平成18(2006)年度「展覧会・文化財を見てきました。」

4月8日
和泉市久保惣記念美術館
特別陳列 北斎・広重の東海道─浮世絵版画の楽しみ─
(4月8日~5月28日)
追加寄贈された浮世絵のコレクションを中心に、東海道をテーマに資料を選定。葛飾北斎の東海道五十三次、冨嶽三十六景、春興五十三次、歌川広重の東海道五十三次保永堂版、有田屋版、十返舎一九の東海道中膝栗毛など。図録なし。

大阪府立狭山池博物館
池守田中家文書特別公開 村を、繙く─池尻村の水・信仰─
(3月18日~5月14日)
近世~近代に狭山池の管理・運営を行ってきた池守・田中家の文書を展観。河内国丹南郡池尻村を中心に、「むら社会」のあり方を水利慣行と信仰から読み解こうとする内容。釈文or現代語訳も欲しいところ。図録なし。

4月11日
東京国立博物館
天台宗開宗1200年記念 最澄と天台の国宝
 (3月28日~5月7日)
昨秋、京都国立博物館で展観された展示の東京巡回。寛永寺本尊像や東北の仏像など、東京展のみの展示資料を出陳して差別化。六道絵の展示空間は、各軸の背景として紺色の板を造りつけて、ケースの大きさを存分に生かし、かつ各幅の「画面」に集中させる秀逸さ。仏像の展示台は、背面に蛍光灯の間接光を光らせて、光背の光をイメージさせるというもの。斬新ではあるが、先の展示方法は予算がなくてもまねできるが、後者は絶対に無理。汎用性のある展示方法をいかに咀嚼していくか、である。図録あり(400頁・2500円)。

国立歴史民俗博物館
特別展 日本の神々と祭り─神社とは何か?─
(3月21日~5月7日)
副題のとおり、神社とは何かを「出雲大社─神祭りの源流と出雲大社─」「伊勢神宮─神宝と遷宮─」「厳島神社─信仰の島と宝物─」「八坂神社─神社と都市祭礼─」というテーマから語ろうとする試み。ただ、テーマごとに展示がリセットされ、着眼点が変化するのならば、一つ一つのテーマだけで展示を完結させたものを見たいのが正直なところ。準備に7年、関わった研究者44人(図録掲載の関係者一覧による)のプロジェクトであるだけに、すべてを一度に詰め込むのはもったいない。青木遺跡出土の神像を初鑑賞。10世紀初頭。図録はコラムが多く、楽しく、深く読める(250頁、2400円)。

4月15日
和歌山県立近代美術館
ベトナム近代絵画展 花と銃─インドシナ・モダンの半世紀─
 (4月15日~5月28日)
ベトナムの近代絵画を体系的に紹介。ベトナム近代絵画独特の技法として、「漆絵」の作品が多数を占める。「蒔絵」と同じ技法であるが、初期のものがいかにも東洋的な「蒔絵の衝立」という趣であったのが、次第に洗練され、自由な表現をも獲得していく。フィン・ヴァン・ガムの「リエン嬢」(1962年・ベトナム国立美術館)など。図録あり(220頁・2000円)。

4月16日
奈良国立博物館
御遠忌800年記念特別展 大勧進 重源─東大寺鎌倉復興と新たな美の創出─
 (4月15日~5月28日)
鎌倉時代の東大寺復興造営を牽引した重源のライフヒストリーを史・資料から提示。国宝・重源上人坐像、国宝・僧形八幡神坐像、重文・阿弥陀如来立像(俊乗堂所在)などの東大寺所蔵資料のほか、三重県・新大仏寺の快慶作・如来形坐像(重文)には、ハーバード大学サックラー美術館の阿弥陀仏手、個人所蔵の脇侍菩薩耳を並べる。図録あり(288頁・1800円)。

大和文華館
日本絵画名品展─信仰の美・世俗の美─
(4月1日~5月14日)
館蔵品の絵画から、聖と俗の表現を対照させて展観。国宝・一字蓮台法華経、国宝・婦女遊楽図屏風(松浦屏風)を始め、重文・笠置曼荼羅図、重文・柿本宮曼荼羅図、重文・中村内蔵助像など。図録無し。昨秋の特別展「復古大和絵師為恭」の図録購入(208頁、2100円)。

4月22日
春日大社宝物殿
 日本の美は神様の徳 王朝の名宝
(4月1日~6月28日)
神々への奉納品である、さまざまな古神宝類を展観。平安時代の工芸の精華。3面の八稜鏡は大型で精緻な物。図録なし。

4月29日
和歌山県立博物館(宣伝)
 特別展 和歌祭─祭を支えた人々、祭に込めた思い─
(4月29日~6月4日)
和歌祭は、徳川家康をまつる紀州東照宮の祭礼です。元和5年(1619)駿府から和歌山に入国し、紀伊藩初代藩主となった家康の子・頼宣は入国直後の元和7年(1621)和歌浦に東照社を造営、翌年の4月17日(家康の命日)に春祭が行われ、初めての神輿渡御が行われました。この春祭が和歌祭と呼ばれるようになり、和歌山で行われる祭礼のなかでも最も規模の大きいものとなりました。この和歌祭には、城下町に住む武士や町人のほか、和歌浦周辺の人々やさまざまな身分の人々も参加し彼らによって祭が支えられていました。この特別展では、和歌祭の成立から、変容を遂げる過程を、現在残されている祭礼絵巻などからご覧いただきます。また、他地域で行われていた東照宮の祭礼と比較することで和歌祭が持つ固有の性格にも注目していきます。図録あり(108頁、1200円)。

4月30日
和歌山県立紀伊風土記の丘
 特別展 熊野・山に生きる知恵
(4月22日~6月18日)
 熊野の山々の豊富な資源を、最大限に利用するために育まれてきた『山に生きる知恵』を「熊野ってどんなところ」「森のめぐみと知恵」「木を育て、木を切る」「山で米を作る」「畑でのさいばい」「熊野の山のモノ作り」「川は道だった」「災害のきおく」「山の未来」の各テーマから展示。山の民俗を総体的に捉えることのできる内容。個人的には、切り出した木をいかに運ぶかについて認識を新たにする。切るより運ぶが重要。図録あり(30頁・600円)。

今月の感想
光る壁面(東博)に、CG画像(歴博)。財布の違いを見せつけられる。見せるは魅せる。お金をかけずにいかに「魅せる」か、演示具のアイデアの引き出しをたくさん持っておきたいと思います。

5月5日
市立五條文化博物館
特別展 学校いま・むかし
(4月29日~6月4日)
近代の教育に関する資料を展観。教材や教科書、古写真、謄写版印刷の体験など。図録あり(24頁・600円)。

葛城市歴史博物館
企画展 竹内街道─人々の往来を中心に─
(4月29日~6月11日)
二上山の麓を通る竹内街道を切り口に、古代~近代の人の生活にせまる。主に近世の資料だが、昨年発掘された「井部」の文字のある墨書土器と、三塚古墳群出土の黒漆塗革袋(銅製金具が付く)も出陳。図録あり(24頁・300円)。

奈良県立橿原考古学研究所付属博物館
特別展 葛城氏の実像─考古学が明らかにした葛城の首長とその集落─
(4月22日~6月11日)
近年の発掘により実像に迫りうつ事例が増加している古代の豪族葛城氏について取り上げる。密集した展示資料は余白を恐れるがごとき。展示資料から歴史を知りたいと思っても、情報を読みとる基礎的知識に乏しいと、破片が破片にしか見えないのがもどかしい。図録あり(98頁・800円)。論文五本で充実。

5月6日
京都国立博物館
特別展 大絵巻展─国宝「源氏物語絵巻」、「鳥獣戯画」など一堂に─
(4月22日~6月4日)
絵巻の優品を集成。展示室内に主催者により統制された行列が延々。子どもを連れていたので、後ろ髪を引かれながらも、早々と鑑賞を諦める。ロープで区切られた鑑賞スペースの外から、人垣の間にちらりとのぞき見る。高い通行料になってしまった。なぜか一遍聖絵の前はがらがら。熊野三山部分の展示だったので、これでよしとします。図録あり(230頁・2200円)。

 修理完成記念特別公開 重要文化財 大威徳明王坐像
(4月19日~5月7日)
修理が完成した、醍醐寺・上醍醐の五大堂安置の大威徳明王坐像を公開。延喜13年(913)の作、重文。修理経過の写真も用意され、満喫。子どもが両手の人差し指の先をつけて大威徳明王の印相を真似する。でも、それだとモジモジくんですよ。

5月11日
香川県歴史博物館
特別展 創建1200年 空海誕生の地 善通寺
(4月22日~5月28日)
創建1200年を迎えた善通寺の歴史を、「空海の生涯」「空海誕生の寺」「善通寺が伝えたものたち」「江戸時代の善通寺」の章立てで展観。国宝・錫杖頭や国宝・一字一仏法華経などの優品のほか、創建当初本尊とみられる塑像の如来像頭部(8世紀)は周丈六像の大きさのもの。「江戸時代の善通寺」は復興造営を軸に寺史を展開し、堅実。図録あり(160頁・1500円)。

総本山善通寺宝物館
善通寺創建1200年記念 密教のほとけ─曼荼羅・仏像・仏画─
(4月29日~6月15日)
創建1200年を記念し、四国四県と岡山県から、これまでほとんど知られることのなかった仏像・仏画の選りすぐり、26件を集める。香川・弥谷寺の深沙大将倚坐像は、11世紀前半の等身大の像。倚坐像のものは他に類例が無い。迫力満点。香川・円成庵の六字明王立像は六臂で右足を左足の後ろに「4」の字のように振り上げる極めて特殊なもの。12世紀。等身大の大きさもおどろき。岡山・安住院の伝聖観音立像は9世紀前半、台座の一部を含んでカヤ材から全てを彫出した代用檀像。腰を絞って胸を張り、背をそらした緊張感ある姿勢をみせ、両肘を外に張った正面観、裾が後方へ強く反る側面観ともに彫刻空間が大きい。形式化しない渦文や足部の翻波式衣紋もリズミカルで、鉈彫像としての位置づけも重要。岡山・大通寺の不空羂索観音菩薩坐像は像内に康和元年(1099)の年記を持つ。定朝様式の展開を考える上で、今後欠くことのできない重要作例。これらのほとんどが本来秘仏で、近時見いだされたものばかり。今回見逃すと、次に拝観する機会は滅多なことではないかもしれません。近年出色の仏教美術展。図録あり(68頁、1000円)。

5月14日
奈良国立博物館
御遠忌800年記念特別展 大勧進 重源─東大寺鎌倉復興と新たな美の創出─
 (4月15日~5月28日)
某研究会の前に、見納めに再訪。国宝・重源上人坐像、国宝・僧形八幡神坐像をじっくり見たところでタイムアップ。帰り、橿原神宮前駅構内の本屋に飛鳥資料館の図録『キトラ古墳と発掘された壁画たち』(1000円)が山積みされて販売されていたので思わず衝動買い。フィーバーぶりが実感されるが、飛鳥資料館が押すな押すな状態なんて、とても想像できない・・。

5月28日
飛鳥資料館
特別展 キトラ古墳と発掘された壁画たち
(4月14日~6月25日)
キトラ古墳より保存修復のため剥ぎ取った壁画のうち白虎図の特別公開最終日(5月12日~5月28日)。90分待ちで鑑賞。独立ケースに展示し、左右にいかつい警備員が立ち「ケースに触るな」を連呼。正面からの鑑賞では列を縦に並ばせ、かつ順番待ちの観客が平行に並んでいるので、先頭に立ったとたんに観客相互の無言の圧力と、係員の「次のお客様にお譲り下さい」の声でいたたまれなくなる。6~7秒で終了。側面から観客の切れ間をねらって、粘りに粘って5分ほど見るのがやっと。後援の朝日新聞発行のパンフに「星野明日香」という「新米学芸員」が顔写真付きで掲載され解説しているが、実在の人物ではなく何かの企画物らしい。悪ノリだと思う。上淀廃寺の壁画断片はかなり近くで見られる。図録あり(1000円)。

奈良県立万葉文化館
 夏の万葉日本画展 その1
上田勝也日本画展
(5月23日~7月23日)
烏頭尾精 あすかの四神─キトラ古墳壁画によせて─
(5月12日~6月25日)
上記の三つの展示を企画展示室で開催中。「日本画」というジャンルの現在を批判的にながめるいい機会。作品目録あり。

舞楽─飛鳥に吹く雅の風─
万葉文化館の野外ステージで、天理大学雅楽部の公演。右方舞の納曽利と、左方舞の柳花苑。柳花苑は断絶していた曲だが、天理大学雅楽部が復曲したもの。女楽4人舞で、万葉風の衣装をまとった女性4人が舞う。随分レベルの高い演奏と舞でびっくり。ささくれだった気持ちがリセットされた。就職するまでずっと明日香村民でしたが、今日のように博物館・美術館・芸能の鑑賞を一度に村内でできるようになるとは・・。

今月の感想
出陳の難しい資料に果敢に挑んだ善通寺宝物館に感銘。展覧会の命運は、学芸員の「気力」が握っているのです。

6月3日
堺市博物館
特別展 堺の町探訪─寺町の文化財─
(6月3日~7月2日)
近世に成立した堺の寺町をテーマに、禅宗寺院、日蓮宗寺院、浄土宗・真宗寺院と分けて、文化財を展示。妙法寺の金泥法華経宝塔曼荼羅図は鎌倉時代。北十萬の阿弥陀三尊来迎図も鎌倉時代。阿弥陀が半跏の姿。ほか妙國寺の三好実休像(室町時代)など。ゆるやかな枠組みで、地域の文化財の多様性を提示。図録あり(40頁・500円)。

6月10日
和歌山県立近代美術館
現代「日本画」の展望─内と外のあいだで─
(6月10日~7月30日)
日本画とは何か。その枠組みの定義があいまいで、かっこ書きをするしかない「日本画」というジャンルの現在を、練馬区立美術館の収蔵作品を主に展観。素材・技法だけでは「日本画」の枠組みをくくれない。仲山計介《敷島屏風》、八木幾朗《海のはじまり》、新恵美佐子《花─3》など。図録あり(22頁・300円)。

和歌山県立博物館(宣伝)
企画展 根来─発掘された中世都市─
(6月10日~7月17日)
 1585年(天正13)、豊臣秀吉の紀州攻めによって、日本中世最大と言われる繁栄を誇っていた根来寺は壊滅的な打撃を受けました。この企画展では、これまでの30年に及ぶ発掘調査の成果や絵図資料などから、宗教都市・根来の具体的な姿を紹介します。

6月25日
奈良国立博物館
特別陳列 やまとの匠 近世から現代まで
(6月10日~7月9日)
某研究会前に立ち寄る。奈良地域における近世・近代・現代の工芸と、それを担った人物を追う。近代期の人物や諸作品に目を見張るものが多い。森川杜園の法隆寺九面観音像模造、祐森米斎の神照寺華籠写は、まさに神業。ほかに坂本曲斎の春日瑠璃燈籠写など多数。奈良博による「奈良」をクローズアップする企画は今後も楽しみ。ネタはいくらでもありそう。図録あり(64頁・1500円)。

今月の感想
文化財と日々向かいあっていると、必然的に「古器旧物」「文化財」といった概念が成立した近代・現代への眼差しを意識するようになりますが、今月はよいお勉強ができました。

7月22日
和歌山県立博物館(宣伝)
企画展 きのくにの文化財2006─夏休みこども特集─
(7月22日~8月27日)
 県立博物館では、県内の寺社などから、国宝・重要文化財をはじめとする多くの国・県・市町村指定の文化財の寄託を受けています。この企画展では、そうした寄託品を中心として、「きのくに」=和歌山県が誇る高度な文化の粋を紹介します。図録無し。

7月29日
和歌山市立博物館
特別展 桑山玉洲
(7月22日~8月27日)
 江戸時代後期の紀州の文人画家、桑山玉洲の画業を展観。職業画家ではない「文人」画家の、絵画学習のあり方と画風展開を丹念に追う、真面目な展示。玉洲は画論「絵事鄙言」を著しており有名だが、今回は新出史料である「桑氏扇譜考」や「嗣幹画論」が提示された。玉洲研究は一気に階段を駆け上った感じ。図録あり(116頁、800円)。

7月31日
高野山霊宝館
第27回大宝藏展 高野山の名宝
(7月16日~9月18日)
 高野山上の名宝の数々を展観。有志八幡講の阿弥陀聖衆来迎図(国宝)や蓮華三昧院阿弥陀三尊像(国宝)、仏像では五坊寂静院の阿弥陀三尊像が側面・背面も見られる。宝亀院の十一面観音立像(平安前期・重文)も。戦国大名と山上寺院の特集では武田信玄や上杉謙信、真田幸村、豊臣秀吉、木食応其の画像や古文書。近世絵画では遍照光院の山水人物図襖<山亭雅会図>(池大雅筆、国宝)など。図録あり(41頁・1200円)。

今月の感想
特別展準備のため、他所の展覧会を見る機会を作れないのが残念。

8月12日
大阪歴史博物館
プノンペン国立博物館所蔵 大アンコールワット展―壮麗なるクメール王朝の美―
(7月22日~9月11日)
各地を巡回しているアンコールワット展。優品がどっさり日本にやってきている。なんといってもジャヤヴァルマン7世頭部(12c末~13c初)。学生の時、ブノンペン国立博で必死でスケッチしたのを思い出す。その大学ノートは、どこかに埋もれているようで・・。子が、薄目でにやりとして、こんな顔だねえと真似している。青銅製の盛装のブッダ像も洗練された作行の優品。図録あり(112頁・1800円)。INAXギャラリー「レプリカ─真似るは学ぶ─」(6月2日~8月18日)にも行こうとしたら、今日から17日まで盆休みとのこと。残念。図録のみネットショップで買うことに。

8月17日
奈良県立橿原考古学研究所附属博物館
大和を掘る 24─2005年度 発掘調査速報展─
(7月8日~8月20日)
昨年度、奈良で発掘された遺跡のうち、重要な発見につながった34遺跡の遺物を展観。目的は、史跡 大峰山寺境内より出土した呉越王(銭弘俶)八万四千塔(破片)。国内11例目のもの。さらに鳥居を背にして、衣冠束帯姿で笏を執り、半跏に踏み下げる神像を刻出した鏡像(鏡背は瑞花鴛鴦鏡・平安時代)も展示されている。新出の重要な鏡像。作品横の描き起こし図は正確でない。図録あり(42頁・500円)。

今月の感想
・・・休みがない。

9月2日
和歌山県立博物館
企画展 屏風をひらくとき
(9月2日~9月24日)
 折りたたみ式の「ついたて」である屏風は、室内を仕切るとともにその場を飾る「用」と「美」を兼ねた可動式の調度品です。屏風を開く瞬間から鑑賞がはじまり、新たな空間が生まれます。この企画展では、収蔵品の屏風を通して、その鑑賞のあり方を紹介します。

9月10日
和歌山県立近代美術館
森鴎外と美術
(9月10日~10月22日)
近代日本を代表する作家・森鴎外と、同時代の美術の深い関わりを紹介。原田直次郎の作品を大きく集成。優品多し。図録あり(2000円)。

9月20日
奈良国立博物館
 特別展 北村昭斎―漆の技―
 (9月2日~10月1日)
駆け足で一巡り。人間国宝北村昭斎の業績を、作品と、修理した文化財からたどる。北村家歴代の作品も展示。最近の奈良博は、奈良の地域博物館としてのコンセプトが明確。図録あり。本館には法隆寺金堂四天王像!

9月26日
東京国立博物館
特集陳列 中国書画精華
(9月5日~10月29日)
駆け足で一巡り。優品がずらり。展覧会の端境期で、ほかに常設展示をちらちらと。善円の地蔵菩薩立像(薬師寺蔵)など見る。

今月の感想
・・・限界。

10月7日
和歌山県立博物館(宣伝)
世界遺産登録記念特別展 熊野・那智山の歴史と文化―那智大滝と信仰のかたち―
(10月7日~11月19日)
熊野・那智山の歴史と文化を一望のもとに展観する初めての機会です。仏像・神像・絵画・古文書など、残されてきた様々な資料から、熊野三山の一つ、「那智」の実像に迫ります。飛鳥時代の仏像から現代の絵画まで、多種多様な文化財が持つ歴史の広がりをご堪能下さい。主な展示資料は、補陀洛山寺《千手観音立像》(平安時代・重文)、熊野那智大社《女神坐像》(平安時代)、東京国立博物館《十一面観音立像》(飛鳥時代・那智経塚出土)、金剛界三十七尊像(大治5年<1130>頃・那智山青岸渡寺・東京国立博物館分蔵・那智経塚出土)、大泰寺《薬師如来坐像》(重文・指定名称は阿弥陀如来坐像)、闘鶏神社《那智参詣曼荼羅》(室町時代)、円満寺《法燈国師坐像》(鎌倉時代)、熊野那智大社《熊野本地仏曼荼羅図》(鎌倉時代)、熊野那智大社文書(重文)など。図録あり(288頁・2000円)。

和泉市久保惣記念美術館
和泉を彩る文化財―和泉の文化財と東洋美術の名品―
(10月7日~11月26日)
和泉市の市制50年を記念した展示。和泉市内の霊場、施福寺、松尾寺を主とした文化財と、久保惣記念美術館所蔵の優品を並べた2部仕立て。なんといっても目玉は松尾寺所蔵の孔雀経曼荼羅図(重要文化財)。鎌倉時代前期の優品。展示施設の制約を受けてはいるものの、かなり間近に見ることができる。やはり松尾寺所蔵の役行者像は鎌倉時代に遡る一幅。図録あり(148頁・1500円)。2ヶ月ぶりの休みにすることは、結局展覧会見学なのでした。

10月21日
新潟県立近代美術館
特別展 新潟の仏像展
(9月30日~11月12日)
新潟県内に残る彫刻資料の優品を、初めて一堂に会して展示する必見の展示。佐渡・国分寺の薬師如来坐像(平安時代初期。重文)は圧巻。龍吟寺観音菩薩立像(奈良時代・重文)は、右手から垂下する天衣が新たに発見され、接続されている。寛益寺十二神将像は平安時代後期の一群。一部フシギな顔のものも。善導寺善導大師立像など、肖像彫刻の優品も。図録あり(196頁・2000円)。充実の執筆陣。

10月22日
新潟県立歴史博物館
特別展 中世人の生活と信仰―越後・佐渡の神と仏―
(9月30日~11月12日)
考古資料を中心に、越後・佐渡の信仰のあり方を提示。白山神社の懸仏は近美と展示品のシェアーをしているよう。チラシ等では、「現代の人々は、神や仏を心から信じているわけではないようです。」という文句から解説を出発し、中世の信仰の世界の「深さ」を対比させようとする。ただ、執筆者の主観がそうであるだけで、現代を無信仰の時代とするのは出発点としてはどうか。300年後に現代の資料が発掘されれば信仰に関わる資料はいくらでもあるはず。「信仰」がテーマの展示なのに、「信仰」のあり方への関心が一面的な印象。図録あり(112頁・900円)。

新潟市會津八一記念館
特別展 會津八一と奈良
(10月6日~11月26日)
會津八一と奈良との関わりを、自筆の書を中心に、奈良の風景写真、興福寺仏頭等のレプリカ作品なども展観。日吉館の「観佛三昧」扁額(昭和15年、個人蔵)を初めてみる。「おほてらの まろきはしらのつきかけを つちにふみつつ ものをこそおもへ」が好き。図録あり(92頁・2000円)

新潟市立博物館
第3回 むかしのくらし展 手回し機械
(9月16日~12月3日)
手回しで使用するさまざまな民具を展示。それら民具が実際に使われていた光景を知らない観者にいかに「民具」を提供するか、という問題がきっとあると思う。逆手にとってみれば、それが何で、いかに使用されたのかを想像力をフル回転して考えることが、最良の教材になるような気がする。敷地内には近代建築がいくつも移築されている。

10月23日
奈良文化財研究所飛鳥資料館
飛鳥の金工 海獣葡萄鏡の諸相
(10月14日~11月26日)
海獣葡萄鏡にスポット。鹿児島県・都萬神社の大型の海獣葡萄鏡や方形の海獣葡萄鏡など、資料数は少ないものの、優品を集めている。踏返鋳造実験のビデオと、それによって制作された鏡を手にとって鑑賞できる。江戸時代の柄鏡も手に取れる。柄鏡に顔を映す経験って、そういえばなかったかも。図録あり(14頁・300円)。

10月26日
大和文華館
特別展 鏡像の美―鏡に刻まれた仏の世界―
(10月7日~11月12日)
鏡面に仏菩薩を刻出した鏡像を集成。中国・朝鮮半島の鏡像と、日本の鏡像の、どちらも最初期の作品を多数含めて、ずらりと展観。鏡像が単純に中国起源とは言えないことを実感。図録あり(144頁・2100円)。巻頭に所収の久保智康論文(「鏡像の創出―日本天台の教説における―」)は、鏡面に仏があらわれているという現象を、いかなる事相・教相で説明ができるか、というところに踏み込んでいて示教されるところ甚だ多し。「鏡像から懸仏へ」、という単純な構図ではいけないらしいことを考えることができた。鏡像への認識を新たにするが、ムズカシイ問題。

10月29日
九州国立博物館
開館1周年記念特別展 海の神々―捧げられた宝物―
(10月8日~11月26日)
海の神を祭神とする神社の宝物を集成。媽祖像を色々見ることができたのは収穫。演出のための演示具に工夫が凝らされている。斎場御嶽部分の崇拝場所を示すスクリーンは前後に3枚重ねて立体感をだしている。ただ展示会場全体で間仕切りに使われていた水色のひらひらしたスクリーンは空間の重厚感を損ねている(水をイメージしているのはわかる)。図録あり(180頁・1500円)。開館前にいったところ、すでにずらりと列ができていて(しかも既に自館の一日の入館者数を超えている・・・)、その他「九州宝御膳物語」というイベントの特設レストランが設置され、中国の楽器の演奏会、博物館教育関係のシンポジウムも開催中で、活気にあふれていた。博物館を活気ある場とするため方策は、インパクトのある展示を行い、かつ、複合的にイベントの場として開放して相乗効果を計る(広報の面でも相乗効果あり)、ということなのであるが、この「開放」を計画的に継続的に行うことが難しい・・。九博はやり続けられるに違いな
い。

福岡市博物館
弘法大師帰朝1200年記念特別展 空海と九州のみほとけ
(9月15日~10月29日)
最終日に滑り込む。福岡を中心に北部九州の仏像を大きく集成。谷川寺の薬師如来立像は神護寺薬師を強く連想させるもの。制作時期も同じ頃(8c末~9c初)か。どんな背景のもと作られたのだろうと、想像はつきない。同じく谷川寺の仁王像は、4頭身のデフォルメされた姿ながら、各部の造形は充実したもの。荘厳寺の聖観音菩薩立像を基準として、体型・耳の形などの類似から山崎観音堂聖観音立像、八所宮十一面観音立像がよく似ていることを理解する。若干異なった作風を見せる小田観音堂諸尊も含め、10世紀における北部九州独自の様式展開のあり方を理解できた。図録あり(240頁・2000円)。仏像を見開きで右に正面観、左に側面・背面他の図版を配し、解説も同じページに掲載するという、充実ぶり。

今月の感想
今年は仏像展の当たり年。たくさんの仏像と出会える喜びのため、なんとかやりくりして時間を作りましょう。

11月5日
名古屋市博物館
天台宗開宗1200年記念特別展 比叡山と東海の至宝―天台美術の精華―
(10月21日~12月3日)
東海地方の天台宗寺院に残る文化財を展観。賢林寺十一面観音坐像は新出の平安初期(9c)の作例。展示会場では見られなかった側面などの写真はこちらに。図録に側面だけでも図版が載ればうれしかったところ。春日井市高藏寺の薬師如来坐像は、定朝様式が支配的な半丈六像ながら、嵌入された玉眼は当初のもの。顔つきはやや意志的な傾向がある。愛知に集中的に分布する平安末期玉眼嵌入像の解釈を、改めて考えてみる(が、答えがすぐにでるわけでなし)。大府市延命寺の刺繍普賢菩薩像は、刺繍技法の特殊さから、宋~元の繍仏とのこと。よくぞ残っていましたね。図録あり(184頁、2000円)。

山梨県立博物館
開館1周年記念特別展 祈りのかたち―甲斐の信仰―
(10月14日~11月20日)
名古屋から車を走らせ山梨へ。山梨県内の宗教美術の優品を集成。お目当ては、放光寺仁王像。仁王像!。近年、平安末期奈良仏師作例として見いだされ、即重文指定された。寺伝にいう成(定)朝作の可能性が極めて高い。ぐるりと見渡せるので、立体造形をしっかり確認。瑜伽寺の十二神将像も同系統の作者による像。ああ、これも実物を初めて見られてよかったとしみじみ。その他福光園寺の吉祥天及二天像(重文・寛喜3年<1231>・蓮慶作)など。栖雲寺の中峰明本(普応国師)坐像(重文・文和2年<1353>・院広ら作)の出来の良さに、院派正統の凄みを見る。図録あり(172頁・1500円)。

11月6日
甲斐善光寺・浅間神社・甲斐国分寺跡・大善寺・栖雲寺
早朝から、行脚。善光寺本堂、で、でかい。甲斐国分寺跡は整備中。遺跡上にあった寺を移築させたもようで、立ち入り禁止でした。そりゃないよ。大善寺の国宝本堂、背後のなだらかな山並みと相まって、大変優美。栖雲寺は周囲が紅葉して一番良い時期のもよう。石庭(県指定史跡)の存在が、ここに信仰の場が設定された要因のよう。禅僧たちはここに中国をみていたのだろう。後ろ髪引かれながら9時30分には山梨を離れる。

11月12日
神奈川県立金沢文庫
特別展 霊験仏―鎌倉人の信仰世界―
(10月5日~12月3日)
「霊験仏」として、善光寺式阿弥陀、清凉寺式釈迦、長谷寺式十一面、生身仏、運慶仏の各枠組みを設定、展示する。近年の生身仏研究の進展を踏まえた意欲作。運慶仏であることで霊験の発露となるというのは斬新な視点で、定朝作、仏師春日作、行基作、空海作・・と持ち出すまでもなく、「ありがたさ」の大事な一要素であるのは間違いない。かつそれを、鎌倉の地域史研究への視点にも広げるあたり、切れ味鋭い。霊験あらたかであるためには、だれしもが納得する理由が必要であり、完成度の高い縁起を有する像ほど重要視され、かつ特徴的な造形の像が尊ばれたという構図だろうか。運慶工房作の満願寺菩薩立像・地蔵菩薩立像のほか、清雲寺の毘沙門天立像は兜がとれる鎌倉初期の優品。茨城県万福寺の阿弥陀三尊は歯吹きの生身像。図録あり(80頁・1300円)。

東京国立博物館
特別展 仏像―一木にこめられた祈り―
(10月3日~12月3日)
一木造の仏像を、檀像・代用檀像(奈良末~平安初期一木彫の像)・鉈彫像・円空・木喰仏という枠組みで集成。前半は木彫像の発生についての教科書を見ているかのごとく、優品のオンパレード。かつ、木への神性・霊性を根幹のテーマに据えることで、鉈彫像や円空・木喰仏というアカデミックの分野では従来位置づけが難しく周縁に置かざるをえないテーマを、堂々と国立館に並べきった、金字塔たる展示。前半のオーソドックスさと、後半の大胆さの対比の妙。円空仏は作例も特徴もありすぎて円空仏研究の中で完結しがちだが、それではいつまでも民芸から抜け出ないので、この展示のように木に霊性を見る系譜(特に神像)や、半分素人の行者系仏師による像造の系譜など、円空一人のパーソナリティーに帰結させない研究が必要(ってだれかがやってるのかもしれませんが)。渡岸寺十一面観音立像、傑作中の傑作。スポット10灯によって浮かび上がる機会は、しばらくないでしょう。東博は今回も演示具に凝っている。各像の背後に薄紫の布を垂らし、その後ろで蛍光灯を灯すことで、像背面を淡く照らす。音声ガイドは市原悦子。むかーしむかし、と語ってくれます(ウソ)。図録あり(296頁・2500円)。東博史上でも多分初めてのハードカバー。図録(作品カタログ)の範疇を超えた労作。

東京国立博物館コレクションの保存と修理
(10月24日~12月6日)
所蔵コレクションのうち、近時修理完成したものを展示。仏像では観音菩薩立像(平安時代後期)。スポットライトが切れていてあまり見えないのが残念。せっかくこのテーマでするなら、修理前の写真はもっと大きなものが欲しい。リーフレットあり。葡萄栗鼠螺鈿箱・白地立木花模様更紗・銀象嵌鍔・観音菩薩立像の修理経過を提示。

11月13日
大阪大谷大学博物館
特別展 南大阪の仏像―近年発見の小仏を中心に―
(10月16日~11月30日)
近年の調査により見いだされた、南大阪(和泉と南河内)地域の仏像を集める。施福寺の千手観音立像は像高43.4㎝の小像ながら、千手を表した真千手。緊張感ある体型、細部の表現も精緻な優品。平安前期彫刻を思わせるところもあるが、鎌倉初期の制作のよう。驚きの一躯。総数は少ないながら、新出の個性的な像が集められている。博物館だより99号に、全ての作品の写真と解説が掲載(8頁・無料)。11月25日には公開講座「大和・山城周辺国の仏像」が10時~4時で開催。講師は次の歴々たる面々。「近江の仏像」佐々木進(栗東歴史民俗博物館長)、「丹波の仏像」根立研介(京都大学大学院助教授)、「摂津西・播磨の仏像」神戸佳文(兵庫県立歴史博物館学芸課長)、「摂津東・和泉・河内の仏像」吉原忠雄(大阪大谷大学教授)、「紀伊の仏像」小田誠太郎(和歌山県教育長文化遺産課世界遺産登録班長)、「伊勢・伊賀の仏像」赤川一博(四日市市立博物館学芸員)。申込みは往復はがきに氏名・郵便番号・住所・℡番号・年齢を記入の上、11月18日までに必着で。申込先は〒584-8540大阪府富田林市錦織北3-11-1大阪大谷大学文化財学科公開講座「大和・山城周辺国の仏像」係、TEL0721-24-1039。

11月25日
和歌浦天満宮社務所
企画展 和歌浦天満宮展―よみがえる近世和歌浦の原風景―
(前期11月6日~11月17日 後期11月20日~11月26日)
和歌山大学紀州経済史文化史研究所主催の展示。前期は和歌山大で展示。和歌浦天満宮に残る縁起、墨跡、古文書の他、狛犬を展示。狛犬は前脚を除く大略を一木から木取りし、諧謔味のある表情を見せる。室町時代後期の作。天満宮の初見資料は15世紀とのこと。和歌山県内では中世の狛犬の確認事例は多くないので、貴重な新資料。リーフレットあり。

11月26日
河内長野市立郷土資料館
特別展 元禄の高僧 浄厳と蓮体―河内から江戸へ―
(10月21日~12月17日)
江戸・霊雲寺の開山で、悉曇(梵字)に関するものを始め膨大な著作を残した高僧浄厳と、その甥で弟子の蓮体を紹介する。浄厳は河内国錦部郡鬼住村の生まれで、河内長野市の延命寺がゆかりの寺。資料数は少ないものの、パネルを多数準備した丁寧な展示。浄厳の書いた悉曇の墨跡もあったらうれしかったところ(松林寺の浄厳筆種子両界曼荼羅は写真パネル)。図録あり(30頁・500円)。

千早赤阪村立郷土資料館
特別展 建水分神社の文化財
(9月30日~12月3日)
千早赤阪村制施行50周年・郷土資料館開館20周年記念と銘打った展示。資料数は少ないが、中近世の古文書や狛犬4対などを展示。狛犬は平安末~鎌倉前期頃の一対と、鎌倉後期~南北朝期の3対。古文書では戦国期の根来寺連判衆快秀黒印状をじっくり。図録あり(26頁・600円)。

11月27日
有田市郷土資料館
特別展 浄妙寺の歴史と文化財
(10月28日~12月17日)
有田市内に所在する浄妙寺の文化財を展観。重文の薬師三尊像等は展示していないが、同時期同系統の作者による五智如来像や破損仏、仏画類を展示。重文薬師堂、多宝塔の古写真や修理時の記録などもあって、丁寧な調査に基づいている。重文の須弥壇や薬師像の明治26年の鑑査状も。地域の博物館は、地域に密着して資料を掘り起こすのが使命の一つ。リーフレットあり。

11月28日
和歌山県立博物館(宣伝)
企画展 近世武家の世界
(11月28日~1月8日)
近世は、武士が政治権力を独占する時代でした。時代が「戦国の世」から「平和な世」にと移っていくと、武士は武芸だけではなく、官僚としての力量や教養も問われるようになりました。この企画展では、収蔵品を中心に、そうした近世武家社会の一端を紹介します。

今月の感想
いろいろな仏像展がありましたが、地域の博物館が、地域性を全面に押し出した展示は、大変参考になりました。「地方」ではなく「地域」の視点が大事です。必死で全国行脚をしたにも関わらず、東北・大分・鹿児島など、いくつか行き残してしまったのが、残念無念。

12月2日
醍醐寺霊宝館
特別展 修験道と醍醐寺―山に祈り、里に祈る―
(10月1日~12月3日)
醍醐寺所蔵の古文書類の中から、近年の学術調査で見いだされつつある修験道関係資料を集成。近世初頭の当山派の成立状況をひもとく。銅造理源大師像(江戸時代)は内山永久寺伝来。大峰山の行場等を描いた峯中秘図(天明7年<1787>)、宝徳4年(1453)書写銘の熊野権現講式なども。図録あり(156頁・2500円)。

佛教大学アジア宗教文化情報研究所
特別企画 清凉寺の知られざる仏たち
(11月6日~12月2日)
同研究所が調査を進めている清凉寺の彫刻資料を展示。如意輪観音半跏像は、面相や衣紋の表現から10世紀の制作と見られる。ほぼ等身大の像。両手(6本)は体部材との接合部にずれがあり後補か。頭部は乾漆を盛り上げ毛筋を細かく表す。毘沙門天半跏像は平安時代末期の作。一木からなる体幹部材を、胸下で上下に割り放した構造と報告されている。両腕部分に兜跋毘沙門天と同様の海老籠手を着けている。堅実な作風を示す、特殊な形式・構造の新出作例。萬屋治兵衛坐像は文久元年(1861)、山本茂助の作。うまい。リーフレットあり(A3コピー3枚)。「浄土宗寺院の名宝(一)」も開催中(11月20日~12月20日)。清浄華院不動明王立像は11世紀、金戒光明寺の毘沙門天立像は13世紀。

12月7日
三井記念美術館
特別展 敦煌経と中国仏教美術
(11月18日~12月17日)
近年詳細な調査が行われた館蔵敦煌経を精選し、あわせて中国の金銅仏の優品などを展観。静嘉堂文庫美術館の銅像如来坐像及び力士像(唐時代)をじっくり。永青文庫の元嘉14年(437)銘如来坐像なども。東博所蔵の敦煌仏画も展示。図録は出陳敦煌経についてのもののみ(28頁・1260円)。東京駅のそばで便利。

12月8日
大阪市立美術館
開館70周年記念特別展 大阪人が築いた美の殿堂─館蔵・寄託の名品から─
(11月3日~12月24日)
大美のバラエティーに富む館蔵品・寄託品を全館にどっさりと展示。大阪・延命寺の兜率天曼荼羅(鎌倉・重文)の鮮やかさに目がいく。山口・洞春寺の維摩居士像(重文)は元時代。図録なし。出陳品リストが100円。大美のウェブサイトでみれば無料。

12月16日
和歌山県立紀伊風土記の丘
特別展 紀淡海峡の民―黄泉の世界―
(10月3日~12月24日)
紀伊国と淡路島の海浜の人々の暮らしとその共通性を、考古資料から展観。主に墳墓より出土した資料を比較。棒状の石製品は紀伊・淡路共通して見られるが、製塩の道具とも漁労具とも言われるも不明で、展示では複数の用途に使用された「便利な棒」とする。図録あり(26頁・320円)。同時公開で、紀伊風土記の敷地内、岩橋千塚古墳群のうち大日山35号墳で出土した、顔が前後2面ある埴輪を展示。同古墳出土の羽を広げた鳥の埴輪も含め、全国初の出土資料。まだまだ発見がありそう。

12月24日
奈良国立博物館
特別陳列 おん祭と春日信仰の美術
(12月9日~1月21日)
春日若宮・おん祭の時期にあわせて、おん祭・春日信仰・春日講などの関連資料を展示。お目当ての新出・春日若宮曼荼羅は後期の展示替え。中近世移行期に活動した櫟屋絵師の地蔵菩薩像、奈良博本と春日大社本の両方展示。絹本著色と紙本墨画。仕上がりの差は不思議だが、どういう「営業形態」だったのか興味深い。図録あり(80頁・1500円)。本館に法隆寺金堂西の間の天蓋が展示。国宝じゃなかったことに気づく。興福寺伝来、諸家分蔵の四天王像のうち3躯をじっくりと鑑賞。残りの1躯、耕三寺博物館所蔵分はミホミュージアムの所蔵になったそうな。へえー。

12月30日
当麻寺
仏像鑑賞の締めは、ぶらっと当麻寺へ。思いがけず研究への着想を得る。

今月の感想
さあ、来年も観仏三昧!仏像が語る地域の歴史を、しっかりと見据えたいと思います。

1月5日
岡山県立博物館
企画展 上寺山餘慶寺と豊原北島神社─備前南部の文化財─
 (1月5日~2月4日)
瀬戸内市邑久町上寺山の餘慶寺と豊原北島神社の文化財を展観。餘慶寺の薬師如来坐像(重文)は平安時代前期、10世紀制作の巨像。じっくり鑑賞。同じく10世紀の観音菩薩立像(重文)も。その他、江戸時代彫刻や古文書、中世~近代の絵画など、さまざまなジャンルの文化財から地域の歴史の輪郭を照射する。図録(『備前上寺山―歴史と文化財―』、148頁・1300円)は地元有志の「上寺山を良くする会」の発行で、地域と博物館が連携したすばらしい事例。なお博物館での販売分は100冊とのことですのでお早めにどうぞ(図録問い合わせ先:上寺山を良くする会/事務局〒701-4232岡山県瀬戸内市邑久町北島1187餘慶寺内/電話086-942-0186 FAX086-942-0187)。

岡山県立美術館
新春特別展示 棟方志功と芹沢銈介
 (1月5日~1月28日)
個人コレクター所蔵の棟方志功と芹沢銈介作品が大量に寄託されたことを受けての企画。展示では代表作も他より借用して展示。千葉市美の棟方志功《二菩薩釈迦十大弟子》など。何事も勉強。図録あり(900円)。それにしても、県美と県博の施設のあまりの差・・。県博がカワイソウ。

餘慶寺・豊原北島神社・西大寺
せっかくなので現地訪問。餘慶寺・豊原北島神社は小高い独立丘陵上に伽藍が並び、下界からも大変目立つランドマーク的存在。地域における存在の強さ・大きさを実感する。餘慶寺本堂は永禄13年(1570)建立の五間堂(重文)。吉井川を挟んだ対岸には、奇祭・会陽で著名な西大寺の大きな本堂が見えているので、こちらも参拝。

1月9日
奈良県立万葉文化館
素描と下絵展~その4 ―真野満、奈良の旅―
 (1月5日~3月11日)
日本画家真野満(1901~2001)の新出素描・下絵類のうち、奈良に関するものを展示。法隆寺金堂壁画模写に携わった一人。法隆寺諸尊の模写も多い。展覧会だより19号(28頁)に解説あり。

1月19日
田辺市立美術館分館熊野古道なかへち美術館
 館蔵品展 近世・近代の南画
(前期1月6日~2月4日 後期2月24日~3月25日)
文人画の優品などを展示。祇園南海《五老峯図》、田能村竹田《仙人閑適図》、木村兼葭堂《秋山訪友図》など。図録なし。

1月21日
奈良文化財研究所飛鳥資料館
 発掘調査速報展 飛鳥の考古学2006
(1月16日~2月25日)
昨年の発掘成果を速報。島庄遺跡、甘樫丘東麓遺跡、石上遺跡、飛鳥京跡、川原寺跡、雷丘など。川原寺133-12次調査地出土のセン仏は、中金堂で使用されたものの可能性が提示されている。図録あり(14頁・300円)。

今月、わが家の文化財2号(長女)誕生。子守三昧。

2月3日
神戸市立博物館
特別展 神戸の文化財Ⅱ―神戸市指定文化財を中心に―
(1月20日~2月25日)
神戸市内で伝来したさまざまな指定文化財を展観。大きく考古・仏教美術・古文書・建築に分ける。永仁4年(1296)銘・宝満寺大日如来坐像(重文)が見所。その他仏像・仏画多数。太山寺の刺繍種子両界曼荼羅(鎌倉時代)は圧巻。図録あり(84頁・1000円)。

和歌山県立博物館(宣伝)
企画展 きのくにのやきもの―南紀男山焼―
(2月3日~3月11日)
紀州三大窯の一つ、南紀男山焼は、江戸時代後期の文政10年(1827)に開かれ、明治11年(1878)に廃窯となるまで、約半世紀の間、有田郡広村(現在の広川町)に築かれた窯で多くの作品を生みだしてきました。窯を開いた崎山利兵衛は、京都や九州の肥前有田から製陶・染付の技術を導入し、紀伊藩の殖産興業政策にそったかたちで大量生産を行い、国内外への流通・販売をめざしたのです。南紀男山焼の製品は、日常生活に用いる染付のやきものが大半でしたが、中には高級品として特別に制作された作品もあります。和歌山県立博物館は、創立以来、こうした南紀男山焼のすぐれた作品を収集してきました。このたびの企画展では、一部寄託資料を交えながら、館蔵資料の南紀男山焼の作品ほぼ全てを公開いたします。関連資料とあわせて、南紀男山焼の頂点に位置する作品群を、ご鑑賞いただければ幸いです。図録なし。

2月11日
堺市立みはら歴史博物館
速報展 文化財保存修理の世界―堺市指定有形文化財 菅生神社本殿保存修理工事を通して―
(2月6日~3月25日)
万治4年(1661)に建立され、平成20年度までの予定で現在修理中の菅生神社本殿の修理経過報告。組物を復元したり、墨書銘のある部材を展示。展示スペースは小さい。図録無し。常設展は河内鋳物師に特化している。『河内鋳物師とその作品』(18頁・300円)を購入。有益。

2月19日
古代史博物館(泉南市埋蔵文化財センター)
せんなんのたからもの展
(11月24日~2月28日)
教育委員会が「市内資源発見活用事業」として市民より募集した「たからもの」を展示。近現代期の資料が主。モノ資料自体が持っている本来の情報のほかに、それを使用していた人たちのちょっとしたライフヒストリーが提示されることによって、モノの魅力は変化する。モノに付帯した記憶が、モノの見え方を変えるということであり、モノと縁起・伝説・昔話などの関係を考える上でも、重要な要素かもしれない。展示の引き出しが増えた。リーフレットあり(無料、ウェブサイトからもダウンロード可)。

MUSEUMの良さは、資料と直面することで、鑑賞者が能動的に情報を得られること。知ることの楽しさ。そして共有する
こと。

3月4日
和歌山市立博物館
特別陳列 歴史を語る道具たち
 (12月5日~3月4日)
近世~近代期のさまざまな道具を展観。小学校社会科の「昔のくらし」単元と対応。

3月17日
和歌山県立博物館(宣伝)
企画展 きのくにの仏画―仏の姿を守り伝える―
(3月17日~4月22日)
仏画とは、礼拝対象として仏・菩薩など仏教的な画題を描いた絵画のことです。各地に信仰の拠点がある和歌山県では優れた仏画が数多く残されてきました。そしてそれは、絹や紙といった脆弱な素材を用いられているにも関わらず、数百年の時を越えて今日まで守り伝えられてきたのです。この企画展では、仏画の優れた芸術性に接していただくとともに、絵画修復のあり方や、近代絵画と仏画の関係などにも視点を広げ、その魅力を紹介します。残されてきた仏画から、人々の信仰の蓄積とその背景にある歴史を感じ取っていただき、文化財を守ることの意味を改めて考えていただく機会となりましたら幸いです。図録なし。

3月18日
和歌山県立紀伊風土記の丘
企画展 山の暮らしとなりわい
(2月3日~3月21日)
和歌山の“山のむら”に残されてきた道具から、その生業・生活など暮らしのあり方を復元的に提示する。小学校社会科の「昔のくらし」単元と対応させ、教員・博物館学研究者と共同してクラス単位でのワークショップを開発している。解説シートあり。

3月20日
滋賀県立安土城考古博物館
企画展 甲賀郡の風土と遺宝
(1月20日~4月1日)
旧甲賀郡に残る宗教美術を展観。見所は大岡寺薬師如来坐像(重文)。平安前期彫刻らしい堂々たる造形。その他、玉桂寺阿弥陀如来立像(重文、鎌倉時代)、常楽寺絹本著色釈迦如来及び四天王像(重美、鎌倉時代)など。図録あり。

3月24日
香芝市二上山博物館
企画展 威奈真人―二上山と火葬の文化―
(2月3日~3月25日)
威奈大村骨蔵器を中心に、火葬墓に関する資料や墓誌の展示のほか、江戸時代骨蔵器発見とその後の経緯などを提示。木村蒹葭堂が「威奈大村墓誌銅器来由私記」を記して考証していたのを初めて知る。モノそのものの歴史と、付帯するエピソードとのコラボレーション。国宝威奈大村骨蔵器は複製展示。展示解説シートあり。

3月26日
智恩寺
所用で丹後へ。帰りがけにちょっと立ち寄る。

今年度訪問した館・寺院はのべ82ヶ所、鑑賞した展覧会は75本でした(うち和歌山県博分8本)。