平成21(2009)年度「展覧会・文化財を見てきました。」

4月5日
本居宣長記念館
企画展 歌を楽しむ
(3月24日~6月21日)
 国学者・本居宣長の思想の出発点としての和歌に注目して、館蔵資料を展観。本居宣長四十四歳自画自賛像、『栄
貞詠草』、『和歌の浦』など。

パラミタミュージアム
 近時館蔵品となった、長快作の長谷寺式十一面観音立像を鑑賞。もと四日市市内の旧家に伝わり、「興福寺よりの
請来仏」と伝えられ、興福寺禅定院観音堂本尊の可能性が高い。長谷寺本尊の八分の一縮尺像。足ほぞに「工匠/
定阿弥陀仏/長快」の銘あり。

4月10日
奈良国立博物館
特別展 国宝 鑑真和上展
(4月4日~5月24日)
 金堂平成大修理記念の特別展。鑑真和上像の側面観がよく鑑賞でき、胸を張った唐風の顕著な立体であることがよ
く分かる。その他木彫群も側面を見ることができるのがありがたいが、雰囲気を出すための照明演出はちょっと暗い印
象。戒壇道場の実物資料による再現など、おもしろい試みも行っている。応永2年(1395)、椿井仏師成慶による覚盛
上人坐像、ようやく実物がみられて感慨深い。遠くに展示されているのは残念だが、しっかりした彫技は確認できる。七
条仏師による時衆祖師像との比較も今後必要か。図録あり(256頁・2300円)。

4月13日
法隆寺大宝蔵殿
法隆寺秘宝展―僧房と子院と寺僧たち―
(3月20日~6月30日)
 恒例の春の大宝蔵殿での展示。僧具メインかと思えば、さにあらず仏像も多い。三経院の阿弥陀如来坐像(重文)と
広目天・多聞天立像(重文)が第一室に。宝塔を振り上げ掲げる多聞天は古き南都の伝統。奈良仏師なのだろう。観
勒僧正像とさえる聖僧像(10世紀・重文)は本来は聖僧文殊。初めて見た。北室院の不動明王二童子像は不動が平安
後期、童子が南北朝。その他塔頭の仏像も並ぶ。朱漆塗の漆器も多数展示される。見応えあり。図録なし。

4月18日
長野県信濃美術館
善光寺御開帳記念 “いのり”のかたち 善光寺信仰展
(4月4日~5月31日)
 善光寺開帳を記念し、善光寺式阿弥陀三尊像を多数集めるほか、長野県内の仏像をうまく関連づけて展示(古代の
仏像、霊験仏、善光寺仏師の仏像という枠で)。ドイツ・リンデン民族学博物館の善光寺式阿弥陀三尊像は、開帳して
いる御前立本尊(重文)と酷似する像。脇にお前立ち本尊像の拡大パネルあり。観松院菩薩半跏像(重文、~5/10)、
清水寺観音菩薩立像(重文、~5/6)のほか、東大寺俊乗堂の快慶作阿弥陀如来立像(重文)を、善光寺で新発見され
た快慶様式の阿弥陀像との関わりで出陳され、有意義。善光寺仏師による鎌倉時代の仏像もおもしろいもの。なお、
県立歴史館の特別展と善光寺式阿弥陀像ほかの重要作例が一部かぶっているが、4月4日~4月9日の間だけの展
示という力技のほか、会期の前後半で交換という手法をとった模様。御開帳という「非常事態」ですから、こういうことも
あるでしょうし、善光寺脇の信濃美術館でいろいろな作例が見られることは意義があるものと思う。それだけに、普段
の客層とは異なるはずなので、作品の芸術的意義と、その作品の歴史的意義(縁起といってもよい)を接続させるため
の解説文が個々にあってもよかったのでは、と思う。図録あり(144頁・2000円)。

善光寺・善光寺史料館
 善光寺の内陣拝観は恐ろしいほどの行列なので、外陣から参拝(行列なし)。それでも十分阿弥陀三尊像のようすは
うかがえる。さっき大きなパネルで細部まで見たことだし。拝観後、善光寺史料館で、近時東京芸大で調査・修理され
た、快慶様式の阿弥陀如来立像を拝観。確かに快慶風(後期の)。さっき東大寺像を見たことだし。史料館には他にも
平安~近代の仏像多数。

大勧進宝物館
 続いて大勧進宝物館も拝観。平安仏も少しあるほか、諸種の奉納品が、ある種文化財級の古い展示ケースに収ま
る。勧進所の機能的側面は近代期の早い段階で常設の宝物展観所の設営につながったのでは、と妄想する。「近代
期の寺社における宝物展観所の歴史的研究」って、近代史・宗教史・美術史・国文学・建築史等の複合した研究テーマ
になりそうだ。博覧会ともリンクするのだろう。

長野市立博物館
特別展 女たちと善光寺
(4月4日~5月31日)
 善光寺如来による女人救済譚に着目し、善光寺と女性という枠組みで展示を構成する。善光寺式阿弥陀三尊像は、
千葉・清光寺像(正安2年(1300)銘)、千葉・東陽寺像(永享4年(1432)銘)、群馬・青蓮寺像(重文)を展示。青蓮寺像
は極めて精巧な鎌倉時代の作例。善光寺と直接関係ないが「中世の女性たち」の枠組みで和歌山・熊野速玉大社古
神宝(国宝)や神奈川・光明寺大麻曼荼羅縁起絵巻(国宝)、神奈川・正念寺熊野権現影向図などを展示。また女人救
済の枠組みで、千葉・正泉寺の熊野観心十界図や血盆経、血盆経縁起などをまとまって展観できたのは貴重。図録あ
り(102頁・1500円)

長野県立歴史館
企画展 善光寺信仰―流転と遍歴の勧化―
(4月11日~6月7日)
 善光寺の歴史を流転・遍歴・勧化いう観点からみる。善光寺式阿弥陀の展示は、同じ型を用いたと想定されるものに
特化して集約していて、テーマ性が明確。和歌山・不動院像(重文)、長野・庄内町善光寺像、長野・個人と庄内町万部
落、真岡市荘厳寺の分蔵像を並べたり、東京国立博物館の建長6年(1254)銘三尊像と、長野・筑北村八木区像(建
治元年(1275)銘、鉄仏)、長野・羽生市天宗寺像(鉄仏)、長野・行田市龍高寺像、長野・喜多方市熊野神社像が並ぶ
様に、知的好奇心を喚起される。一見の価値あり。甲斐善光寺の豊臣秀吉朱印状は、甲斐に移動してた善光寺本尊
像を京都東山大仏殿(方広寺)の本尊とするために遷座することを命じた内容。実物を見られてうれしい。時宗本山清
浄光寺の重要資料がまとまって展示されるが、一遍聖絵(国宝)、現品展示のはずがレプリカで、かつ現品の展示期間
がどこにも提示されておらず困惑。序盤、考古資料で長野と朝鮮半島との関わりを示す部分は蛇足のようにも思えた
が、所蔵資料の活用ということが大事な事もよくわかる。図録あり(84頁・1000円)。

4月25日
和歌山県立博物館(宣伝)
特別展 きのくにの精華―和歌山県立博物館寄託の国宝・重要文化財―
(4月25日~6月7日)
新館開館15周年を記念して、当館が寄託を受けている文化財の中から国宝・重要文化財に限って特別に公開します。
円満寺の仏像・長沢芦雪の絵画・熊野速玉大社の古神宝類など、和歌山県に残されている文化財の価値を改めて認
識していただく絶好の機会です。

4月26日
奈良県立橿原考古学研究所附属博物館
特別展 吉野川紀行―吉野・宇智をめぐる交流と信仰―
(4月18日~6月14日)
奈良県・吉野川の流域(和歌山県に入ると紀ノ川となる)における地域性や宗教環境を、考古資料を主体に展観。旧石
器・縄文・弥生・古墳時代の章は失礼してささっとみて、吉野・大峰の山岳修験や経塚関連資料をじっくり。櫻本坊の銅
造釈迦如来坐像(7c、重文)、金峰神社所蔵、金峰山経塚出土の金銅藤原道長経筒(国宝)、鍍銀経箱(重文)といっ
た著名な資料が目玉。そのほか、大峰山寺周辺で発掘された蔵王権現の鏡像や八稜鏡、金銅宝塔部材の残欠、銭
弘俶塔などなど、橿考研所蔵の大峰山頂遺跡出土資料の全体像をうかがえ、貴重な機会。八稜鏡の多さは特筆され
る。吉野・大峰(金峰)・熊野の山岳修験関連資料を総合的に把握する機会が必要だと実感する(今秋の和歌山県博
特別展「熊野三山の至宝」では経塚資料を多数展示する予定ですので、併せてどうぞ)。再訪を期する。図録あり(88
頁・700円)。

金峯山寺
世界遺産登録五周年記念 金峯山経塚遺宝特別展―金峯山信仰の証―
(3月28日~5月10日)
橿考研の展示では出陳されていなかった、金峯山経塚出土の鷺足器台付金銅経箱(国宝)、金銀鍍双鳥宝相華文経
箱(国宝)、猫足器台付金銅経箱(国宝)、経軸(国宝)が、蔵王堂裏の本地堂で特別展示。他に人がおらずじっくりと鑑
賞できた。経塚埋納品の、初期かつ最高級の資料群を堪能。他に蔵王権現鏡像、経塚出土の紺紙金字法華経や、平
成20年度に発掘された山下蔵王堂周辺の平安時代後期の出土品もあり。図録なし。

5月4日
醍醐寺霊宝館
春期特別公開 「聖宝理源大師1100年御遠忌」記念 聖宝が開き、秀吉が愛した醍醐の山
(3月25日~5月6日)
 春の恒例特別公開。大元帥法本尊像(重文)3幅、やや緊張感を減じた描線ながら、鎌倉末期の大作。五大尊像(国
宝、鎌倉)、文殊渡海図(国宝、鎌倉)、訶梨帝母像(国宝、平安)と、仏画の優品が並ぶ。仏像は修理成った千手観音
立像(重文、平安)が中央に。体躯のプロポーションのよさに改めて気づく。ほか、薬師三尊像(国宝、平安)、五大明王
像(重文、平安)、如意輪観音像(重文、平安)等例の如くだが、見る側の変化で見え方が少しづつ変わる。折に触れて
同じ像を何度もみるのはよいことでしょう。図録なし。

栗東歴史民俗博物館
特集展示 阿弥陀・地蔵・十王
(5月2日~7月20日)
 寄託品の中から、死後の安穏という問題に関わる像主を選び展示。永源寺の地蔵十王図(重文)は陸信忠銘のある
寧波仏画。いくつかある陸信忠銘十王図の中で中国風が顕著。元時代。熊野神社の熊野本地仏のうち阿弥陀如来立
像、地蔵菩薩立像が展示。じっくりと鑑賞。今春より、市の財政改革プログラムの一環で活動が制限されることとなった
同館の状況について、苦しい状況の中ではあるが、ロビー展の充実などで館蔵品・寄託品の活用をはかるべく検討し
ている旨、おうかがいする。なにとぞ、頑張ってください。図録なし。

愛荘町歴史文化博物館
開館15周年記念春季展示会 12の善神―金剛輪寺の十二神将―
(4月25日~5月31日)
 金剛輪寺の十二神将立像を初公開。鎌倉時代前期製作の一群で、小像ながら優れた造形性を見せる。作行にやや
違いがあるが、2・6・7・9・11号像が特に優れる。細部の仕上げでも、2号像が鎧に金銅製透かし彫り金具を付けるほ
か、他像でも精緻な裁金を施すなど見応えがある。上半身裸形の11号像の奥行きある肉身の充実感と、抑制の効い
た穏健な立体表現からは、湛慶世代の優れた仏師の参画が想定される。展示規模は大きくないが、必見。図録あり
(16頁・600円)。金剛輪寺にも参拝して、本堂の仏像群を拝観。子ども二人をだっこ・おんぶしての山登り。足ががくがく
に。

5月9日
東京都美術館
日本の美術館名品展
(4月25日~7月5日)
 東京都美術館を会場に開催された美術史学会のシンポジウムの合間に、上野の森をめぐる。9時開館と同時に入場
して鑑賞。公立美術館のネットワーク組織、美術館連絡協議会創立25周年記念の展示で、全国100館から洋画、日本
近代洋画、近代日本画を軸に、各館の目玉作品ばかりを集約する。ほぼ全ての作品に、各館のコメントと解説がつい
ており、鑑賞の便が図られる。結果的に、各館におけるその作品の歴史的位置を示す解説となっており、作品の価値
の重層性を意識させ、好ましい。図録あり(312頁・2500円)。

東京藝術大学大学美術館
特別展 尼門跡寺院の世界―皇女たちの信仰と御所文化
(4月14日~6月14日)
 シンポの昼休みに、芸大にダッシュ。京都・奈良の13ヶ寺の尼門跡から資料を集めて展観。仏像では、中宮寺の紙
製文殊菩薩立像(鎌倉時代、重文)。大聖寺涅槃図など、尼僧の手による仏画の本格的な作風に驚く。各寺の尼僧の
肖像画がずらりと並ぶコーナーは圧巻だが、各幅の前に茶碗に造花を入れて飾るディスプレイはやや蛇足か。霊鑑寺
上段の間障壁画を印刷で再現した展示、印刷の細部を見ようと覗き込んで柱に手を当てたとたん係員に注意される。
いろいろ納得できないが、ぐっとこらえる。図録あり(384頁、2500円)。

東京国立博物館
興福寺創建1300年記念 国宝 阿修羅展
(3月31日~6月7日)
 シンポ終了後、夜間開館の東博へ。創建1300年、中金堂再建にあたっての出開帳。善男善女が我も我もと結縁に駆
けつけて、大層な人出。きっと記録的な入館者数になるのでしょう。阿修羅立像(国宝、奈良時代)がぐるりと見られる
ことをはじめ、八部衆、十大弟子も側面が確認でき有意義。自分の研究テーマに関わるので、中金堂四天王像をじっく
り鑑賞。4躯の中では、広目天立像の力感、躍動感、安定感、彫刻空間の大きさが抜群にうまい。康慶工房の構成員
の中で考えれば運慶かもと妄想。適当なこと書いてちゃいけませんけど。工房論をしっかり理論武装して組み立てなけ
ればと思う(が、やるひまがない)。図録あり(304頁、2500円)。

特集陳列 平成21年新指定国宝・重要文化財
(4月28日~5月10日)
 恒例新指定文化財のお披露目。彫刻では、昨年いろんな意味で注目された真如苑の大日如来坐像、佛教大学宗教
文化ミュージアムの調査で発見されたばかりの清凉寺毘沙門天坐像、奈良博の展示で像内納入品が確認された円教
寺性空坐像など近年の調査研究活動が反映されたものや、新潟・関山神社の銅造菩薩立像のように古くから知られて
いたものの再評価、そしてなにより、輪王寺の木造天海坐像(康音作)、銅造釈迦如来坐像(康知作)という江戸時代
彫刻や、東博所蔵の金剛宗家伝来能面の指定は、これまで美術史の中でスポットをあびにくく評価が進んでいない分
野を果敢に指定するもので、今後の方向性を明確に示したと思う。

特別展 Story of …―カルティエ クリエイション~めぐり逢う美の記憶―
(3月28日~5月31日)
 日仏交流150周年を記念した展示。「まるでダイヤのように輝く」というよく聞くフレーズが、嘘偽りのない事実であるこ
とを知る。まぶしくって目が痛い。私には宝石は猫に小判なので、内部に画像が浮かび上がる特殊な展示ケースや、
一室を真っ白に塗った展示室など、従来の東博にはない展示空間造りに注目。若い女性が多く、ため息と歓声がうず
まき、いい匂いもうずまく。悔しいので法隆寺宝物館に行って「珠玉の」名宝にため息・歓声を上げる(心の中で)。こち
らは暗くって目が痛い。行く順番を間違えたようです。

5月11日
市尾宮塚古墳(奈良県高市郡高取町大字市尾)
独立丘陵上に築造された6世紀中頃の前方後円墳。全長44m。飛鳥と紀伊水門(きのみなと)を結ぶ紀路沿いにあり、
国際色豊かな副葬品が確認されることから、外交に従事していた豪族の首長の墓と見られている。国指定史跡

市尾墓山古墳(奈良県高市郡高取町大字市尾)
6世紀初め頃築造の前方後円墳。墳丘長70mで周濠と外堤をあわせると100mを超える。平地にあるので大変目立
つ。石室内の刳抜式家型石棺は、長さ2.71m、幅1.33m、高さ1.39mで、大和の古墳としては最大級の規模。近年の整
備に伴う発掘調査で鳥形木製品が出土。国指定史跡。

水泥南古墳(奈良県御所市古瀬)
6世紀後半築造の、直径約25mの円墳。玄室と羨道に一基ずつ家型石棺が置かれ、羨道におかれた石棺の蓋の縄
掛け突起に蓮華文が表されていることで知られ、古墳に仏教の影響が及んだ事例の可能性がある。 北100mの水泥
北古墳は石舞台級の巨大な玄室を持つ。国指定史跡。

5月18日
日本武尊琴弾原白鳥陵(奈良県御所市冨田)
 三重県亀山市の能褒野陵、大阪府羽曳野市古市の白鳥陵と共に白鳥三陵と呼ばれる。亀山で死んだヤマトタケル
が白鳥となって琴弾原に降り立ち、また飛び立って古市に降り立ったという神話をもとに設定された陵墓。小丘陵の頂
部を区画して陵墓としているが、果たして古墳なのだろうか、よくわからない。

宮山古墳(奈良県御所市宮)
 全長238m、前方部幅110m、高さ22m、後円部径105m、古墳時代中期(5世紀前半)の巨大前方後円墳。近世には
孝安天皇陵に比定。葛城襲津彦の墓とか、武内宿禰の墓とかいわれる。国指定史跡。出土した靫や楯、家形の埴輪
は橿原考古学研究所附属博物館に常設展示。

5月30日
広島県立歴史博物館
開館20周年記念企画展 神・人・財―広島県の神社の至宝―
(4月24日~6月14日)
 しばらく展覧会めぐりができなかったので、思い切って気になっていた広島歴博へ初訪問。広島県内の神社所蔵資料
を集める企画展。お目当ては御調(みつぎ)八幡宮の獅子頭・馬頭・行道面(全て重文、平安時代)。行道面は如来・地
蔵・菩薩各1面だけで残念。それぞれ面奥が深い。吉備津神社の狛犬(重文)は平安後期らしい表現。ほか、厳島神社
の飾馬(重文、鎌倉時代)や檜扇(国宝、平安時代)が1握、能装束(重文、桃山時代)が1領。総花的な展示の意義も
あるが、展示室の広さの制約で展示資料数がやや少ないのは残念。御調八幡宮一社に集中して調査・研究した展示
を見てみたい。図録あり(104頁・1500円)。 常設展示の草戸千軒遺跡の復元も見学。遺物展示の部屋も含めて、さす
がに充実。

明王院
 福山市内、瀬戸内海に注ぐ芦田川畔の明王院にも拝観。草戸千軒は明王院の門前町。国宝の金堂(鎌倉時代)、五
重塔(南北朝時代)の威容。子におみくじ引かせてご機嫌取り。福山市内で昼食をとって、時間を確認して関西へきび
すを返す。

兵庫県立考古博物館
特別展 王朝国家の光芒-各地に花開く宮廷文化-
(4月25日~6月28日)
 こちらも初訪問。福原の都に関係する資料を軸にして、平等院・鳥羽離宮・白川金色院・平泉など、同時代の他の地
域の「考古資料」を集める。地域で出土した遺物の資料性の高さやその時代の感覚を実感してもらうための比較資料
を他地域に求めるのであるならば、考古資料に限らなくともよかったのではないか。鳥羽離宮成菩提院跡出土の仏手
や雲形木製品(平等院雲中供養菩薩の雲と同じもの、図録には仏手しか図版がなく残念)は不勉強で知らなかったの
で収穫。図録あり(58頁・1000円)。 常設展示では子ども向けの体験型展示が充実。子に発掘体験遊びをさせるが、
発掘は宝探しだと刷り込みができてしまったかも。図書やパソコンを置いた学習室が明るく大きく、かつ展示室より入り
口に近いのはスバラシイ。 

5月31日
葛城市歴史博物館
企画展 石光寺-ありし塔をもとめて-
(5月2日~6月21日)
1991年に境内から白鳳時代(飛鳥時代後期)の弥勒石仏が出土した石光寺。昨年12月に行われた発掘調査の成果を
展示。めずらしい文様塑壁(土製で型?で花文を立体的に表し漆箔仕上げを施している)やセン仏など。セン仏は山田
寺出土のものと同じ、右肘を衣の端で少し覆うもの。図録あり(8頁・150円)。

カンジョ古墳(奈良県高取町与楽)
 一辺約36メートル前後の方墳で、高さ5.27メートル、幅3.7メートル、長さ6メートルの石室を持つ。高さは石舞台古墳以
上で奈良県一の巨大石室。整備が行われ、石室内も見ることができる。奈良県指定史跡。国史跡じゃないのか…。

6月6日
国立国際美術館
杉本博司 歴史の歴史
(4月14日~6月7日)
 締め切りの過ぎた原稿を抱えて後ろめたい気持ちもありつつ、終了間際の同展に滑り込む。いろいろなジャンルの作
品があるが、お目当ては仏教美術や仮面。チラシにもなっている文殊菩薩像(鎌倉時代)や伊勢参詣曼荼羅(室町時
代)などの絵画や、父尉(鎌倉~南北朝時代)や延命冠者(南北朝~室町時代)など古い仮面を鑑賞。しかし子連れの
ためか、肩身の狭い思いをすることに。子が少しぐずったのでおんぶしてケース内の仏画を夢中で見ていると監視員に
「ガラスケースのそばに近づかないで下さい」と言われ(理由が分からない)、気を取り直して子に説明していると他のお
客さんから「ちっ、うるさいな」と言われる。かなりへこみながら謝り、子をロビーで待たせて展示室に戻り、独立ケース
に展示された仮面の裏側を確認していると同じ監視員に「ケースの裏側に回らないでください。どうしても見たいなら首
だけ後ろにのぞかせてください。」と言われる。断じて裏側に回ってはいけないようなケースではないはずだし、規制もし
ていないし…と思うも、「迷惑な客」扱いに耐えきれず会場を出る。図録あり(336頁・定価8500円、会場では6800円)。

6月8日
額安寺(奈良県郡山市額田部寺町)
 大学の講義を終えて、帰路、ふと立ち寄る。随分昔、十数年前に訪れたような気がするが、その時には一般公開はさ
れていなかったように思う。今回もちょっと様子をうかがうぐらいのつもりだったが、受付ができていて拝観料をお支払
いすればご拝観できるようになっていて少しおどろく。本堂の本尊は等身大の十一面観音立像で、やや判断が難しい
が室町時代の製作と見られる。納められている宮殿型厨子も室町時代か。脇侍の梵天・帝釈天は一見平安後期風の
江戸時代。厨子脇の二天立像は平安時代。収蔵庫では重要文化財の虚空蔵菩薩半跏像(奈良時代)を間近で拝観
(ケース内に納められている)。側面もよく見ることができる。せっかくなので、少し離れた所にある重要文化財の額安
寺五輪塔も拝観。一番大きな五輪塔は忍性の供養塔。発掘調査で納入品が確認されている。忍性は当地の出身で、
額安寺の復興も行っている。五輪塔群のそばにある、鎌倉期復興造営の際の瓦を焼いた国指定史跡額田部窯跡もぶ
らっと立ち寄る。

6月22日
高天彦神社(奈良県御所市高天)
講義を終えて、帰路、立ち寄る。古事記に記される高天原の地とされる。古代の有力豪族・葛城氏の祖霊祭祀の地。
そばを何十回と通りながら、初参拝。この高天からは奈良盆地、吉野・大峰の峯々が一望に見はるかすことができ、神
話の原型(の一つ)であることは確かなよう。

橋本院(奈良県御所市高天)
こちらも初参拝。修験道の道場。本尊は像高5.4mの長谷寺式十一面観音像。知りませんでした・・。画像はこちら。修
理を大きく受けているようですが、体幹部に随分古そうな表現も見られ、興味深いです。思い立って来てよかった。当分
忙しく、うまく展覧会鑑賞の日を作れない分、隙間の時間の寺社拝観で心の安寧を図らねば。

6月28日
香雪美術館
朝日新聞創立者 村山龍平蒐集 仏教美術の名品
(5月14日~6月28日)
 最終日に滑り込み。これまで公開することのほとんど無かった村山龍平収集品をお蔵出し。展示資料の主体は大正
3年発行の『玄庵鑒賞(げんなんかんしょう)』収録品。妙法蓮華経寿量品は紺紙金字で金属製の標題が着くが、金剛
峯寺所蔵の紺紙金字法華一品経(開結共)(重要文化財)の新出僚本。昨年仕事で2巻借用し展示したので間違いな
し。あとは普門品だけが未確認。仏画の優品が目白押し。釈迦三尊十六善神像は中尊が平安仏画風。鎌倉時代ごく
初期ごろか。金剛輪寺旧蔵の阿弥陀聖衆来迎図も平安風を残す鎌倉初期ごろ?の優品。薬師三尊十二神将像は、
中尊が新薬師寺薬師如来像を写したもの。中世・新薬師寺像がいかなる霊験譚を有していたのか、大変興味深い。明
恵の夢記は「正月七日」条から結構な量がまとまって巻子仕立てとなる。また同じく明恵自筆本の盂蘭盆経総釈は嘉
禄2年(1226)銘。大変勉強になりました。図録なし。鑑賞後、隣の弓弦羽神社で祭神の熊野三所権現にお参り。

6月29日
飛鳥寺(奈良県高市郡明日香村飛鳥)
 講義を終えて立ち寄る。最近読んだ本で軒並み飛鳥大仏のことを触れていて、久野健『仏像の歴史』(山川出版)を
読み直していたらまた違う見方をしているのに気づき、急に思いついてご拝観。日本書記に止利仏師作とする丈六の
釈迦如来坐像(重文)。文化史的にいえば、国宝だよなあ、と思う。そばの亀型石造物も見る。が、拝観料(300円)が
必要になっていて、びっくり。ついでに飛鳥板葺宮(史跡)にもよる。

7月6日
久米寺(奈良県橿原市久米町)
講義を終えて、親を見舞って、立ち寄る。久米仙人の説話と、空?が大日経にまみえた場所として著名。境内の多宝塔
(重文・江戸初期)は、江戸時代後期に仁和寺から移築されたもの。本堂本尊は丈六の薬師如来坐像。堂内拝観をお
願いしようとするも、境内工事中でお寺の方がばたばたしてるので遠慮する。

吉祥草寺(奈良県御所市茅原)
役行者誕生地、修験道の道場。本堂本尊は等身大の五大明王像(画像)。江戸時代と思うが、作行きの違う像も混じ
る。本堂は近年再建された(前身建物は14世紀末期、応永年間建立とのこと)。以前訪れた時に拝観した、等身大の
役行者像は中世のものだったが、本堂隣の行者堂も撤去され、移坐されたようで拝観かなわず。二天門安置の二天
像は、平安時代後期、12世紀の製作だが、損傷が進む。特に足もとの朽損が目立つ。未指定。

7月6日
東大寺法華堂
 奈良での仕事を終えて、トンボ返りのつもりも、ちょっとだけ道草。ということで東大寺法華堂へ。本尊不空羂索観音
像(国宝)、伝日光・月光像(国宝)はじめ、群立する諸尊をしばし拝観。ふと、四天王・金剛力士の鎧の彩色が気にな
り、チェック。たいしたことではないが、気になっていたことの解決の手がかりを得たような気に。

新薬師寺
 ふと思いついた鎧のチェックを、せっかくだから新薬師寺の十二神将像でもみようと、立ち寄る。ふむふむ同じような
もんだ。鎌倉初期、古代彫刻を復古する際の小礼の処理の仕方が引っかかっていたが、漆箔して文様を描くあり方は
古代彫刻からの学習かもしれない。ま、わかりませんけど。

入江泰吉記念奈良市写真美術館
入江泰吉 唐招提寺
(7月4日~9月27日)
 せっかくなので、立ち寄ってみる。たぶん初入館なのに、激しい既視感。なんで、と思ったら、自分の職場と同じ黒川
紀章の設計だった。唐招提寺の写真は、見覚えのある仏像写真が、案外入江作品だったことに驚く。作者の創意が全
面にでた「芸術」写真もあるが、資料写真に徹しているものも多い。堂内に大日如来が安置されている写真が新鮮。同
時開催の「星の風景」展、夜空を映した写真、ああきれい、と素直に思う。

7月12日
子嶋寺(奈良県高市郡高取町観覚寺)
 見舞のあと、立ち寄る。同寺の十一面観音立像(平安時代、9c、重文)は2mをこえる堂々とした像で、東京国立博
物館寄託。紺綾地金銀泥両界曼荼羅(平安時代、国宝)は通称子嶋曼荼羅とよばれる屈指の名品で、奈良国立博物
館寄託。本堂を拝観させてもらうと、脇段に伝坂上田村麻呂像。平安時代後期の衣冠束帯像で、倚像の男神像。子嶋
曼荼羅の旧箱もあり。元禄期に興福寺一乗院が拝見した、という内容の墨書あり。同寺の門は、豊臣秀長築城の高取
城二の門を移築したものといい、貴重な高取城の遺構。

7月20日
奈良国立博物館
聖地寧波 日本仏教1300年の源流―すべてはここからやって来た―
(7月18日~8月30日)
 祝日だけど、コマ数確保のため大学では講義あり。最終日を終えてほっと一息ついて、山のようなレポートを今だけ
忘れて、いそいそと奈良博へ。海上交通の拠点寧波は、「真実」の仏教を希求する多くの日本の僧侶が海を渡ってた
どり着いた場所。再びここから帰った彼らは、寧波の文物を持ち帰り、中国文化へのさらなるあこがれをかき立てた。
日本の人々が抱いてきた中国イメージの大きな部分は、寧波の文化でもある。本展の意義はここにある。展示の前提
となる調査研究は、奈良博自体の成果の蓄積と、文部科学省特定領域研究「東アジア海域交流と日本伝統文化の形
成―寧波を焦点とする学際的創生―」の最新の成果を元とする。現在進行中の寧波研究の最前線を、多くの人々に
ただちに還元しようとする展覧会であり、博物館の存在意義を明確に主張する。 展示の目玉はいろいろあるが、なん
といっても第一室の、清凉寺の釈迦如来立像(国宝)と、浙江省杭州雷峰塔出土文物。生身の釈迦像である清凉寺像
と、間近に出会える絶好の機会。堪能。展示は7月30日まで。この釈迦像の対面に、雷峰塔天宮部に納められていた
銀阿育王塔が展示。呉越王銭弘俶の造製で、八万四千塔の原型ともいうべき精緻な作。雷峰塔は清凉寺釈迦像が造
られた浙江省台州と至近の距離で、時期も重なっており、雷峰塔出土の鏡像は、清凉寺釈迦像体内納入の鏡像と同
様、彫りが浅くのんびりとした風情。偶然出会った展覧会ご担当者によれば、釈迦像と阿育王塔の展示位置は、釈迦
像への塔の奉納をイメージされているとのこと。もう一つの目玉は、大徳寺所蔵の五百羅漢図82幅(南宋・重文)、僚本
のボストン美術館本2幅の展示。大量のため3期に分けて展示替えだが、圧巻の光景。そして何より、全幅の画像が
図録(352頁、2000円)に掲載されたことで、本図の研究と同種の画題の研究はきっと飛躍的に伸びるだろう。科研プロ
ジェクトで得られた銘文情報も図録で公表。
 100万人入れる興行的な展覧会があってもいい。しかし入館者数だけが評判になるのでは空しい。本展のような、
「我々は何者なのか」を追求し、その成果を万人が共有するための展覧会もなくてはならない。全国に数千館の博物
館・美術館が日常の中に溶け込んで存在する成熟した市民社会(日本のこと)では、興行的展覧会と学術的展覧会の
どちらもがあって、市民はそれを選択できることが重要なのだと思う。

8月27日
奈良国立博物館
聖地寧波 日本仏教1300年の源流―すべてはここからやって来た―
(7月18日~8月30日)
  再訪。といっても、担当特別展の展示資料の借用が用件。作業をすませて、30分だけトラックに待っててもらって、
駆け足で一巡り。 法恩寺菩薩坐像を目に焼き付ける。あの抑揚のないブロックのような体型を積極的に評価する観点
が必要なのだろうと思う。信仰対象にリアルは必須条件ではない。と考えたとたん、興国寺の法燈国師像の生動感あ
るその表情にはっとする。展示される文脈で、こんなにすごい絵だったのかと気づくことができる。日々勉強です。しか
し南宋彫刻と頂相画の間に隔たる溝はなんでしょう。図録あり(352頁、2000円)。 うう、今月の博物館訪問は、この一
回だけ・・。

9月10日
高野山霊宝館
第30回 高野山大宝蔵展 高野山の名宝
(7月18日~9月27日) 
 3週間ぶりの休み。会期も終盤になってしまった同展に朝一で駆け込む。毎回大宝蔵展は名作揃いだが、今回は運
慶作・八大童子立像(金剛峯寺・国宝)、諸尊仏龕(金剛峯寺・国宝)、有志八幡講十八箇院の五大力菩薩像(国宝)3
幅と、普賢院の五大力菩薩像(重文)4幅の、ずらり並んだ合わせて7幅の大画幅などがみどころ。高祖院の弘法大師
像(南北朝時代)、 巴陵院の親鸞上人時雨御影(室町時代)といった子院所蔵のあまり見る機会のない文化財も並び
有益。図録あり(49頁、1200円)。次回企画展「山岳信仰と高野山」(10/3~12/13)も楽しみ。

9月20日
安倍文殊院
 建仁3(1203)年快慶作の本尊文殊菩薩坐像が、修理のために獅子からおろされていることを、神奈川仏教文化研究
所さんの特選情報で目にしたので、10日ぶりの休みに親の見舞いがてら、子を連れて立ち寄る。いつもは見上げてい
る文殊像を、より近くにみられるよい機会。髻や裙裾のようすなどの細部形式や、体型や面相部の表現を頭に入れて
おく。お接待の落雁と抹茶を、初体験の子に与える。おいしいって。頼もしい。

橿原考古学研究所附属博物館
平常遷都1300年祭記念連続ミニ展示 第2回 井戸と暮らし
(9月5日~9月23日)
 雑用をこなして帰宅途中、橿考研の前を通ると銅鐸のポスターがあり、銅鐸展もう始まっていたっけと、立ち寄ってみ
る。やはり会期はまだ先(「特別展 銅鐸―弥生時代の青銅器鋳造―」、10月3日~11月23日)だったが、博物館のホ
ールを会場に、無料で見られる来年までの連続展示を開催中。井戸枠がこれでもか!と露出展示。展示手法は大胆
だけれど、井戸枠の素材や技法が多種多様なのはよく分かった。膨大な収蔵資料をお蔵入りさせず積極的に公開す
る姿勢がうかがえ、担当者は大変だろうが、情報の共有化を図る上で意義ある連続展示だと思う。

9月26日
大阪市立美術館
特別展 道教の美術
(9月15日~10月25日)
 道教とは何かを概観する初めての展示。多種多様な資料群は、あれも道教、これも道教と、その広がりの大きさを提
示する。日本における諸宗教や文化には汎東アジア文化として道教の要素が多く取り込まれている。その理解が必要
にもかかわらず、日本の道教を見渡す機会がなかっただけに画期的。新たな認識・思考の枠組みを広く提示するとい
う点に本展の意義はあり、人文科学系学問の存在意義でもある。興行的な大成功は計画段階からおそらく見込んでい
ないと思うが、博物館・美術館・新聞社からなる主催者の心意気を買いたい。個人的な興味からは、萬福寺華光菩薩
倚坐像ほかの黄檗彫刻をじっくり鑑賞。よく運んできていただけた・・。図録あり(408頁、2500円)。
 なお、やはり道教からの影響を受けている修験道も、日本文化を考える上での重要なキーワードながら、なかなか理
解されにくい。和歌山県立博物館で開催中の「熊野三山の至宝展」は熊野修験をキーワードとして展示構成しています
ので、道教展と併せてご観覧下さい。

大阪歴史博物館
第62回式年遷宮記年 特別展 伊勢神宮と神々の美術
(9月19日~11月9日)
 東京国立博物館から巡回。遷宮記念で、古神宝・神宝が展示のメイン。子どもに伊勢参詣曼荼羅の絵解きをしてか
ら、神像をじっくり。松尾大社の男神像、奈多宮の八幡神像、石清水八幡宮の神像宮など、ちょうどいろいろ考えてい
た像で、ありがたい。伊豆山神社の男神像も久しぶりに鑑賞。伊勢神宮展で神像展示をできるようになったという事実
は、これからの神像研究の上で大きな光明だと思う(もちろん心理的なハードルはまだまだ高いが)。伊勢神宮とは何
かという、その歴史的位置づけを明確にする部分も欲しかったところだが、それこそ「神話」を揺るがす点で、心理的な
ハードルが高いのかも。図録あり(2100円)。

10月24日
MIHO MUSEUM
特別展 若冲ワンダーランド
(9月1日~12月13日)
 新規収蔵した、象と鯨図屏風のお披露目展。想像以上に大きい。展示している空間も、余白を単調にせず、視点を
やや高めに設定して、「特別なもの」という印象をアピールする上手な作り方。ほかにも、円山応挙の驟雨江村図など
いくつかの資料で、わざと暗くやや黄色い照明を設定しているのも、かつての鑑賞環境を再現しようとする思い切った
演出のよう。鳥獣花木図屏風も、細部までしっかり鑑賞できた。会場には本作品の所有者ジョウ・プライス氏の姿や、
現代アートの村上隆氏の姿が見え、濃密だなあと思っていると、この日は監修の辻維雄氏・狩野博之氏による講演会
がある日とのこと。どうりで。図録あり(368頁・3000円)。

大津市歴史博物館
特別展 湖都大津 社寺の名宝―大津の仏像・神像入門―
(10月10日~11月23日)
 大津市内の七寺社で構成され、観光面での連携をはかる湖信会結成50周年事業。あえて各寺社の名宝を寺院別に
並べるという手法はとらず、仏像を尊像別に配した仏教美術入門ともいうべき展示構成をとる。後援する湖信会側のア
ピールという目的と、仏教美術展を頻繁に開催する同館の戦略的側面をうまくリンクさせる。たまたま会場で山本勉さ
ん、瀨谷貴之さん、展示担当の寺島典人さんに出会えたので、意見交換。園城寺の訶梨帝母像(重要文化財・鎌倉時
代)の抱く子の身振りについて山本さんよりご教示いただく(訶梨帝母の鬢髪をもてあそぶ)。目から鱗。像自体の見え
方が変わった。同寺所蔵の愛子像(重要文化財)もセット関係にあることも初めて知る。かたちが持つ意味・意図を引
き出すことで得られる新鮮な感動を得られ、博物館・美術館の役割を改めて認識する。図録あり(144頁・1200円)。

10月27日
鎌倉国宝館
特別展 大本山光明寺と浄土教美術
(10月23日~11月29日)
 早朝、飛行機で関空から羽田へ飛び、朝一番で鎌倉へ。法然上人800年御忌記年展。国宝・大麻曼荼羅縁起絵巻な
どの光明寺の重宝が一堂に展示されているだけでなく、浄土教美術の観点から、阿弥陀如来像の優品を集める。なん
といっても見所は、浄楽寺阿弥陀三尊像(重文)。文治5年(1189)、運慶の作。その溌剌とした青年相、量感あふれる
立体造形に釘付けとなる。側面・背面もしっかり確認できるまたとない機会。朝一番の国宝館で、来館者もまばらな中、
運慶作品をほぼ独り占めできる幸せを堪能する。三尊ともに、両手と上半身で作る彫刻空間にやや窮屈さがある点が
何に起因しているのか興味深い。工房作という考え方、作風の展開という考え方などあるが、なんらかの制約があると
考える視点もあるかもしれない。その他の仏像も、鎌倉初期の興味深い作例多し。関東で、運慶仏を堪能できるこの
機会をお見逃しなく。図録あり(128頁、1000円)。

神奈川県立歴史博物館
特別展 鎌倉の日蓮聖人―中世人の信仰世界―
(10月17日~11月29日)
 立正安国論奏進750年記念事業。鎌倉と周辺地域の日蓮宗寺院に残される関係資料を中心に展示。日蓮像も、浄
光院の日蓮聖人像(水鏡御影・重文)など多数集められている。日蓮の墨跡も多数あり参考になる。彫刻資料では、中
山法華経寺の二仏并坐像(釈迦如来・多宝如来)が建武2年(1335)の作。中世の釈迦・多宝のセットを初めて見たの
で、大変参考になる。日蓮宗内での重層的な信仰のありかたを、地域の中に残されてきた資料を丹念に拾い上げ、さ
まざまなベクトルから照射する展示コンセプトはとても意義深いと思う。図録あり(192頁、1500円)。常設展示では、寄
託品の宿院仏師源次の阿弥陀如来坐像を展示。ぐっとくる(もちろん、個人差があると思います)。

根津美術館
新創記念特別展第1部 新・根津美術館展―国宝那智瀧図と自然の造形―
(10月7日~11月8日)
 馬車道から渋谷、表参道へ。なんとしても、しばらく見られなかった那智瀧図を見ておかねばならないと、新館オープ
ンした根津美術館へ向かう。平日なのに大盛況。ただ、那智瀧図前に人はほとんど滞留しないので、贅沢に鑑賞でき
た。照明しっかり細部まで見える明るさ。
 全ての展示資料に解説は付されていない。ただ那智瀧図の画面理解のためには、ある程度の前提知識が必要では
ある。那智瀧図の前提は、瀧自体が神体であり、千手観音であると、この瀧を知るものはだれもが認識していたという
こと。画面上部には月が浮かぶ。月光に照らされる那智瀧。滝の下には、拝殿。その屋根を突き破って杉が生えてい
る。生貫杉。これは滝の水の神秘の力を視覚的にイメージさせる記号。その左脇に、杉の木に沿って何か字を書いた
柱が立てられている。碑伝(ひで)という、修験において聖地参詣の痕跡として建てる碑。この瀧図を見るものは、滝を
神として、仏として見、その両者を結合させる存在―滝で修行する修験者・滝衆―をも喚起される。鎌倉時代後期に描
かれたこの絵の享受者がいかなるものだったか、亀山上皇説が有力だが、中世の那智滝と修験という重要なテーマで
研究を深めていく中で、あるいは謎に近づけるかもしれない。那智瀧図の一つ前に春日補陀落山曼荼羅を展示してい
るのは、観音の浄土・補陀落山を導く連想のためか。一つ後ろには熊野曼荼羅を展示して熊野信仰をフォロー。という
ことで展示コンセプトはよく分かるが、大多数の来館者が那智瀧図をちらっと見ただけで立ち去っていくのは忍びない。

大倉集古館
特別展 根来
(10月3日~12月13日)
 表参道から溜池山王へ。アメリカ大使館の横を通って大倉集古館へ。黒漆地に朱漆をかけた漆器を、一般に根来
(ねごろ)と呼んでいる。和歌山の根来寺にちなむ名だが、もちろん同種の漆器は全国で作られた。中世の根来(根来
塗)を多数あつめる近年になかった展示。朱漆の下に覗く黒漆になぜ心が揺さぶられるのだろうか。三輪神社伝来の
平安時代の高坏は、京博所蔵のものと個人蔵の2点、大滝神社伝来の足付盥(室町時代)は別々の個人蔵2点が集
められていて貴重。六地蔵寺の足付盥は展示になかったので、会期中に展示替えがあるもよう。が、出陳品リストがな
いので時期は不明。図録なし。夕方の飛行機で関空へ。何とか4カ所回れました。

10月28日
奈良国立博物館
御即位二十年記念 第61回 正倉院展
(10月24日~11月12日)
 仕事で来館し、終了後正倉院展鑑賞。即位20年記念ということで、楽毅論、紫檀木画槽琵琶、平螺鈿背円鏡、金銀
花盤、沈香木画箱、子日目利箒などなど豪華ラインナップ。今年は特に見逃せません。伎楽面の呉女3面(うち1面は
乾漆造)や力士、崑崙のほか、金薄絵馬頭を見られたのが個人的に有益。平日昼前で、もう人・人・人。これも正倉院
展らしさとあきらめるほかない。図録あり(1200円)。鑑賞後、興福寺仮金堂に安置された阿修羅像を見てみようかと行
ってみると、100分待ちの大行列。じゃあせめて北円堂と思うと、こちらは40分待ち。あきらめる。

奈良県立美術館
特別展 遷都1300年プレ展示 神話~日本美術の想像力~
(10月24日~12月24日)
 奈良博・興福寺の喧噪を離れて、静かな奈良県美へ(^^;)。明治・大正期の神話・歴史画を集める。河鍋暁斎〈天岩
戸〉、鈴木松年〈日本武尊・素戔嗚尊〉、高橋由一〈日本武尊〉(東京藝術大学美術館)、本田錦太郎〈羽衣天女〉(兵庫
県立美術館)、青木繁〈大和武尊〉(東京国立博物館)、中沢弘光〈おもいで〉(東京国立近代美術館)、安田靫彦〈遣唐
使〉、前田青邨〈小碓尊〉(岐阜県美術館)、小林古径〈大毘古命図〉、松岡映丘〈佐保姫〉、寺崎広業〈大仏開眼〉(東大
寺)などなど、見所多し。日本の近代絵画の中でも、一番おもしろい部分と個人的に思う。正倉院展で奈良におこしの
皆様、こちらもお見逃しのありませんように。図録あり(120頁・1200円)。

10月31日
熊野古道なかへち美術館
野長瀬晩花展―晩花の花―
(10月10日~11月23日)
 熊野一周資料返却の旅を終え、帰路、トラックに待ってもらって立ち寄る。熊野古道の途中、近露出身の日本画家野
長瀬晩花のコレクションからセレクト。<新芽ふく頃>など、晩花の洋画風日本画の独特のタッチと、デザイン的な構成の
作品に惹かれる。図録なし。

11月1日
青洲の里
企画展 華岡清州時代の手術器具と現在の手術器具
(10月12日~11月3日)
 紀の川市西野山、華岡清州ゆかりの春林軒の地にもうけられた施設。医聖華岡清州顕彰会の主催事業で、同会所
有の青洲ゆかりの手術道具を展示。図録あり(18頁・100円)。

高野山霊宝館
企画展 山岳信仰と高野山
(10月3日~12月13日)
 高野山と山岳信仰・修験との密接な関わりを諸資料から提示する。日本山岳修験学会との共催。金剛峯寺の丹生明
神・狩場明神像(鎌倉時代、重文)、弘法大師丹生高野両明神蔵(問答講本尊、鎌倉時代、重文)などのほか、遍照光
院の一心十界図(室町時代)、西南院の熊野曼荼羅(室町時代)、親王院の天河曼荼羅(室町時代)といった特殊な尊
像も縦覧できる。正智院の影向明神像(鎌倉時代)、道範像(鎌倉時代)は、未指定なのが不思議。図録(46頁・1000
円)は日本山岳修験学会第30回記念高野山学術大会実行委員会の発行で、会期中のみの販売とのこと。

11月3日
正木美術館
秋季展 朱と墨―根来が繋いでくれた縁―
(10月4日~12月1日)
 正木美術館と常盤山文庫所蔵の根来塗・墨蹟・水墨画のコラボレーション。他館より借用することが初とのことで警
備体制がものものしい。墨蹟では清拙正澄墨蹟遺偈(毘嵐巻・常盤山文庫・国宝)、宗峰妙超墨蹟渓林偈・南嶽偈(正
木美術館・国宝)の3幅が並ぶ。根来塗では、根来輪花天目盆(常盤山文庫・重文)、根来手力盆(正木美術館、文永3
年(1266)銘)など。常盤山文庫の北野天神縁起絵巻は上中下巻全て展示。図録あるが、出陳の全資料は掲載されな
い。

11月8日
九州国立博物館
九州国立博物館開館4周年記念特別展 古代九州の国宝
(10月20日~11月29日)
古代九州を考古学的成果から考える資料構成。経塚出土資料と石人・石馬をしっかりみておく。子ども向けの「考古
学」を楽しむための補助パネルがたくさん設けられ、親切。興業上の理由でタイトルが「国宝」に変わったようだが、当
初提示してあった仮題「九州王国の伝説―古代九州の力―」の方が展示内容と一致していてよかったのではないか。
真面目な展示作りをしているのに、展示の実態とはやや違和感のある「国宝」を前面に出してしまっては、展覧会を開
催する本来の意図をぼかしかねない。図録あり(1000円)。

 トピック展示 新収品’05 -’08 交流する文化のかたち
(9月30日~11月8日)
九博の新収蔵資料のお披露目。今年新たに重文指定された菊蒔絵手箱(南北朝~室町時代)は、形態、技法、素材
など、熊野速玉大社の国宝・古神宝中の手箱とそっくり。ただし寸法は若干小さく、蒔絵の文様がややおおらかで、環
座の金具も同様なので、制作時期は少し古いかも。同じ工房の作ともいえるかもしれない。漆工史上に貴重な新資料
といえる。その他一遍上人像(南北朝時代)や仮面などもあり。仮面の名称付けに少し違和感あるが、旧所蔵者のもの
をひきついだのかも。リーフレットあり(18頁・無料)。

八代市立博物館未来の森ミュージアム
特別展覧会 みほとけの貌―熊本県南部の仏像―
(10月16日~11月23日)
熊本県南部(八代市・人吉市・宇城市・宇土市・天草市・球磨郡・下益城郡・葦北郡)に伝えられた平安~室町時代の
仏像を集成。願成寺阿弥陀如来坐像(重文)は定朝様をベースに、意志的な表情と細かく乱れる衣紋を配した新時代
の表現様式を含む堅実な作例。奈良仏師か。中山観音堂の聖観音菩薩像は等身大の平安時代前期彫刻。背をそら
した姿勢、裾をたくし上げた軽快な正面観など古様を見せ、制作は9世紀にさかのぼる。北部九州に類例のある作例
を考える上での新資料。寿勝寺薬師如来坐像は室町期の修理部分もあり、また破損もあるが、猫背になる側面観、内
衣をのぞかせる着衣形式など、13世紀半ばごろの慶派による如来坐像の新出作例。ほか、像高237.2センチの勝福寺
毘沙門堂・毘沙門天立像(久寿3年<1156>や釈迦院山王神坐像(仁治3年<1242>、長実作)などなど、在銘彫刻も多
数。熊本県(南部)の仏像を一望できる千載一遇の機会で、必見。図録あり(1700円、144頁)。

11月23日
大谷大学博物館
特別展 祈りと造形―韓国仏教美術の名品―
(10月13日~11月18日)
 連休中なのですごい人だろうと覚悟して京都入りするも、それほどでもなく車はスムーズに進む。大谷大学博物館が
韓国・東國大学校博物館と交流協定を結んだことによる交流事業展。朝鮮半島の仏教美術を統一新羅以前、高麗、
朝鮮の時代別に展観。東國大学校博物館のものばかりでなく、仏像・仏画は日本国内で所蔵されるものも出陳されて
いる。知恩寺阿弥陀三尊像、禅林寺阿弥陀如来像など高麗仏画をじっくり。朝鮮仏画は展示替えでお目当てのもの見
られず。朝鮮時代の仏像を数体確認できて有益。図録あり(88頁・1500円)。学食で昼食。安くて、彩りよく、おいしい。

廬山寺
良源1025年御遠忌記念 元三大師良源と廬山寺の世界展
(11月7日~11月29日)
 良源ゆかりの廬山寺で寺宝公開。鎌倉時代の良源坐像、慈恵大師遺告(国宝)、慈恵大師二十六ヶ条起請文(重
文)のほか、平安仏画の普賢十羅刹女像(重文)などごく間近でじっくり鑑賞できる贅沢。本尊阿弥陀三尊像は、両脇
寺がひざまづく来迎形式の平安時代後期の堅実な作例(府指定)。図録なし。

京都国立博物館
「立正安国論」奏進750年記念 日蓮と法華の名宝―華ひらく京都町衆文化―
(10月10日~11月23日)
 日蓮宗(法華宗)の美術を、法華経信仰・祖師信仰と、中世後期~近世京都町衆文化形成の基層という観点から集
め展観。延文3年(1358)康俊作の妙圀寺釈迦如来坐像(重文)、貞治5年(1366)定慶作の本圀寺釈迦・多宝如来坐
像と、日蓮像のいくつかと、立正安国論(国宝)を見て、あとはざっと。図録あり(334頁・2500円)。

京都府立山城郷土資料館
 常設展で展示中の、近年像内から文暦2年(1235)泉州別当定慶作の銘文が確認された、八幡市・宝寿院阿弥陀如
来立像をチェック。鎌倉時代前期の慶派らしい堅実な作風の像。修理後のようだが表面の状態があまりよくなく、見栄
えに影響しているのがもったいない。

11月24日
興福寺
興福寺国宝特別公開2009 お堂でみる阿修羅
(10月17日~11月23日)
 美術史学会西支部大会として、興福寺国宝館館長金子啓明氏の阿修羅展についての講演の後、仮金堂に安置の
阿修羅像ほかを鑑賞。群像を群像としてみることができることの幸せ。頭で西金堂の堂内空間を想像しながら見る。康
慶作の四天王像もしっかり鑑賞。北円堂もあわせて鑑賞。弥勒仏像は以前に拝観した時からまた見え方が変わってい
て、牛の歩みながら自分の成長を感じたりもする。運慶芸術の形成-展開のプロセスを明らかにする作業は、社会的コ
ンセンサスを得られる大きな仕事になるか、自己満足するという小さな仕事になるかはともかく(論理的に実証できれ
ば前者、感覚的に確信できれば後者)、常に意識して立ち向かっていきたいものである。

11月29日
神戸市立博物館
美しきアジアの玉手箱-シアトル美術館所蔵日本・東洋美術名品展-
(9月19日~12月6日)
 会期終盤になってようやく鑑賞。お目当ては行道面菩薩(保元3年<1158>銘)と行道面八部衆龍面。兜跋毘沙門天立
像は10世紀の作ながら、側面観の軽快さは古い伝統を保持したもの。金銅三昧耶五鈷鈴、金銅三鈷杵は、ともに古様
を残す重厚な作。源誓聖人絵伝(南北朝時代)の生き生きした描写もチェック。子に、山畳賞月図(伝李唐、明時代)を
見せ、昼か夜かと問う。「夜!」「なんで?」「お月様でてる。」「そうそう、じゃあ家の中にいてる人、何見てる?」「お月
様?」「そうそう、あの人たちと、今同じ月を見てるね。気持ちが通じあった?」「あっ、月の上のところに字書いてるよ」
「うん、だれかお月様きれいやなあって書いたんと違うか」「ふーん」。画題の深い理解をこちらもしているわけではない
が、博物館・美術館鑑賞が別に好きではなく、親の趣味に無理矢理付き合わされている子とこれぐらいの会話ができ
れば、御の字ということで。図録あり(252頁、2300円)。

大阪青山歴史文学博物館
特別展 開館十周年記念 所蔵名品展
(10月10日~12月6日)
 兵庫県川西市、大阪青山大学内に建つ本格的なお城が博物館。同大学は以前から優れた日本の古典籍収集で有
名。同大学所蔵の国宝・重文ほか優品をずらりと並べる。藤原定家の日記、明月記原本は正治元年(1199)4月条ほ
かの一巻(重文)と、正治2年(1200)7月~9月条の一巻の、2巻を展示。経典では高山寺旧蔵の観弥勒上生兜卒天
経讃巻下残巻(重文・平安時代)。国宝・重文指定品のみ掲載の図録あり(14頁、500円)。鑑賞後、ついでに近隣の能
勢妙見山(日蓮宗寺院)に参拝。現世利益!って感じ。

12月13日
桜井市立埋蔵文化財センター
企画展 大桜井展
(12月11日~6月20日)
 午前中、生家の墓に納骨し、笠そば処で新そばを食べ、笠荒神や竹林寺を子とぶらり散策。竹林寺の仏像(重文薬
師如来立像など)を拝観する機会はいまだないが、いつか作りたい。それから埋文センターへ。桜井市内出土の重要
な発掘資料をお蔵出し、ということのようだが、普段の常設展示とあまり変わっていないようにもみえる・・。チラシ類も
なく、会期やタイトルも当初予定から変わっているもよう。不可解なるも、何か事情があるのでしょう。

奈良県立万葉文化館
浅野均―アルカイックへの遡上―
(10月2日~12月23日)
 明け渡す家の整理を少しして、下のお茶屋さんでぜんざいとわらびもちを食べて、夕方子2人をつれて鑑賞。京都市
立芸術大学教授の浅野均の画業をたどる。大作が多い。<雲湧深処><春岳の夢>などやや抽象化させた山並みなど
の風景画は雄大な印象で好み。長男はごく初期の、きまじめに描いたという感じの<静かな地平>が好きとのこと。「だっ
て上手やもん」だそうです。図録あり(2000円)。 

12月18日
奈良県立橿原文化財研究所附属博物館
平常遷都1300年祭記念連続ミニ展示 第3回 瓦と鴟尾
(12月5日~12月20日)
 天神山瓦窯出土の大型鴟尾を露出展示。ほか鴟尾を多数。マジメに展示を作ってあるのに会期が極端に短いのは
もったいない。

特別陳列 寅・トラ・虎の巻-十二支の考古学 寅-
(12月12日~1月17日)
 タイトルは「十二支の考古学」だが、展示は虎の文化史を提示する意図のよう。それはそれでよいが、展示のストーリ
ーを示す資料の多数が、絵画資料などを複写したパネル展示では、橿考研の強み・考古学の強みを生かせていない
し、タイトルともやや齟齬があり残念。天理市・黒塚古墳出土の三角縁神人龍虎画像鏡の神像の細部を確認。リーフレ
ットあり(無料、4頁)。ロビーでは黒川古文化研究所の銅鐸のX線撮影による調査結果を展示。最近の橿考研の常設
展以外での積極的な展示公開の動きは、情報を共有化することと、施設が有効活用されていることへのアピールとい
う点で、その目的・方向性がよくうかがえる。

12月19日
浄瑠璃寺
 朝のニュースで紹介されていた浄瑠璃寺三重塔の本尊薬師如来坐像(重文)を見る。先般、アライグマによって引っ
かかれ、傷を修理したのち本堂に厨子が置かれたようで、19日・20日の両日、特別に御開帳とのこと。明日香村から1
時間、久しぶりの浄瑠璃寺に到着、像自体は暗くて細部までの鑑賞は無理も、雰囲気だけでもつかむ。安置場所を確
保するため四天王像(重文)が横向きに2体向かい合って置かれていて、思いがけずそのたっぷりとした側面観を確認
できてよかった。九体阿弥陀もしっかり拝観。

岩船寺
 浄瑠璃寺まで来たら、やはり岩船寺にも立ち寄っておく。天慶9年(946)造像の本尊阿弥陀如来坐像(重文)、普賢菩
薩騎象像(重文)など拝観。本尊像脇のガラス棚に収めてあった鬼面は室町時代の作。素朴な中にも造形の自由さが
あって佳品。大和古寺大観には未掲載のはず。

奈良国立博物館
特別陳列 平城遷都1300年記念 おん祭と春日信仰の美術
(12月8日~1月17日)
 おん祭の時期に合わせた、奈良博恒例の春日信仰展。今回は春日権現験記絵の模本が春日本、東博本、陽明文
庫本が集められ、原本(宮内庁三の丸尚蔵館本)の筆者高階隆兼に注目して藤田美術館の春日明神影向図(重文)
や和泉市久保惣記念美術館の駒競行幸絵巻(重文)も展示(各12/20まで)。春日権現験記披見台は、描かれた文様
を見やすくした(可視光線による蛍光撮影で金銀泥の部分が黒く映るもの)パネルが併置され内容の理解が進む。春
日山・御蓋山はこれで見ないと気づかないぐらい。未指定なのが不思議。図録あり(80頁・1500円)。

特集展示 南北朝・室町時代の彫刻
(12月1日~2月14日)
 近年南北朝・室町時代の仏像が寄贈されたことを契機に、館蔵・寄託資料のうちから、当該時期の彫刻資料を展
観。椿井仏師次郎作の観音寺役行者・前鬼・後鬼像や宿院仏師源次作の妙楽寺如来形坐像、宿院仏師源三郎作の
池田町公民館薬師如来坐像など、室町時代の代表的な作例とまでは言えないかもしれないが、俗人仏師というこの時
期の造像者の社会的立場を考える上で示唆に富む。美術史は、かたちの意味を歴史の文脈の中でたどり、それに関
わった人々の存在を史上に浮かび上がらせる学問であると思う。アカデミックの世界で評価されにくく、従来は展示対
象として選択的に除外されてきた資料を享受できることは、博物館のあり方として健全だと思う。固定的な「美しさ」「す
ばらしさ」観念の押しつけには抗うべきだし、ミュージアムは「価値の固定と再生産」の対極にあらねばならない。そうい
った意味で、いまだ一般的な「鎌倉以後は仏像の衰退期」という言説もやはり固定的な視線であり、この視線が再生産
され続ける研究史上の構造を分析する学史的なアプローチが必要なのだろうとも思う。自ら(の研究領域)を相対化す
る視点を持たねばならない。1967年に奈良国立博物館で開催された『室町時代仏像展―在銘作品による―』は、ある
いはこの問題意識の萌芽であったのかと、ふと思う。

12月29日
当麻寺
 子を連れて参拝。曼荼羅堂で、修復中の文亀本に代わって掛けられている江戸期の当麻曼荼羅を拝観して、講堂、
金堂の諸尊像を巡拝。金堂では四天王像に執心。特に後補の多聞天像に。子に早く出ようと促されて退堂し、奥院に
も参拝して本堂拝観。脇壇の等身の観音像(平安時代中期)を覗き込む。奥院の宝物館では、平安時代の毘沙門天
像や十界図屏風(重文)、当麻曼荼羅(重文)、選択本願念仏集(重文)など鑑賞。聖衆来迎を表した立体群像(江戸時
代)の、顔は無表情なのに体はノリノリで踊る造形に子が食いつく。続いて中之坊も拝観。それにしても、当麻寺は平安
仏の宝庫だとあらためて思う。2010年春の東塔・西塔初層初開扉(5/20~6/20)中の4/16~6/16には中之坊の導き観
音像(平安中期)開帳、5/20~5/31には西南院の十一面観音、聖観音、千手観音(全て平安時代、重文)も開帳とのこ
と。

1月9日
尾道市立美術館
尾道佛教会創立130周年記念 尾道佛教美術の世界
(12月5日~1月31日)
 尾道市立美術館は尾道市を一望する千光寺公園に建つ。尾道市内の寺院に伝わる文化財を集める(34件)。時宗
祖師像の優品である西鄕寺一鎮上人坐像(南北朝時代、県指定)、常称寺真教上人坐像(南北朝時代、県指定)、下
部に高野山の景観が描き込まれる西国寺弘法大師像(鎌倉時代、県指定)、光福寺春日大明神立像(市指定)をじっく
り鑑賞。光福寺春日大明神立像は、等身大に少し小さい衣冠束帯(ただし袴は膝で絞る)の姿で、随身像のようであ
る。後補彩色に覆われていて市指定の際は室町時代とされているが、もっと遡るかもしれない。気になる一躯。図録な
し。

西鄕寺
 一鎮上人坐像を鑑賞したので、西鄕寺だけは見ておこうと立ち寄る。最古の時宗建築である本堂(重文、鎌倉時代)
内にも入って拝観。一遍上人立像あるも、厨子内で余り見えない。一鎮像は普段は本堂内で拝観できる模様。

耕三寺博物館
冬季常設展2009
(11月28日~3月14日)
 尾道はあっちもこっちもいきたいところがあるが、日帰りなので厳選して、合併して尾道市になった旧瀬戸田町(生口
島)の耕三寺へ10年ぶりぐらいで立ち寄る。パラダイスのような堂舎群を巡り、本堂脇の興福寺伝来の丈六阿弥陀如
来坐像(平安時代、重文)など拝観。子は境内各地に設置されたスタンプラリーに夢中。金剛館では伊勢神宮寺伝来
の釈迦如来立像(平安初、重文)、新薬師寺本尊の模刻である銅造薬師如来坐像(鎌倉時代、重文)、快慶作宝冠阿
弥陀如来坐像(鎌倉時代、重文)、高野山伝来の浄土曼陀羅刻出龕(平安時代、重文)など鑑賞。仏教工芸の資料も
いいものがでている。眼福。図録なし。早めに和歌山へ向けて出立し、SAで楽しく休憩しながら5時間かけて帰宅。

1月17日
神戸市立博物館
特別展 海の回廊―古代・中世の交流と美―
(1月16日~3月7日)
 阪神淡路大震災から15年目の1月17日。神戸訪問。古代~中世の海を介した文化の交流とその表象を、考古・歴
史・美術の各分野に分け、特に宗教とヒト・モノの接点に比重を置いて資料選択する。仏像では孝恩寺弥勒菩薩坐像
(重文、9c)、帝釈天立像(重文、9c)、寿福寺聖観音立像(9c)、光明院十一面観音立像(8~9c)といった奈良末~平
安前期彫刻に多数接することができ貴重。新出の転宝輪寺天部形立像(11c)は瞋怒の表情をした等身大の像。兜跋
毘沙門天かと思えばそうとも言えず、尊名不詳。カミの表象と捉えると大変面白い作例。仏画も斑鳩寺釈迦三尊十六
羅漢像(重文、12c)、太山寺十一面漢音像(重文、13c)、法道寺阿弥陀三尊像(高麗時代、13c)などの優品をはじめ、
肖像画も多数あり。図録あり(178頁)。ぶらりと南京町へ向かい屋台で昼食確保。

逸翁美術館
2010早春展 呉春筆白梅図屏風-円山四条派の絵画-
(1月16日~3月7日)
 新館開館後未訪問であったので、池田市へ車を進める。同じく阪急グループの池田文庫のとなりということに行って
みて気づく。重要文化財の白梅図屏風を核に、応挙、芦雪、松村景文など円山派・四条派の作品を展示。当方の知識
不足・教養不足で、白梅図屏風に施されている画題・技法・材料のそれぞれの選択の意義を位置づけられないので、
ちょっと消化不良。図録なし。館全体で展示室は1室と、休館が展示室+邸宅(及び邸宅内展示室)だっただけに、思
っていたより展示スペースは小さいという印象。ちょうど館内のホールでヴァイオリンのコンサート中。カフェも充実のよ
うで、私立美術館のよさを感じる。

高槻市立しろあと歴史館
企画展 シリーズ高槻の村と町Ⅱ 春日神社と金龍寺
(1月4日~2月28日)
 えいやっと車を高槻市まで走らせる。千観が開山した廃金龍寺について知識を得られて有益。春日神社所蔵の仮面
は古様を示す。中世仮面の可能性あり。鬼面2面は不気味な怖さだが、それぞれ切り顎(ただし後補か?)であるのも
珍しい。ほか応永35年(1428)銘大般若経、文明7年(1475)銘茶釜など。図録あり(12頁・100円)、入館料無料。

1月25日
談山神社
新春特別宝物拝観
(1月1日~2月28日)
 橿原市での用事を済ませて、明日香村から桜井市の多武峰へ抜ける道が開通したとのことで走ってみる。この道、
造り始めたのは多分30年ぐらい前。なぜこんなに時間がかかったのかと思うが、観光面ではとても便利そう。大和盆地
を一望する絶景が見られる。紅葉のシーズンにはいったいどうなるだろう。特別宝物拝観では、住吉如慶筆多武峯縁
起絵巻、多武峰曼荼羅(室町時代)、朱漆塗前机(重文)など。神廟拝所(旧妙楽寺講堂)では旧藤原寺伝来の巨大な
藤原鎌足像(室町時代)や鎌倉時代の狛犬など。継続して行われている建造物の修理は、塔の後ろの権殿がその最
中。まだこの先に本殿が残る。

聖林寺
 せっかくなので聖林寺にも立ち寄って、娘(3才)と二人で十一面観音立像(奈良時代、国宝)拝観。いやー、やっぱり
すごいなーと思うやいなや、娘が飽きる。2分で退去。

1月31日
滋賀県立安土城考古博物館
企画展 湖西の風土と遺宝―高島郡を中心に―
(1月30日~4月4日)
 平成19年の「甲賀郡の風土と遺宝」展に続くシリーズ第二弾。正伝寺薬師如来坐像は像内に承安2年(1172)大仏師
有円・僧寛応が造像した事を示す銘を持つ。両脇侍の不動明王・毘沙門天立像も平安時代後期の作。最勝寺釈迦如
来・阿弥陀如来坐像は、平安時代末期の一具の作例。円光寺釈迦如来坐像(宝冠釈迦、南北朝時代)は新出。同寺
創建期の延元3年(1358)と符合する。宝幢院の地蔵十王図(桃山時代)は21幅が一組となり、画中に「古山」という僧
侶が描き込まれる特殊なもの。かつて「大津絵」の祖という評価を受けたらしいが、真偽はともかく、「へたうま」の画風
はユーモラスで魅力的。会期中に展示替えあり。図録あり(60頁)。地域に残されてきた文化財をまとまってみることの
できる本展のような機会は重要で、琵琶湖文化館休館後にあっては、全県をカバーできる県施設としての安土城考古
博の位置づけの重要度は増している。しかし指定管理者の契約は来年度で終了とのことで、次期の予算規模や管理
体制は霧の中。県教委として、文化財行政の意義を広く普及する目的を明確にした本展(本シリーズ)のフォローを、現
場を孤立させないためにも、心から願いたい。

野洲市歴史民俗資料館(銅鐸博物館)
特別陳列 仏教美術と信仰
(1月5日~2月2日)
 野洲市内の仏像・仏画・経典などを、小さなスペースだが展示。真福寺地蔵菩薩立像(重文)は平安時代後期。江龍
寺十一面観音立像(市指定)は、平安時代前期様式の余風を残す小像。図録なし。

2月14日
信貴山朝護孫子寺霊宝館
信貴山縁起絵巻(飛倉巻)特別開帳
(2月1日~2月16日)
 霊宝館で信貴山縁起の飛倉之巻の原本鑑賞。命蓮の神通力で飛ぶ鉢が巻き起こす騒動を、デフォルメされた人物
表現で生き生きと描写。覗きケースで、明るく、間近に見られ、眼福。延喜加持之巻は4/22~5/5、尼公之巻10/31~
11/14に公開。銅造毘沙門天立像(県指定・平安時代)、舞楽面(石川・退宿徳、県指定・平安時代)もしっかりみてお
く。年男なので、本堂にもお参りして、御開帳中の奥秘仏毘沙門天立像を拝観。帳で顔が見えず、修理と古色仕上で
のっぺりしていて時代不詳。本堂地下の戒壇を巡り、平衡感覚を失う暗闇を子と楽しむ。擬死再生の行です。修験者
命蓮を護る剣鎧護法(童子)の社にも参拝。修験の護法童子・金剛童子の表現を少し調べておきたいところ。

2月21日
法隆寺
伝法堂内陣特別開帳
(2月18日~2月28日)
 法隆寺東院伽藍伝法堂の内陣に安置の、3具の阿弥陀三尊像を開帳。奈良国立博物館でそれぞれの仏像を拝観
する機会はあったが、堂内の様子を知らなかったので、良い機会と馳せ参じる。3具の阿弥陀三尊の中でも、2具は同
作だが、もう1具は作行き・大きさが違う。その他林立する群像も制作時期や大きさはまちまち。いかなる歴史をたどっ
たのかと、想像するのも楽しい。これら仏像の本来の安置場所はほとんどが現在の場所とは異なるだろうが、それで
も、法隆寺という場との接点は途切れずに伝来した可能性が、そうでない可能性よりも高いと思う。なぜそういえるのか
という理路は、担当特別展「移動する仏像」(4/24~6/6)開催に向けて構築中。カバーする範囲の広い方法論にしたい
が、どうなるかは神のみぞ知る。早く雑用をこなして、集中して考える時間をつくらないといけない。中宮寺に寄って菩
薩半跏像を拝み、順序が逆だが西院伽藍に向かい金堂へ。土壇の改修工事後、釈迦三尊像はじめ堂内諸尊や壁に
ライティングが施され拝観しやすくなった。講堂では屋根の葺き替え工事が行われていたので、せっかくなので瓦を寄
進し、裏に名を書いて結縁。大宝蔵院で唐より請来し移動した九面観音立像、大御輪寺より移動した地蔵菩薩立像を
鑑賞して、西円堂の薬師如来坐像も拝観。そして子といっしょに、松ぼっくり拾いして帰る。

2月28日
奈良県立民俗博物館
季節展 ひなまつり
(2月27日~4月4日)
 橿原での用事を済ませて、雛飾りを見てみようと、足を伸ばす。御所市の商家に伝わった大がかりな御殿雛など12組
の雛飾りがずらり。人形も彫刻資料とはいえ、当方雛人形は取り扱ったことがなく、時代様式ももう一つよく分からない
(でも、知っておくべきだろう、という後ろめたさは常にある)ので、勉強勉強。図録なし。博物館のある大和民俗公園内
を散歩し、移築されている古民家15棟を巡る。古い建築に心ときめく。

3月6日
きしわだ自然資料館
特別展 チリモン積もって山となる―これがチリメンモンスターだ!―
(1月19日~3月14日)
 ちりめんじゃこに混ざる混獲物(商品として出荷される際に取り除かれる)をチリメンモンスターと名付け、海の生物
の多様性に迫る。最近全国で流行りつつあるチリメンモンスターに、そう名付け、そのおもしろさを普及したのはこの
館。ちょうどチリモンを探すワークショップの最中にでくわし、にぎわいのなか展示鑑賞。

大阪府立弥生文化博物館
企画展 大阪の二十世紀―古写真・出土品などからみた昔のくらし―
(1月23日~3月22日)
  近代の大阪を、考古遺物と古写真、地図類からたどる。写真展示に補助的に既製品のデジタルフォトフレームを利
用しており、勉強になる(ちなみに先のきしわだ自然資料館でも同じものを使用していた)。近代の考古遺物を活用する
展示は近年の弥生文化博の傾向だが、この方向性は考古学系博物館の展示・来館者層の幅を大きく広げる可能性を
持っていると感じる(近現代史に目配りをできる学芸員がいるかどうかはネックになるが)。図録なし。

3月10日
紀三井寺
秘仏本尊十一面観音・千手観音御開帳
(3月1日~3月10日)
 花山法皇遠忌による特別開帳。ぼやぼやしていたら最終日になってしまったので、午後から年休を少しとって滑り込
む。前回の開帳時は収蔵庫の外から覗く形だったが、今回は収蔵庫内に入ってより近くに行ける。十一面観音・千手
観音の両本尊を目に焼き付ける。十一面観音立像(平安時代前期)の造形の大きさ・迫力は圧倒的。思っていたより
混んでいなくて、お坊さんの説法を聞きながらゆっくり拝観。本来50年に一度の開帳で、次回開帳は10年後の2020年
の予定。

3月22日
大津市歴史博物館
慈恵大師1025年御遠忌記念企画展 元山大師良源―比叡山中興の祖―
(2月27日~4月18日)
 早く行かないとと思いながら余裕がなく、ようやく鑑賞。元三大師をめぐる歴史と文化の諸相を総合的に紹介する。な
んといっても、ずらりと並ぶ、良源・良源・良源・・・。10数躯の元三大師坐像が一堂にまみえる。面相表現の違いが機能
の違いを表すこと、衣紋表現・着衣形式に数種あること、本様-写しの関係性の中で造像されていること等々、実物が
並ぶことで見えてくる問題を共有できる。良源の画像も多数集まる。33躯の小さな元山大師像が厨子内にならぶ豆大
師像(青蓮院蔵)の非現実的な光景は、ヒトとカミとホトケとのマージナルな位置を行ききする「元三大師」という記号の
到達点といえる。そのマージナルな魅力(霊力?)を身体的に体感しうる、大津歴博以外ではありえない好企画。図録
あり(112頁・1200円)。

MIHO MUSEUM
MIHO MUSEUM創立者生誕100年記念特別展 MIHO GRANDAMA
(3月13日~6月6日)
 神慈秀明会初代教祖と現教祖の収集品を核としたMIHO MUSEUMのコレクションを並べる。興福寺伝来の持国天立
像(重文)、地蔵菩薩立像(重文)と与謝蕪村筆山水図屏風をじっくり。石清水八幡宮伝来という男神像2躯を展示する
展示台が、円形に切った板に胡粉のような顔料をむらがでるように厚く塗った、それ自体が工芸品といえるもの。展示
施行にデザイナーが加わっているのだろうか。図録あり(2000円)。
今年度訪問した館・寺院等はのべ92ヶ所、鑑賞した展覧会は70本でした(和歌山県博分除く)。