 布を継いだ服(襤褸・ぼろ)をコンセプトとして、民俗資料・現代作家の作品を展示。アミューズミュージアムに収蔵される田中忠三郎が収集した津軽・南部の着物(重要有形民俗文化財)が展示の過半で、ずらり並ぶ着物は圧巻。ただ民俗資料=野良着=ボロというイメージによる選定であるのか、つぎはぎのない保存状態良好な資料が多く、コンセプトとのずれは気になる。

2月26日~28日
沖縄県立博物館ほか
 沖縄巡見。熊野三所権現(ただし構成は少し異なる)を祭祀する波上宮、沖縄県立博物館の常設展示、首里城、聖地・斎場御嶽、沖縄県立美ら海水族館、古民家多数移築される琉球村を巡見。帰り際に再度沖縄県博にすべりこみ、夜間開館時には閉まっていたミュージアムショップで2010年発行の図録『海のクロスロード八重山』購入。アンガマのペーパークラフトは迷ったものの購入見送り。

3月6日
高野山霊宝館
 平常展 密教の美術-曼荼羅を中心として-
(1月16日~4月10日)
 まだひんやり肌寒い高野山。ちょうど金剛峯寺前では、高野の火祭りと称する柴燈大護摩供が厳修中。春は間近。前庭にわずかに雪が残る霊宝館では曼荼羅の世界観を資料とパネルで細かく紹介。金剛峯寺の金剛界曼荼羅図下絵・胎蔵界曼荼羅図下絵は密乗筆。密乗は東寺元禄本両界曼荼羅を描いた久修圓院宗覚の弟子。金剛峯寺聖天秘蜜曼荼羅は、随分古様を示す、優れた江戸前期の一幅。円通寺の十巻抄(重文)のうち歓喜天部分をともに出陳。竜光院の摩訶迦羅天像(マハーカーラ=大黒天)は、寺では「摩怛哩神(まだりしん)」と称された由。仏像では安養院大日如来坐像(重文)は平安時代後期の堅実な作例。金剛峯寺一字金輪仏頂尊坐像は平安時代末期の奈良仏師作例。ほか、板彫胎蔵曼荼羅(重文)、浮彫九尊像(重文)、八葉梵字浮彫小九尊像(全て金剛峯寺)や、さまざまな尊格の仏画(江戸時代の作例が中心)を多数展示。図録なし。

3月14日
東大寺ミュージアム
 特集展示 二月堂修二会
(2月6日~3月21日)
 修二会の期間に合わせた特集展示。寛文7年(1667)の火災で破損し、このたびの修理で裏側の線刻も見られるようになった二月堂本尊光背(銅造舟形光背)や、火災後に直ちに用意された大画面の二月堂再建地割図(梁行図、桁行図)、紺紙金字華厳経(二月堂焼経)から、二月堂の回録史を紹介。あわせて、二月堂修中練行衆日記の昭和19年(1944)分をチョイス。修二会の最中に練行衆3人に召集令状が届き、応召のため行を離脱するようすが淡々と記される。人類の過去への悔悟を提示することも、まさしく観音への悔過行法であると、背筋が伸びる。
 特別展示の「旧眉間寺本堂の仏像」(~3月末日までの予定)では、勧進所阿弥陀堂の修理期間に合わせ、安置されている眉間寺旧蔵の薬師・釈迦如来坐像と、同じく眉間寺旧蔵の阿弥陀如来坐像の三体を、かつて眉間寺本堂に並んでいたように復元展示。阿弥陀如来は衲衣の下にもう1枚衣が見える古典復古像。それぞれ台座も古いものが残る。眉間寺旧蔵と判明している仏像は古く重要なものが多い。ありし日の眉間寺をしのぶ絶好の機会。

天理大学附属天理参考館
 教祖130年祭特別展 天理参考館の珠玉
(1月5日~3月14日)
 天理参考館のコレクション中の優品を紹介。ササン朝の鍍金銀製聖樹水禽文八曲杯やガラス製円形切子碗、唐時代の加彩鎮墓獣、金張り海獣葡萄鏡、朝鮮半島三国時代の金製品、ブルキナファソの儀礼用仮面、コンゴの呪術人形、チベットのタンカ等々。新宗教の世界布教を背景に収集された資料群であるが、常設展示でも台湾の先住民関連資料、パプアニューギニアの精霊面・祖霊面・神像など、新規にコレクションすることが今となっては不可能な世界の優れた資料がずらり並ぶ。奇跡の民族学・考古学博物館といつも思う。

三津寺
 三津寺仏像群初公開-非公開の大阪市指定文化財特別公開-
(3月10日~3月15日)
 大阪市中央区心斎橋、ミナミの繁華街の中に建つ三津寺の仏像を初公開。本堂安置の地蔵菩薩立像は量感と森厳さを残す平安時代、10世紀の注目される作例。ほか毘沙門天立像(11c)、大日如来坐像(12c)、聖観音坐像(11c)といった平安時代彫像のほか、室町時代~江戸時代の仏像も多数。神仏分離の際に移された生玉宮寺(生国魂神社)の一坊である持宝院の仏像が伝わることも貴重。豪華な内陣の文化5年(1808)建立の本堂、そびえるような優れた外観の昭和8年(1933)建立の庫裏も含め、奇跡的に空襲被害をまぬがれたことで残された地域の歴史の貴重な痕跡を、ありがたく共有化させていただく。大阪市教育委員会主催事業。

3月27日
九州国立博物館
 特別展 始皇帝と大兵馬俑展
(3月15日~6月12日)
 秦時代の遺物とともに、兵馬俑8体(及び軍馬1頭)を公開。将軍俑の着衣表現をしばし確認。図録あり(215頁、2,400円)。
 特別展示 芦屋鋳物師の世界-中世鋳金の美と受け継がれた技-
(1月19日~4月17日)
 福岡・芦屋鋳物師の手になる中世~近世の鋳造物を集約。著名な湯釜(芦屋釜)ばかりでなく、鰐口などの梵音具も製作。高倉神社の毘沙門天立像は芦屋鋳物師の手になる唯一の仏像とのことで、背面の刻銘から延徳3年(1491)に大工大江貞盛によって作られたことが判明する、等身をやや越える巨大鋳造物。原型製作者、鋳造技法などの詳細も知りたいところ。早くに途絶えた芦屋鋳物を復元する動き・施設(芦屋釜の里)があることも知る。
 これまでに行きそびれた九博展覧会の図録のうち、『祈りのかたち 八幡』(84頁、2000円)、『大涅槃展』(64頁、1350円)、『山の神々-九州の霊峰と神祇信仰』(80頁、1000円)、『琉球と袋中上人展』(84頁、720円)を爆買い(サイフがイタイよ…)。九博の学術的な礎を、トピック展示によって構築していこうとする意図がよく見える。

今年度訪問した館・寺院等はのべ74ヶ所、鑑賞した展覧会は69本でした。