平成25(2013)年度「展覧会・文化財を見てきました。」

4月8日
東寺宝物館
 東寺と弘法大師信仰-西院御影堂の歴史と美術-
(3月20日~5月25日)
 東寺における弘法大師信仰の核である西院御影堂にまつわる資料群を紹介。
 大師使用と伝承される刻文脇息(重文・平安時代)、大師将来舎利を納める舎利塔の写である金銅舎利塔(室町時代)、大師将来品として奉納された唐時代のものとして伝わる菩提子念珠や恵果印信、大師真筆と見なされた経典(郁迦長者経・奈良時代)、江戸時代に復元された健陀穀子袈裟など、大師ゆかりの聖遺物が集積、奉納された歴史を垣間見る。展示では直接的には述べないが、まさしくこうした聖遺物の「捜索」「創作」「発掘」「転写」「奉納」の数々こそが、弘法大師信仰の一面を如実に示している。
 昨年重文指定された東寺御影堂牛玉宝印版木も展示。南北朝時代に遡る古い版木であるが、意外に版面は健全で、丁寧に使用されたことをうかがえる。
 リーフレット(A3二つ折り)あり。講堂と観智院も拝観して、初期密教彫像を堪能。

4月12日
本法寺
 春季特別寺宝展 長谷川等伯大涅槃図開帳 
(3月14日~4月15日)
 京都での仕事が終わって、少し時間があったので「鍋かぶり日親」開山の本法寺へ。慶長4年(1599)長谷川等伯筆の仏涅槃図(重文)は本紙(描表装部分を含めず)の縦792.8㎝、横521.7㎝の大画面。ほか、等伯筆妙法尼像(慶長3年・重文)、伝銭舜挙筆鶏頭花図(重文・明時代)、応安3年(1370)六角氏発願の金銅宝塔(重文)や日蓮の書状断簡など。書院は紀州徳川家寄進のもので、その庭は本阿弥光悦作庭。リーフレットあり。

京都国立博物館
 特別展覧会 狩野山楽・山雪
(3月30日~5月12日)
 京狩野の祖山楽から二代山雪への画風の展開と、山雪の画業の到達点を、代表作の数々から展観。
 チェスター・ビーティー・ライブラリィ所蔵の長恨歌図巻と、雪汀水禽図屏風(重文)をじっくり鑑賞。雪汀水禽図の、胡粉を盛り上げて銀泥を施した水波の重なりが、しっかり立体的に、またエッジが輝いて見え、不思議な現実感がある。左右の隻で水禽の動きががらりと変わるが、同じリズムの水波が一双の画面を融合させ違和感がない。この波が、本屏風の制作動機だったりして、と山雪に心重ねてみる。「山雪のたどりついた美の世界の極地であり、胸がしめつけられるように美しい。こんな作品が日本の絵画にあった。その奇跡をかみしめたい。」(図録解説)という担当者の絶賛にも心重ね、本図を展示の一番最後に持ってきた手法も学ぶ。図録あり(376ページ、2500円)。表紙は当然ながら雪汀水禽図(右隻部分)で、細かくうねり波濤が砕ける水波を特殊印刷で盛り上げて表現する凝り具合。表紙だけで200円ぐらいかかってそう。

4月14日
奈良国立博物館
 特別展 當麻曼荼羅完成1250年記念 當麻寺-極楽浄土へのあこがれ-
(4月6日~6月2日)
 綴織當麻曼荼羅(国宝)に始まる、古代~近世の當麻曼荼羅の受容と展開を軸とする浄土信仰史を経糸に、弥勒仏を本尊とする古代寺院當麻寺、葛城山系に位置する修験の拠点寺院當麻寺を緯糸に紡いで、當麻寺の実像を織り表そうとする意欲的な展示。史資料は多いとはいえ断片的であるが、長年の調査研究と、事前調査や近年の修理事業の成果に裏打ちされてつなぎ合わされ、その全貌を垣間見る貴重な機会。
 用事の合間で余り時間がなかったので、まずは展示期間の限られた綴織當麻曼荼羅をじっくりと鑑賞。肉眼で見えることには限りがあるが、原本に相対峙し、歴史を共有する喜びに触れる。本図と文亀本(および貞享本)の精細なデジタル画像を会場内端末で比較確認でき、その細部まで確認できるのは、大変ありがたい。平安時代の仏像、當麻寺縁起絵巻、宿院仏師の作例に心ときめくも、後ろ髪引かれながら退館。修理相成った文亀本當麻曼荼羅の展示期間に再訪を期す。図録あり(352ページ、2300円)。各論が相変わらず充実。
  
4月15日
法隆寺大宝蔵殿
 法隆寺秘宝展 世界遺産登録20周年記念-法隆寺と法起寺の寺宝から-
(3月20日~6月30日)
 春秋恒例の法隆寺秘宝展。法起寺の銅造菩薩立像(飛鳥時代、重文)や、法隆寺金堂薬師如来の脇侍として転用されていた銅造観音菩薩像(飛鳥時代、重文)など、小金銅仏や押出仏の優品がまとまって展示され、絵画では平安時代の星曼荼羅(重文)のほか、平安時代の扇面法華経冊子断簡(重文)、鎌倉時代の聖皇曼荼羅(重文)など鑑賞機会の少ない資料も出陳。
 伎楽面太狐父や伎楽面宝冠、康和4年(1102)の菩薩面、保延4年(1138)の八部衆面、蠅払、天養元年(1144)の還城楽、石川、二ノ舞面など平安時代の舞楽面、類例まれな平安時代の獅子頭と、仮面資料が充実しているのが、今季の特徴。うきうきしながら、古い仮面にうなる。
 西院伽藍、大宝蔵院の諸尊像、東院伽藍で救世観音像、西円堂で薬師如来坐像を順次拝観。綺麗に掃き清められた広大な伽藍を歩き、宝物・什物を拝観するたびに、これらが古代・中世・近世・近代を乗り越えてきたことの奇跡(軌跡)を思う。境内の露天の土産物屋が無いか、もっとクオリティが高ければ…と思うが、これはこっちの勝手な言い分。

4月20日
東京国立博物館
 特別展 国宝大神社展
(4月9日~6月2日)
 神宮式年遷宮を記念した神社本庁の特別協力による神道美術展。春日大社・厳島神社・鶴岡八幡宮・熊野速玉大社・熱田神宮の古神宝と、諸社等所蔵の祭礼所用具、奉納品、神像を展示の核とし、神祀りのあり方とその美意識の基層を美術資料から浮かびあがらせる。
 神仏習合や中世神話などの混沌とした一面が展示の中で前景化しないのは、「神道」展として「物語」を複雑化させない配慮であるかもしれないが、厳しく言えば近代期に形成された神道イメージの再生産ともいえ残念。
 ただし、なにより本展における大きな意義は、最終章の「神々の姿」にあると強調したい。神社本庁が関わって開催される国立施設の特別展で、約40体の神像が大規模に展示されたという事実は、神像研究の上での大きなブレイクスルーである。宗教的禁忌を最大限に尊重しながら、人々の営みの極めて象徴的な痕跡といえる神像の調査と共有化の道が少しずつ開かれていることは、神道の現代化の大きな達成であり、敬意を表したい。図録あり(340ページ、2300円)。

 特集陳列 平成二十五年新指定国宝・重要文化財
(4月16日~5月6日)
 恒例、文化庁による新指定文化財展。なんと言っても、新たに国宝となった、運慶の手になる願成就院諸尊のうち、不動明王及二童子立像をじっくりと鑑賞。あまり立ち止まる人もなく、しばらく独り占め。天才運慶というイメージも相まってあたかも完璧な造形と思い込みがちであるが、若き運慶ゆえの荒さや単調さも垣間見え、得るものがあった。
 もう一つの注目資料は、浅間神社で近時確認され即指定された浅間神像。一木の三方に女神を彫出し、芯の部分に如来形像を配する姿で、類例がない。神の姿がいかに顕されるのか、新たな視点を提供する魅力的な一躯。
 ほか彫刻では、これまで未指定だったのが不思議な東大寺の釈迦多宝如来坐像や、東日本大震災での被災後に修理で元亨4年院誉らの作と判明した長福寺地蔵菩薩坐像、嘉暦4年覚清作の島根・清水寺の摩多羅神坐像など。
 本館の展示を一通り鑑賞し(ミュージアムショップが1階に出現していることに驚く)、法隆寺献納宝物館で飛鳥仏を堪能したのち、リニューアルなった東洋館で中国彫刻やクメール彫刻をじっくり。学生に戻った気分でお勉強。でもぐったり。

4月22日
興福寺
 南円堂創建1200年記念 興福寺国宝特別公開2013 南円堂・北円堂同時公開
(4月12日~6月2日)
 南円堂不空羂索観音坐像、四天王立像、北円堂弥勒仏坐像、無著・世親立像を拝観。康慶の雄大さ、運慶の偉大さを感じつつ、両堂間(及び他堂間)の仏像の移動を考えながら本来の堂内空間をイメージ。南円堂も北円堂も、本来壇上にあった諸尊像を脳内でフルに安置すると、けっこう狭い。東金堂諸尊像もゆっくり拝観し、国宝館に行くと団体さんが重なり大行列。いっしょに並んで鑑賞。高校生が本気ですごいすごい言いながら千手観音像や阿修羅像を見ていて、将来有望(何の将来や)。

4月26日
和泉市久保惣記念美術館
 特別陳列 古美術の愉しみ-久保惣コレクションの国宝・重文-
(4月7日~5月26日)
 久保惣コレクションから、優品を展観。青磁鳳凰耳花生(国宝)、歌仙歌合(国宝)、熊野懐紙(藤原範光筆・重文)、山王霊験記絵巻(重文)など。図録なし。

4月28日
岡山県立博物館
 特別展 栄西 
(4月19日~5月19日)
 栄西800年遠忌の節目の年に、出身地で開催される栄西展。読みは「ようさい」で統一。栄西と深く関わる建仁寺、誓願寺、東大寺に伝わる資料とともに、栄西の出身氏族賀陽氏関連資料や、栄西修行地の大山寺、金山寺などの資料を集め、禅顕密を兼修し東大寺大勧進職も勤めた入宋僧栄西の実像を示す。
 吉備津神社の行道面(平安時代)、個人蔵の女神坐像(吉備津神社神職家伝来、平安時代)、白鳳仏の模造とみられる安養寺銅造如来立像(平安時代?)、大山寺の銅造観音菩薩立像(北宋あるいは遼)、金山寺の密教法具(鎌倉時代)などじっくり鑑賞。また日応寺不動明王立像・毘沙門天立像(重文)は奈良・小嶋寺伝来資料と伝承されることを知り、俄然、仏師の系統が気になる。
 地域史の中に栄西とその周辺を浮かび上がらせていく丁寧な作業成果を共有することで、各人の栄西像が転換したり豊かに肉付けされることだろう。地域博物館の存在意義を存分に発揮した良い展示。図録あり(104ページ)。

4月29日
島根県立古代出雲歴史博物館
 特別展 平成の大遷宮 出雲大社展 
(4月12日~6月16日)
 出雲大社の遷宮(本殿他修復)にあわせ、出雲大社(杵築神社)の造営の歴史、古代祭祀とオオクニヌシ、近世神道におけるその再評価を軸にして、社宝、社家伝来資料と県内外の神道美術を集めて展示。
 神仏習合や近世の神仏分離への言及は限定的であるが、国学による「古代の理想的な神道の発見」をオオクニヌシに絡めて(穏健に)提示しているのは誠実。
 なにより造営の歴史について、同館等の調査に基づく多数の新資料を交えて分厚く構成し、遷宮の歴史的意義を後支えしている点が意義深い。
 千家家所蔵の出雲大社并神郷図(重文)の景観表現の重要性を再確認し、北島家所蔵の白色尉(翁)の若々しい表情に見入る。千家・北島両家の出雲国造家分立が行われたまさにその時期、康永2年(1343)に、無本覚心弟子の孤峰覚明が神の夢告により袈裟を寄進している(北島家所蔵資料)。臨済禅が神と仏の接点として関わっていることを思い、前日の栄西にも思い致す。図録あり(288ページ、2000円)。

5月6日
正木美術館
 特別展 東西春淡々
(4月6日~6月23日)
 タイトルは春がすみずみまで行き渡ってるの意で、そうしたテーマのもと正木美術館のコレクションをお蔵出し。前期(~5/12)の核は、小野道風筆三体白氏詩巻(国宝)。東風の楷書・行書・草書の筆跡を追い、心震える。名筆には神が宿ってる。
 仏教美術も多数出陳。飛鳥時代後期の銅造半跏思惟像(観音菩薩坐像)や中国・朝鮮半島の仏像、奈良時代の押出仏、誕生釈迦仏も。北周・保定4年(564)銘を有する仏三尊像は、大きな火焔光背に三尊像を配した一光三尊像形式で、やや丸みを帯びた体型、長く太い首など時代の特徴が明瞭。隋・大業10年(614)銘仏三尊像のより自然な立体表現と、北魏仏三尊碑像の正面鑑賞性の強い古様な表現と比べながら、鑑賞。
 須田悦弘氏の作品である「菫(すみれ)」「雑草」が、そうした作品の間に配置される。植物の小さな芽吹きを木彫彩色であらわしたもので、茶席の畳にぽつりと若葉を芽吹かせる作品。えっ?木彫なの?と驚く細密さ。こういう格好いい展示、憧れるけど、不粋な自分には無理~。図録なし。 

6月1日
高野山壇上伽藍 西塔内観
(5月25日~6月2日)
 高野山壇上伽藍に大塔(高48.5m)とともにそびえる西塔(高 27.3m)の内部公開。仁和3年(887)の建立後、幾度も被災し、現在の塔は天保5年(1834)の建立ながら、五間四面の大塔形式の平面を見せる稀少な建造物。内陣は根来寺大塔のように円形の宝塔形式とはせず、柱や組物などに豪華な彩色が施される。内部に入って、その巨大さを改めて認識する。
 高野山開創1200年の事業で、新たに建立中の中門の工事の様子も少し見学。柱に丹が塗られ始めていた。

高野山霊宝館
 企画展 悠久の美-高野山の金工品-
(4月27日~7月7日)
 高野山伝来の金属工芸の優品を多数展観。密教法具は、平安時代初期(あるいは唐代)の大ぶりで鋭く尖った豪快な初期作例から、平安時代、鎌倉時代、一部近世の資料も含めて種類別に並べ、、そのかたちの展開をたどる。ほか、山上に集中して残っている中世の磬や、奉納された刀剣類もまとめて展示。
 初公開資料である円形華鬘形鏡像(金剛峯寺蔵)は、中央に十一面観音を彫り表した木瓜形の鏡を嵌装し、周囲に宝相華唐草を立体的に切り出したもので、その文様表現は鞆淵八幡神社の沃懸地螺鈿金銅装神輿附属の華鬘と類似し、同様の華鬘は山上の宝寿院にも残る。展示ではやや時期を下げるが、平安時代末~鎌倉時代初期ごろか、とも思う(もちろん要検討)。こうした興味深い資料が今なお新たに見出されるのが、高野山の奥深さ。山下では近世以前の仏具類がほとんど残存していないのも不思議だが、普段まとまって見る機会の少ない資料群なので、目をキラキラさせながらお勉強。図録無し。
 ほか、特別公開として、曽我直庵の鶏図(宝亀院)、商山四皓及虎渓三笑図(遍照光院)が新館で展示され、本館には伝曽我二直庵の鶏図(桜池院)、海北友松の人物図7幅(宝城院)を展示。

6月9日
神奈川県立金沢文庫
 特別展 瀬戸神社-海の守護神- 
(4月26日~6月9日)
 最終日に滑り込み。三島明神を祭祀する瀬戸神社の中世~近代の歴史を、社蔵資料・社家資料と称名寺文書を通じて展観。
 お目当ては鎌倉末~南北朝時代の神像群。掛帯・掛守を付け宝珠と柄付き持物(宝剣?)を手にする和装の豊麗な女神坐像、角髪を結って口髭を生やし瞋目する威相の童子形神坐像は、巫女・巫覡といった中世の宗教者の姿をも彷彿とさせる特殊な作例で、魅力に溢れる。等身大の随身坐像(鎌倉時代)、鎌倉時代初期の舞楽面陵王と抜頭もしっかり鑑賞。
 ほか扁額、絵馬、神道裁許状など近世文書なども多数展示。地域の拠点神社に伝わる多様な資料群の総体を一望でき、地域博物館としての使命を果たす内容。図録あり(80頁・1000円)。

千葉市美術館
 特別展 仏像半島-房総の美しい仏たち-
(4月16日~6月16日)
 千葉県内の仏像を、多数(本当に多数…)、一堂に集めて展観。飛鳥時代の龍角寺薬師如来坐像から、江戸時代の欄間彫刻まで、展示室を埋め尽くす諸尊像に圧倒される。
 東明寺薬師如来立像(平安後期)と十二神将立像(鎌倉前期)、東光院伝七仏薬師如来像(平安中期)や、松虫寺七仏薬師如来像(平安後期)、観明寺の四臂十一面観音立像(弘長3年・1263)、那古寺の銅像千手観音立像(鎌倉前期)…、と重要作例が目白押し。
 地域の特色豊かな仏像群は、それらが作られ今日まで伝来してきた数百年~千数百年間に渡って関わり続けてきた人びとの歴史をも物語る。出陳された各像の修理痕や附属品のそれぞれにも信仰の物語が宿っているといえるが、南北朝期の菩薩面を着けた真野寺千手観音菩薩立像(平安後期)はその最たるものであり、仮面史、宗教史、民俗学の観点からも興味深い作例と思う。
 同館で以前開催された「房総の神と仏」も圧倒される内容であったが、今回も房総半島の豊かな文化の基層に触れる貴重な機会であり、ありがたい。図録あり(242頁、2300円)。

航空科学博物館
 同行した子の強い希望で、千葉市美から成田空港近くの航空科学博物館を突撃訪問。子は屋外の実機展示で操縦桿を握ってにんまり。YS-11の試作1号機(確か2号機は去年かがみがはら航空宇宙科学博物館で見学した機体だったか…)、ボーイング747実機の機首部分など大慌てで見て回るが、帰りの飛行機の時間が迫り羽田空港へ向かうため、滞在50分でとんぼ帰り。成田空港駅からのバスの便が少なく往復タクシー利用し、京成スカイライナーに乗る贅沢三昧(昼食は駅売店のおにぎりだけなのに)。しかし、一日で何回乗り換えてるやら…。 

6月23日
栗東歴史民俗博物館
 特集展示 神々のすがた
(6月8日~7月15日)
 寄託を受けている神道美術に関する資料を展観。小槻大社男神坐像のうち、主祭神の落別命坐像について、延喜11年(911)に小杖神の神階が従四位下となっていること、朱袍をまとっていること(衣服令では四位は深緋色)を改めて意識しながら、製作時期を考える。同像は弘安4年(1281)銘の宮殿に安置されて露出展示。ほか大宝神社の神像群、金勝寺の神像群、椿神社の僧形神像や、熊野神社の熊野本地仏像(うち十一面観音立像)、狛犬、戦国期の獅子頭(春日神社)など。図録なし。

7月21日
奈良県立美術館
 特別展 正倉院宝物と近代奈良の工芸-模造と創作140年の歩み-
(6月15日~7月21日)
 1ヶ月ぶりの展覧会鑑賞はナラケンビの最終日に駆け込み。同館の40周年記念の冠展示で、正倉院宝物をめぐる近現代史を、近世・近代の宝物調査と模写、奈良博覧会、奈良漆器、模造制作から眺める。近世・近代の宝物図・模写の諸本をまとめてみられ、よい機会。漆工品の展示は、全般的にライティングに苦労している観あり。
 奈良博覧会に関する展示では、当時の目録とそこに捺した物品のかたちを示すハンコ、春日大社の籠手(伝源義経所用)、柏木菟腰刀、金峯神社の藤原道長経筒、長谷寺の鼠燈檠、談山神社の二帯笙など当時の出陳品を集めており、あわせて図録(188ページ、1700円)に所収の論文「奈良博覧会と文化財」(執筆飯島礼子)では、出陳品選択の背景にも迫って、興味深い。この部分だけを拡大した展示を、いつかぜひ見てみたい。

奈良国立博物館
 特別展 みほとけのかたち-仏像に会う-
(7月20日~9月16日)
 ナラハクの収蔵品をフル活用した仏像鑑賞入門展。奈良博に通い詰めてるハードリピーターなら本館(なら仏像館)の展示でおなじみの資料群であろうが、新館に陳列されるとまた新鮮な印象があるし、展示の文脈が変わればまた見え方も変わる。
 同行した子が興味を示したのは、出山釈迦像の表現(顔や胸や足はがりがりだけど、腕はちょっと太いし体の厚みも大きい!)や、海住山寺の四天王立像の邪鬼の顔とポーズの可愛らしさ(持国天の邪鬼がぶりっこの人のポーズだ!)、大峯山出土の金製仏像や力士立像のポーズ(アイーン!)、観音菩薩立像の像内に納められた平安時代の仏画(どうやって入れたんだろう?)といったところ。子ども向けのスタンプラリーもノリノリでハンコを探していて、楽しんでくれて何より。ただ監視さんには、子どもは手を後ろ手に組んで見てもらってますと注意され、親のテンションは落ちまくり。いろんな意味でショック…。図録あり(160ページ・1000円)。

7月27日
高野山霊宝館
 第34回高野山大宝蔵展 高野山の名宝-八大童子像に会いにきませんか-
(7月13日~9月23日)
 高野山の名宝を一挙に公開。副題にもあるように、運慶作の国宝・八大童子立像(金剛峯寺)のうち当諸像6躯がそろって久々に公開(8躯並んだ職場での空海と高野山展以来か?)。運慶の秀でた立体造形の才能、そしてその工房の水準の高さなど、各像を比較しながら鑑賞。
 新館ではほかに、国宝・諸尊仏龕(金剛峯寺)、国宝・阿弥陀三尊像(蓮花三昧院)、国宝・伝船中湧出観音像(竜光院)、国宝・不空羂索神変真言経(三宝院)、文館詩林残巻(正智院)など。
 紫雲殿では国宝・阿弥陀聖衆来迎図(有志八幡講、~8/25)、国宝・五大力菩薩像(普賢院)、重文・恵果阿闍梨像(西生院)、重文・八宗論大日如来像(善集院)、重文・弁才天図(宝城院)、重文・高野大師行状図巻(地蔵院)、重文・金剛峯寺根本縁起(金剛峯寺)、重文・白河上皇高野御幸記(西南院)などなど。
 は-、高野山はすごすぎる…、とため息と吐息が出っぱなしの別世界。身震いするような良い資料が集中して公開されているこうした機会は本当に貴重なので、みなさん、なんとしても見るべきですよとオススメ。仏教美術系の若き学究の徒は特に。リーフレットあり(8ページ、無料)。

8月1日
京都国立博物館
 特別展観 遊び
(7月13日~8月25日)
 京博の所蔵品・寄託品を活用するため、「遊び」をキーワードにゆるく9章のまとまりをつくって展観。かつての京博新館であまり公開の機会がなかったものや、新規収蔵資料など、京博コレクションの奥行きを垣間見る。長沢芦雪の群猿・唐子図屏風や、人物がみんな髪が乱れまくっている花下遊楽図屏風、リアルな虫と葉を表現した銅甲虫鎮子・銅葉形皿、初代清水隆慶の竹翁坐像、妙心寺の玩具船などを興味を持って鑑賞。図録あり(160ページ・1500円)。

8月12日
福井県立歴史博物館
 特別展 ふくいの面とまつり
(7月19日~9月1日)
 福井県内に伝わる中世~近世の仮面を、仮面芸能・祭りとともに多数紹介する。
 須波阿須疑神社の少し歳を重ねた表情の女面(室町時代)は、目と目がやや離れて茫洋とした中世の女面らしい表情であるが、面裏の処理は整っていて、近世の能面につながるもの。同社の若い女(室町時代)は、くっきりとした二重の目、笑みを浮かべた口もとなどその華やかな表情はまさしく小面に連なるものであり、その原型の一つと評価できそう。元亀2年(1571)銘を有する天神も、すでに近世能面の原型としての表現を達成しており、「能面」のルーツがまさしく「越前様式」(そんな学術用語ありませんけど)にあることを実感する。
 また火霊産神社で奉納される「馬鹿ばやし」(福井県指定無形民俗文化財)は、芸態自体は仮装して滑稽な身振りを伴って太鼓を叩くというものであるが、仮装の道具として多数の仮面が使用される。実際に展示されている仮面を見ると、「べしみ」(大べし見)、「白おきな」(三光尉か)など中世に遡るであろう資料や、堅実な出来映えの能狂言面が多数含まれ、仮面研究上に貴重な情報を提供する。
 ほか、大野市の旧家に伝わる、顔全体に皺のある満面の笑みを現した尉面は古様で、あるいは寺社の延年で用いられたものか。また國神神社の空吹はゆがんだシャーマンの顔と火男が重なった表情を示し、過渡期的。
 中世の猿楽(能・狂言)で使用された仮面の作者には越前国出身のものが多く、また近世の最も主要な世襲面打の家(大野出目家、越前出目家)も越前国を本貫とする。福井の古面は、能面・狂言面の様式がどのように形成されたのかを考える上で重要な情報を提供するものであり、本展のような機会は大変ありがたい。図録あり(72ページ、1000円)。掲載仮面には全て面裏図版が付され、これも大変ありがたい。

平泉寺白山神社
 学生時代以来の訪問。うっそうと茂る杉の巨木の中を歩いて、社殿に参拝し、巨大な拝殿跡にかつての偉容を偲ぶ。新しくできたガイダンス施設・白山平泉寺歴史探遊館まほろばと、発掘調査と史跡整備が進んだ平泉寺坊院跡を汗だくになってめぐり、白山信仰の聖地の現況を確認する。白山については、3県6市1村が共同で「霊峰白山と山麓の文化的景観-自然・生業・信仰-」という枠組みで世界遺産登録を目指しているが、「どうせ無理」と斜に構える向きもあるだろうが、大切なのは地域の文化遺産を「人類の遺産」であると堂々と誇りに思って発信することであり、その普遍的価値を自らさまざまに再認識していく過程で、たくさんの歴史的発見があるだろう(嗚呼、それにつけても根来寺遺跡の悲惨さよ…)。

光ミュージアム
 世界の仮面展
(6月13日~9月8日)
 福井県から山中へ突入し、九頭竜湖の脇を通って(九頭竜ダム、大迫力だった!)、白山麓を経巡りながら、岐阜県高山市へ強行軍。
 ミュージアムに到着して建物と敷地の大きさに圧倒される。呆然…。壁面から滝が流れているし、内装も絢爛豪華だし。新宗教はすごい…。展示は、日本、アジア、南アメリカ、アフリカなど、世界の仮面を集めたもの。多くは新しいもので世界の風俗展示という観であるが、1点だけ、長滝白山神社の重文の仮面群のうち、女面が出陳(文明2年銘の資料だと思うが、キャプションには記述なし)。小型行灯ケースに若干角度を付けての平置きなので見にくいが、事情があるのでしょう。図録なし。この女面を見てやはり長滝白山神社に行こう!と決心し、駆け足で広い広い館内の展示室をめぐり、滞在40分で高山離脱(もったいない)。

長滝白山神社
 高山から白鳥へ急いで戻り、白山文化博物館の開館時間になんとか間に合った、と思ったら、そうです月曜日です。残念無念。
 久しぶりに長滝白山神社に参拝。昔、調査で訪れて以来で、なつかしくたたずむ。初めて仮面を調査したのは、ここの仮面群と白山中居神社の仮面群。優れた中世仮面にまっさらな状態で対面したからこそ、仮面の魅力に気づくことができたように思う。出会いって、運命的なものですね。
 長瀧殿も閉まっており、時間も遅いので若宮集古館も遠慮して、帰途につく。

8月16日
奈良文化財研究所飛鳥資料館
 企画展 飛鳥・藤原京を考古科学する
(8月1日~9月1日)
 奈文研がこれまでに行ってきた、自然科学や理化学的手法、保存科学を活用した調査事例を、さまざまな機材や遺物から紹介する。考古科学という言葉にあまり耳馴染みがなかったが、「考古学・歴史学・建築史学・庭園史学・を基盤とし、遺跡・遺物を研究対象に、年代・気象・環境・材質・技法・生産地・遺跡探査・保存修復などに関する自然化学分析を用いた研究」(図録P2)とのこと。
 展示資料はキトラ古墳出土の帯執金具、藤原宮大極殿院南門出土地鎮具(土器・冨本銭9枚・水晶9片)、藤原宮出土の病変がある馬の骨など。
 図録あり(22ページ・300円)。内容がよくまとまっていて、奈文研の活動の紹介パンフになりそうなもの。もっと入門編であることを強調するタイトルでもよかったかも。

8月17日
太子町立竹内街道歴史資料館
 常設展で、当麻寺の前身寺院と当麻寺縁起に語られる、萬法蔵院伝来の毘沙門天立像を拝観。像高1mほどの、堅実な出来映えを示す12世紀後期の作例。蓋に萬法蔵院と陽鋳した鉄茶釜も展示。当地は、二上山をはさんだ、当麻寺の反対側。ほかに西国三十三所の巡礼者に関わる資料として、三十三所観音を納めた笈や、長谷寺僧法住(のち根来寺学頭)が着讃した花山法皇と徳道上人像もあり。

大阪府立近つ飛鳥博物館
 企画展 さまざまなお墓-墳墓のうつりかわり-
(7月20日~9月16日)
 縄文時代以後の各時代の墳墓の形態や習俗を、考古学的調査の成果をもとに紹介。元興寺の木製納骨塔や、西大寺骨堂(こつんどう)に納められる、木製五輪塔を多数柱に打ち付けた骨堂柱を興味深く鑑賞。企画展内容そのものの図録はないが、内容自体はだいたい重なっている7月20日付け発行の『遺跡が語る 墳墓の歴史』(16ページ、300円)あり。どういった事情があるのか不明ですが、展覧会とは別枠で予算を付けて、継続的に売れるように図ったのかも。そのためか、西大寺骨堂や骨堂柱については掲載しておらず、残念。

8月29日
東京国立博物館
 特別展 和様の書
(7月13日~9月8日)
 唐様に対する「和様」の書について、ことに仮名書きの成立と展開を主軸にしながら、多数の重要作例を集約して提示。冒頭、「書の鑑賞」の章を設けて導入とし展示の意図を示す手法はよく練られている。次々に現れる三跡の真筆を鑑賞しながら、これらが重宝として選択的に残されてきた書の受容史(「三筆」・「三跡」という枠組み設定も含め)について思いを至す。特に小野道風筆の屏風土代(宮内庁三の丸尚蔵館)をじっくりと見る。
 高野切第一種~第三種についてよく分かってなかったが、展示で比較しながら見て、お勉強。展示替えで熊野懐紙が一つもなかったのがちょっと残念。図録あり(364ページ、2500円)。

8月30日
根津美術館
 曼荼羅展-宇宙は神仏で充満する!- 
(7月27日~9月1日)
 所蔵資料のなかから、両界曼荼羅・別尊曼荼羅・浄土曼荼羅・垂迹曼荼羅などをチョイスして展示。金剛界八十一尊曼荼羅(重文)の豊かな彩色と、大日金輪・如意輪観音像厨子、日吉山王本地仏曼荼羅厨子といった特殊な資料を堪能。また、画面中央に参詣道が一筋、光るように伸びる春日宮曼荼羅(重美)の構図の象徴性に、改めて気づく。熊野本地仏曼荼羅(重美)もじっくり鑑賞。図録なし(ただし、『根津美術館蔵 密教絵画 鑑賞の手引き』が新たに発行されています)。

國學院大學博物館
 企画展 神のあらわれ
(8月24日~9月8日)
 炎天下、根津美術館からてくてく歩いて、息も絶え絶えに國學院大學へ初訪問。
 企画展は厳島神社、熊野那智大社、日吉大社、伊勢神宮の景観を示す文化財と関連資料15件による、小展示。國學大学本の那智参詣曼荼羅!と思うも、複製展示。ただし出来映えよく、図像の鑑賞に支障なし。ほか同館所蔵の和歌浦厳島図屏風、山王祭礼図屏風、梵舜写の古語拾遺など。図録なし。
 常設展示も巡ると、平安時代後期の比較的大きい男神像・女神像(キャプションは室町時代)や、平安時代の菩薩形立像(キャプションなし)、鎌倉時代の阿弥陀如来立像(キャプションなし)、中世の懸仏群と、興味深い作例多数。
 再び炎天下のなか渋谷駅まで歩き、文化庁の研修会へ。息も絶え絶え×2。

9月7日
大淀町文化会館
 スーパー能「世阿弥」関連特別展示
(9月7日のみ)
 梅原猛作の現代語能「世阿弥」の開催に伴って、大淀町桧垣本を本貫とする桧垣本猿楽に関連する展示として、吉水神社所蔵の桧垣本七郎の猿楽面2面を展示。若い男は面裏に「吉野カツテ御セン/キシン/ヒカヰモトサルカク七郎作/明応二年ミツノトウシ/吉日」、若い女は面裏に「ヒカヰモト七郎作/吉野コモリノ御前キシン/明応二ミツノトウシ卯月吉日」銘あり。明応2年(1493)という早い段階で、能面の型がかなり完成に近づいていることを確認。能の源流の一つに少しふれる。
 スーパー能「世阿弥」は、現代語での上演という点について、確かに役者の語りはわかりやすくよい。地謡は言葉に振り回されて少し苦しい(人数も足りない?)。夕暮れの場面、あるいは場面展開時などに照明を積極的に使用する点も新しく、物語展開を助ける。劇的構成としては、元雅暗殺シーンなど派手な戦いのシーンをうまく組み入れ(舞台両袖から飛んでくる矢は、演出過剰か)、亡霊の登場や舞台上での着面があったり、最後は世阿弥・善竹・音阿弥の男性三人舞と展開し、囃子と舞を中心においていて、能の本質からはぶれない。面白かったです。

9月10日
京都産業大学むすびわざ館2階ギャラリー
 企画展 京都大原 勝林院の仏教文化と歴史
(9月3日~10月20日)
 天台声明の聖地、勝林院開創1000年に際して京都産業大学日本文化研究所が行った調査に基づく展示。
 本尊阿弥陀如来坐像の像内調査で見つかった胎内仏3躯が展示の核。一躯は、像高49.5㎝の、平安時代後期の阿弥陀如来坐像。両脚部まで一木で木取りした、堅実な作風の像。他2躯は鎌倉時代と江戸時代の光背化仏とみられる作例。ほか、南北朝~室町時代の釈迦三尊像(展示名称:御懺法講本尊図)など22件による小展示。図録なし。京都にまた新しい施設ができて、このように京都の地域史展示を見ることができるのは喜ばしい。

龍谷ミュージアム
 特別展 極楽へのいざない-練り供養をめぐる美術-
(9月7日~10月20日)
 練り供養を核にして、来迎美術の諸相について多数の資料を集める。序章・1章で、浄土図・来迎図・地獄図、そして阿弥陀来迎図の諸本を提示し、人々が抱いた死への恐怖と、死後の安寧、極楽往生への希求を浮かび上がらせた上で、第2章で全国の練り供養の事例と作例の広がりを提示し、練り供養の歴史的意味を問う。
 前期9/7~29、後期10/1~20で展示替え多数だが、龍泉寺本(鎌倉・前期)、得生寺本(鎌倉・後期)ほかの当麻曼荼羅、松尾寺本(鎌倉・重文・前期)、新知恩院本(鎌倉・重文・前期)ほかの阿弥陀来迎図、法福寺阿弥陀如来坐像および二十五菩薩坐像(平安・江戸)、当麻寺奥院十界図(室町・重文・前期)、出光美術館六道絵(室町・後期)ほかの地獄図、弘法寺(鎌倉)と大念仏寺(江戸)の迎講阿弥陀如来立像、当麻寺・弘法寺・米山寺・四天王寺・光明寺・法隆寺・御調八幡宮・浄土寺・東大寺・吉備津神社・建暦寺・上花園神社・十念寺二十五菩薩来迎会保存会・相澤寺維持管理委員会ほかの行道面をずらりと展観する充実ぶり。
 阿弥陀が来迎するその具体的な救済イメージを疑似体験し、自らに救済が及ぶことへの確信を得ようとしたその心性史は、テクストからよりも、まさしく本展で展示しているような美術資料から明らかになる。ミュージアムという場だからこそできる「救済」の実態を追求する歴史究明の営みと評価したい。図録あり(184頁、2200円)。

9月23日
広島県立歴史博物館
 特別展 時代を作った技-中世の生産革命-
(9月13日~11月4日)
 国立歴史民俗博物館との共同展示。中世における漆器・陶器・金属器・石製品などの技術的展開を、考古学的成果を中心にして幅広く提示する。自分の直近の研究課題にからむので、大分市・羽田遺跡出土の鉄釜鋳型、埼玉県坂戸市・金井遺跡B区出土の仏像鋳型、京都市・平安京左京八条三坊跡出土の鏡鋳型と刀装具鋳型に注目しながら鑑賞。鋳型をどのように作ったのかについてはあまり言及がなく残念だが、羽田遺跡鉄釜鋳型のシャープな仕上がりにうなる。研究の蓄積がそれなりにある、大工や仏師などの「生産革命」も見たかった(無い物ねだり)。図録あり(236頁、2000円)。歴博の研究プロジェクトによる成果であり、図録の多数のコラム、文献リストは便利。

福山自動車時計博物館
 個人のたっくさんの自動車や時計ほかのコレクションを、ぎっしりと展示。なにより、実機に乗って自由にさわることができ、古い車のハンドルやミッションを動かして楽しむ。子はパイパー・チェロキーに乗ってパイロット気分満喫(30分以上降りてこないし…)。廃棄されゆくさまざまな資料を、こうした形で収集し、公開し、そして身近に感じさせてくれる熱意ある活動に敬意。さまざまなポリシーに基づく、さまざまな博物館があることの健全さを、改めて感じる。

御調八幡宮収蔵庫・三原リージョンプラザ
 特別展 御調八幡宮と三原市の文化財展
(9月7日~10月6日)
 御調八幡宮の重文神像を中心に、市域の歴史を伝える重要資料を2会場で展示。重文指定品は展示環境の面から、御調八幡宮所蔵資料のみを同社収蔵庫で展示。神像は前後期で展示替えし、後期は最も古い女神像と男神像、天部形立像、僧形坐像の展示。
 9世紀前半~半ばの女神坐像は、残存する神像中最古例の一つ。これに並ぶ男神像は、作風の違い(仕上げも異なる)から9世紀後半の早い頃と置き、時期差を明確にして社史をうかがう指標とする。左袷であることも注意。ほか重文の獅子・狛犬、版木とともに、行道面をじっくり鑑賞。御調八幡宮にも初参拝し、神仏習合の痕跡が、結構残っていることに感動。
 山を越えて海に向かい、三原リージョンプラザに移動。御調八幡宮の男神坐像(県指定、伝藤原百川像)と釈迦如来坐像(南北朝)のほか、三原市域の優れた仏像群がずらり。善根寺保存会の日光・月光菩薩立像、香積寺地蔵菩薩立像、尾原相談会の宝冠阿弥陀如来坐像といった平安時代の魅力的な作例や、鎌倉時代の棲真寺二十八部衆像(うち阿修羅・乾闥婆)など、一堂に鑑賞できることのありがたさ。図録あり(112ページ、1000円)。

仏通寺
 再度山へ向かって車を走らせ、臨済宗仏通寺派大本山の仏通寺へ。清浄な山中に佇む別天地、という趣。仏殿参拝後、山を登って重文地蔵堂へも参拝。井上和夫『大本山仏通寺誌』(72ページ、500円)購入。昭和24年初版。

10月1日
香雪美術館
 開館40周年記念名品展第3期仏教美術編 仏教美術の輝き
(9月23日~10月27日)
 朝日新聞創刊者村山龍平が収集した仏教美術を展観。絵画では稚児大師像(前期)、二河白道図(後期)、毘沙門天像(前期)、聖徳太子像(後期)、法華経絵巻、稚児観音縁起絵巻といった同館を代表する重文の資料とともに、来迎者を迎えに行った阿弥陀と聖衆が浄土へと帰って行く様子を大和絵風に描いた帰来迎図(上空の僧侶三人は誰?)、浄瑠璃寺の吉祥天立像を写した吉祥天像(浄瑠璃寺像が中世に霊験仏として認知されていた?)、錫杖を持った長谷寺式の十一面観音像(甎積みの床で大盤石の表現に替えている?)といった興味深い資料など多数。
 彫刻では修理なった平安時代初期の薬師如来立像(重文)をじっくり。頭体と両袖を含み一木で木取りし、材の制約のために右脇を大きくえぐって立体感を強調し、下半身はねじれて上半身とは違う方向に正面が向く。しかしそれらの「ゆがみ」が破綻とならずに「動き」を演出するのが、平安初期彫刻の魅力である。天平期乾漆像である菩薩立像もじっくり。どこまで後補と捉えるかなかなか悩ましい。図録なし。

一乗寺
 所用のついでに、足を伸ばして一乗寺へ。国宝・三重塔拝観。観音霊場独特の風情を楽しむ。宝物館の開館日を受付で聞いたらパンフに書いてるやろとの答え…。

10月5日
大阪市立美術館
 特別展 北魏 石造仏教彫刻の展開 
(9月7日~10月20日)
 自館所蔵の優れた中国石仏コレクションを核に、国内のミュージアムに伝わる資料をも集約して、北魏彫刻の表現とその展開を、61件の資料から探る。
 5世紀半ばから6世紀半ばにかけての100年間で、インド風をなお残すややふくよかな初期作例から、漢式服制にかわって細面となり、さらにその相貌に柔らかみが加わっていくという様式の展開と、そうした中央の様式が各地に伝播して地域ごとの文化と溶融しつつ「地方化」していく展開を、「北魏の仏像」「交脚像と半跏像」「平行多線文造像」「多彩な地方性」「河南北部の大型像」「石窟寺院」の各章で示し、北魏彫刻理解を大きく助けてくれる好企画。
 大きな空間に、5世紀後半の如来像頭部(伝雲岡石窟将来)、6世紀前半の菩薩立像頭部(龍門石窟賓陽洞将来)、景明元年(500)の大きな如来三尊像が前後に並ぶ第2会場の光景は、白く浮かび上がるそれらが立体的な年表を構築しているよう。
 図録は『北魏 石造仏教彫刻の展開』(64ページ・1000円)と『大阪市立美術館山口コレクション中国彫刻』(144ページ・1800円)の2冊立てとなり、出陳品のうち山口コレクション分は後者に掲載。これまで作られていなかった待望の山口コレクションのカタログであり、重要資料は側面や背面も掲載されていて便利。

四天王寺宝物殿
 秋季名宝展 極楽浄土へつづく道-四天王寺の浄土信仰-
(9月19日~11月10日)
 四天王寺は、末法到来を間近に控えた寛弘4年(1007)に「発見」(実際は創作)された四天王寺縁起に極楽浄土の東門と記され、浄土信仰の拠点となって、古代寺院の中世的変貌を遂げた。その四天王寺縁起(国宝)、元亨3年(1323)の聖徳太子絵伝(重文)、平安時代前期の阿弥陀如来坐像(重文)と片足を後にひょこっと上げて踊る観音・勢至菩薩立像(重文)、鎌倉時代の当麻曼荼羅図、近世初頭の行道面などから、浄土信仰の諸相を提示。図録なし。
 鑑賞後、四天王寺境内を歩き、これまで行くことがなかった元三大師堂とか大黒堂、旧大鐘楼(英霊堂)、墓など、隅々まで巡る。都市の中の聖地としてたくさんの参拝者が訪れ、さまざまな祈りを受け入れているこの場は、現在も確かに俗世と浄土をつなぐ境界である。振り返ると、巨大なあべのハルカスビル。山越阿弥陀ならぬ、ビル越阿弥陀が見えたような…。

10月9日
串本応挙芦雪館
 近隣の串本古座高校古座校舎で講演会後、少し時間があったので、閉館間際に飛び込む。長沢芦雪の龍虎図襖を見てなごむ。

10月13日
龍谷ミュージアム
 特別展 極楽へのいざない-練り供養をめぐる美術-
(9月7日~10月20日)
 再訪(前回訪問9/10)。展示替えで出陳された得生寺当麻曼荼羅、出光美術館六道絵(天野大念仏講旧蔵)、小童寺阿弥陀二十五菩薩来迎図をじっくり。図録あり(184頁、2200円)。

泉屋博古館
 企画展 仏の美術-ガンダーラから日本まで-
(9月7日~10月20日)
 副題の通り、インドから日本までの仏教美術を、所蔵品と諸家所蔵のものからチョイス。京大人文研所蔵の五胡十六国時代の小金銅仏5躯、北魏・太和22年(498)銘弥勒仏立像(重文)、隋代の楊柳観音立像、雲南大理国時代の観音菩薩立像など同館を代表する金銅仏が並ぶ中国仏ゾーンは、数は多くないが、様式理解の上でありがたい機会。先日の大阪市美の北魏仏展での学びを踏まえると、太和22年銘弥勒仏立像は、年紀よりも古い様式を残している作例ということになる。高麗時代の阿弥陀三尊像の大幅は表具裂に古い金・銀襴が使われていて、これ自体も文化財。鎌倉時代の毘沙門天立像(伝青蓮院旧蔵)は、鎧の鎖や足首の宝飾が銅製であることを確認。納入品の多数の毘沙門天像が摺仏でないのも興味深い。各図の筆致を見る限り同一人のようで、摺仏より丁寧な作善である。図録なし。

京都府立総合資料館
 開館50周年記念 東寺百合文書展
(10月12日~11月10日)
 「ユネスコ記憶遺産推薦決定」と冠が付き、東寺百合文書の普遍的価値を広く伝えようとするもの。中世史研究の上で著名な史料を多数含む47件が選択され展示される。冒頭では百合文書がいかに守られ整理されてきたかを提示し、現在保管する桐箪笥まで見られる。各文書の解説は「ですます」体にして、できるだけ平易に、興味をもってもらえるようにしようとする意図が見える。
 ご来館の方が、係の人に「何かお花のことが書かれているのかと…」と尋ね、「保存箱が“ひゃくごう”あるんですよ」という(奇跡の)やりとりを直に聞き、昔、橋本初子さんが講義で、「ゆり文書ってきれいですね」と言ってあきれられたという鉄板ネタを語られていたのを思い出す。図録はないが、史料全部の解説文と釈文が準備されている。

佛教大学宗教文化ミュージアム
 特別展 明・萬暦版大蔵経の諸相
(10月12日~11月4日)
 同館で行われてきた高麗版大蔵経、黄檗版大蔵経の展示の続編。日本に所在する萬暦版大蔵経のうち、延暦寺・天竜寺・知恩院・萬福寺・清凉寺、大正大・東大・大谷大・龍谷大などの蔵本を比較検討し、その版行のあり方などを探ろうとするもの。ゴリゴリの研究展示(ケースごとに諸家の同じ巻の経本7冊が淡々と並ぶビジュアル)で、わあきれい、とかの感嘆はまず漏れないが、アカデミックの場である大学ミュージアムは、それでよいと思う(ただし、文章に「周知のように」が多用されているのはちょっと…)。図録はこれから作製とのことで、後日送付いただくことに(無料、送料負担)。また同館発行の『高麗版大蔵経の諸相』『東アジアと高麗版大蔵経』『黄檗版大蔵経展-その流布と改刻-』『『全蔵漸請千字文朱点』簿による『黄檗版大蔵経』流布の調査報告書』『魅惑の仏たち-大阪・孝恩寺の木彫群-』もいただく(希望者に無料配布)。

広隆寺
 新霊宝殿の諸尊像、講堂諸尊像を、平安時代彫刻の展開を一望する視点で拝観。康平7年(1064)長勢作の日光・月光菩薩像を見ていると、見えにくい「定朝様」の中の「奈良様」がぼんやりと見えるが、寛弘9年(1012)の千手観音坐像ではよくわからない。定朝様は難しいし、先学の背中はまだ遠い。ついつい表現の問題より、造像システムの問題に逃げてしまう。来月にはバスツアーで訪れるので、何を話すか考えないと…。

東寺宝物館
 特別公開 東寺の密教図像
(9月20日~11月25日)
 白描図像や図像集、淡彩画で示された密教の仏の姿を展観。治承5年に覚禅本から写したという端裏書きがある仁王経五方諸尊図は南北朝~室町時代の転写本として位置付けて展示。特殊な大元帥明王像の図像を複数(前期2件・後期3件)展示するのも珍しいこと。唐時代の蘇悉地儀軌契印図の謹直な描線に震え、室町時代の六大黒天の素朴な描写に和む。リーフレットあり(8ページ)。

11月10日
和歌山市立博物館
 特別展 市電が走っていた街-開業から廃止まで-
(10月19日~12月1日)
 明治42年(1909)から昭和46年(1971)まで運行された和歌山の市電について、国立公文書館の関連資料の調査成果を核にして展示。近代期の鉄道敷設とその背景について、興味深く鑑賞。近代史は鉄道とともにあり、という感。図録あり(104ページ、800円)

11月11日
奈良国立博物館
 第65回正倉院展
(10月26日~11月11日)
 最終日滑り込み。伎楽面・酔胡従の毛を貼りつける技法に注意しながら、じっくり鑑賞。天平勝宝4年(752)ごろ、将李魚成の作。治道は宝亀9年(778)、大田倭麿作。仮面表現の「形式化」をどう捉えるべきか、少し考える。香印坐も、大きいなあと驚きながら、ゆっくりみる。二列目から十分みられて良かった。図録あり(142頁、1000円)。

東大寺ミュージアム
 東大寺の歴史と美術
(10月10日~)
 四月堂の千手観音立像を鑑賞。その太い脇手のうねるようなさまは、本当に強烈な印象を見る者に与え、お堂の中で拝観していた時よりも、さらに大きく感じる。展示公開されることで、今後諸研究で言及される機会が一気に増えそう。主要な作品を解説した無料パンフレットあり。

奈良県立美術館
 藪内佐斗司展 やまとぢから
(10月19日~12月15日)
 藪内佐斗司の作品と、東京芸大の保存修復彫刻研究室が手がけた仏像を展示。平安時代末期の奈良仏師作例である浄瑠璃寺大日如来坐像を、本当に近くからじっくり見る。ほか新薬師寺地蔵菩薩立像(おたま地蔵)、善光寺阿弥陀如来立像などと、模刻作品として室生寺釈迦如来坐像、興福寺天燈鬼立像、六波羅蜜寺広目天立像など。六波羅蜜寺像は、本当に優れた出来映え。藪内作品は、ついつい仮面モードでみてしまうが、石巻文化センター所蔵の「あ・い・う・え・お」は、本当によい作品。図録あり(144頁、2625円)。

薬師寺
 東塔水煙降臨展
(9月16日~11月30日)
 東塔の水煙、相輪を間近で鑑賞。その様式研究は、薬師寺本尊の移坐・新造問題とも関わって、重要な検討が行われてきたが、そうした研究も、このように直接見る機会があるときに進むもの。東塔の修理中、同様の公開はあと数回はあるのではと想像するが、間近に見られるありがたさを感じながら、しっかり学びたい。しかし、藤原京か平城京か、簡単には言えない…。図録あり(27頁・500円)。

11月17日
国立民族学博物館
 特別展 渋沢敬三記念事業 屋根裏部屋の博物館 Attic Museum
(9月19日~12月3日)
 実業家・日銀総裁・大蔵大臣の渋沢敬三の、もう一つの姿をクローズアップする展示。渋沢による「民具」概念の形成と学問としての展開を提示。展示担当の中心人物、みんぱくの近藤氏が夏に急逝されたため、色々と大変だったよう。渋沢は玩具収集から始め、庶民の生活資料の収集へと移ったが、当初は職人の作った道具は収集しなかったというエピソードが興味深い。素人による高度な文化活動、という図式には文人的な価値観が無意識の背景にあったようにも思うけれど、職人仕事を当初は退けたということも、何かつながりそう。図録あり。
 駆け足で特別展を眺めてから、常設展示の世界の仮面を確認して回る。いくつか知見を得るが、展示の場では案外情報量が少ないことにも気づく。

11月22日
仁和寺
 和歌山県文化財研究会の文化財巡りのバスツアーに随行。まず仁和寺へ。法話を聞いて、重文の茶室を拝観して、国宝金堂の説明。続いて霊宝館秋季名宝展(10月1日~11月24日)を鑑賞し、阿弥陀如来両脇侍像(国宝)をじっくり解説。仁和4年(888)、仁和寺落慶供養時の本尊であり、平安時代前期彫刻の中に見える和様の先駆けを読み取る。

広隆寺
 11月22日は年に一度、秘仏2躯が開帳される日。広隆寺開創の歴史と弥勒菩薩像との関係を事前にご紹介して、霊宝殿へ。かつての金堂本尊であった薬師如来立像は、像高97.6㎝、髻を結い、冠を付け、蓋襠衣をまとう姿で、通常の薬師如来とは全く異なる菩薩形と天部形の混ざった不思議な姿。神仏習合の作例として、天部が条帛をまとう菩薩の服装をとっているところが、キーポイント。上宮王院の本尊聖徳太子立像は、等身大の大きさで、天皇即位の際に御袍と同じ衣裳が下賜され、身にまとう特殊な裸形の霊像。元永3年(1120)、仏師頼範の作。生身の太子に、すぐそばでまみえることができ、感慨無量。

龍谷ミュージアム
 仏教の思想と文化Ⅱ
(11月9日~2月2日)
 最後に龍谷ミュージアムへ。レクチャールームで解説を聞いてから、展示鑑賞。実物資料で、アジアと日本の仏教の展開を提示することは、やはりすごい作業。資料探しが大変だろうと思う。真如堂の本尊を細部まで写した阿弥陀如来像(龍大所蔵・鎌倉時代)が、新資料として提示。霊像の写しという行為は、本当に興味深い。ほか、二尊院の阿弥陀三尊来迎図の瑞雲表現をチェック。特集展示「中村元博士生誕100年記念事業 写真展 ブッダのことば」、特集展示「越中・勝興寺の名宝」(~12月23日)も鑑賞。なんとかどたばたとお役目を果たす。

11月24日
岡山県立美術館
 特別展 極楽へのいざない-練り供養をめぐる美術-
(11月1日~12月8日)
 岡山県美を会場に行われた岡山大学文学部主催の練り供養シンポジウム「アジアのなかの〈練り供養〉」で報告。事前に展示鑑賞。龍谷ミュージアムで2回見たので3回目。来迎図の瑞雲表現を確認し、最後の機会と、仮面をしっかりみておく。図録あり(184頁、2200円)。

11月30日
MIHO MUSEUM
 特別展 朱漆「根来」-中世に咲いた華-
(9月1日~12月15日)
 諸家に蔵せられる漆器「根来」の優品、400点を集める(展示替え4期)。堅牢な木胎、下地の黒漆、上塗りの朱漆。根来の魅力は、使用するうちに擦れて覗く朱の下の黒が、色の対比のインパクトともに、経てきた時間と使用した人びとの記憶を凝縮して伝えるところにある(仏像にもそういう要素はある)。紀年銘資料が多く、参考になる。図録あり(436
ページ、2940円)。今後の根来研究の上で、貴重な図版集となるもの。

12月19日
川上酒かつらぎ文化伝承館
 第2回かつらぎ文化遺産企画展 かつらぎの祭と芸能
(11月10日~12月22日)
 かつらぎ町内の重要な伝統芸能や祭を資料から紹介。花園の仏の舞の行道面、丹生都比売神社の父尉や尉、下天野の六斎念仏の鉦鼓などなど。地域の中で、地域の魅力を発信し、共有していくこうした展示の機会はとても大切。これからも継続して欲しい(担当者は大変だろうけど…)。

12月28日
奈良国立博物館
 特別陳列 おん祭と春日信仰の美術
(12月7日~1月19日)
 恒例のおん祭展。おん祭のお渡りのようすを描いた絵巻物や、春日信仰関連資料とともに、今年は大和士(さむらい)の後裔に伝わる関連資料を初公開。近世の箸尾氏系図や大和士仲間規定書に、戦国期大和国人衆の面影を見る。図録あり(1500円)。

 特集展示 新たに修理された文化財
(12月25日~1月19日)
 近年、奈良博内の修理工房で修理された文化財8件を紹介。館蔵の南無仏太子立像は鎌倉時代後期の作。修理前は真っ黒だが、当初彩色が驚くほど残されていた。実物を見ると、童子(幼児?)の愛らしさの表出が形骸化しておらず、同種作例の中でも早い時期のものとする解説に納得(側面・背面の立体表現も優れる)。一心寺の刺繍法然上人絵伝は、大幅4幅からなり、全面刺繍で画面を埋める驚きの資料。表具部分にも結縁者名が刺繍され、金糸も脱落し、修理は困難だったろうと推測する(多分自分が担当者だったら、しばらく茫然とする)。文化財保護法を設置根拠とする国立博物館においてこそ、こうした展示の開催意図を明確にできるので、内容をパネル化して蓄積し、貸し出すための教育普及キットにするのも一案。図録なし。

1月2日
大神神社宝物収蔵庫
 初詣のついでに収蔵庫も拝観。大国主大神像(大黒天立像)をじっくり。平安後期なのだろうけど、造像時期の確信を得にくい像。ほか文明8年(1476)の平等寺勧進帳、嘉元3年(1305)銘の朱漆金銅装楯(重文)、延元3年(1338)銘の朱漆塗高坏など。境外子安地蔵堂の本尊像(平安時代前期~中期)も拝観。暗くて見えないけど。

1月9日
九品仏浄真寺
 初参拝。延宝6年(1678)、珂碩上人の創建。来迎会で著名。珂碩が造像した丈六の九体阿弥陀像を拝観する。整った作風、大きな法量を含め、類例少なく近世彫刻史上に重要な位置を占めることを認識。珂碩造仏という伝は、宝山寺湛海と同様に、実作者が別にあるものであろうか。『九品仏縁起』(30頁、700円)購入。

サントリー美術館
 平等院鳳凰堂平成修理完成記念 天上の舞 飛天の美
(11月23日~1月13日)
 平等院本尊阿弥陀如来坐像光背化仏、雲中供養菩薩を核に、飛天の表象を幅広く捉えて展観する。インド~朝鮮半島の飛天表現と、浄土美術の諸相をとらえる構成で、展示担当者の飛天や供養菩薩への深い知見をもととする。平等院の光背化仏はもとより、個人所蔵の山海恵菩薩・薬上菩薩坐像、埼玉・今宮坊飛天像、兵庫・国分寺雲中供養菩薩像と、初見資料を共有させてもらえ、ありがたい。特に、岩手・松川二十五菩薩堂の二十五菩薩及び飛天像をじっくりと鑑賞。その優れた立体表現を心に刻む。図録あり(184頁、2400円)。参考文献が充実。

東京国立博物館
 特集陳列 日本の仮面 能面 是閑と河内
(11月19日~2月16日)
 館蔵能面の優品の中から、天下一是閑(出目吉満)と天下一河内(井関家重)の焼印が捺された仮面27面を展観。能面は写しによってその造形が継承されるが、近世初頭の面打の名人である是閑や河内の面自体も写されたため、焼印や知らせ鉋の有無だけで、真作か否かの判断が付かない難しさがある。それを踏まえて、造形の比較によって真作か否かまでを踏み込んで提示する、意欲的な展示。館蔵品で優品どうしの比較ができ、かつ造形そのものにクローズアップする視点がとれる東博ならではの強み。展示室中央に別置される天下一河内の十六は、繊細な造形と毛書きに優れた、気力充実した一面。

1月13日
東北歴史博物館
 東日本大震災復興祈念特別展 神さま仏さまの復興-被災文化財の修復と継承-
(11月16日~1月13日)
 宮城県内で、東日本大震災を要因として破損し修復が施された仏像について、それぞれの資料の被災の記憶と、修復に至る間の人びとの関わりを像とともに提示し、地域の象徴として守られてきたことを強調する。修理時の資料画像や調書など、詳細もともに報告する。
 横山不動尊大徳寺の不動明王坐像は、平安時代後期の丈六仏で、圧倒的な大きさ。双林寺薬師如来坐像、二天立像も東北を代表する平安時代前期の圧倒的な量感の彫像。野蒜海津見神社毘沙門天立像は、津波被災の後、地元住民によって部材が回収され、救援委員会による輸送作業、東北歴史博物館での保管、美術院ボランティアによる清掃・修復と、多くの人びとが関わったことが示される。
 これらの活動において、博物館が地域と積極的に関わりを有して、被災資料を未来へ引き継ぐための仲介者としての役割を果たしているようすを確認する。自分たちでは言わないが、博物館も、紛れもなく主役の一人である。図録あり(88頁、1080円)。ただし修理時の資料画像は図録に掲載されず。

松川二十五菩薩堂
 岩手県一関市松川の、松川二十五菩薩堂を訪問。平安時代後期の優れた作行を示す阿弥陀如来及び二十五菩薩の群像が伝わることで有名。群像中、造像当初の面部材が1点も残らないなど破損甚大であるが、脱落した腕など細かな部材も多数残り、一部金箔も確認される。
 洪水時に流れてきたものを救出した(脇を流れる砂鉄川は数年ごとに氾濫するとのこと)とする地域の伝承は、おそらく断片状態が長く続いたことを示すかと思われるが、あるいは大きな移動を経ず地域との関わりを失っていない可能性も想定される。周辺地域の地理的、宗教的環境も確認し、平泉の真東にあたり鉱山に囲まれる当地の象徴性に思いを馳せる。一関市博物館も訪問し、常設展示鑑賞。

せんだいメディアテーク
 一人ひとりのくらしの風景が見えてくる-東北学院大学「牡鹿半島のくらし展」-
(1月10日~1月13日)
 津波被害により被災し、レスキューされ、東北学院大学が受け入れた石巻市鮎川収蔵庫の民具を展示。これら資料はレスキュー後、大学で洗浄、脱塩の作業が行われ(国立民族学博物館など諸機関と連携)、安定化したが、基礎データも失われ、地域といかに関わってきたのかも不明となっている。昨年現地で2度展示され(旧牡鹿公民館跡地:2013年8月13日~15日、宮城県慶長使節船ミュージアム:11月3日~4日)、その際に聞き取り調査を行い、台帳化を図って、今回の展示ではそうした聞き取り情報をもとに資料をめぐる「思い出」をともに提示し、一つ一つの資料を地域の「歴史」の風景の中に再誘導する。
 展示-観覧者からの聞き取り-記憶の可視化のプロセスで、もう一度人びとの記憶と結びつけて、資料が「ある」ことの意味を作り上げる活動であり、こうした手法は、被災の有無、資料の種別に関係なく普遍化できるものであり、重要な実践である。リーフレットあり(16頁)。

1月19日
葛城市歴史博物館
 特別公開 観音菩薩立像-今在家 観音寺の仏像-
(12月20日~1月19日)
 當麻寺近在、葛城市今在家観音寺本尊の観音菩薩立像を初公開。頭体、上膊、足先、蓮肉部を含めて一材製。表情にはやや厳しさを残し、肩も少しいからせ胴を引き締めた、随所に古様を残す平安中期の作例。前髪を天冠台の上から頭頂へとかき上げて螺髻にともに結い上げる表現は独特で、条帛をあらわさず、腰帯の結び目が左体側部にあらわすことなど、特徴的な形式が散見される。霊像の模刻、といった制作背景も考えたいところ。当麻寺文化圏内における仏像様式の多様性を捉えうる、貴重な作例。
 本堂改築に伴って博物館で保管され、公開の運びとなったとのことで、博物館の機能を十全に発揮し、担うべき役割を果たされた有意義な機会。図録なし。

當麻寺
 吉祥天立像など特別公開
(1月16日~5月15日)
 足を伸ばしてご拝観。曼荼羅堂脇間に吉祥天立像(平安時代)、講堂に仁王像頭部(戦国時代)を安置。仁王像頭部は宿院仏師作例の可能性。

2月24日
神奈川県立金沢文庫
 特別展 中世密教と〈玉体安穏〉の祈り
(2月20日~4月20日)
 中世密教と王権が密接に結びつきあう実相を、天皇の身体護持(玉体安穏)という観点から、後七日の御修法、後醍醐天皇と護持僧文観、及びその他の諸修法にクローズアップして提示する。さまざまなアイテムにより構築された聖なる場、蓄積され継承される密教教学の理論、呪術的能力を相伝・獲得したと自他が認識する僧(シャーマン)の、それぞれが重なりあって効果を発揮する「儀礼」の構造が、一見難解な称名寺聖教という中世密教のタイムカプセルから浮かび上がる。
 「儀礼的」という言葉には形骸化の意も重なるが、「儀礼」が緊張感を持って受容された社会の実相を知り、「儀礼」の構造を考えることは、現代社会と「儀礼」の関係を考える視点の構築にもつながるように思う。
 護摩要抄、宝悉多陀羅尼経といった初公開の文観周辺聖教が注目。図録あり(64ページ、1000円)。展示中の聖教類など、図書室で写真を複写してもらって鞄に詰める。
 
畠山記念館
 千少庵没後400年記念 利休とその系譜
(1月18日~3月16日)
 千家二代少庵の没後400年に、館蔵の利休・少庵・道安・宗旦ほかの茶道具・書画を展示。利休作の象牙茶杓、利休所持の信楽共蓋水指、井戸茶碗銘江岑、兀庵普寧の法語、『松屋会記』の筆者松屋源三郎(久政)宛道安消息など。入り口につり下げられた、熊野本宮伝来の文明6年(1474)銘銅製吊燈籠をじっくり拝見。

江戸東京博物館
 特集展示 2011・3・11 平成の大津波被害と博物館-被災資料の再生をめざして-
(2月8日~3月23日)
 昨年、岩手県立博物館と昭和女子大学光葉博物館で開催された同名の展示を、会場を変えて再度開催。東日本大震災で被災した資料のレスキューと、その後の修復や安定化の作業を、実物とパネルで紹介する。歴史資料、考古資料、美術資料、昆虫標本、植物標本など、展示資料もさまざま。
 こうした展示は、資料を守り伝えることを使命として関わってきた多くの人びとの尊い活動の記録であり、またその活動理念の貴重な共有化の機会でもある。これからもなお続く安定化作業への理解や、また今後も発生するであろう災害時の対応を見据え、こうした機会がこれからも各地で、組織的、継続的に行われていく必要がある。図録あり(15ページ・380円)。

2月28日
太地町石垣記念館
 太地町歴史資料室特別展 海を越える太地
(2月1日~3月15日)
 昭和の初め、人口約3800名の太地町からは、500名以上が出稼ぎのためアメリカ、カナダ、オーストラリアへ渡っており、そうした移民の人々の仕事や暮らしの様子を、遺品や写真から提示。横長のパノラマ写真にずらりと写った正装した老若男女に、移民先でのコミュニティ形成とその維持の重要性を感じる。図録は作製中との由。

3月2日
栗東歴史民俗博物館
 小地域展 野尻の歴史と文化
(3月1日~4月13日)
 栗東市野尻地区の歴史を、縄文時代から近代までの資料から通覧する。宗教美術では、日吉神社の男神像2躯(鎌倉時代)。1躯は倚子状の台に座り、もう1躯は跪坐する。正安3年(1301)銘のある宮殿も展示。ほか安楽寺の方便法身尊像(室町時代)など。
 平成12年度から行っている、市内の地区ごとに歴史を紹介するこのシリーズは、厳しい運営状況下でも存続され、同館の調査研究能力と存在意義を高めている本当に価値あるものと思う。継続は力なり。

大津市歴史博物館
 企画展 湖都大津のこもんじょ学
(3月1日~4月13日)
 近所の皇子山陸上競技場で、びわ湖毎日マラソンのゴールの様子を見てから、博物館へ。
 日本史研究上に著名な古文書や、地域の歴史をキラリと伝える古文書など、古代から近代までの古文書を多数展観。大津市史編纂時の調査成果を基盤として(編纂時の資料などは博物館保管)、1章で古文書から分かる大津の歴史を、2章で古文書自体の形態や内容、伝来のあり方等を紹介する。
 寺社・地域・個人が守ってきた古文書への理解(と愛情)を深めることで、それらを今後も継承していくことへのアピールが展示全体にみなぎっており、資料を守ることへの切実な思いを市民と共有化しようとするテーマが明確である。そうしたテーマを、園城寺や石山寺、延暦寺、葛川明王院などの一級資料で構築できるのはさすがに大津で、あらゆる利用者に目配りした、バランスのよい展示。図録あり(96ページ、1200円)

 ミニ企画展 大津の仏教文化15 獅子・狛犬 
(1月21日~3月16日)
 大津市内の神社に伝来した鎌倉~江戸時代の獅子・狛犬13件を展示。神田神社や天皇神社の古様を残す獅子・狛犬と、日吉神社の文禄4年(1595)七條仏師康正作と想定される大きな獅子・狛犬に注目して鑑賞。滋賀県は中世の獅子・狛犬が集中的に残存するが、中近世移行期~近世前期の重要作例も多そう。リーフレットあり。

 新発見速報展 新知恩院の木造釈迦涅槃像
(2月8日~3月16日)
 新知恩院の総合調査の過程で見出された、鎌倉時代前期の快慶工房作と判断される、体長12.8㎝の小さな釈迦涅槃像を初公開。大きさはもとより、三道下の肉身部に水晶が嵌装される作例も他に類がなく、特殊な制作背景があるとみられる。これをきっかけに、今後、類例が見つかるかもしれない。
 こうした孤高の作例を、見落とすことなく見出し、きちんと資料化して提示することは簡単なことでなく、かつ効果的に広報して広く共有化し、展示へと結びつけられる同館のマネジメント力もすごい。この涅槃像を含む新知恩院文化財調査の報告を掲載した紀要19号あり(112ページ・1500円)。

3月6日
九州大学総合研究博物館
 九大の付属図書館をあちこち(中央図書館・文系合同図書室・記録資料館九州文化史資料部門)巡って資料閲覧してから、博物館の案内があったので立ち寄る。しかし、小さな1室に昆虫などの標本と剥製がわずかにあるのみ。腑に落ちないまま退室。「こ、これが、九大の総合研究博物館か…」と衝撃を受けながら、さすがにまさかと思って後で調べたら、いくつもの建物に展示室が分かれており、入ったのは平常展示室であったと判明。残念ながら他の展示スペースは見のがしてしまった。もうちょっと案内が欲しかった…。

九州国立博物館
 国宝 大神社展
(1月15日~3月9日)
 神宮式年遷宮を記念した神社本庁の特別協力による神道美術展。東博会場の鑑賞(4/20)に続き、九博会場にもなんとか滑り込みで鑑賞。こちらでもやはり、神像に注目。東寺八幡三神像のうち女神坐像、熊野速玉大社夫須美大神坐像、松尾大社三神像、御調八幡宮女神坐像・僧形八幡神坐像、奈多宮八幡三神像、伊奈冨神社男神坐像ほかの重要資料の数々を、じっくりと拝観。古代における神像の様式変遷を一望できる貴重な機会で、次のチャンスはなかなかなさそう。図録あり(340ページ、2300円)。

観世音寺
 九博からてくてく歩いて、観世音寺へ。宝蔵で圧倒的な巨像群を拝観。兜跋毘沙門天像をじっくりと確認しながら、9世紀の地天女の作風検討は、初期の女神像を見つめるための一つの視角になることを思う(すでに誰か着想してるだろうけど)。戒壇院を参拝したのち、近隣の太宰府市民図書館へ移動し、文献閲覧。

福岡アジア美術館
 東京・ソウル・台北・長春 官展にみる近代美術
(2月13日~3月18日)
 あじびを初訪問(以前来た時は、水曜休館としらず撃沈)。近代期における、日本の統治・支配を受けたアジア諸国で行われた官設の公募美術展覧会(官展)の出陳作品を集める。美術の「移植」とその地域的な展開を一望する。図録あり(2000円)。常設展示も、作品の独自性が高く、興味深く鑑賞。

3月7日
紀の川市歴史民俗資料館
 企画展 アメリカ移民と那賀地方
(3月5日~3月30日)
 紀ノ川中流域の那賀地方で、明治10年代からアメリカ移民が始まった実態を、写真やパスポート、手紙、トランクなど残された資料から展示。この展示の構築に際して、新たに移民について研究する那賀移民史懇話会が設立されており、そうした市民グループの高度で実践的な歴史研究が、地域の博物館で披瀝されることは大変すばらしい。移民のベースとして数多くの私塾で行われた高等教育を背景として提示している点は重要で、沿岸地域の移民とはまた異なる状況のあったことを知る。会期中に行われる梅田律子氏の講演会資料(A4・24ページ)が、そのまま展示図録といってよい水準で用意されている。

3月15日
慈光円福院・西山観音堂(普門寺)・福琳寺
 和歌山県博友の会の仏像鑑賞のバスツアー随行。最初に博物館で1時間の講座「観音菩薩ってどんな仏さま?」を行ったのち、現地を訪ねる。
 慈光円福院(和歌山市)の十一面観音菩薩立像(像高149.3㎝・平安時代前期(9世紀)・重要文化財)は、カヤの一木から、頭・体の全て、右腕の大半、左手の肘までを彫りだした一木造の像。肩に垂れる髪、肩から腰へ巻き付く天衣など、遊離した部分の多くも同木。やや厳しい表情、たくましい体型、鋭い衣紋など平安時代前期の作風を示すもの。和歌山市内下和佐の慈光寺(和佐八幡宮別当寺)の旧本尊で、戦後、寺籍とともに移される。和歌山の平安初期彫像を代表する1躯。
 西山観音堂(紀の川市)の十一面観音菩薩立像(像高180.2㎝・平安時代後期(12世紀)・紀の川市指定文化財)は、ヒノキの一木から頭体を木取りし、前後に割り矧いで内刳りし、頭部も割り放した一木割矧造の像。肉付きのよい穏やかな体型は平安時代後期に通有のもので、表情や立体表現など、洗練された作風を示す。隣接する丹生神社の神宮寺であった普門寺伝来の仏像。あまり知られていないが、和歌山における平安後期観音像の秀作。
 福琳寺(紀の川市)の聖観音菩薩坐像(像高165.7㎝・鎌倉時代後期(13世紀)・紀の川市指定文化財)は、ヒノキの一木から頭体を木取りし、前後に割り矧いで内刳りし、頭部も割り放した一木割矧造の巨像。張りのある面貌、引き締められた体躯の表現など鎌倉時代、13世紀後半ごろの作風を示す。大きな光背と蓮華座も造像当初のもの。像内に仏師名があり、法橋定祐と読めそうで、いろいろ興味深い。本来弥勒菩薩として造像された可能性あり。これだけの大作であるが、ほとんど知られていない。住職も、今まで拝観に来る人ありませんでしたなあ、とのこと。

3月26日
印刷博物館
 3Dプリンティングの世界にようこそ!-ここまで来た!驚きの技術と活用-
(3月11日~6月1日)
 3Dプリンターの原理と用いるさまざまな材料(樹脂・金属・ゴム・紙・石膏など)を示し、医療、教育など活用の展開、自らデザインして作品を作る新たな生活スタイルのイメージなどを、ギャラリーで紹介。立体データ作製に使うCADソフトの体験コーナーも設ける。実際にさわれるものも多く、素材の違いなどを実感できる。図録なし。

東京藝術大学大学美術館
 観音の里の祈りとくらし展-びわ湖・長浜のホトケたち-
(3月21日~4月13日)
 滋賀県長浜市と連携した仏像展。平安初期観音像の名作の一つ、赤後寺(日吉神社)の千手観音立像をはじめとする18件の観音像を、それら仏像が地域住民の紐帯として守られ続けてきた歴史とともに展観する。歴史・文化を背景にした地域の特色(今に生きる宗教文化財の集中残存地域)を明確にし、「長浜市」を広くアピールするイメージプランディングの一環と拝察するが、文化財行政担当者の、文化財保有者・管理者との長年にわたる誠実で地道な関係作りがその基盤にあることも、展示や解説からは伝わってくる。会期短いが、ぜひご鑑賞を。図録あり(134頁、1500円)。

東京国立博物館
 開山・栄西禅師800年遠忌特別展 栄西と建仁寺
(3月25日~5月18日)
 建仁寺と塔頭、関連寺院の文化財を集約して、茶祖・密教僧・禅律僧・東大寺大勧進といった、臨済禅だけに収束されない栄西の人物像を提示するとともに、歴代の僧侶の肖像、狩野山雪・長谷川等伯・海北友松の大画面の作品など、大寺の風格を展観する。俵屋宗達の風神雷神図屏風は、最後の部屋でトリを務める。南北朝期の建仁寺住職聞渓良聡が中興した六道珍皇寺の小野篁・冥官・獄卒像は、元禄2年(1689)ながら鎌倉時代彫刻と見紛うばかりの優れた出来映えの大作。仏師院達の作。図録あり(350頁、2600円)。

今年度訪問した館・寺院等はのべ86ヶ所、鑑賞した展覧会は72本でした。