4月4日
仁和寺霊宝館
春季名宝展 仁和寺の動物大集合
(3月23日~5月6日)
仁和寺伝来資料の中から、動物が登場する絵画や古記録、聖教類を展示。南北朝時代の普賢延命像は台座に小さな像がずらり。正保3年(1646)に高野山蓮華三昧院光宥から御室へ寄進。十二支の動物標識を表した白描の薬師十二神将図像をありがたく鑑賞。獣頭像と動物上に座す像が混ざる。安永2年(1779)源證筆の孔雀明王像は精緻で豪華な一幅。鳥獣人物戯画や石山寺縁起の近世模本も伝来。リーフレットあり。
相国寺承天閣美術館
頂相-祖師たちの絵姿 Ⅰ期
(3月17日~5月12日)
相国寺と塔頭等に伝来した頂相を一堂に展観。80幅の高僧像が並び懸けられる圧巻の展示空間。相国寺の列祖図は祖師30人を承応4年(1655)に狩野探幽以下の一門が描いたもの。探幽はうまいが、興甫もうまい。夢窓疎石の頂相が南北朝時代のものから江戸時代のものまで初公開資料を含んでずらりと並ぶ空間も圧巻。展示は臨済僧の流派の存在や、僧の出世やライフコースを示して、頂相が必要とされる僧団組織上の事情にも目配りする。Ⅱ期(5月26日~7月21日)も含めて122件の出陳、うち半数の63件が初公開とのこと。空前の頂僧展。必見。図録あり(A5版・64ページ、1200円)。
4月6日
薬師寺・唐招提寺
新入生研修会として恒例の薬師寺・唐招提寺巡拝。薬師寺境内の旧正強中学校校舎も間近に見学。
4月13日
奈良国立博物館
生誕1250年記念特別展 空海 KUKAI-密教のルーツとマンダラ世界
(4月13日~6月9日)
空海生誕1250年を記念して、真言宗諸大寺の文化財を一所に集めて空海の密教思想を展示室に体現。安祥寺五智如来坐像、金剛峯寺両界曼荼羅(前期)、西大寺十二天像(前期)、室生寺真言八祖像(前期)が並ぶ第一室は密教のマンダラ世界と修法空間を組み合わせて体感させるものであり圧巻。空海所縁の資料は金剛峯寺聾瞽指帰(前期)、東寺真言七祖像(前期)、同風信帖(前期)、同西院曼荼羅(前期)、仁和寺三十帖冊子、神護寺灌頂歴名(前期)、同両界曼荼羅(前期胎蔵曼荼羅、後期金剛界曼荼羅)など、前期展示(~5/12)に多く配分。インドネシア国立中央博物館所蔵のジャワ島各地で出土した密教諸尊や密教法具を日本で初めて紹介できたことは、ナショナルミュージアムとしてふさわしい重要な活動成果。本年正月の大震災にて被災した能登半島から、難しい状況の中最善を尽くして珠洲市法住寺不動明王坐像の出陳がかなったことは、展覧会と現代社会とをつなぐメッセージであり特筆される。図録あり(304ページ、3000円)。
4月16日
東大寺法華堂
美術史実習の見学初回は東大寺法華堂。南大門、鐘楼・梵鐘を解説してから法華堂入堂し諸尊像の説明。一般のご参拝者からも質問いただき解説。
4月18日
智積院宝物館
総本山智積院宝物館 開館特別展示 第4期
(2月1日~4月29日)
長谷川等伯ほかの障壁画とともに、寺宝公開。重要文化財の童子経曼荼羅をじっくり。
4月21日
豊浦寺・飛鳥寺・酒船石・飛鳥宮跡・亀石・猿石
文化財演習の史跡踏査で明日香村を歩く。あいにくの雨。
4月23日
奈良国立博物館
生誕1250年記念特別展 空海 KUKAI-密教のルーツとマンダラ世界
(4月13日~6月9日)
美術史実習見学会。さっそく奈良博空海展再訪。
奈良県立美術館
特別展 小川晴暘と飛鳥園 100年の旅
(4月20日~6月23日)
小川晴暘による創立から100年を迎えた飛鳥園に着目し、その作品群のプリントを年代順に提示して、仏教美術研究の上で果たした役割を紹介。晴暘以来の黒バックで光源を少数に絞った陰影ある象徴的な写真は、さまざまな書籍で誰もが見てきた大きな影響力のあるものばかりで、本展が紛れもない仏像展であることを実感。ほか、晴暘筆の大きな雲崗石窟スケッチや小川光三の敦煌莫高窟の写真など見応えあり。図録あり(120ページ、2750円)。
4月25日
なら歴史芸術文化村
特集展示 修理完成記念 當麻寺の仁王さん
(4月6日~5月12日)
ニホンミツバチの営巣により朽損が進み、同施設内にて修理が施されていた當麻寺仁王像のうち阿形像の完成を記念し展示公開。修理前の状況から修理中の工程、判明した墨書と仏師(田中主水)のことなど丁寧に紹介。多数のパネルはさまざま配慮が行き届いていて(ミツバチ群のパネル前には注意表記あり)、また近世仏師に関する最新の研究成果が盛り込まれ、ありがたく学ぶ。図録あり(48ページ、1000円)。4
5月1日
東京国立博物館
特別展 法然と極楽浄土
(4月16日~6月9日)
浄土宗開宗850年を記念して、浄土宗諸本山が連携して開催する大法然展。當麻寺奥之院法然坐像、當麻寺綴織當麻曼荼羅、知恩院法然上人絵伝、阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)、来迎寺善導大師坐像、金戒光明寺山越阿弥陀図屏風など浄土教美術の優品を集めるとともに、宗門展らしく法然の弟子とその法脈への目配りとともに、江戸時代の浄土宗僧の活動と浄土宗寺院の近世の特徴的な文化財を紹介する。本展事前準備の調査で確認された百万遍知恩寺法然上人裸形着装像のケースとパネルの間を行き来しながらじっくり拝観。図録あり(395ページ、3000円)。
令和6年新指定国宝・重要文化財
(4月23日~5月12日)
恒例新指定文化財展に馳せ参じる。大報恩寺六観音像のうち准胝観音立像、八坂神社午頭天王坐像・十一面女神坐像、南禅寺の仏像群(薬師如来坐像・十一面観音立像・天王立像)、安楽寺阿弥陀如来立像などなど、間近にありがたく鑑賞。八坂神社の2軀の神像を比較しながら何度も行き来。図録あり(88ページ、1600円)。
特集 行道面 ほとけを演じるための仮面
(4月2日~5月26日)
東博所蔵の行道面をまとめて展示公開。天野社伝来の二十八部衆面と正和2年(1313)名の鬼面、そして高野山学侶宝蔵古器及楽装束図をありがたく鑑賞。ほか浄土寺菩薩面や重蔵神社の菩薩面など。館蔵品の平安時代・12世紀の菩薩面(列品番号C-12)については、年代判断の要素がよく分からず。図録なし。
東京藝術大学大学美術館
大吉原展
(3月26日~5月19日)
吉原遊郭の歴史的・文化的位置を多数の浮世絵など美術資料を用いて示す。著名な浮世絵及び肉筆浮世絵を多数集め、吉原遊郭成立と展開の歴史的経緯とともに、遊女の暮らしや、さまざまな文化発信の源泉となった場の特殊性を提示し、遊郭吉原の「表の顔」にクローズアップする。江戸時代において一定の統制のもと出版されたメディア作品を用いたことで「悪所」の要素(特に性的要素)が全体を通じて前に出ない点は遊郭の実態からの乖離がある一方、それは現代社会における統制された風俗産業イメージの流布のあり方とも同様であり、例えアングラ作品(例えば春画)を用いたとしてもそのまなざしは非対称的なものとしかなりえない。そうした吉原イメージを眺める人々(昔も今も)の存在も含め、江戸時代と現代は会場で重ね合わさる。「浮世絵に見る吉原の装飾美と文化発信」というようなタイトルが穏当と思われるが、集客のためのタイトルの拡大と広報スタンスが、絵画資料から見える(見ることができる)吉原イメージと歴史的実像としての「悪所」吉原との乖離を広げたといえる。本展を巡る批判からは、展覧会という場が現代社会のさまざまな側面とつながり、相互の応答をもそこに投影していく生きたメディアであることを再認識する。その点で、展覧会準備の最終段階で、取り得るさまざまな弁明を展示内に可能な範囲で追加された(であろう)ことは、社会との応答という点で重要な行動といえる。図録あり(348ページ、3500円)。巻頭論文の田中優子「吉原という「別世」」はメディアイメージとしての吉原の文化と現実の吉原にて苦役に就く遊女の苦しみを対比的に捉え、美術資料の持つフィクション性を示す堅実な内容。
半蔵門ミュージアム
音を観る-変化観音と観音変化身-
(4月24日~9月1日)
新収蔵の如意輪観音坐像とともに、収蔵資料のなかから観音信仰にまつわる作品を紹介。鎌倉時代の如意輪観音像や室町時代の准胝観音像、五智国分寺伝来之十一面観音立像、法用寺伝来の三十三応現身像のうち梵王身像(明徳5年〔1394〕)、高野山伝来の阿弥陀三尊来迎図(南都絵所か)など、中世に遡る仏教美術の優品が着実に収集されていることを知る。運慶の大日如来坐像のまわりをぐるぐる巡り、醍醐寺伝来如意輪観音坐像を前から横から間近に鑑賞。図録なし。
5月3日
龍谷ミュージアム
特別展 文明の十字路・バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰-ガンダーラから日本へ-
(4月20日~6月16日)
バーミヤン遺跡壁画の新たな描き起こし図(宮治昭監修・正垣雅子図)の完成を記念し、東大仏と太陽神、西大仏と弥勒仏に着目した上で、弥勒信仰のアジア伝播の諸相を紹介する。インド、中央アジア、中国、朝鮮半島、日本の弥勒像が集まる圧巻の内容。仏像では妙傳寺菩薩半跏像、野中寺弥勒菩薩半跏像、法隆寺弥勒菩薩坐像、霊現寺弥勒菩薩立像、仏画では法隆寺法相曼荼羅、慈尊院弥勒菩薩像(後期)、五坊寂静院弥勒下生変相図(後期)など。東大寺中性院弥勒菩薩立像が期間限定(~5/6)で公開。納入品とともにありがたく鑑賞。図録あり(208ページ、2,400円)。
5月5日
大田庄資料館
企画展 今高野山の歴史展Ⅱ-多宝塔造立700年・元本尊木造大日如来坐像が語る今高野山の歴史-
(3月23日~5月13日)
高野山領大田荘の拠点寺院龍華寺の多宝塔にかつて安置された元亨3年(1323)銘を有する大日如来坐像を寺外初公開。広島県指定文化財。ほか同寺密教法具など。図録なし。
5月7日
西大寺
美術史実習で西大寺見学。四王堂の四天王立像(邪鬼)、十一面観音立蔵、聚宝館の金銅宝塔、塔本四仏、密教法具、本堂の釈迦如来立像、文殊五尊像、弥勒菩薩坐像、愛染堂の叡尊坐像を解説しながらお参り。
5月14日
龍谷ミュージアム
特別展 文明の十字路・バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰-ガンダーラから日本へ-
(4月20日~6月16日)
美術史実習で再訪。朝鮮・三国時代の新資料である妙傳寺菩薩半跏像をじっくり鑑賞。シアタールームでバーミヤンの空撮映像も鑑賞。図録あり(208ページ、2,400円)。
京都国立博物館
特別展 雪舟伝説-「画聖」の誕生-
(4月13日~5月26日)
画聖雪舟を仰ぎ写し学び受容した近世の絵師のあり方に、多数の絵画作品を集めて迫る。冒頭、雪舟の手になる秋冬山水図(東博)、山水図(京博)、四季山水図(東博)、四季山水図巻(毛利博物館)、破墨山水図(東博)、山水図(個人蔵)、天橋立図(京博)、四季花鳥図屏風(京博)。慧可断臂図(齊年寺)がずらり並ぶほか、雪舟作品を徹底して集め、全て通期展示の圧巻。眼福。ほか、狩野派、雲谷派などの作品多数。雪舟富士図の構図が蕩々と引用され幕末の蘭画まで踏襲されていくさまを提示する手法はとても理解しやすく、美術史展示の真骨頂。図録あり(264ページ、3000円)。
5月21日
国立民族学博物館
特別展示 日本の仮面-芸能と祭の世界-
(3月28日~6月11日)
全国各地の祭礼で用いられている仮面を多数集約する。古戸田楽の田楽面、上鴨川住吉神社の仮面群、硫黄島のメンドン、鳥取東照宮の東照宮祭礼の面被行列、鎌倉・御霊神社の面掛行列、出雲神楽貸元林木屋の神楽面、矢田寺の練供養などを集めるほか、博物館収蔵の仮面を活用して仮面表現の多様なありかたを紹介。総数700点とのこと。舞楽や猿楽等の伝統芸能はほぼ取りあげず、民間仮面の歴史的文化的価値を共有する貴重な機会。図録あり(192ページ、2000円)。
みんぱく創設50周年記念企画展 水俣病を伝える
(3月14日~6月18日)
水俣病発見から約70年たち、その被害を伝える現在の活動のさまざまを紹介。水俣病歴史考証館の収蔵資料や職員の活動、水俣病を語り継ぐ会のとその啓発事業など、実物とパネル、映像を用いて紹介。図録なし。
逸翁美術館
地蔵と地獄
(4月13日~6月9日)
館蔵の地蔵十王図が新たに重要文化財に指定されたことを受け、地蔵菩薩と地獄をあらわした絵画資料を集める。龍谷ミュージアム地蔵十王図、香雪美術館閻魔王図、聖衆来迎寺六道絵(文政本)、永観堂禅林寺十王図など。図録なし。
5月25日
奈良国立博物館
生誕1250年記念特別展 空海 KUKAI-密教のルーツとマンダラ世界
(4月13日~6月9日)
奈良大学後援会見学会で3度目の観覧。後期の展示替え資料を中心に鑑賞。会のみなさんから熱心に質問をいただく。
5月26日
奈良県立万葉文化館
特別展 生誕110年 佐藤太清展 水の心象
(5月18日~7月7日)
文化財演習の現地見学の実習で明日香入り。学生たちは班別に自ら計画した見学先をあちこち巡っているので、教員も行きたいところを巡る。日本画家佐藤太清の作品を画風の変遷をたどりながら展観。福知山市佐藤太清記念美術館収蔵資料を中心に、大画面の代表作多数を集める。《夢殿》《暎》《佐田岬行》など。図録あり(250ページ、2750円)。亀形石造物見て、飛鳥寺お参りし、稲渕から農免道路通ってキトラ古墳へ。
キトラ古墳壁画保存管理施設
第31回公開 国宝キトラ古墳壁画(西壁「白虎」、東壁「青龍」)
(5月18日~6月16日)
キトラ古墳の壁画公開。白虎と青龍を鑑賞。オペラグラスを借りて10分間の濃い体験。
5月27日
奈良大学博物館
企画展 太田古朴が見た山里の文化財-高野山麓・細川八坂神社の仮面群-
(5月27日~7月27日)
無事開幕。太田古朴の仏像修理と納入品展開図の意義を再検証するとともに、依頼を受けて調査と修理をおこなった高野町細川地区の文化財を紹介することで、過疎・高齢化の進む現代社会における文化財保護のこれからのありかたについて考える内容。図録あり(16ページ、無料)。
5月30日
和歌山県立博物館
特別展 紀州東照宮の宝刀
(4月27日~6月2日)
紀伊徳川家歴代が紀州東照宮に奉納した刀剣27口を刀装具とともにずらりと並べ、その全貌を提示する。さまざまな地域・流派の刀身の特徴とそのみどころを示しつつ、奉納を巡る背景を踏まえて刀剣伝来の歴史を展示室内に立ち上げる。鑑賞支援のための用語解説類も充実。図録あり(80ページ、1200円)。
6月15日
唐招提寺新宝蔵
春の新宝蔵公開中(3月1日~6月30日)に、期間限定で薬師如来立像、衆宝王菩薩立像、獅子吼菩薩立像とともに、大自在王菩薩立像と二天立像もいっしょに並んで公開中と院生に聞いてご拝観。ありがたや。おそらく6月17日まで。
和歌山県立博物館
世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」登録20周年記念 聖地巡礼-熊野と高野- 第Ⅰ期 那智山・那智瀧の神仏-熊野那智大社と青岸渡寺-
(6月15日~7月21日)
世界遺産登録20周年記念展の第Ⅰ期。那智山の文化財を熊野那智大社と那智山青岸渡寺から集約して展示し、滝と神と観音の重なる重層的な信仰のあり方を提示する。下御門仏師により天正19年~20年ごろに造像された熊野那智大社の熊野十二所権現古神像15軀を公開。那智経塚出土の青岸渡寺の重文金銅仏群や、重文那智大社文書など43件展示。図録あり(33ページ、700円)。
6月18日
あべのハルカス美術館
徳川美術館展 尾張徳川家の至宝
(4月27日~6月23日)
大雨の中美術史実習は大阪へ。徳川美術館の絵画・工芸のさまざまな種類の名品を選んで展観。太刀 銘 左(名物大左文字)、脇差 銘 吉光(名物鯰尾藤四郎)、能面平太(慈雲院殿作銘)、初音の調度、源氏物語絵巻など。図録あり(208ページ、3000円)。
葛井寺・道明寺
雨もやんで観音の縁日に秘仏ご開帳を巡る。葛井寺千手観音坐像(奈良時代)、道明寺十一面観音立像(奈良時代末~平安時代初期)をじっくり。堂内の諸仏もいろいろ考えながら拝観。
6月23日
大阪歴史博物館
特集展示 わたしが難波橋のライオン像をつくりました!! なにわの彫刻家 天岡均一没後100年記念展
(5月8日~7月8日)
難波橋欄干のライオン像作者である天岡均一に着目し、多数の関連資料を集める意欲的な内容。明治8年(1875)生まれ、父は有馬の三田焼復興に携わった天岡源六。東京美術学校卒業ののち新納忠之介のもと最初期の国宝仏像修理に携わったのち、明治33年(1900)天王寺に天岡鋳金所を設けて活動。大正7年(1918)大阪彫塑会を結成、大正13年(1924)没。俳諧にも通じ、句幅や短冊も展示。再婚した妻蕗香の作品も紹介。およそ100点ほどの充実した内容。リーフレットあり(A3・両面)。
6月24日
高野山霊宝館
企画展 金剛峯寺-その成り立ちと宝物-
(4月20日~7月15日)
金剛峯寺の建造物群が新たに重要文化財指定されたことを記念し、金剛峯寺の成り立ちを特に中世から近代にかけての状況を示してその変遷をたどる。院政期の金剛峯寺方・大伝法院方・金剛三昧院方、南北朝時代以降の宝性院方(宝門)・無量寿院方(寿門)、中近世の学侶・行人・聖方(三方)と僧の集団の変遷と重なりにも目配りする。宝簡集、高野版板木、壇上寺家絵図などのほか、近代期の金剛峯寺では統合された近世の興山寺・青巌寺のうち青巌寺関連資料を多数紹介。初見の御宮并興山寺絵図は江戸時代後期ごろの興山寺と東照宮を描く貴重な資料。神仏分離で撤去された興山寺東照宮の建物は、本殿が普門院本堂、拝殿が普賢院本堂、経蔵が常喜院校倉、表門が普門院裏門に移築され現存することを学ぶ。図録なし。本館の展示では箱書きに張思恭筆と記され元時代とされる
阿弥陀八大菩薩像に釘付け。高麗時代の作例と見るのがよさそう。本紙縦180㎝、幅80㎝ほどの大幅。眼福。南宋の伝薬師如来像(重文)も出陳中。
6月29日・30日
密教図像学会見学会
東播磨の寺々を巡る。一乗寺、田中薬師堂、中古瀬薬師堂、万勝寺、鶴林寺、長楽寺、浄土寺、如意寺を拝観。
7月7日
MIHO MUSEUM
奈良大和路のみほとけ-令和古寺巡礼-
(7月6日~9月1日)
大和の古寺と伝来する魅力的な古仏を紹介。巡回展の2会場目。法隆寺観音菩薩立像(夢違観音)、薬師寺聖観音菩薩立像、東大寺弥勒仏坐像の国宝彫像を始め、法隆寺文殊菩薩立像、長谷寺銅造十一面観音立像、MIHO
MUSEUM持国天立像、西大寺阿弥陀如来坐像、天理市合場町薬師如来坐像、當麻寺奥院中将姫坐像など飛鳥時代から江戸時代までの仏像を、関連する仏画や工芸品とともに紹介。来館者がまだ少なく、東院堂聖観音立像を独り占めして何度もぐるりとめぐりながら全体も細部もしっかりと拝観。至福。東大寺試みの大仏も法隆寺六観音(うち1軀)も独立ケースで正側背を鑑賞できるありがたさ。名作多数の充実した仏像展。奈良大学博物館の南都図屏風も展示中。図録あり(140ページ、2500円)。
7月9日
大和文華館
特別展 レスコヴィッチコレクションの摺物-パリから来た北斎・広重・北渓・岳亭-
(7月9日~9月1日)
美術史実習にて見学。ジョルジュ・レスコビッチ氏所蔵資料から摺物ばかりを集めて展示。小ロットの配布物として、精緻で凝った内容のもの多数。あべのハルカス美術館の広重展との連携展示。図録あり(2500円)。
7月16日
興福寺国宝館
美術史実習にて見学。山田寺仏頭と西金堂の仏塔をじっくり。板彫十二神将像もみんなで行きつ戻りつしっかり鑑賞。
7月25日
高野山霊宝館
第44回大宝蔵展 高野山の名宝
企画展 怖い?知りたい?-地獄・極楽の世界-
(7月20日~10月14日)
地獄・極楽に関する資料を本館で、高野山の名宝を新館にて紹介する。大宝蔵展では運慶作八大童子立像のうち制多伽・矜羯羅・恵光・烏俱婆誐の4躯を公開。じっくり鑑賞。ほか金剛峯寺紺紙金字法華一品経など経典や密教法具の優品多数。企画展では西禅院阿弥陀浄土曼荼羅図をじっくり。ほか円通寺の朝鮮時代の地蔵菩薩曼荼羅や、成慶院の武田逍遥軒筆の十王図と十二天のうち閻魔天像など。図録なし。
7月30日
奈良国立博物館
特別陳列 泉屋博古館の名宝-住友春翠の愛でた祈りの造形
(7月20日~9月1日)
改修中の泉屋博古館の所蔵品により春翠-十五第吉左衛門-によるコレクションを紹介。殷~西周・東周の青銅器ずらり。線刻仏諸尊鏡像は大山出土資料の可能性。室町時代前期の千手観音像は左肩に赤袴を掛け、右施無畏手に鞘付帯を執り、童男行者と大伴孔子古を足下に伴って上部に帳をあらわす粉河寺式千手観音像の新資料。図録あり(120ページ、1300円)。
特別陳列 わくわくびじゅつギャラリー フシギ!日本の神さまのびじゅつ
(7月20日~9月1日)
宗教美術に心ときめいてもらうシリーズ第3回は神道美術編。作品の形やしぐさ、着衣の特徴から興味のタネをさまざまに示すとともに、神仏習合の問題や古神宝、神前での祭礼・芸能まで幅広く目配りする。神像は與喜天満神社の天神坐像、薬師寺八幡三神像、玉龍寺女神坐像など。絵画は初見の個人蔵春日若宮曼荼羅、東大寺大仏縁起、東大寺八幡縁起絵巻、東大寺曼荼羅、當麻寺中之坊弁才天十五童子像、春日大社天文22年銘絵馬など室町時代後期の南都絵所作品を多数一望する。展示室内にてワークショップも開催中。図録あり(102ページ、990円)。
奈良県立美術館
特別陳列 日本の伝統文化を知る 江戸時代のきもの
(7月13日~8月25日)
館蔵品をフル活用して江戸時代のきものの様々な種類と、表現と技法の変遷を紹介。京博から染分綸子地松皮菱段草花文様小袖、濃茶麻地菊棕櫚文様帷子の重文出陳。淀殿像、加賀局像、本居大平像、伊藤仁斎像、立美人図など同館所蔵の近世肖像画の優品も活用。図録なし。
ギャラリー展示 奈良晒-麻から糸へ、糸から布へ-
(7月13日~8月25日)
月ヶ瀬奈良晒保存会が技法を継承する奈良県指定無形文化財の奈良晒の紡織技術について、道具とパネルにより紹介。麻から糸をつくる複雑な工程を写真を用いて示し、麻糸を織り上げた製品、製造工程を示す映像からなる展示。着物展にあわせたすばらしいコラボ企画。
8月1日
和歌山県立紀伊風土記の丘
企画展 和歌山フェイクアワード-考古学におけるフェイクの世界-
(7月13日~9月8日)
「フェイク」を贋作から模倣品・レプリカまで幅広く定義して、考古資料をフェイクという観点から捉える意欲的な内容。弥生〜古墳時代の模倣品、近現代の贋作、近代郷土教育と教育用複製品、そして型取り及び三次元計測+3Dプリンターによるレプリカとその意義など、考古学における複製・贋作の世界を一望。図録なし。
8月3日
和歌山県立博物館
世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」登録20周年記念 聖地巡礼-熊野と高野- 第Ⅱ期 神仏・祖師の住まう山-高野山上・山麓の宗教文化-
(前期8月3日~8月25日、後期8月31日~9月29日)
世界遺産登録20周年記念展の第Ⅱ期。高野山と高野山麓の資料を集めてその宗教文化の諸相を紹介。全7章仕立てで、前期展示が1章から4章まで、後期展示が5章から7章までという斬新な構成。1点(遍照寺弘法大師像)以外は展示資料総取っ替え。2回行くこと必定!前期では金剛峯寺から旧勧学院本尊の大日如来坐像、太政官符幷御遺告、奥之院出土遺物、弘法大師・四社明神像、狩場明神・丹生明神像、御社の御正体などのほか、北室院の五大力菩薩像、高野山大学図書館の奈良時代写経・蘇悉地羯羅経、丹生都比売神社の獅子狛犬など重要資料多数。図録あり(50ページ、1000円)。
8月6日
龍谷ミュージアム
シリーズ展「仏教の思想と文化-インドから日本へ- 特集展示:阿弥陀さん七変化!
(7月13日~8月18日)
アジア・日本の仏教とその伝播の諸相を大学所蔵品と寄託品により通覧。特集展示では阿弥陀如来像と阿弥陀信仰のさまざまなあり方を紹介。梵釈寺の最古の宝宝冠阿弥陀如来坐像をじっくり鑑賞。像の周辺をぐるりぐるりと回りながら、側面・背面をしっかり鑑賞。上膊が長く肘の位置が低い表現に特徴あり。後頭部で髪の分け目が中央にこず、随分ずれているのが不思議。平安時代前期の等身大の菩薩形坐像としても重要な作例。図録なし。
8月9日
和歌山県立博物館
世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」登録20周年記念 聖地巡礼-熊野と高野- 第Ⅱ期 神仏・祖師の住まう山-高野山上・山麓の宗教文化-
(前期8月3日~8月25日、後期8月31日~9月29日)
和歌山市内寺院での文化財調査の後、学生と鑑賞。初公開の丹生惣神主(輝代麿)家文書をじっくり見る。高野山上御社(みやしろ)の天正10年~11年の造営本願が木食応其であることが判明。ほか南北朝期の御社の造営文書も。図録あり(50ページ、1000円)。
8月10日
かつらぎ町笠田公民館佐野分館
佐野寺跡展覧会 浄土-仏たちの住む世界-
(8月7日~8月11日)
かつらぎ町内の文化財を公開する恒例の展示、今年は浄土をテーマとして資料を集める。佐野眞明寺観音菩薩立像は平安時代中期の作例。萩原神願寺供養菩薩像4軀は阿弥陀聖衆の群像をなしたとみられる江戸時代の作例。大藪経塚出土資料は東播磨の須恵器製外容器に瓦製経筒が伴う和歌山では珍しいもの。下天野延命寺の六斎講で使用された親証と子証のうち天和3年(1683)銘の子証には高野山心南院からの寄進銘あり。短野観音寺の阿弥陀二十五菩薩来迎図は延享3年(1746)の在銘作例。ほか佐野寺出土の瓦や方形三尊塼仏、螺髪断片、風招など。図録なし。
8月11日
入江泰吉記念奈良市写真美術館
観仏三昧-工藤利三郎・入江泰吉・永野太造-
(7月13日~9月1日)
タイトルは会津八一の言葉から借り、仏像写真家による奈良の著名作品のプリントをずらり並べる。工藤利三郎の興福寺千手観音像は食堂のありし日の内陣がともに写り貴重。永野太造の金剛「三昧」院多宝塔五智如来は裏焼き。図録なし。
8月14日
大阪中之島美術館
開創1150年記念 醍醐寺国宝展
(前期6月15日~7月21日・後期7月24日~8月25日)
開創1150年の節目に合わせ醍醐寺の仏像・仏画・工芸品を公開。上醍醐の薬師如来坐像光背七仏薬師の小像や、大威徳明王像、帝釈天騎象像、閻魔天騎牛像と鳥獣座の3体をじっくり鑑賞。平安~鎌倉時代の仏画や白描図像多数。眼福。上醍醐五大堂の金剛夜叉明王立像は頭部は古像を残し、体部は康正の補作。銅製理源大師坐像は背面刻銘により元は内山宿(永久寺)安置。図録あり(212ページ、2800円)。
8月16日
なら歴史芸術文化村
文化財修理の現場から
(7月13日~9月16日)
建造物、考古遺物、絵画・書籍、仏像等彫刻のそれぞれの修理・修復の理念と実務を、同施設内の各工房・教委・事務所の協力のもと、使用道具の実物やわかりやすいパネルを用いて紹介。児童・生徒の夏休み学習に最適な内容。展示内容を詳述した図録あり(16ページ、無料)。
8月20日
根津美術館
企画展 美麗なるほとけ-館蔵仏教絵画名品展-
(7月27日~8月25日)
館蔵の仏画の優品をずらり蔵出し。伝中尊寺旧蔵の大日如来像、金剛輪寺伝来の金剛界八十一尊曼荼羅、興国寺伝来の聖徳太子絵伝などなど。那智瀧図を久しぶりにじっくり鑑賞。月光に照らされる三筋の滝と淡く光る岩、生貫杉、碑伝、そして重なる観音イメージ。堪能。図録として展示品以外も収載した『根津美術館新蔵品選 仏画』(150ページ、2800円)を発行。
東京黎明アートルーム
祈りのかたち-うれしいときも かなしいときも-
(7月22日~8月31日)
コレクションのなかから宗教美術に関する資料を紹介。南無仏太子立像は目尻の強く切れ上がった表情が特徴的な鎌倉時代後期の作。女神立像は袿を三領と表着をまとった和装像。平安末~鎌倉初期ごろ。ほか唐時代の兜跋毘沙門天立像、雲岡石窟の北魏の如来頭部など。エントランスの平安時代後期の二天立像は元自治体指定品だった由。図録なし。
東京国立博物館
創建1200年記念特別展 神護寺-空海と真言密教のはじまり-
(7月17日~9月8日)
神護寺の歴史と伝来の法宝物を一堂に展観。冒頭では他寺所蔵の重要資料も加えて弘法大師にクローズアップ。空海・最澄の自筆文書多数。神護寺の互御影を初鑑賞。高雄曼荼羅は江戸時代の転写本とともに展示し、文覚像、後白河上皇像や神護寺絵図、高山寺絵図など鎌倉復興期の資料を紹介して法宝物の継承と伝来の背景に目配りする。本尊薬師如来立像の展示は後期から背面鑑賞可能となり、釘付けでぐるぐる回りながら鑑賞。左袖の衣紋の凄まじいばかりの深さ鋭さを体感。脇侍両菩薩像も背面から鑑賞できることで、当初部分の残存状況を確かめる。五大虚空菩薩坐像もぐるぐると鑑賞。図録あり(272ページ、2800円)。
東京長浜観音堂
長浜市宮司町総持寺蔵 千手観音立像
(8月1日~9月1日)
総持寺千手観音像が長浜から出開帳。定朝様の整って穏やかな風貌を示す12世紀の作例で、脇手は修理で補われ像容が整えられる。正中で左右二材矧ぎ(あるいは左右に割り矧ぐ)。当施設における長浜の観音像東京出開帳事業は残り1回(11月1日~12月1日)。信仰文化財を活用した他にない特徴的な地域活性化の取り組み。写真と解説を記したカードあり。
8月28日
福井県立一乗谷朝倉氏遺跡博物館
特別展 戦国大名朝倉氏 武威の煌めき 蹴鞠と庭が語る戦国
(7月13日~9月1日)
朝倉氏における蹴鞠・和歌伝授とその背景を紹介。館蔵の永正5年(1508)飛鳥井宋世蹴鞠秘伝書を軸にして、絵画資料・文献から蹴鞠文化を示し、朝倉館における鞠庭を復元的に検討。木下美術館の花下蹴鞠之図は紀伊徳川家旧蔵資料。一乗谷遺跡出土の能面獅子口は下顎部分のみを残すが、堅実な出来栄えのもの。図録あり(96ページ、1000円)。
8月29日
京都国立博物館
上田コレクション収蔵記念 特集展示 密教図像の美
(8月7日~9月8日)
同館が寄贈・譲渡を受けた密教図像の一大コレクションをお披露目展示。玄証筆定智本十二神将図像のうち真達羅大将図像や玄証所持の深沙大将図像、金剛童子図像の諸本など、大正新修大蔵経図像部に掲載されるよく知られたものが多数含まれる。大悲心陀羅尼并四十二臂図像は巻首に頭上に二手を上げ仏体を掲げ座る千手観音と眷属を描き、脇手の印相と持物を別紙貼り付けで個別に表す。宗宝僧正・宗杲僧正画稿も同コレクション所収。収集品全点掲載の図録(コレクション目録)あり(50ページ、1320円)。
NEUTRAL(堀川新文化ビルヂング)
山とフォークロア 異界の縁を歩く
(8月24日~9月1日)
京都府山岳連盟による京都の山岳と境界地の伝承を紹介する写真展。衣笠の土蜘蛛伝説や老ノ坂峠、夜泣峠など。
東大寺ミュージアム
特集展示 東大寺の地蔵菩薩
(7月18日~8月30日)
東大寺における地蔵信仰について紹介。念仏堂の閻魔王坐像、泰山府君坐像、知足院地蔵菩薩立像、法華堂地蔵菩薩坐像をじっくり。正徳5年(1715)の証菩提院地蔵縁起は初見。復興造営の奉行の没後、娘が地蔵像の手に父宛の手紙を持たせたら数日後父からの返事が返ってきたという内容。仏像は他界との境界線でもある。図録なし。
8月31日
和歌山県立博物館
世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」登録20周年記念 聖地巡礼-熊野と高野- 第Ⅱ期 神仏・祖師の住まう山-高野山上・山麓の宗教文化-
(前期8月3日~8月25日、後期8月31日~9月29日)
後期展示は前期展示からほぼ総取っ替え(前期が1~3章、後期が4・5章)。高野山麓の信仰の場と芸能の諸相に着目して資料を集める。高野山麓の翁系四面揃い2セット(勝利寺・上花園神社の一具四面と細川八坂神社の四面)が初めて並ぶ。それぞれを比較しながら鑑賞。手の違いはあるが、似たところもある。金剛峯寺の天野一切経会使用の舞楽装束、丹生都比売神社の国次作の太刀、慈尊院の天文9年(1540)銘を有する西国三十三度巡礼結願納札、花園久木・地蔵寺の健治二年(1276)銘を有する板絵十一面観音像などバラエティに富む資料がずらり。図録あり(50ページ、1000円)。
9月10日
福井市立郷土歴史博物館
松平家史料展示室企画展 ほとけの姿を読み解く
(9月6日~10月14日)
館蔵品・寄託品の仏画を中心に、仏のかたちや表現とその背景を紹介。安養寺阿弥陀二十五菩薩来迎図(重文・鎌倉時代初期)は、正面向きの群像が画面いっぱいに充満して往生者のもとに迫り来る聖衆を実感させる大幅。展示では中尊の印相を転法輪印とする点に注目。ほか雲に乗り着衣に精緻な截金を施した鎌倉時代の優品である性海寺地蔵菩薩像(重文)や館蔵のチベット仏画多数紹介。リーフレットあり。
9月11日
高岡市立博物館
特別展 開山国師生誕750年記念 國泰寺宝物展
(7月27日~10月6日)
高岡市の臨済宗国泰寺派総本山の国泰寺に伝来した文化財を紹介。開山慈雲妙意の頂相、その師法燈国師無本覚心の頂相のほか、慈雲妙意が無本覚心から授けられたとされる如意、国泰寺歴代住持職任命の際の口宣案、山岡鉄舟の関連資料、西郷隆盛書簡など多数展示。図録あり(8ページ、300円)。
9月16日
南方熊楠顕彰館
特別企画展 熊野古道の神仏と南方熊楠
(7月5日~9月16日)
最終日滑り込み。南方熊楠が神社合祀から守って今日に継承した熊野古道の景観についてのトピックと、近代初頭の修験道の退転と熊野の聖地の状況についてのトピックなどをパネルを活用して紹介し、世界遺産・SDGs・観光の現代的課題を考察する。近代期修験道については那智滝にて捨身を行った実利行者を取りあげ、その人物像を紹介する。熊楠の手記にあらわれる実利評価がかなり辛辣なのを知れて有益。図録なし。
9月26日
高野山霊宝館
第44回大宝蔵展 高野山の名宝
企画展 怖い?知りたい?-地獄・極楽の世界-
(7月20日~10月14日)
会期末に再訪。朝鮮仏画は円通寺本から宝寿院本の地蔵菩薩曼荼羅図に展示替え。運慶八大童子像(うち4体)を見納めでじっくりと鑑賞。
9月28日
岸和田城天守閣
久米田寺と称名寺-僧侶が結んだふたつの寺-
(9月12日~11月17日)
久米田寺と横浜・称名寺の僧侶によるつながりを紹介。神奈川県立金沢文庫特別展「久米田寺」(9月28日~11月24)との連携企画。金沢文庫展示で出陳される久米田寺の絵画資料は写真パネルを用い、また金沢文庫所蔵の複製も活用して展示を構築。実物資料は平安時代後期の紺紙金字法華経5巻、室町時代の十二天像のほか、近世の久米田池関連の絵図や古文書など。図録なし。
9月29日
龍谷ミュージアム
特別展 眷属
(9月21日~11月24日)
主尊に従いその威厳と威力の大なるさまを象徴する眷属の諸尊に着目する画期的な展示。今年1月のプレ展示に引き続き、全巻規模で開催。香雪美術館釈迦十六善神像、長寛3年(1165)銘を有する般若菩薩十六善神像(白描図像)、下部神社法華曼荼羅、松尾寺孔雀経曼荼羅、宝光寺不動明王二童子四十八使者像、霊雲寺大威徳明王像、正楽寺三宝荒神曼荼羅など多数の仏画と、興福寺十二神将像のうち安底羅大将立像、金剛峯寺八大童子像のうち阿耨達童子像、指徳童子立像、興善寺文殊五尊像のうち眷属4軀、東京国立博物館四天王眷属立像2軀などの彫刻資料を配して展示を構築。興福寺安底羅大将立像は、同群像の中では動勢表現のおとなしい印象であったが、間近にぐるりと鑑賞すると立体表現に抜群に優れることがよく分かる。眷属とは何か、どこからどこまでが眷属かなどさまざまに考える機会を提供する好企画。図録あり(128ページ、2200円)。
10月1日
大和文華館
特別企画展 禅宗の美
(9月6日~10月14日)
美術史実習にて学生へのレクチャーをいただき見学。禅宗に関わる美術資料を墨蹟や頂相、水墨画などから紹介。館蔵の虎関師錬筆墨蹟法語(重文)の修理完成を契機とする展示。本墨蹟と対幅となる諸戸財団の墨蹟(重文)が並べて展示され、その全体像が示される初めての機会。龍湫周澤像、一休宗純像、文清筆維摩居士像、雪村周継筆呂洞賓図、伝周文筆山水図屏風、雪村筆花鳥図屏風など館蔵の優品とともに、正木美術館から春景山水図や渡唐天神図など特別出品。リーフレットあり(A4・4ページ)。
10月4日
奈良大学博物館
企画展 奈良大学蔵 源氏物語図屏風の世界
(9月24日~11月30日)
オープン直前に館の空調が故障し、臨時休館ののちようやく無事開幕。大学所蔵の源氏物語図屏風とともに、関連する資料を集めて展観。大学所蔵本は金地に著名場面を散らす17世紀の作例。近時所蔵となった蹴鞠図屏風も並ぶ。個人所蔵の源氏香図や風流源氏うたかるたなど細密な描写の作品ほか、源氏モティーフの広がりを紹介。リーフレットあり(A4・4ページ)。
10月6日
有田市郷土資料館
企画展 浄妙寺薬師堂・多宝塔 重要文化財指定120周年記念 浄妙寺破損仏の世界。
(9月21日~11月26日)
同館寄託の浄妙寺破損仏や調度部材にクローズアップして、断片となっても文化財が伝来することの意義を伝える。『紀伊国名所図会』の記述から近世には同寺多宝塔に納められていたことが分かり、大きな長持内に詰め込まれて現代まで継承。平安時代後期から鎌倉時代前期にかけて制作された約30点を展示。江戸時代の浄妙寺縁起も公開。壊れた仏の魅力に迫る。常設展示にも燭台基台部など関連資料あり。展示資料撮影可。図録なし。かつて和歌山県立博物館で長く預かっていた資料で懐かしい。なおこの破損物群については小田誠太郎「有田浄妙寺の破損仏群について」(『和歌山県立博物館研究紀要』5、2000年)が詳細を報告する。
10月8日
龍谷ミュージアム
特別展 眷属
(9月21日~11月24日)
美術史実習にて学生連れて見学。さっそく再訪。東京国立博物館の四天王眷属像2軀をじっくり。後期(10/22~)は絵画資料総取っ替えとの由。図録あり(128ページ、2200円)。
京都国立博物館
特別展 法然と極楽浄土
(10月8日~12月1日)
浄土宗開宗850年を記念して、浄土宗諸本山が連携して開催する大法然展。春の東博展に続いての開催。彫刻資料を一室に集約したことで、それぞれ別章の展示資料である當麻寺奥之院法然坐像と奈良市・来迎寺善導大師坐像を並び安置して立体的な二祖対面の空間を演出したり、等身大の鎌倉時代前期作例である知恩院阿弥陀如来立像と西光寺地蔵菩薩立像(百万遍知恩寺塔頭伝来)が並び立つことなど、同館施設の特性を活かした展示空間作りを行う。當麻寺の綴織當麻曼荼羅は会期末3週間の展示で(11/12~)、それまでは同寸の永観堂禅林寺本(正安4年・1302)を展示。地域の特色が反映された資料の展示がパッケージ展ではない国立博物館巡回展の見どころであり、来秋九博展に向けて弾みのつく内容。前期・後期(11/6~)で大幅展示替えの由。図録あり(395ページ、3000円)。
10月12日
和歌山県立博物館
世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」登録20周年記念 聖地巡礼-熊野と高野- 第Ⅲ期 人・道・祈り-紀伊路・伊勢路・大辺路をゆく-
(10月12日~11月24日)
一年を通して開催中の世界遺産登録20周年記念展、第3期は全館規模にて熊野信仰と熊野参詣道沿いの文化財を紹介するとともに。近世の熊野参詣や旅する人々の動向にも目配りして資料を集める。聖護院の熊野本地仏曼荼羅、熊野宮曼荼羅、道成寺の道成寺縁起、四日市市善教寺阿弥陀如来立像と納入品、尾鷲市真巖寺薬師如来坐像や草堂寺・無量寺の長沢芦雪の襖絵、伊勢路の各地の古文書類として熊野街道善根宿納札、尾鷲組大庄屋文書、津市神戸第一・第二自治会の熊野那智参詣曼荼羅・熊野観心十界曼荼羅などなど。副題のとおり紀伊路・中辺路・大辺路と伊勢路も含めその参詣道の全体像を中世・近世のスパンで提示する点に新規性があり、世界遺産登録20年の区切りにふさわしい未来志向の熊野展。図録あり(148ページ、1600円)。
和歌山県立近代美術館
世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」登録20周年記念特別展 仙境 南画の聖地、ここにあり
(10月5日~11月24日)
世界遺産登録20周年の区切りに、和歌山の山・川に投影された理想の「仙境」からインスピレーションを得た南画を軸として、広く近代南画の展開を一望する南画研究の最前線展示。田辺市立美術館・熊野古道なかへち美術館との3会場連携開催。近世の文人画は紀州三代文人画家から祇園南海筆五老峰図(田辺市立美術館)、桑山玉洲筆雪山唫客図(脇村奨学会)、野呂介石筆那智群山図(個人)の
優品等をチョイス。富岡鉄斎、小野竹喬、土田麦僊、富田渓仙など著名作家による作品を幅広く集めるとともに、大亦観風、湯川三舟、福田静處、渡瀬凌雲、青木梅岳、稲田米花など和歌山に暮らし地域に根ざして制作を行った近代南画家の作品にクローズアップする重要な機会。地域美術館の役割を果敢に果たす近年白眉の南画展。図録あり(200ページ、2700円)。
和歌山市立博物館
特別展 和歌の聖地・和歌の浦1300年記念 聖武天皇と紀伊国-旅する人・もの-
(10月5日~11月24日)
聖武天皇和歌浦行幸から1300年目という区切りに聖武天皇の事績とともに和歌浦周辺の古代の仏教文化を紹介。東大寺聖武天皇像(鏡御影)、東大寺大仏蓮弁拓本(個人)、奈良国立博物館の正倉院宝物摸造やガラス製切子碗、大和文華館三彩印花碗、西隆寺跡出土瓦(奈良大学)などのほか、和歌山市内の上野廃寺出土と伝えられる隅木蓋瓦(奈良博蔵)、紀三井寺帝釈天立像、毘沙門天立像、唐~宋時代の四天王五鈷鈴など資料を集める。合わせて市内寺院に所蔵され、近時さまざまな助成も得て修理を行った紀三井寺地蔵菩薩像(三菱財団助成)、重要文化財・総持寺釈迦三尊像(住友財団助成)、総持寺当麻曼荼羅(出光美術館)の修理報告も兼ねて「極楽浄土への入口」の章を設ける。行政による地域の歴史と文化財の保護継承の取り組みを展覧会開催を通じて共有する意義ある取り組み。図録あり(76ページ、1800円)。
11月日
12月日
1月日
2月日
3月日