平成15(2003)年度「展覧会・文化財を見てきました。」

4月26日
和歌山県立博物館
特別陳列 紀伊狩野の絵画─収蔵品を中心に─
(4月26日~6月8日)
紀伊藩に召し抱えられた狩野派を初めとするお抱え絵師の作品を展示。あわせて系譜書や関連史料も展示し、お抱え絵師のあり方を具体的に提示している。美術史的側面だけでは得にくい地方の絵師の具体像に、家譜などの分析も含めて迫る。狩野探幽松島・和歌浦・切戸図や、狩野興甫の唐人物図屏風など。図録あり(カラー36頁、800円)。関連論文が博物館紀要9号に3本掲載(500円)

今月は以上!

5月7日
奈良国立博物館
特別展 女性と仏教─いのりとほほえみ─
(4月15日~5月25日)
仏教の語り口を「女性」という視点から切り取ろうとする意欲的な試み。図録巻頭論文も意欲的。薬師寺東院堂観音菩薩立像が周囲からぐるりと見られ、感激。絵巻も優品が多数展示され、壮観。こういった展示品に関係するのか、新館の順路が普段と逆になっており、見やすい。図録あり(カラー・モノクロ278頁)

京都国立博物館
特別展 空海と高野山
(4月15日~5月25日)
巡回展のはじまり。圧倒的な質と量で、展示の苦労が随所で偲ばれる。来年の秋(10月9日~11月23日)には和歌山県博での展観で、武者震い。この後秋には愛知県美術館、来年春は東京国立博物館に巡回。何度見ても新しい発見があることでしょう。図録あり(カラー・モノクロ350頁)。

5月8日
五條文化博物館
特別展 天誅組前夜─激動に向かう人間模様─
(4月26日~6月1日)
天誅組の舞台となった五條市に残る関係資料を展示。天誅組参加者の人物像に迫ろうとする内容。資料は比較的地味なものが多いが、写真パネルなどを使うなどして工夫。森田節斎肖像画など。図録あり(単色22頁)。

5月10日
広川町男山焼会館
男山焼体験館竣工記念 男山焼会館特別展
(5月1日~5月11日)
江戸時代後期に紀伊藩の支援を受けて開窯された、南紀男山焼の窯場に建つ表題館での展観。南紀男山焼の様々
な製品の他、陶工光川亭仙馬(土屋政吉)の関係資料など。

5月17日
四日市市立博物館
特別展 仏像東漸─伊勢・伊賀、そして東へ─
(4月26日から6月1日)
三重県に残る優れた仏像彫刻約100点を一同に集めている。圧倒される質と量、近年まれに見る仏像展。三重県彫刻史の全体像が把握できる機会は、今後なかなかないだろう。図録も秀逸。担当者と県内関係者の情熱が昇華した展覧会。図録あり(カラー・単色230頁、1500円(安い!))

5月18日
歴史館いずみさの
企画展 私たちの文化財─泉佐野市内の指定文化財─
(4月26日~6月1日)
泉佐野市指定文化財を集めて展示。絵画・彫刻・工芸品・考古資料・古文書など様々なジャンルのものがある。地方色というよりは、中央との結びつきを示す資料が多く、見応え十分。図録なし。

貝塚市郷土資料展示室(貝塚市民図書館)
企画展1 阿弥陀如来の絵画─平成14年度貝塚市指定文化財にかかわって─
(5月17日~6月15日)
寺内町貝塚は、浄土真宗寺院が核となっており、真宗で重用視される阿弥陀如来の画像、方便法身像の優品が多く残されている。中世に遡る可能性のある方便法身像を複数展観。よい勉強になった。リーフレットあり。

吹田市立歴史博物館
特別展 山寺の聖たち─その信仰と物語─
(4月26日~6月1日)
日本仏教史の重要な一側面である「聖」(山林修行者)を、人物に視点をおいて紹介。実在したであろうそれら僧達は、
伝説のベールをまとって現在に伝わる。実際の人物像に迫る努力と、伝承過程を追求する努力、その両面が必要であ
ることを、展示を見ながら改めて考える。仙観内供像(鎌倉時代・重文)など。図録あり(カラー60頁)。

5月28日 
栗東歴史民俗博物館
テーマ展 近江の彫像─参詣道と金勝寺文化圏の諸像─
(5月17日~6月29日)
金勝寺を中核とする寺院郡を「金勝寺文化圏」と位置づけ、それら寺院に残る仏像を展示。平成7年に同館で行われた金勝寺展などの成果をもとにしながら、今回は寺院群を結ぶ道に着目し、金勝寺文化圏のあり方をより緻密に追求している。堅実。宇治市・宝寿寺菩薩形坐像は9世紀、浄土寺天部形立像は10世紀、ほか平安時代後期から鎌倉時代前期の仏像。リーフレットあり(単色8頁、100円)。

今月は春の特別展で、仏像もたくさん見ることができました。

6月1日
高野山霊宝館
企画展 高野山と天野社
特別陳列 高野山に伝わる古写経
(4月26日~7月13日)
高野山の鎮守・天野大社(丹生都比売神社)に関する資料を展示。重文3件を含む27件。興味深い内容。和歌山県立博物館でもこの秋、天野大社と天野地域に関する特別展を開催します。あわせてご観覧下さい。特別陳列のほうは、国宝のオンパレードで圧巻。宋版・高麗版などの版本もめずらしい。図録なし。

6月2日
唐招提寺
国宝毘廬遮那仏・千手観音像特別公開
現在修理中の同寺金堂所在、毘廬遮那仏・千手観音像が間近で拝観できる。八世紀末の丈六像が残されている奇跡を、あらためて実感。造形の大きさはさすが。緊張感、という言葉が浮かぶ。再訪を期す。X線写真も展示され、理解が深まる。修理報告書が待ち遠しいが、10年は先かなあ。リーフレットあり。入山600円。

6月7日
唐招提寺
国宝毘廬遮那仏・千手観音像特別公開
再来訪。座って見てみる。毘廬遮那仏の彫刻空間の大きさを再認識。頭部の立体構成は案外複雑。六大寺大観の解説文がようやく理解できた気分。

春日大社宝物殿
展覧会 若宮の秘宝と祭
(3月29日~6月29日)
国宝の神宝のうち、若宮関係の資料を展示。近年発見され、国宝に追加指定された毛抜形太刀と、その復元資料も展示。頭で考えている復元は、現品につられてついついおとなしめになりがちなので、実際にこういうものを見ると、想像の力を修正することができ貴重。白磁狛犬や舞楽面散手(定慶作)を見ることができ良かった。入館600円。

6月8日
新庄町歴史民俗資料館
企画展 忍海探訪
(4月26日~6月8日)
かつての「忍海郡」内にスポットをあて、特に古代における考古遺物を中心に展示。地光寺跡出土の鬼面文軒丸瓦は朝鮮半島とのつながりを強く感じる優品。何年か前の韓国・慶州博の瓦展を思い出す。唐招提寺金堂の隅木を支える鬼を見たばかりで、古代における鬼の表現がすんなりと理解できる(ような気になっただけ)。入館200円、図録あり(カラー28頁、500円)。

大阪歴史博物館
特集展示 摂河泉の寺社境内図と造営資料
(5月21日~7月7日)
所蔵資料のうち、寺社造営関係資料を中心に名所図会や境内図で寺社の景観を提示。古文書や歴史資料でも、絵が描かれていると使いやすい。昔の写真をたくさん使っている点も、単に参考図版に留めない意欲を感じた。キャプションがきれい。パンフレットあり(カラー8頁・無料)。

特別展 草創期の日本刀─反りのルーツを探る─
(5月28日~6月30日)
巡回展の二会場目。圧倒的な量の刀剣をあつめる。古代における日本刀の変遷を示そうとする試み。10世紀に比定される刀剣は一本のみ。密教法具でもこの時期に比定される資料が少ない。なぜ?。刀の製作工程を実物資料で提示しているのは親切。なかなかできない。それにしても刀剣の愛好家の人たちは、本当に熱心。図録あり(モノクロ140頁、2100円)。 

6月14日
和歌山県立博物館
コーナー展 きのくにのやきもの
(6月14日~7月21日)
このコーナー展では、江戸時代後期に紀州で盛んにやかれた”やきもの”の優品を、窯別に展示。御庭焼(紀伊徳川家が邸内で焼いたもの:偕楽園焼、清寧軒焼)・瑞芝焼・南紀高松焼・南紀男山焼・和歌山焼などの諸窯による、楽焼・青磁・交趾写などの優品をご覧下さい。博物館手作りの音声ガイドも用意しています(200円)。図録なし。

6月15日
国立民族学博物館
特別展 マンダラ展─チベット・ネパールの仏たち─
(3月13日~6月17日)
みんぱく所蔵のチベット・ネパール密教関係資料を展観。丸い展示室は担当者泣かせかも。いろんな世代の来館者にあふれていた。うらやましい。常設展は圧巻。各国の面はほんとに見ていて楽しい。ついついビデオテークで能面の制作過程を見てしまった。図録有り。

6月28日
高野山・南院 
秘仏不動明王立像公開
(6月28日のみ)
秘仏重要文化財不動明王立像(波切不動)の公開。暗くて見えにくいが、近くまで寄れるので、雰囲気は分かる。腰を右にひねり、左足を踏み出す動きが意外に大きい。右肘を張る動きも大きく、自然。

堺市立博物館
スポット展示 堺の仏教美術
(5月13日~7月 6日)
堺市内の仏教美術を展観。市博蔵・檀像観音菩薩立像は、やはりすごい像。側面や背面も鑑賞可能。うーん、とうなる。光明院蔵十一面観音立像(10c、市指定)も見応えあり。宝積院蔵絹本著色法起菩薩曼荼羅図は太輔法眼清賢の作。光明院蔵絹本著色虚空蔵菩薩蔵は天正8年(1580)竹之坊悪信の作。南都絵所等、南都関係の資料があるなんて、とまたもやうなる。

6月29日
大阪市立美術館
日本の彫刻 菩薩のすがた
(4月29日~6月29日)
美術館に寄託されている、関西一円の仏教美術29件が展示。大阪府島本町・若山神社の女神坐像(伝聖徳太子像、平安時代前期)は、造形はやや単純だが、圧巻のボリューム。側面観での頭部の奥行きなど、尋常ではない。ここまでのデフォルメは仏像には無い要素。

京都文化博物館
特別展 今日の人形芸術 想念の造形
(5月30日~6月29日)
江戸時代末期から現代までの人形を展観。前半は日本の伝統的な工芸技術、あるいはその応用による人形。着衣への現実感を重視するあたり、近世以来の日本人の嗜好は変わっていない。そういったものとは別に体躯の抽象化と具象化の方向もある(当然か)。抽象化でも具象化でも、そこに観者をひきつけるリアルさがあり、かつ人体のようで人体そのものの造形ではないという人形。そのまま仏像にあてはまる要素で、彫刻史研究の上で、人形も視野に入れておく必要を改めて思う。清水隆慶をふと思い出す。図録あり。

京都国立博物館
特別展 アート オブ スターウォーズ展
(6月24日~8月31日)
国立博で異例の内容。ただし、展示を見ると普段の特別展と全く同じにおいがする。仏像の代わりに等身大のダースベイダーやチューバッカが立ち並び、掛軸の代わりに映像のイメージペインティング、工芸資料の代わりにミレニアムファルコン号などの各種模型が並ぶ。これは博物館で展示を行う限界ということではない。京博が築いてきた展示形式をこわさず、「資料」として現代の風俗をありのままに見せるというあり方で、「こういう風に見てくれ」という演出を極力排し、見る側の裁量を大きく与えてくれるものであり、勉強になった。「THE ART OF」でなく、
「THE HISTORY OF」でもいいような・・。感想というのは勝手なものです。図録あり。

常設展 書跡室展示
(5月28日~6月29日)
書跡室には、運慶願経と仏師院吉関係文書六通、本朝大仏師正統系図が展示。奥が深い。京博恐るべし。

唐招提寺のインパクトは強かった。スターウォーズも。

7月12日
帯解寺(奈良市)
重要文化財 地蔵菩薩半跏像
妻の腹帯をもらいに帯解寺参拝。法要後、御尊顔をありがたく拝眉。鎌倉時代前期の穏健な作風(像高138.7㎝)。手先などは美術院製か(要確認・間違っていたら削除します)。背面・側面地付き部付近は修補多いか。じっくり拝観したいが、次の法要のため坊さん殺気立っているので退散。像の一般公開は3月1日~15日、11月1日から8日まで特別寺宝展を開催とのこと。

7月13日
東京国立博物館
特別展 鎌倉─禅の源流
(6月3日~7月13日)
建長寺創建750年記念と冠された展覧会。建長寺に伝わった諸資料の他、主に関東禅刹の優品を展示。禅に関する研究の蓄積を背景として、あえて禅とはなんぞやという問題設定をせずに、残された禅関係資料からその叡智を感じ取ってもらおうという試み。無学祖元像(円覚寺・重文)の造形、夢窓疎石像(瑞泉寺・重文)の顔貌表現は秀逸。神奈川・寿福寺の丈六宝冠釈迦像を展示するあたりは、さすが東博。大きいということはそれだけでインパクトがあります。
入館1300円、図録2400円。

特別陳列 川端家寄贈毘沙門天立像
(6月7日~7月13日)
川端龍子が収集し、自らの持仏堂に安置していた重文・毘沙門天立像が東博に寄贈されたことを記念しての特別陳列。前回出陳されたのは、平成3年京博の特別展『院政期の仏像』でしょうか。応保2年(1162)頃の造立。顔貌表現の先進性に特徴。奈良仏師としてのいかなる脈絡に乗せるか、答えはすぐに出るはずもないですが、研究テーマです。納入品も展示。理解が深まった(ような気になっただけかも…)。

文化庁購入文化財展 新たな国民のたから
(7月1日~8月10日)
平成13年度までに文化庁が購入した資料を中心に、教典と仏像・大名と調度というコーナー分けをして展示。鎌倉時代の四天王像や久安3年(1147)銘の阿弥陀如来坐像、国宝花厳経音義など、奈良時代の教典他多数。全国の博物館関係者の皆様、条件はあるようですが、これら資料の借用は充分に可能だそうですよ。リーフレットあり。

国立科学博物館
特別展 モノづくり日本 江戸大博覧会
(6月24日~8月31日)
博物学的な展示手法、とにかく所狭しと資料があふれています。典籍や絵画資料なども多い。流れで見るというよりは、テーマごとの興味に即した展示という感じでしょうか。からくり人形の実演を開催中でした。子供も多かったけど、子供向けということでもないようですね。マニアック、という感じです。入館1300円、図録2000円。

7月25日
和歌山県立近代美術館
特別展 近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展
(7月19日~8月31日)
東京文化財研究所・黒田記念室所蔵の黒田清輝の作品群を展示。「湖畔」(1897年)、「智・感・情」(1899年)の重要文化財2点も展示されています。油彩画・デッサン・写生帳や書簡など、幅広い展示資料。図録有り(カラー・モノクロ182頁)。

7月26日
和歌山県立博物館
コーナー展 文化財ってなんだろう?
(7月26日~8月31日)
文化財の大系について、分類別に資料を展示し、そのあり方をご覧頂きます。重要文化財十一面観音立像(広利寺)、和歌山県指定文化財・縹糸威胴丸具足(紀州東照宮)ほか、新出・元亀2年銘朱漆塗丸盆(個人蔵)など。館蔵品・紀州本川中島合戦図屏風も久々の出陳。入館260円、図録なし。 

和歌山市立博物館
特別展 城下町和歌山の本屋さんー「紀伊国名所図会」を中心にー
(7月19日~8月24日)
江戸時代における和歌山城下の出版業を取り上げ、近世の書肆のあり方を丁寧に解説。また「紀伊国名所図会」とその周辺を資料から詳細に説明。網羅的な資料収集には頭が下がります。重要文化財・駿河版銅活字、和歌山市指定文化財紀伊国名所図会版木ほか。入館500円、図録有り(カラー・モノクロ108頁、800円)。

7月28日
高野山霊宝館
大宝蔵展 弘法大師入唐1200年記念 伽藍御影堂と弘法大師信仰
(7月20日~9月10日)
高野山壇上伽藍の御影堂に奉納された品々や、弘法大師ゆかりの宝物を展観。鎌倉時代の御影堂御物目録(国宝続宝簡集第十二)を出陳して、展示の位置づけを明確にしている。国宝・聾瞽指帰(弘法大師筆)や、国宝・諸尊仏龕(唐代)、国宝・御影堂御物目録などなど。展示替えで国宝・善女竜王像など。入館600円、図録あり(カラー・モノクロ84
頁、2000円)。

あぁ、川端家旧蔵の毘沙門天…。

8月4日
貝塚市郷土資料展示室(貝塚市民図書館内)
企画展 発掘された貝塚寺内
(7月19日~8月31日)
寺内町貝塚は、浄土真宗寺院願泉寺を中心に成立した都市。本展では町域内で行われた10年間の発掘調査の成果を展観。そんなに大きくないスペースながら、中世から近世末期までの考古資料約250点を展示。精製した塩の流通に使用した焼塩壺や和泉音羽焼など、地域性の高い資料は興味深い。リーフレットあり。入館無料、火曜休館、平日7時30分まで。

8月9日
滋賀県立琵琶湖文化館
企画展 近江の文化財
小企画展示 平安時代の彫像展
(7月10日~8月31日)
琵琶湖文化館の館蔵・寄託資料の中から、宗教に関する文化財を展観。栗東市・金勝寺僧形八幡神像、女神像は優れた神像彫刻。草津市・志那神社普賢菩薩坐像は建武元年(1334)、法印性慶の作(思いもかけない像をふと見ることができると、とてもうれしい)。その他指定物件がずらりと並ぶ壮観な内容。勉強できた。リーフレットあり(単色・12葉)。「やきものと絵画」を併設。

彦根城博物館
テーマ展 荒神山と周辺地域の暮らし
(7月25日~8月20日)
湖東平野の琵琶湖岸、古代からの聖地である荒神山を中心に営まれた人々の歴史を展観。なんといっても荒神山内の奥山寺(荒神山神社)から伝来したという僧形神像。僧形でありながら胸前で拱手し笏をとる形を見せており、初期の神像のあり方を考える上で欠かすことができない。実寸としては小さな像であるが、造形は大きい。その他考古資料や近世文書など。図録あり(単色26頁、300円)。

8月11日
壺井栄文学館(香川県小豆郡内海町)
マルキン醤油記念館(    〃    )
前者は壺井栄直筆原稿など。後者は登録文化財の醤油蔵を資料館に。醤油ソフトクリームを食す。

8月12日
長勝寺(香川県小豆郡池田町)
重要文化財 伝池田八幡宮本地仏像
長勝寺には、すぐ隣の亀山八幡宮から廃仏毀釈の時に移されたという神像3躯が安置されている。それぞれ如来形・菩薩形・僧形をして拱手する。八幡三神としては他に類例のない組み合わせで、実際の神名や造立のありかたは不明。平安時代後期だが、制作年代も要検討。側面観が厚い造形。神像研究の上で重要な作例であると再認識。そばにある有形民俗文化財「池田の桟敷」は、八幡神社の御遊所で芸能が行われたところ。階段状に石垣が組まれほんとうにすごい景色(写真)。だが、周辺が現在進行形で大規模に工事されておりえらいことになっていた。どうなっているのかと、心配。

小豆島民俗資料館
民俗資料を中心に展観。農村歌舞伎の衣装は豪華絢爛。島内には重要有形民俗文化財に指定される農村歌舞伎の舞台が2件あり、未指定のものもある。

兵庫県立歴史博物館
企画展 武蔵ものがたり
(7月19日~9月15日)
館蔵資料を中心に、写真パネルなども使用して宮本武蔵とその子孫などを紹介。「ものがたり」としての武蔵については、近代の読み物や現代の漫画も展示資料としている。図録なし。

コーナー展示 「老い」の図像─古美術にみる老いのかたち─
(7月15日~9月21日)
老相をキーワードに絵画資料を展示。切り口は斬新。今滝寺・八幡垂迹曼荼羅は室町時代。常設展示の一端だが、ケース内に黄緑色の背景を貼って区別化。なるほど。

龍野市立歴史文化資料館
企画展 宮本武蔵と龍野─円光寺多田氏と武蔵─
(4月25日~10月5日)
武蔵からその剣術円明流を伝授された、円光寺第4代当主多田祐恵の弟頼祐の子孫に伝えられた資料から、武蔵と龍野の関わりを展観。図録なし、A3二つ折り資料。常設展示「龍野の歴史」には飛鳥時代の寺院址出土の瓦から近世資料まで。小金銅仏も。

8月21日
熊野古道なかへち美術館
夏休み展 旅する画家たち
(7月18日~9月10日)
出張の帰りにちょっと立ち寄る。熊野古道のまっただ中、中辺路町出身の画家野長瀬晩花と渡瀬凌雲を中心に展観。晩花の作風の幅におどろく。よく知らないのですが、随分日本画の様々なジャンルを勉強していたのではないかなあ、と思った次第。凌雲は南画系。ミシシッピ川源流を描いた「雪原」(1976)はぐっときます(「ぐっ」で済ますのはよくないなあ…)。

8月23日
大阪府立弥生文化博物館
夏季企画展 世界の貨幣展「金は天下のまわりもの」
(7月19日~9月7日)
かつて大阪府立大阪博物場が収集した世界の貨幣(府指定文化財)を、「どさっ」と展示。きわめて多岐にわたる貨幣を、微に入り細に入り紹介しており勉強になった。図録(カラー16頁・200円)に使っている写真は、ものすごくきれい。

堺市博物館
企画展 江戸時代後期の堺商人
(8月8日~9月28日)
江戸時代後期に米穀・醸造業を営んだ堺商人の姿を、絵画資料や古文書から提示しようとするもの。九州から紀伊半島までの航路と主要都市・城を一双の屏風にあらわした資料は、とってもおもしろい。堺市博のコレクションは本当にすばらしい内容です。リーフレット(A4・1枚)あり。

8月24日
園部文化博物館
 夏季特別展 発掘された日本列島2003
(8月19日~9月15日)
全国7箇所を巡回する上記巡回展、関西では京都府園部町の文化博物館が会場となります。奈良県達磨寺の水晶製五輪塔型舎利容器他は必見。日本の中世仏教史を考える上で仏舎利信仰は重要な要素であり、「釈迦の骨」であることをリアルに感じ(実際は石でしょうが…)歓喜した人々の心に共感できたような気分。だって、水晶の五輪塔に入れて陶製の合子に入れて石製五輪塔に入れて地面に埋めて上にお堂立てるんだもん。新しい博物館ですので、関西圏の方は一度立ち寄って見てはいかがですか。園部は自然のきれいないいところです。図録あり(1600円)

亀岡市文化資料館
発掘された日本列島2003地域展 発掘された京都
(8月9日~9月21日)
発掘された日本列島2003の地域展の位置付けで、京都府下の近年の発掘調査報告展を開催。峰山町の巨大方墳など、京都府では重要遺跡の発見が相次いでいることを再確認。キャプションは、AとBの対話形式で解説を行う画期的な方法(図録がこの形式で、展示にそのまま活用したようです)。図録あり(モノクロ24頁、400円)

清水寺
奥の院本尊(二十七面千手観音)御開帳
(3月7日~12月7日)
平成13年に存在が確認され、即平成14年に重文指定された清水寺奥の院本尊、千手観音坐像の特別公開。現在は本堂に遷座されています。本面の脇左右に二面がつき、頭上に二十四面をいただく図像的にきわめて珍しい像です。宝鉢手が阿弥陀の定印になっているのも特徴的。鎌倉初期慶派仏師の作。快慶周辺という見解は、素直に理解されます。脇士の毘沙門天立像(鎌倉後期)、地蔵菩薩立像(平安後期)も開帳。もっとそばで拝観できたら…。贅沢は言うまい。次回公開の有無も不明であり、この機会をお見逃しなく。小冊子あり(カラー24頁、100円)

今月は「神像」月間でした。よいインスピレーションを得ることができました。

9月6日
和歌山県立博物館
 コーナー展 きのくにの文化財2003
 (9月6日~10月5日)
県立博物館に寄託されている様々な資料の中から、「きのくにの宗教美術」、「芦雪と若冲」、「古教典の美」、「紀伊徳川家の奉納品」の四つのコーナーに分けて、26件40点を展観。見応えのある作品がいっぱいです。入館260円、図録なし。音声ガイド200円。

9月7日
奈良国立博物館
 親と子のギャラリー 弥勒如来にささげる─お経のタイムカプセル─
 (9月2日~10月5日)
充実した奈良博の経塚関係遺物に関するコレクションを、子どもにわかりやすく見せる試み。「ごあいさつ」で提示された本展のコンセプト、昔の人も未来へ大事なものを残そうと努力していたから、私たちもかけがえのないものを未来へ伝えていこう、という内容に共感。図録有り(カラー36頁、800円)。

特別陳列 達磨寺の美術
(9月2日~10月5日)
奈良県北葛城郡王寺町の達磨寺に伝わる仏像・仏画を展観。聖徳太子像は建治3年(1277)院恵・院道作。千手観音坐像は室町時代、40本の真手・脇手、500本以上の小脇手には全て玉眼が嵌入。達磨大師坐像は永享2年(1430)椿井仏師集慶の作、画僧周文彩色。奈良仏師と周文の組み合わせは、蔭涼軒日録の京都・雲居寺大仏造像記事においても見られる。形式化したところもあるけれど、この達磨像の表現は同時代性においても高いレベルにある。しかし椿井仏師の研究は、昭和40年代以降ほとんど進んでいないなあ。図録有り(カラー12頁、200円)。

特集展示 当麻曼荼羅をめぐって
(9月2日~10月5日)
表題通り、当麻曼荼羅を巡る様々な資料を展観。当麻寺塔中念仏院の印紙当麻曼荼羅、奈良時代当初の中尊像の作風を類推させるもの。常設展示もこのようにテーマ性を持たせると、ストーリーを感じられて楽しい。常設では金心寺・絹本着色十一面観音像(重文)は鎌倉期の長谷寺式十一面観音像。見られてよかった。

9月16日
福井県立若狭歴史民俗資料館
特別展 若狭路千年─水と炎と千年の名宝─
(9月13日~10月13日)
福井県が行っている「若狭路博2003」の関連事業。中山寺馬頭観音坐像(重文・鎌倉時代)、松尾寺阿弥陀如来坐像(重文・鎌倉時代・快慶作)、高成寺千手観音立像(市指定・平安時代初期(9C))のほか、仏像・仏画も多数出陳。宝治2年(1248)銘銅造薬師如来立像(重文)は、銘記中「若狭国一宮本地」とある。かなり重要な像と認識。会期中無休。図録有り(カラー78頁、1500円)。

羽賀寺
本尊十一面観音立像・長寛3年銘千住観音立像・治承2年銘毘沙門天立像・地蔵菩薩坐像ほか。本尊像は言葉も出ない。8世紀末~9世紀前半。うっとり。毘沙門天像、治承期の一般的な像造様式示す、貴重な基準作例。じっとりと拝観。400円。

多田寺
本尊薬師如来立像・十一面観音立像・菩薩立像。幕でよく見えません。神護寺像との類似あり。脇壇、3躯の阿弥陀如来坐像のうち、大きな一躯は穏健な作風ながら玉眼嵌入。鎌倉初期。400円。

圓照寺
胎蔵界大日如来坐像(重文・丈六)。平安時代後期の典型的作風。でかい。400円。

妙楽寺
脇面がつく千手観音立像(重文・平安時代前期)、観音菩薩立像(県指定・平安時代前期)、四天王像は未指定ながら、平安時代後期かと。本堂は鎌倉期。いいお寺ですな。400円。

神宮寺
本尊薬師如来坐像(鎌倉末か)、十二神将像(同)、他多数。疲れてきた。本堂、室町末期とはすぐに見えない外観。もっと古いと思ってた。お水送りの水、井戸でしっかりと飲む。400円。

明通寺
本尊薬師如来坐像(平安時代後期、やや男性的な風貌)、十二神将像。降三世明王立像・深沙大将立像(共に平安時代後期)は2mを超える巨像。本堂・三重塔は鎌倉中~後期、国宝。400円。

小浜のお寺、3度目ぐらいですが、心新たにご拝観できました。資料館も含めると、ずいぶんな数の御仏像を拝観したものです。小浜はほんと、フィールドミュージアムです。

9月18日
和歌山県立紀伊風土記の丘資料館
第13回和歌山県文化財センター速報展 紀州の歩み
(7月1日~9月18日)
和歌山県文化財センターの平成14年度事業の成果を展示。考古では南部町の中世館跡・高田土居城や、南部川村徳蔵地区遺跡、日置川町・安宅本城跡、和歌山市・山東22号古墳の金製品など。建造物では重文・旧中筋家住宅など。襖の展示はおもしろいし、めずらしい。

9月21日
稲沢市荻須記念美術館
稲沢市市制45周年記念 文化財修復展
(9月14日~10月9日)
文化財の宝庫・愛知県稲沢市内に残る仏教美術で、近年修復したものを展示。萬徳寺大日如来坐像(県指定)は鎌倉時代、13世紀後半の堅実な作例。長暦寺・檀像大日如来坐像は鎌倉時代後期~南北朝。性海寺木製漆塗彩色金銅装五輪塔は弘安5年(1282)、各層が色分けされる。火輪部分の朱漆はきれい。その他鎌倉~室町の絵画。絵画資料は全て露出、柵なし(!)。展示資料全22件。図録あり、モノクロ40頁、無料配布!。

9月22日
橘寺聖倉殿
特別公開
 (9月11日~11月24日)
数年前に建てられた、橘寺収蔵庫の特別公開。重文・日羅立像は平安時代初期9世紀前半。肉身のボリュームと稜線の深さ・鋭さ。すごいお像です。その他重文・地蔵菩薩立像(平安時代前期)、重文・聖徳太子絵伝など。寺内にはほかに、重文・如意輪観音坐像(六臂・平安時代後期)、聖徳太子坐像(椿井仏師作・室町時代)なども。橘寺境内は、小学校の時の通学路でした。

いよいよ秋の特別展シーズン突入!

10月3日
和歌山城天守閣
 絵葉書で見る名所 和歌山いまむかし
(9月20日~10月31日)
絵葉書からかつての和歌山の景観をみる。のぞきケース3個分。高野山上の分は紀伊国名所図会に載せられる鳥瞰図と対応させている。

10月5日
市立五條文化博物館
 特別展 そして五條から維新がはじまった─天誅組の変140年─
(9月27日~11月9日)
幕末の倒幕運動の先駆け、天誅組に関する展覧会。中山忠光・吉村虎太郎など、天誅組構成員の関係資料や文書など。天誅組に関係の深い場所をパネルで紹介。図録あり(34頁・700円)。

新庄町歴史民俗資料館
特別展 戦乱の世をゆく大和武士
(10月4日~11月16日)
室町時代~戦国時代の大和武士をテーマとした展示。大和は興福寺の一国支配であったため、国内の土豪達は、衆徒・国民といった、興福寺の僧侶や春日社の神人という身分に位置付けられていた。こういったシステムなど、大和の国の中世のあり方を見せてくれる博物館は、奈良県では他にないので、とてもありがたい。県立の歴史博物館が必要だと思う・・。宿院仏師作の広陵町・大福寺長谷寺式十一面観音の脇侍・難陀竜王像(永禄3・1560)が出陳!!!。う、うれしい。図録あり(44頁・700円)。

長谷寺宗宝蔵
秋期特別寺宝展
(10月5日~12月7日)
恒例の長谷寺宗宝蔵の一般公開。李朝の大般若経仏(根来寺伝来)、国宝法華経のほか、重文・銅造十一面観音立像(鎌倉)、重文・地蔵菩薩立像(平安)、重文不動明王立像(平安)など。清水隆慶の如意輪観音坐像や、宿院仏師源三郎ら作の大山王・司録像(天文13年)なども。

10月11日
和歌山県立博物館
特別展 天野の歴史と芸能─丹生都比売神社と天野の名宝─
(10月11日~11月24日)
高野山の鎮守社、丹生都比売神社(天野社)とその立地する天野地域に関する総合的な展覧会。地域の悉皆調査の成果と、各地に散逸した天野由来の名宝の数々を一同に介して展観。見所満載です。図録あり(208頁(カラー180頁)、1900円。『和歌山県立博物館研究紀要』も天野特集号として同時発行(124頁、500円)。

10月13日
大阪府立狭山池博物館
特別展 行基の構築と救済
(10月1日~11月30日)
行基の行ったさまざまな開発・構築事業を紹介。土塔出土文字瓦など、土塔の詳細を展示した部分、興味深い。兵庫・鶴林寺行基菩薩坐像は天文3年(1534)造立。中世末期の高僧像の造形把握の上で、おもしろい事例。図録あり(カラー78頁、710円)。

10月14日
奈良文化財研究所・飛鳥資料館
特別展 古年輪
(10月7日~11月24日)
奈良文化財研究所が研究を進めてきた、年輪年代法にかんする展覧会。研究方法を紹介するという展覧会は珍しい。ということで最初の展示資料は「アメリカ製年輪読みとり装置」です。ヒノキを輪切りにした標本が露出で展示されているので、室内にヒノキのよい香りが…。紀元前912年から現在までのヒノキの暦年標準パターンをプリントアウトしたものが、壁に10メートル近く張り出されており圧巻。ただ、グラフの読み方はよく分かりませんでした…。図録あり(38頁・1000円)。

談山神社
社宝特別展
(10月1日~11月30日)
恒例の社宝展。本殿拝殿に多武峰縁起絵巻(江戸時代)、多武峰曼荼羅(藤原鎌足像・室町時代)二幅、他、鎌倉~江戸の刀剣類など。神殿拝所(旧妙楽寺講堂・重文)に伝狩野永納筆十六羅漢壁画、木像狛犬(鎌倉時代か)。かつての多武峰の文化財と景観を復元する研究、やるべきだと思う…。

東大寺
東大寺総供養800年記念展観 東大寺の鎌倉復興
(10月12日~19日)
境内の金鐘会館(旧東大寺学園内)で開催している特別展示。重源の事績と思想に注目しながら資料を展示。南大門金剛力士像納入品のうち、定覚・湛慶の名が記された宝篋印陀羅尼経や、「西□之/大仏師法眼和尚□□□仏」(運慶と快慶か)とかかれた部分が展示。灌頂堂四天王像は11世紀と12世紀の二具の二天像がセットとなったもの。ほか元久2年(1205)重源上人勧進状なども。リーフレットあり。無料。展示期間が短いのでご注意を。情報。

法隆寺
世界文化遺産登録十周年記念 法隆寺秘宝展 聖徳太子信仰の寺
(9月11日~11月30日)
大宝蔵殿での特別展観。伝観勒僧正像(重文・平安前期)、漆塗螺鈿装卓(国宝)、舞楽面、獅子頭、行道面、蓮池図屏風、ほか多数(118件)。伝法堂東の間の阿弥陀三尊像(奈良時代・重文)は説法印の阿弥陀と両脇士。前後左右から拝観できる。緊張感ある造形。すごい。国宝・獅子狩文錦(唐代)など染織品は毎日13:00~15:00の間のみ展示。間にあいませんでした。残念。伽藍の諸仏や大宝蔵院(新しい展示施設)も拝観。何度見ても新鮮。あぁ九面観音。うぅ大御輪寺旧蔵地蔵菩薩。お腹いっぱい。

10月17日
大津歴史博物館
企画展 比叡山麓の仏像
(10月4日~11月16日)
大津市歴博が進めてきた、比叡山諸堂を始め、坂本里坊・葛川など延暦寺と密接な関わりを持つ地域に残る仏教美術の調査成果をもとに展示が構成される。52躯の仏像は、新発見資料のオンパレードであり、比叡山及びその周辺の仏像彫刻のあり方を考える上で見逃せないものばかりです。この機会をお見逃しなく。図録あり(80頁、500円!)、研究紀要9・10号の二冊は展覧会の前提となる、里坊等の調査報告書ですので、こちらもお求め下さい。再訪予定。

滋賀県立琵琶湖文化館
 特別展 釈迦の美術
(10月11日~11月16日)
釈迦をテーマに、大きく「仏伝」「涅槃図」「舎利信仰」にテーマを分けて展観。仏像では滋賀県内の清涼寺式釈迦如来像4躯が出陳。圧巻は涅槃図。石山寺の重文・涅槃図(ほんと、いい涅槃図です)を始め、中世・近世を含め、なんと23幅の涅槃図が展観されています。涅槃図にご興味のある方、研究されている方、絶対見逃せません。南北朝期頃の志賀町・上品寺涅槃図は未指定ながら見逃せない資料。重文・峰定寺釈迦如来立像と納入品も展示。舎利塔も見応えのある資料ばかりです。図録あり(126頁、1400円)。

栗東歴史民俗博物館
特別展 永源寺の歴史と美術
(10月4日~11月3日)
神崎郡永源寺町の臨済宗永源寺派本山・永源寺の展覧会。重文・永源寺文書の古文書・墨蹟を軸として永源寺の歴史を詳細に解説し、永源寺及び関係諸寺の美術資料も展示。永源寺開山寂室元光の像、永源寺所蔵の絹本著色のもののほか、寂室の師・重文約翁徳倹像(絹本著色)はすぐれた頂像。末寺仏心寺の県指定聖観音立像は貞応元年(1222)近江講師経円作。図録あり(112頁・1500円)。

京都国立博物館
 特別展 金色のかざり─金属工芸にみる日本美─
(10月11日~11月24日)
日本の工芸を「かざる」という観点から再配置し、その美意識の変遷を提示する壮大な内容。担当者の持つ工芸史観の堅実さと視野の広さに感服。私も頑張ろう。図録あり(412頁!!、2700円)。図録の装丁やデザインきれい。カバー付きです。ため息がでる…。単館でこの充実ぶり、国立博の底力、久々に見ました。

 修理完成記念 財賀寺の宝冠阿弥陀坐像
(10月8日~10月26日)
美術院で修理された、愛知県指定文化財・財賀寺の宝冠阿弥陀如来坐像を特別陳列。12世紀後半の宝冠阿弥陀で、面観での背中の抑揚ある造形など、鎌倉時代の新様式に近づいた表現が見られる。制作に携わった仏師の問題も含め、重要な作例。なお、京博本館絵画室では、高山寺・国宝仏眼仏母像(明恵墨書あり)、一遍聖絵が展示。贅沢。

10月18日
清水町立ふるさと創生館
幻の寺院 慈恩寺展
(?~11月30日)
和歌山県有田郡清水町法福寺の仏像群はかつて同町域内にあった慈恩寺から伝来したといわれる。法福寺仏像群のうち、10世紀の観音菩薩・帝釈天・地蔵菩薩、11世紀地蔵菩薩(右手で右の袖をつかむ)などを展示。ほか、県指定・二川丹生大明神社大般若経のうち寛治四年(1090)銘のものなど。土・日のみ開館。

10月27日
大谷女子大学博物館
特別展 慈雲尊者200年遠忌 高貴寺展
(10月22日~12月12日)
大阪府・河南町の高貴寺に残る文化財を展示。江戸時代に慈雲尊者が入寺したところであり、慈雲関係資料に焦点をあてる。慈雲の墨蹟は味がある。三鈷杵は平安時代、五鈷鈴は鎌倉時代で「松虫」の雅名を持つ。重要文化財・金銅五鈷三昧耶鈴は11月4日~11月24日まで(のはず)。リーフレットあり(「博物館だより」・8頁)。

正木美術館
館蔵優品展 墨のいろどり
(前期 10月4日~10月28日・後期10月30日~11月30日)
正木美術館の所蔵作品展。元時代・瀟湘雨意図(方従義筆、瑞渓周鳳賛)、騎獅文殊図(虎関師錬賛、重文、南北朝)など。等春筆・瀟湘八景図(室町時代)は佳品。7世紀の金銅菩薩半跏像も展示。

10月29日
和歌山市立博物館
特別展 雑賀の兜をさぐるー雑賀鉢の系譜ー
(10月25日~11月24日)
いわゆる「雑賀鉢」とよばれる兜について、その実態を探ろうとする試み。「雑賀鉢」とは特定の形状のものを示すものではなく、紀州・雑賀で作られたものとするが、それでもある程度の統一的な特徴は示す。異国風な本雑賀と、置手拭形式のもの。兜が数十頭ならぶ展示は壮観。図録あり(カラー88頁、800円)。

10月31日
石川県立博物館
特別展 能登 仏像紀行
(9月27日~11月9日)
石川県・能登地方の仏像51件(約70点)を展示。重文・豊財院十一面観音(10~11C)など国指定物件も。七尾市妙観院の阿弥陀如来坐像(市指定)は、13C前半・慶派の堅実な作風。基本的には地方様式が顕著な作品群。平安前期のものも数件あり。作品解説をつけない方針のようで、図録を見ながらと思ったのですが、残念ながら図録完売とのことで入手できず。増刷の予定は全くないもよう。いつの日か古本で出てくるのでしょうか…。

石川県立美術館
特別展 畠山記念館名品展─茶道美術を中心に─
(10月4日~11月3日)
畠山美術館のコレクションを展示。藤原佐理・離洛帖や唐物茶入・星肩衝、古瀬戸肩衝茶入・円乗坊、井戸茶碗・細川などの大名物をはじめ、選りすぐりの優品ばかり。秋月等観の西湖図(重文・弘治9(1496))の比較用に、狩野興以の西湖図(石川県美蔵)あり。このほか、茶道具は紀州家がらみのものが、けっこうあるもんだと実感。図録あり(110頁、2400円)。

特別展シーズンは続きます。まだまだ見るべきものが残ってる…。

11月1日
愛知県立美術館
特別展 弘法大師入唐1200年記念 空海と高野山
(10月10日~11月24日)
標題の巡回展の二会場目。八大童子など彫刻作品の多くは露出展示。来春は東京国立博物館、来秋は和歌山県立博物館です。和歌山の時にも、是非足をお運び下さい。図録あり(350頁、2400円)。

安城市歴史博物館
企画展 よみがえる上宮寺の宝物
(11月1日~12月14日)
安城市の上宮寺は、本願寺教団の拠点寺院として重要な資料を多く有していたが、昭和63年の火災で伽藍とともに多くの文化財も焼失・焼損した。本展では、火災の後に修復された古文書や、焼失を免れた資料から、上宮寺の歴史を展観する。それにしても、鎌倉期の孝養太子像や、南北朝期の聖徳太子絵伝、文明18年(1486)銘の親鸞聖人絵伝など、失われたものの多さと重要性に愕然とする。防災と防犯について改めて考えた。図録あり(72頁、700円)。

岡崎市美術博物館
企画展 天台のほとけ─その美術と三河の歴史─
(10月25日~12月24日)
三河地方の天台系寺院の文化財を中心に展観。近年の愛知県史編纂の過程で見出されている多くの新出・新見解の資料も集めている。滝山寺の木造・最澄像は平安後期の可能性。同寺十二神将像(鎌倉時代)は諧謔味ある表情に特徴。塑像の真福寺仏頭(白鳳~天平)や滝山寺帝釈天像(鎌倉初期・重文)などのほか、仏画・工芸・経典なども。見応えのある展示。図録あり(112頁、1200円)。なお、岡崎市美術博物館、デザインとコンセプトのとても優れた建物です。あー、日本ってほんと豊かなんだなあ、と思わせる「場」を構築しています。是非訪れてみて下さい。

11月3日
園部文化博物館
特別展 園部の仏教文化─街道と古寺紀行─
(10月4日~11月9日)
園部町内の寺院・神社に残る様々な資料を展示。善福寺阿弥陀如来坐像は平安時代後期の半丈六像。摩気神社の十一面観音立像は鎌倉時代の等身像。最福寺吉野山図屏風は江戸時代初期。街道を軸として、中世~近世の資料から地域の歴史を具体的に追究していこうとする試み。こういった成果の蓄積から、地域史が再構築されていくのでしょう。図録あり(56頁、700円)。

東寺宝物館
展覧会 弘法大師空海と密教の伝来─虚しく往きて、実ちて帰る─
(9月20日~11月25日)
空海請来品を中心に展観。恵果印信(唐代か)、金銅密教法具(9C、国宝)、弘法大師行状絵(南北朝時代、重文)、真言七祖像のうち恵果像(唐代、国宝)など。空海請来の舎利に注目した展示は興味深い。食堂内では五重塔のCG映像を流しているが、それより焼損した四天王像を間近で拝観でき、特にそのうちの二体は側面・背面も見られるのは貴重。当初像の面影は充分にわかる。

六波羅蜜寺
空也上人生誕1100年記念 秘仏本尊十一面観音立像開帳
(11月1日~11月30日)
六波羅蜜寺本尊・十一面観音立像(国宝)の特別開帳。厨子内の本尊像はライトアップされてしっかりと拝観できる(膝から下は厨子内のため見えない)。天暦5年(951)の造像。彫刻様式が和様化する転換期の作例だか、その体形はなお古様を残す。伝運慶作地蔵菩薩坐像(重文、12C末)、地蔵菩薩立像(重文、11C半ば)、空也上人像(重文、13C)なども拝観。

11月5日
和歌山県立近代美術館
創設四十周年記念 和歌山県文化表彰の歩み展
(11月1日~11月24日)
和歌山県文化表彰受賞者の作品68件を展示。川口軌外・渡瀬陵雲・浜口陽三・稗田一穂など。

11月8日
三井寺
 智証大師入唐求法1150年記念 三井寺宝物展
 (10月18日~11月16日)
三井寺金堂に仏像を中心とする寺宝を展観。特に内陣には吉祥天立像(重文・鎌倉前期)、不動明王坐像(重文、長和3年)、千手観音立像(重文・平安時代前期)、智証大師坐像(重文・平安時代)が安置。入山500円、内陣拝観志納金100円。

佐川美術館
知られざる唐津─二彩・単色釉・三島手─
(11月2日~12月15日)
昨年根津美術館で開かれた展覧会の再登場。17世紀後半頃に全盛となった唐津焼を展示。おおらかな文様や施釉が、「民芸」として評価されてきたが、近年の発掘成果をふまえて成立背景にも言及。図録あり(142頁、2000円)。

11月9日
大津歴史博物館
ミニ企画展 行丸と日吉社復興
信長の焼き討ち以後、日吉社の復興過程を宮司・祝部行丸らにスポットを当てて展観。室町期の懸仏や古文書など。

企画展 比叡山麓の仏像
(10月4日~11月16日)
再訪。堪能。

11月17日
岩出町民俗資料館
企画展 根来寺と紀州徳川家寄進の能面
 (11月14日~11月23日)
根来寺に所蔵される、紀伊徳川家八代藩主徳川重倫寄進の能面159面のうち、34面を展示。中世末期から近世期における著名な面打の作品も多数含まれる。能面の特徴の一つは、完成された様式美にあり。でも、流派や写しの系統など、その全体像の把握は片手間では難しい…。勉強勉強。

11月23日
大阪狭山市立郷土資料館
特別展 融通念仏の道─中高野街道と狭山─
(10月18日~11月24日)
大阪狭山市内には、融通念仏の大本山・大阪市平野区の大念佛寺から高野山にいたる中高野街道がとおる。この融通念仏宗に着目し関連資料を展示。融通念仏の宗祖・良忍像(大念仏寺)は室町時代の肖像画。中興の祖・法明に関わる縁起・融通大念仏亀鐘縁起絵巻は室町時代の優れた絵巻。図録あり(48頁・800円)。

太子町立竹内街道歴史資料館
企画展 最古の官道 竹内街道と間道の軋轢─松尾芭蕉と覚峰を巡って─
(9月20日~12月7日)
二上山の脇を通る竹内街道をテーマに、近世における間道と本道を巡る宿場町の対立を機軸として展観。社本神社の隼人石(石に古代中国・朝鮮半島風の獣頭人身像が彫られる)は江戸時代後期に僧覚峰が建立したとの見解。へぇー。図録あり(48頁・1000円)。

香芝市二上山博物館
特別展 地獄と極楽─恵心僧都源信と浄土美術の展開─
(10月11日~12月7日)
浄土教の基礎を築き、往生要集を著した恵心僧都源信は、奈良県香芝市の出身とされる。これにちなんで地獄・極楽に関わる資料を展観。高尾寺役行者像(県指定)は元応元年(1319)作。愛知県引佐町の木食明満作十王像のほか、屏風仕立てとなっている当麻寺中坊の十王図屏風は南北朝期の優品。騒いでいた子どもがリアルな地獄絵図をみて静かになっていた。効果抜群。図録あり(52頁・800円)。

大阪府立近つ飛鳥博物館
企画展 壁画古墳の流れ─高松塚とキトラ─
(10月7日~12月7日)
現在保存施設が建設中の明日香村・キトラ古墳は、国内では二例目の壁画古墳。中国や高句麗の壁画写真などと比較しながら、日本の壁画古墳を位置付ける。モノ資料は少ないが、キトラ古墳のほぼ等寸の石室模型を作成。関大博物館の高松塚石室原寸大レプリカも。図録あり(86頁・1000円)。図録には網干善教・河上邦彦・花谷浩の各氏の論文もあり。

11月24日
和歌山県立紀伊風土記の丘
 特別展 紀州・移動する職人たち─鍛冶・木地・炭焼き─
 (9月28日~11月24日)
紀州の内外で活動を行った職人達に着目して展観。鍛冶職人は京都や大阪にも盛んに移動し、活動していた。木地師たちは江戸時代後期に黒江(海南市)が漆器産業の一大拠点になると、そこに出荷しやすいところに定着した。そういえば、今でも黒江には国内最大級の漆問屋があるとか。炭焼きは、材料のカシが豊富な紀南地方で盛んであった。高知にもその技術は伝播したそうです。モノを作った職人(あるいは工人)の存在を常に視野に入れておかなければ、モノを研究対象とする学問はなりたたない。主役はヒトです。勉強になった。図録あり(400円)。

11月30日
四日市市立博物館
開館10周年記念特別展 ふるさと文化の源流 四日市の文化財
(11月1日~12月7日)
四日市市域の様々な種類の文化財を展観。仏像・仏画も多数。観音寺地蔵菩薩坐像は正応三年(1290)慶円の作。慶円は奈良・永久寺の像造に関与した仏師。ほか、観音寺如意輪観音坐像(久安三年(1147))や龍泉寺阿弥陀如来立像(鎌倉時代・衣紋線のうねる特徴的な形式)。仏画では観音寺仏涅槃図は軸に「永禄四年辛酉閏三月五日絵師芝法眼尊仲」とあり、1561年、南都絵所絵師の作例。戦国期の南都絵所座を考える上で重要。図録あり(146頁・1300円)。

鈴鹿市考古博物館
特別展 磯山銅鐸の時代
(10月25日~11月30日)
明治11年に鈴鹿市域で出土し、現在東博所蔵の銅鐸、通称磯山銅鐸をテーマに展観。この銅鐸を製造したのは大阪・茨木の工房であり、その関連遺物も展示。磯山銅鐸のレプリカと本物の両方を展示し、どちらが本物かをクイズ形式にしていた。図録あり(30頁・500円)。

亀山市歴史博物館
記念展示 国指定重要文化財 慈恩寺木造阿弥陀如来立像
(10月1日~12月23日)
亀山市内の唯一の重文・慈恩寺阿弥陀如来像を、寺本堂の解体修理に伴い展示。春には四日市市博で展示されたが、再登場。重厚で緊張感のある平安初期彫像の傑作の一つであると、あらためて認識。調光も明るく、鑑賞しやすい。図録あり(16頁・300円)。なお、博物館では『亀山市文化財調査報告書14 慈恩寺重要文化財木造阿弥陀如来立像調査概報』(亀山市教育委員会、平成7年、3000円)が購入できる。多くの写真の他、昭和13年の修理時における写真などもあり、両手や足先、裾部などの後補部分がよく把握できる。

和歌山県立博物館(宣伝)
コーナー展 むかしの絵はがき(紀北編)─喜多村進コレクション─
 (11月30日~1月18日)
和歌山県立博物館では、戦前から戦後にかけて、作家・俳人、郷土史家として和歌山で活躍した喜多村進氏(1888~1958)に関する貴重な資料について、ご遺族の方から寄託を受けました。寄託資料のなかには、喜多村進氏が生涯かけて収集した9千枚にも及ぶ絵はがきも含まれています。今回のコーナー展では、まず喜多村進氏の生涯(島崎藤村や紀伊徳川家との交流)を紹介します。そのうえで、喜多村進コレクションのなかから、和歌山県内、特に紀北地方の景観が写された絵はがきをご覧いただきます。あわせて、絵はがきと同じ場所から撮影した現在の景観や関連資料も展示します。百年前に写された景観と現在の景観との比較を通して、それぞれの地域が歩んできた歴史を振り返っていただければと思います。情報。

10・11月の交通費・入館料・図録代。愕然…。

12月1日
太子町立歴史資料館
特別展 徳道上人
(10月11日~12月14日)
長谷寺を開いた徳道上人は、現在の兵庫県太子町矢田部の出身であり、徳道関係史料や地域の伝承などから人物に迫る。長谷寺縁起(長谷寺蔵・江戸時代前期)など。兵庫県付近の寺院の開山としてよく登場する法道上人と徳道上人の人物像は重なる部分があるという。そういえば吹田市博の春の展示でもそういった話があったなあ。

円教寺
久しぶりに円教寺を拝観。食堂(重文)二階の宝物展示室では、延文4年(1359)康俊作金剛薩タ像や弘長元年(1261)銘のある狛犬などを特別公開中。康俊の金剛薩タは境内の金剛堂(室町・重文)本尊であることや、性空上人が金剛薩タを感得していたことなどを知る。この像は至文堂・日本の美術・室町彫刻の表紙です。常行堂阿弥陀如来坐像(平安中期・重文)なども。いいお寺。

12月4日
花園大学歴史博物館
特別展 新収 十六羅漢図
(10月20日~12月13日)
かつて東大寺戒壇院に伝来し、その行方が不明であった元代の画家蔡山筆の十六羅漢像を、このたび名古屋の個人から花園大学が購入、その初めてのお披露目。その図像は独自性があり、展示では東博本や個人蔵の蔡山作品と図版による比較も行う。東博本を真筆とすれば、花大本はやや「あっさり」とした印象もあるが、個人の作風の幅か。リーフレットにデータと銘文があり。

広隆寺
花大まで来てるので、せっかくなので立ち寄る。講堂阿弥陀如来坐像、量感・安定感・緊張感、名作揃いの広隆寺で、一番好みかも。仕事の関係で11世紀前半の様式を考えていたので、霊宝殿の寛弘九年(1012)銘の千手観音像もじっくり拝観。

12月7日
萬福寺・宇治市源氏物語ミュージアム・宇治上神社・平等院
勤務先の友の会バスツアーに随行。萬福寺の範道生作品をじっくり鑑賞。江戸前期のニューウエーブ、インパクト強かったはず。韋駄天像、姿勢・細部の彫技に優れる。平等院阿弥陀如来坐像、年明け1月から修理に入るので(再来年7月まで)、ちょうどよい機会。鳳翔館で雲中供養菩薩をじっくり鑑賞。

12月8日
 映画 ラストサムライ
 円教寺講堂・食堂・舞台と常行堂阿弥陀如来坐像が頻繁に登場。常行堂像とは、渋い選択。

12月12日
新宮市立佐藤春夫記念館
出張中の休憩に、立ち寄る。詩人佐藤春夫は新宮市出身で、自宅を速玉大社脇に移築して記念館とし、原稿など遺品を展示。秋刀魚秋刀魚、サンマ苦いかしょっぱいか…。

12月15日
壺阪寺
開山1300年記念 開基弁基上人感得秘仏千手観音像初公開
(10月18日~12月18日)
本尊前の未開蓮華形厨子内に上記の像を安置。実際は護摩灰を練って型押しされた多臂弁才天像(江戸時代)のよう。

12月19日
橋本市立郷土資料館
和歌山県橋本市の資料館。平安後期の仏像5躯展示。福王寺二天像は11世紀初頭、県指定文化財。江戸後期の等身大老夫婦の人形がとても気になる。生前富士山に登らせてあげられなかった息子が両親の人形を作らせ、背負って富士登山をしたというもの。

今月9日にわが家の文化財(長男)誕生。

1月1日
栄山寺(奈良県五條市)
本尊薬師如来坐像特別開扉
(12月31日~1月1日)
奈良時代の八角円堂(国宝)や平安時代初期の梵鐘(国宝)のある栄山寺。本尊は室町時代の薬師如来坐像(重要文化財)で、ほぼ等身。室町時代の奈良仏師作。眷属の十二神将像(重要文化財)も同系の仏師で、享徳三年(1454)・康正元年(1455)の銘あり。

1月2日
美術館「えき」KYOTO
幽玄の美 金剛宗家 能の世界展
(1月2日~1月25日)
能楽金剛流宗家に伝わる能資料を展示。先々代金剛巌は関係資料の収集にも努めた。能面は室町期の古面を含む41面。豊臣秀吉が手に入れ、金春太夫に与えたという小面「雪」も展示。様式のこれ以上の発展はない、という完成度。写しが多く作られる所以。

1月4日
奈良国立博物館
特別陳列 七支刀と石上神宮の神宝
(1月4日~2月8日)
奈良県天理市の石上神社に伝わる文化財を展示。国宝七支刀や社内禁足地出土資料(重文)、鉄盾(重文・古墳時代)の他、銅板御正体(平安時代)、板地著色祭礼渡御図(永享4年(1432)銘)など。図録あり(44頁・1000円)。常設の仏画・絵巻類、豪華な顔ぶれ。

春日大社宝物殿
新春特別公開 神の美をあらわす屏風と蒔絵
(1月1日~3月28日)
神宝の中から、屏風と漆芸品を展示。屏風では競馬図屏風(室町時代)など。漆芸では、古神宝から蒔絵箏(平安時代・国宝)など。笙や笛、小鼓胴など楽器も多数展示。

1月10日
熱田神宮宝物館
特別展 仮面の美-華麗・荘厳・幽玄の世界-
(1月1日~1月27日)
伎楽面・舞楽面・能面・行道面・神事面など100面近くを集めた特別展。陵王面7点の比較ができる。岐阜・関市春日神社の笑尉・小面は能面の形式成立以前の古面として重要な位置づけ。見応えあり。図録あり(96頁・1000円)。

徳川美術館
特別陳列 親と子の美術-きずなのかたち-
(1月4日~2月1日)
徳川美術館の収蔵品を「親子」という切り口で展観。国宝初音の調度、西行物語絵巻(重文)、絹本著色薬師三尊像(李朝・嘉靖44年(1565))など。図録なし。

1月11日
興福寺国宝館
特別陳列 興福寺の絵馬展
(12月15日~3月20日)
恒例の絵馬展。室町時代後期の紀年銘資料など。中世のものは南都絵所絵師の作品。

1月24日
神戸市立博物館
特別展 大英博物館の至宝展
(1月17日~3月28日)
(財)和歌山県文化財研究会のバスツアーに随行。大英博物館館蔵品の巡回展。仏教美術では慈恩大師像(鎌倉時代)など。敦煌招来のスタインコレクションも若干。図録あり(258頁・2500円)。

鶴林寺
観音菩薩立像(7世紀・重文)などなど。国宝・太子堂内陣の壁画も拝観。寺宝掲載図録購入(34頁・700円)

和歌山県立博物館(宣伝)
コーナー展 新収蔵品展
 (1月24日~3月7日)
和歌山県立博物館では、資料収集基本方針にそって、館蔵品の購入・受贈を行っています。今回のコーナー展は、近年収集した資料の中から、絵画・書跡・典籍・工芸品・歴史資料など、30件59点を展示いたします。情報。

1月25日
新庄町歴史民俗資料館
企画展 春を呼ぶ鬼
(1月24日~3月7日)
新春に寺院で行われる法要・修正会では鬼が登場する。この鬼を民俗学的見地から展観。五條市念仏寺の文明18年(1486)銘の父鬼・母鬼・子鬼面など。兵庫県朝光寺の鬼追踊で用いられる翁面(室町時代)はふっくらとした造形に特色あり。リーフレットあり(A4・6枚)。

金剛能楽堂
金剛定期能(翁・佐渡狐・国栖)
翁は金剛永謹、黒色尉(三番叟)は茂山千之丞。使用面、翁は江戸初期か。(国栖、子役がくしゃみする、あくびする、もぞもぞする、冠がとれる…。冷や汗…。)

今月はお面三昧。

2月3日
和歌山大学生涯学習教育研究センター
 北林トモ展─反戦平和の信念を貫いた女性─
 (2月2日~2月8日)
第二次世界大戦中、ゾルゲ事件の関係者として収監された北林トモの真実の姿に迫る。本会場ではパネルを主に用い、2月12日からの和歌山大学附属図書館3階展示室での展示では実物資料も用いる(7・8日は宮城与徳「粉河寺大門」の実物を展示)。

2月5日
田辺市立歴史民俗資料館
田辺市上秋津山田代出土銅鐸(高110㎝)、三栖廃寺出土軒平瓦・軒丸瓦(奈良時代)など考古資料を中心に展示。『田辺の指定文化財』(60頁)を無料配布。

2月22日
岐阜県博物館
奥美濃の山岳信仰と文化の交流
(2月21日~3月21日)
白山信仰と高賀山信仰に関する資料を展観。那比新宮・虚空蔵菩薩懸仏(正嘉元年(1257)、重文)、白山長瀧神社・鉄蛭巻手鉾、入峯斧、古楽面、古瀬戸黄釉瓶子(各重文)、神光寺護法神像(円空作)など。白山長瀧神社古楽面のうち応安2年(1369)銘の尉面、個性豊かで、優れた彫技をみせる。久しぶりに拝見。今年は関市・春日神社の笑尉も見ることができたので(於熱田神宮)、本当にラッキー。中世の仮面はおもしろい。図録なし(リーフレットA4・4頁)。

関市円空館
第3回展示
(1月10日~4月4日)
平成15年7月に開館した円空館。円空は関市弥勒寺の住持となり、そこで示寂。館はその弥勒寺(及び古代寺院址弥勒寺遺跡)の傍らにあり。関市内の円空仏のうち30体を展示。

今月は子守に専念…。

3月2日
国立民族学博物館
あじまあ 沖縄の伝統とくらし─沖縄県立博物館収蔵資料展─
(10月2日~6月1日)
会議のついでに鑑賞。沖縄県立博物館所蔵資料から沖縄の民俗を紹介。祭りで使用される「アンガマ面」は髪を巻いて結わえ、ゆがみのある造形。同じ形式の中世期の仮面が本州でも確認できる。「申楽面」の原型の一つはこういったものか。リーフレットあり(8頁、無料)。

3月6日
新庄町歴史民俗資料館
企画展 春を呼ぶ鬼
(1月24日~3月7日)
再訪(前回訪問1月25日)。

3月7日
奈良文化財研究所飛鳥資料館
 重要文化財指定記念展 平城宮跡推定大膳職出土木簡と北浦定政関係資料
(3月2日~3月14日)
表記の資料が重文指定されたことを記念して、少数ながら資料を展観。木簡は「紀伊国日高部財郷」「天平字宝□年」とあるものなど。北浦定政関係資料では「平城宮大内裏坪割図稿」「畝火山之図」など。リーフレットあり(カラー8頁・無料)。

3月13日
和歌山県立博物館(宣伝)
コーナー展 きのくにの工芸
 (3月13日~4月18日)
国宝、重要文化財、県指定文化財を含む35件133点の資料を、「1、熊野速玉大社の古神宝」「2、金工の技と輝き」「3、紀州徳川家ゆかりの工芸品」「4、茶の湯の工芸・香りの工芸」「5、文人のたのしみと工芸品」の章にわけて展示し、工芸品の魅力をご覧いただきます。

3月20日
神奈川県立歴史博物館
特別展 浮世絵江戸名所七変化─丹波コレクションの魅力─
(前期3月6日~3月28日 後期4月17日~5月9日)
神奈川県博所蔵の浮世絵を、「江戸名所」というテーマのもと「かたち」「表現」「題材」という切り口から展示。用途別の形式の違いと紙の大きさ、遠近・陰影の技法等説明が詳しく分かりやすい。図録あり(120頁、1000円)。

神奈川県立金沢文庫
企画展 みほとけとごりやく
(2月19日~4月18日)
仏教の尊像をその「効能」別に分けて、わかりやすく展示する。セゾン美術館の大黒天立像は貞和二年(1346)快兼の作、東大寺伝来。絵師観慶(芝座絵師)なども関与。南北朝期の南都の造像活動を考える上で重要な存在であると認識。図録あり(64頁・1000円)。図録はコラム満載で内容も充実。

3月21日
茨城県立歴史館
特別展 鹿島信仰─常陸から発信された文化─
(2月7日~3月21日)
最終日に滑り込み。鹿島信仰の諸相を歴史・美術・民俗・考古資料から展観。鹿島神宮の巨大な直刀(国宝)は圧巻。鹿島市神向寺の銅像如来坐像は鹿島神宮の本地仏と伝承される。9世紀とされるが、造形は8世紀末。春日社の第一殿は鹿島神なので、春日関係資料も。今秋の仏像展も期待されます。図録あり(128頁・売り切れ)。

東京国立博物館
十七条憲法制定1400年記念特別公開 法隆寺 国宝 夢違観音─白鳳文化の香り─
(3月2日~4月11日)
夢違観音・聖徳太子像(治暦5年(1069)のほか、初期大和絵の大作、国宝聖徳太子絵伝(東博、延久元年(1069))を全て展示。んー、献納宝物館は暗いなあ。小冊子あり(12頁・100円)。夢違観音の正・則・背・部分。是非買うべき。

九州国立博物館(仮称)2005年度開館への序章 はじめの一歩展 
(2月17日~3月28日)
九博準備室が購入した資料、東博から九博へ移管される資料などを展示して、その存在をアピール。「国際」がテーマ。仏像では九世紀の観音菩薩立像。唐様式の摂取という文脈で展示されるのでしょう。開館記念展は奈良時代と桃山時代の国際文化交流にスポットをあてた「美の国、日本」(仮称)だそうです。

特集 神像と狛犬
(12月23日~4月4日)
大将軍八神社男神坐像は優品。体躯の厚みを保持して、形の輪郭が丸く、肘をやや張った体型は11世紀。大きさもあいまって存在感あふれる。ほか、赤穴八幡の三神像(嘉暦元年(1326))など。

3月24日
新宮市立歴史民俗資料館
企画展 元新宮領主水野家伝来資料展
(3月10日~3月28日)
元新宮領主である水野家が寄贈した、主に近代期の資料の一部を展示。水野忠央短冊ほか。リーフレットあり。

3月29日
大阪歴史博物館
  特別展 中国五千年の名宝 上海博物館展
(3月17日~5月10日)
上海博物館所蔵の資料を分野別に展示。仏像では隋代の観音・勢至菩薩ほか。常設展もみると1440円。図録あり(2000円)。

特集展示 平成15年度 大阪市新指定文化財展
 (3月10日~4月5日)
新指定の文化財を展示。和光寺阿弥陀三尊像は善光寺式。中尊は鎌倉中期の佳品。ほか真宗関係史料や朝日新聞社所蔵の近代資料など。リーフレットあり。

今年度訪問した館・寺院はのべ122ヶ所、鑑賞した展覧会・特別公開は123本でした(うち和歌山県博分8本)。