展覧会・文化財を見てきました。

─展覧会鑑賞・文化財見学に関する勝手な感想─

最終更新日 10月24日


平成30(2018)年度

4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月


4月16日
金剛寺
 金堂落慶記念 新国宝三尊特別拝観
 (3月28日~4月18日)

 平成21年(2009)から行われていた金堂修理が完成し、同じく修理が施されて国宝指定された大日如来坐像・不動明王坐像・降三世明王坐像の三尊が復位して落慶。大日如来は金剛寺創建の治承2年(1178)ごろ造像、不動明王は今回発見された像内銘により天福2年(1234)行快の作と判明、降三世明王も同作。修理の成果として、大日如来の台座・光背が本体完成後も未完成のまま半世紀ほどをかけて順次整備されたこと、頭部背面側部材の上端に螺髪が刻まれ、薄板材を貼り回して隠されていることが判明。造像時に他像の部材を転用したのだろうとのこと(奥健夫「天野山金剛寺金堂三尊像の保存修理と国宝指定」『月刊文化財』650、2017・11)。結縁。

4月22日
四天王寺宝物館
 国宝「懸守」納入の仏像-科学調査による新知見速報-
 (4月21日~5月6日)

 京博国宝展出陳時に行ったCTスキャンで、現存最古の懸守(国宝)7懸のうち桜折枝文分の内部に円筒形の仏龕が納められていることが判明。仏龕そのものは懸守を解体しないと出せないが、スキャンデータを元に3Dプリンターで出力したレプリカを展示。極小サイズであるが、平安後期、12世紀(前半か)の如来立像で精緻な台座・光背を伴う。檀龕の蓋部分には案上に香炉・供華が表され、地には截金で菱繋文を施す。院政期小檀像の新資料(見れないけど)。檀像つながりで千手観音及び二天箱仏(平安後期・重文)を参考展示。企画展「地より湧出した難波の大伽藍-四天王寺の考古学-」(図録あり、40ページ、無料)、特集陳列「四天王寺の春」も開催中(3/11~5/6)も開催。

4月25日
東京国立博物館
 平成30年新指定 国宝・重要文化財
 (4月17日~5月6日)

 恒例新指定展。高野山領大田荘(広島県世羅町)の鎮守・丹生神社の丹生明神坐像・高野明神坐像に張り付いて鑑賞。高野山鎮守天野社祭神像の木型と推定される和歌山・三谷薬師堂女神坐像との類似は、そのかたちの先後関係とともに、鎌倉時代初期の高野山における地域支配と神像図像の整備・造像のあり方を考える上でも重要。ほかに鎌倉初期慶派様式を示す、絢爛豪華な彩色・截金の西光寺地蔵菩薩立像、「巧匠法眼快慶」銘を有する圓常寺阿弥陀如来立像、康俊の手になることが確実な大光寺乾峯士曇坐像、奈良仏師の手になる本山慈恩寺の釈迦如来坐像・文殊菩薩坐像・普賢菩薩坐像などなど、彫刻の優品をありがたく鑑賞。

 創刊記念『國華』130周年・朝日新聞140周年特別展 名作誕生-つながる日本美術
 (4月13日~5月27日)

 國華創刊130年記念展。日本列島に伝わった美術資料のうち、人々の心を揺さぶる「名作」が、いかなる「つながり」によってかたち作られたのかを作例の分類と比較によって提示する、まさしく美術史のアカデミックな研究手法を展示室内に立ち上げる。彫刻では、檀像→代用檀像→木彫像の隆盛という、木彫論の四半世紀の成果を提示。宗教美術ではほかに、法華経と女人救済と普賢菩薩像、縁起と儀礼の場と祖師絵伝を、それぞれテーマとしてピックアップ。ほか雪舟・宗達・若冲、伊勢物語・源氏物語などを取り上げ、正統としての中国美術、正統としての古典との関わり方(模倣、転写、転用、意匠化などなど)の諸相を提示。形式化や硬直化についても触れると「写し」のイメージは理解しやすいが「名作」展では難しいか。図録あり(320ページ、2500円)。

北区飛鳥山博物館
 企画展 徳川家光と若一王子縁起絵巻
 (3月17日~5月6日)

 徳川家光が寛永18年(1641)に制作した若一王子縁起絵巻、上中下巻の模本を極力長ーく広げて展示するとともに、巻頭から巻末までの図版と詞書全文もあわせて掲示する丁寧さ。寛永期幕府寺社政策と詞書編纂に当たった林羅山の思想など原本(幕末期焼失)の制作背景に迫りつつ、模本群の制作者についても精緻な検討を行って、資料の歴史的位置づけを明確にしており有益。図録(108ページ、800円)にも、全紙の図版(画面が分断されないよう配慮)、詞書、関連資料、論考を掲載。

5月3日
滋賀県立安土城考古博物館
 特別展 武将たちは何故、神になるのか-神像の成立から天下人の神格化まで-
(4月28日~6月17日)

 神像表現と肖像表現の諸相を踏まえ、戦国~安土桃山時代における武将の神格化についてクローズアップする。主題部分(Ⅳ章)では織田信長・豊臣秀吉(豊国大明神)・徳川家康(東照大権現)の画像と彫像、秀頼筆の豊国大明神神号を集め、Ⅰ~Ⅲ章で仏像・神像・垂迹画をぎっちり展示。本隆寺僧形神坐像、地主神社僧形神坐像、山門鳥居堂男神立像、玉祖神社男神・女神坐像、市比賣神社女神坐像、壺井八幡宮女神坐像・童子形神坐像、談山神社藤原鎌足像、菅山寺天神坐像、大田神社僧形天神坐像、摠見寺織田信長像、理智院豊国大明神坐像、大樹寺東照大権現坐像、徳川記念財団東照大権現霊夢像などなど。神像とは何かという難解かつ重要な研究課題に対して、展覧会という形でモノ資料をもって体系化する意欲的な取り組み。図録あり(146ページ、1500円)。所収の山下立「日本の神とその造形をめぐって」は18ページにわたる大論文。 
 

5月4日
奈良国立博物館
 創建1250年記念特別展 国宝 春日大社のすべて
(4月14日~6月10日)

 藤原氏の氏社である春日社の創建1250年記年展。国宝古神宝類と武器・武具などの神宝、および多様な春日曼荼羅と春日本地仏の遺宝を紹介。昨年初頭の東京国立博物館「春日大社 千年の至宝」に引き続いての大規模展示であるが、何より、バリエーション豊富な春日曼荼羅(春日宮曼荼羅・春日補陀洛山曼荼羅・春日浄土曼荼羅・春日社寺曼荼羅・春日南円堂曼荼羅・春日若宮曼荼羅・春日鹿曼荼羅・春日本迹曼荼羅・春日本地仏曼荼羅・春日名号曼荼羅)を徹底的に集成しているのは、これまで継続して春日信仰展を開催してきた奈良博の膨大な研究蓄積によるもので、図録(376ページ、2500円)所収の谷口耕生「春日曼荼羅の成立に関する覚書」とあわせ、現時点での春日曼荼羅研究の到達地点が提示される。古神宝、春日曼荼羅とも、前後期で(後期:5/15~)大半が展示替え。

春日大社国宝殿
 御創建1250年記念展Ⅱ 聖域 御本殿を飾る美術
(4月1日~8月26日)

 春日大社本殿修理に伴って剥ぎ取り保存された御間塀障壁画四面など、神の住まう空間を荘厳する調度や護衛する霊獣を集めて展示。四社殿それぞれに安置された鎌倉時代(一部室町時代)の獅子・狛犬4対、瑠璃灯籠、花菱螺鈿八足案など。

5月14日
法隆寺大宝蔵殿
 法隆寺秘宝展
(3月20日~5月31日)

 恒例、春の秘宝展。飛鳥~鎌倉時代の仏像のほか、建長6年(1254)絵仏師尭尊作の聖皇曼荼羅、貞治3年(1364)の法隆寺縁起白拍子、紺絹地金銀泥両界種子曼荼羅(鎌倉時代)、七大寺巡礼私記(展示部分は法隆寺条)など。西院伽藍で金堂諸尊と講堂諸尊、大宝蔵院のきらめく仏像群、東院伽藍の救世観音像もご拝観。

當麻寺
 練供養会式

 来年から4月14日(中将姫命日)に日程が変わるので、旧暦による最後の練供養(来迎会)を見学。平日ながら善男善女が大参集。来迎のリアリティを体験することは、(死後の)救済の確信を得るための行為。道具立てとしては、視線の集中する観音が奉持する往生者像が重要。しっかり写真撮る。

5月16日
東寺宝物館
 東寺の菩薩像-慈悲と祈りのかたち-
(3月20日~5月25日)
 食堂本尊千手観音立像の修理完成から50周年とのことで、菩薩をめぐる資料を集める。月輪内に結跏趺坐する聖観音を中央に描き、その周囲に八葉の蓮弁上の8駆の阿弥陀如来が取り囲む様子を斜め上から俯瞰する特殊な観音曼荼羅(阿弥陀曼荼羅)、9世紀の聖僧文殊坐像など。鎌倉時代とされる菩薩坐像(平成4年(1992)発行『東寺の菩薩像』16番の像)は、高髻(ただし大部分亡失)上部正面に髪束で花弁形を表し、背面臀部の横皺のある腰帯表現があって、平安時代末期の奈良仏師作例のよう。図版では全然分からなかったので、やはり展覧会はありがたい。リーフレットあり(8ページ)。

龍谷ミュージアム
 特別展 お釈迦さんワールド-ブッダになったひと-
(4月21日~6月17日)

 仏教総合博物館を表明する龍谷ミュージアムで、仏教の開祖であるガウタマ・シッダールタを真正面から紹介し、釈迦への思慕(信仰)の系譜をたどりながら、仏教芸術の基本たる仏伝の表象を紹介する好企画。奈良博仏伝浮彫はストゥーパを模した台上にぐるりと展示して効果的。鹿王院の伝顔輝筆釈迦三尊像や伝牧谿筆出山釈迦図、西来寺出山釈迦図、中之坊寺の周四朗筆仏涅槃図、叡福寺涅槃変相図といった宋元仏画の数々、そして涅槃図の周囲に釈迦の事蹟を配した涅槃変相図や釈迦八相図など仏伝の芸術を集め、現存唯一の写本である金剛寺十二問経や七寺釈迦譜など仏伝諸経典も充実。手塚治虫『ブッダ』の直筆原画も各所に効果的に展示。テーマの深さ、徹底した作品収集は龍谷ミュージアムの開館以来のよき伝統。展示室内のシアターでは展覧会に合わせたコンテンツを上映(釈迦の生涯を紹介)。図録あり(288ページ、2000円)。

京都国立博物館
 特別展 池大雅-天衣無縫の旅の画家-
(4月7日~5月20日)
 文人画家、池大雅の大回顧展。絵と書がぎっちり。文化庁前後赤壁図屏風、遍照光院山水人物図襖、瀟湘勝概図屏風など大作の代表作はもとより、李珩筆腕底煙霞帖、張端図筆秋景山水図など手本とした中国画や画譜、指墨(頭)画のいろいろを集めて、その生涯の画風と書風の形成をたどる。祇園南海の跋文(展示なし)のある楽志論図巻、自賛に「奉以龍門祇園先生」とある浅間山真景図といった紀州関連の作品と、不思議にダイナミックな運筆の絵と書の騰雲飛濤図、横長で雄大な構図の四季山水図4幅(冬景のクリアーに見晴るかす遠景!)をじっくり。図録あり(304ページ、2500円)。

5月20日
MIHO MUSEUM
 特別展 猿楽と面-大和・近江および白山の周辺から-
(3月10日~6月3日)

 鑑賞2回目。大和(紀伊含む)・近江・白山周辺の社寺などに群として伝来する、作風に定形化の見られない個性溢れる魅力的な中世資料を初めとする多数の猿楽面を集める。中尊寺の翁、天河神社の尉(永享2年〔1430〕観世元雅奉納)、長滝白山神社の女(鎌倉~南北朝)、春日神社の笑尉(一トウ作)や小面(永和2年〔1376〕)といった仮面史上重要な資料多数。図録あり(402ページ、3000円)。

5月26日
名古屋市博物館
 企画展 博物館イキ!
(4月28日~6月10日)

 名古屋市博物館が多く市民の寄附により収蔵してきたコレクションを、集める・調べる・語る・活きるの4章(22節)に分類して紹介する。茶人・森川如春庵のコレクション、横井庄一生活資料、高力猿猴庵の本、伊勢湾台風資料といった作品群のほか、円空作十一面観音立像、名古屋東照宮祭礼図巻、秀吉文書、修理された伊勢参宮図屏風などなど。昨年開館40周年を迎えた同館の、コレクションを核とした多様な博物館活動のあり方を示すことで、博物館の社会的意義を表明する。図録あり(112ページ、900円)。

ヤマザキマザック美術館
 尾州徳川の花相撲 帝もサムライも熱中!いとしの植物たち
(4月20日~8月26日)

 名古屋園芸創業者収集資料である雑花園文庫のさまざまな近世の植物図譜類と、そうした日本の植物図譜を活用して模様が描かれたエミール・ガレのガラス作品を展示し、あわせて現代作家による植物図やアートフラワーで空間を埋める。タイトルは尾張で「花相撲」という行事が行われていたということではなく、江戸時代における花卉への熱狂の比喩表現。図録なし。

蟹江町歴史民俗資料館
 企画展 川と水に育まれたまち蟹江
(5月12日~7月15日)

 水郷のまち蟹江の生業や産業、食文化、文化人を紹介。常設展示の集約版といった内容。当地が黒川紀章の出身地と知る。リーフレットあり。

6月5日
神奈川県立金沢文庫
 企画展 御仏のおわす国-国宝 称名寺聖教がつむぐ浄土の物語-
(5月11日~7月8日)

 仏国土イメージの語られ方とその受容の展開を、称名寺聖教と宋版一切経をフル活用して提示する。冒頭で、仏国土としての娑婆(サハー)と、釈尊涅槃後の無仏時代(阿羅漢の時代)における弥勒下生を希求する物語を丁寧に提示するのは、もちろん称名寺本尊弥勒菩薩への信仰を踏まえてのこと。ずらり並ぶ経典は、雑阿含経・中阿含経・増一阿含経・仏般泥洹経・阿毘達磨大毘婆娑論・四分律・注維摩詰経・大般若経・法華経・華厳経等々。展示後半は極楽浄土をめぐる様々な思想・言説を並べる。阿弥陀経、観無量寿経など浄土経典とともに覚鑁著作の五輪九字明秘密釈(建長6年〔1254〕書写本)、一遍上人法語集(播州法語)なども紹介。重厚な仏教史展示を見る幸せ。展示導線はかなりアクロバティック。図録あり(80ページ、1200円)。

神奈川県立歴史博物館
 開館51周年記念 つなぐ、神奈川県博-Collection to Connection-
(4月28日~7月1日)

 施設改修休館ののちの再オープン記念として、着任して2~8年の若き学芸員たちが、神奈川県博のコレクションを「ドームをつなぐ」「ひとをつなぐ」「空間をつなぐ」「研究をつなぐ」「チカラをつなぐ」「未来をつなぐ」の各テーマを受け持って分野横断的に資料を選択し、専門分野外の解説も行うチャレンジングな展示。資料のさまざまなつながりとともに、新たな学芸員が使命と博物館史を継承するねらいのよう。収蔵資料の多様さと、神奈川県博の活動の多様さが十分に伝わる一方、館蔵品のみ(一部寄託品含む)で各章のコンセプトを明快に示すことの難しさと、展示空間の使いこなしの生硬さも見受けられるが、そこは同館の活動の特色たる解説ボランティアさんたちがフォローして支える。さまざまな「ひと“が”つなぐ」神奈川県博を体現する展示。図録あり(168ページ、1000円)。

6月18日
高野山霊宝館
 企画展 室町時代の高野山
(4月14日~7月8日)

 室町時代(南北朝・室町・戦国時代)の高野山における信仰の所産を、絵画や古文書、工芸品を中心に紹介。南北両朝との距離を保った一山の体制を誓った貞和4年(1348)金剛峯寺衆徒契状写、 文和3年(1354)宥快が入手した梵本大般涅槃経断簡(空海筆として伝授)、天野社一切経会で用いられた舞楽装束類、続宝簡集により大永3年(1523)根来寺僧頼秀寄進が分かる筒型厨子入愛染明王像(五指量愛染)、奥之院納置の高麗版一切経など。紫雲殿の特集展示「仏涅槃図と仏さま」では、愛知県立芸術大学によって模写された国宝仏涅槃図のお披露目。ほか、嘉靖14年(1535)画員吉宋・霊云・宝□・道峯の手になる、本紙縦約4mの李氏朝鮮時代の釈迦八相図は、元和7年(1621)僧円秀寄進になるもの。円通寺地蔵菩薩曼荼羅図も李氏朝鮮時代の作例。図録なし。

6月20日
國學院大學博物館
 特別展 狂言-山本東次郎家の面-
(5月26日~7月8日)

 大蔵流山本東次郎家伝来の狂言面の中から優品を選んで展示。冒頭、中世の黒色尉が5面、ずらりと並び、中でも鎌倉時代とされる一面は実年代不明も、大ぶりで確かに古様(この面のみ面裏鑑賞可)。翁(白色尉)、父尉、延命冠者も伝来するのを知る。鬼、神鳴、青武悪など珍しいもの多く、良質な家元伝来仮面を堪能。図録あり(44ページ、1000円)。

半蔵門ミュージアム
 特集展示 神護寺経と密教の美術
(4月19日~7月29日)

 真如苑所蔵仏教美術公開施設、初鑑賞。運慶作の可能性が極めて高い大日如来坐像を常設展示。しばし像のまわりをぐるぐると行道しながら鑑賞。運慶作例と納入品について紹介するパネル展示もあり(別階)。特集展示では神護寺経2巻と経帙、画中に永享10年(1438)銘のある不動明王像、性霊集巻六の建久7年(1196)書写本、昌泰3年(900)の当時解由状(益信と聖宝の自署あり)など。

6月21日
東京国立博物館
 特集 平成29年度 新収品
(6月19日~7月29日)

 東博の新収蔵資料のお披露目。身の毛もよだつ恐ろしい表情を見せる梅若家伝来の山姥(伝赤鶴作)は、定形化する以前の中世仮面らしい個性的な魅力と、それでいてゆがみなく左右対称に整った造形が狂気をより強調する。怪異表現の一つの到達点。仮面の年代比定は本当に難しいが、南北朝時代(14世紀)とされる(観阿弥の時代)。後に定形化する能面では洗練度を高めて抑制される自然で奔放で生き生きとした感情表現こそ、中世猿楽面の魅力。

びわ湖長浜KANNON HOUSE
 高月町横山 横山神社 馬頭観音立像
(3月20日~6月24日)
 会期終了間際、ひと目だけでもとばたばたと飛び込み鑑賞。平安末~鎌倉初期造像の横山神社本地仏像。「再び会いたい観音さまリクエスト投票」で選出との由。自らが念じる観音さんにリクエストを送ると応現するというのは、観音信仰のメタファーでもある。長浜と東京をつなぐ細やかな仕掛けは、地域を特色づける宗教文化(観音信仰)自体の紹介という施設自体の目的を体現するもの。歴史や文化、信仰の尊厳を損なわずに「展示」するこうした練られた手法は、「消費」でない文化財活用のお手本ともいうべき理想的なあり方の一つ。

7月7日
堺市博物館
 企画展 堺県150年 堺県とその時代-近代地方行政のさきがけ-
(6月2日~7月8日)

 
慶応4年(1868)から明治14年(1881)まで存在した堺県について取り上げる。堺県は現・堺市域を中心に、河内・和泉・大和を含み込む広大な県で、のち大阪府と合併し、奈良県が分離した。展示は基本的に堺市域にまつわる事蹟や資料を中心とするもので、堺事件、知事小河一敏と税所篤、明治9年堺博覧会(於南宗寺)、明治天皇堺行幸などを紹介。奈良については、奈良公園の前提として最古の公立公園浜寺公園に触れる部分、堺博覧会の影響として明治11年~13年奈良博覧会に触れる部分に留まる。宗教政策や古器旧物保存方には触れず。残念。図録なし。

7月15日
奈良国立博物館
 修理完成記念特別展 糸のみほとけ-国宝 綴織當麻曼荼羅と繍仏-
(7月14日~8月26日)

 綴織當麻曼荼羅修理完成を記念して、刺繍と織物によって表された仏を集め、繍仏・織成像の系譜をたどる。古代の国家寺院における大幅本尊像としての機能と、中世の阿弥陀信仰に基づいた死者追善のための小幅供養像という機能の断絶と転換を、作品によって明快に伝える。近世もフォローし、大人数の結縁による作例や大幅の復活など、再び大きな転換があったことをほのめかす。なにより貴重なのは、天寿国繍帳(中宮寺)・綴織當麻曼荼羅(當麻寺)・刺繍釈迦如来説法図(奈良博)・刺繍霊鷲山釈迦如来説法図(大英博物館)と、現存する7-8世紀東アジア製大画面繍仏・織成像が集まった奇跡の空間で、ケースの関係で導線も変更。織成像という用語が強調されたことも重要。今後、近世以降の織物仏画(かなり多い)を表現する際は織成像を使うことにする。昭和38年の奈良博・繍仏展以来55年ぶりのテーマで、次は半世紀先かも。必見。図録あり(320ページ、2500円)。

8月3日
神奈川県立金沢文庫
 特別展 安達一族と鎌倉幕府-御家人が語るもうひとつの鎌倉時代史-
(7月20日~9月17日)

 鎌倉幕府の有力御家人安達氏に着目して、その信仰と政治動向などを展示する初の機会。安達氏の拠点鎌倉甘縄に設けられた真言寺院無量寿院を称名寺文書や考古資料から復元するとともに、諸社寺勧進状写により秋田城四天王寺の観音像の写しを安置したことが判明した甘縄観世音寺については、宮城県・天王寺の四天王寺式の如意輪観音・四天王像の紹介を通じてその信仰の場のイメージを立ち上げる。秋田介ゆえに秋田城の守護仏を模刻し信仰したというのは、武士の信仰のあり方を考える興味深い事例。ほか安達氏の尽力により作られた高野山町石、舎利を巡る修法、蒙古襲来、霜月騒動についても紹介。霜月騒動に関わる重要史料である本證寺所蔵の霜月騒動聞書(凝然筆梵網戒本疏日珠抄紙背)も展示。図録あり(1600円、112ページ)。新発見の平安時代初期彫像である勝林寺釈迦如来坐像も公開中。
 
8月6日
東大寺本坊
 東京藝術大学が育む文化財保護の若き担い手達展
(7月27日~8月7日)

 東京藝術大学文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室の院生が、研究のため模刻・修理した仏像を、研究内容の詳細パネルとともに紹介。模刻による原像製作者の追体験を通じて体験的に得られた技法、構造の工夫やノミさばきなどの特徴を、理論として叙述する大切な取り組み。東京芸大所蔵の日光菩薩坐像など、目を凝らしても本物かと見紛う出来映え。東大寺中性院の弥勒菩薩立像の構造模型、その複雑さが一目で分かり、有益。修理が行われた個人所蔵の鎌倉時代の阿弥陀如来立象も展示。このたび同研究室によって新造された磐梯山慧日寺の薬師如来坐像についても、仕上げ検討用の縮尺像とともにパネルでその製作過程を紹介。同研究室の毎年の活動を紹介した分厚い年報は、寄付金の納付により入手可能。

8月16日
奈良国立博物館
修理完成記念特別展 糸のみほとけ-国宝 綴織當麻曼荼羅と繍仏-
(7月14日~8月26日)

 再訪。古代の大画面作品、中世の来迎図ワールドを見納め。勧修寺繍帳の立体絵画っぷり、中世の追善作例の表具裂をも刺繡する徹底した荘厳の姿勢に嘆息。布帛を加飾するための基本的な技法が、尊像表現に用いられるとにわかに「作善」の意味が立ち上がることが興味深い。本展をリスペクトして、直近の担当企画展「和歌山の文化財を守る」でも心窓常圓の繍仏を参考出陳することにする。図録あり(320ページ、2500円)。

8月18日
高野山霊宝館
第39回大宝蔵展 高野山の名宝-“もののふ”と高野山-
(7月14日~10月8日)

 師檀契約を結ぶ高野山上の子院の伝来品を中心に、武士にまつわる資料を紹介。肖像では、豊臣秀吉像(金剛峯寺)、木食応其像(蓮華定院)、武田信玄像(成慶院)、長尾景虎(上杉謙信)像(清浄心院)、北条早雲像(高室院)、立花宗茂像(大円院)、浅井久政・長政・長政夫人像(持明院)、真田昌幸・信繁像(蓮華定院)など。ほか、等身大の束帯坐像(金剛峯寺)は、徳川家康像の可能性が高いもの。国宝・五大力菩薩像(有志八幡講)も公開中。図録なし。

8月26日
MIHO MUSEUM
 特別展 赤と青のひ・み・つ-聖なる色のミステリー-
(6月30日~8月26日)

 赤と青の色に彩られた世界の美術品を、館蔵品を中心に紹介。メキシコ・オルメカの変身する人物立像、辰馬考古博物館のみみずく土偶(重文)、伊藤若冲筆達磨像、二月堂練行衆盤、エジプト・ベス神形容器、イラン・白釉青線文碗、中国・青磁蓮弁文碗など。夏休みの展示として、展示室の各所に職員を配置してクイズやワークショップを行い、親子連れも多く来館。ワークショップ用の小冊子(16ページ)あり。

9月2日
和歌山県立紀伊風土記の丘
 学校にあるたからものⅡ
(7月21日~9月2日

 最終日滑り込み。かつて県内の学校に集められ、伝えられながら、半ば忘れられた存在となり喪失の危機に直面しているさまざまな歴史資料を調査・再評価し、集約して展示公開する。和歌山市立川永小学校の立里荒神講の道具、和歌山市立和佐小学校の近世の鉄兜、和歌山市立山東小学校の蓋形埴輪、海南市立黒江小学校の鯨絵巻、県立日高高等学校の円筒埴輪などなど。こうした取り組みの中で構築される展示理論は広く全国の事例に敷衍しうるものであり、貴重な実践活動。図録なし。

9月22日
東寺宝物館
 東寺の如来・祖師像-悟りと祈りのかたち-
(9月20日~11月25日)

 寺蔵の如来像・祖師像を選んで展示。真言七祖像(国宝・唐時代・李真ら筆)のうち一行像(後期〔~10/23〕は不空像)が出陳。密教相承の歴史が凝縮する奇跡の巨幅を拝み見る。空海弟子を描いた和八祖像(南北朝時代)は真雅・源仁・観賢・淳祐を展示。十大弟子像とは異なるまとまりがあることを知る。ほか弘法大師像(談義本尊・重文・鎌倉時代)のほか、不空三蔵行状(南北朝時代)は類本中最古の写本。リーフレットあり(12ページ、無料)。

泉屋博古館
 特別展 仏教美術の名宝
(9月8日~10月14日)

 館蔵品を軸にアジアの仏教美術を、概ね中国・朝鮮半島の金銅仏、日本の木彫仏、仏画から紹介。優れた作行を示す新出の朝鮮・三国時代の作例として注目される妙傳寺の菩薩半跏思惟像(伝如意輪観音像)は地元京都で初披露ということで、展示室前ロビーに伝来した八瀬の地域的な説明も含めて紹介。江戸時代初期の同寺創建以来、八瀬童子が400年守った半跏像、というフレーズはとても魅力的。ほか、大和2年(498)銘弥勒仏立像(重文)、大治5年(1130)銘阿弥陀如来坐像(重文、伝河内国井深西恩寺伝来)、修理完成後初披露の毘沙門天立像(平安時代)、線刻仏諸尊鏡像(国宝・平安時代)など。図録あり(A5版・42ページ、600円)。

京都市歴史資料館
 企画展 京都市の文化財-新指定の文化財と明治の建物-
(前期9月21日~10月7日 後期10月10日~10月30日)

 近年京都市指定文化財に指定された優品を紹介。祇園祭の保昌山の胴懸下絵である円山応挙筆の巨霊人虎図(後期は張騫鳳凰図)の生き生きとした筆致に嘆息。安永2年(1773)ごろ作。綾傘鉾の巡柱で用いられた飛出と癋見は宝永5年(1708)銘あり。善峯寺の色絵牡丹唐草透彫七宝繋文六角壺は享保17年(1732)に霊元天皇妃敬法門院寄進。古清水の基準となる華麗な作品。ほか、後期展示では立本寺の文永10年(1273)覚円作金剛力士像面部残欠が出陳。明治時代の建造物の詳細な紹介もあり。リーフレットあり(8ページ、無料)。見学後、近くの革堂行願寺参拝。
9月28日
和歌山市立博物館
 特別展 お殿様の宝箱 南葵文庫と紀州徳川家伝来の美術
(9月15日~10月21日)

 かつて紀州徳川家に伝来した数々の資料を、南葵文庫旧蔵品・南葵音楽文庫旧蔵品・紀州徳川家売立品の枠組みから集約する。紀州徳川家の赤坂邸内に設置された南葵文庫は、関東大震災により焼失した東京帝国大学図書館にその蔵書が引き継がれ、多くが現存する。南葵音楽文庫の資料は読売日本交響楽団に引き継がれ現在和歌山県博寄託。そして3度の売立により散逸した紀州徳川家伝来品は、さまざまな所蔵者の元に散らばって収蔵される。売立品が集約されるのはこれが初めての機会で、鹿苑寺の伝牧谿江天暮雪図(~9/30)、岡山県立美術館の牧谿筆老師図(10/2~)、個人蔵仇英筆山水人物図巻、たばこと塩の博物館収蔵(大蔵省専売局旧蔵)のたばこ盆4組、徳川治宝が収集し現在国立歴史民俗博物館所蔵の雅楽器(笙・龍笛・琵琶)など、優品が集まって絢爛豪華。江雪左文字(国宝・太刀銘筑州住左)はパネルで紹介。
 重要なのは最後に、南葵文庫を創立した徳川頼倫、南葵楽堂・音楽文庫を創立した徳川頼貞の社会事業についても、家財を費やしたミュージアム事業への先鞭と史跡名勝天然記念物保存協会の運営、そして芸術家をサポートした芸術文化支援事業として顕彰する視点を設定したことで、それらを現代につながる文化事業の先駆けとして肯定的に位置づけながら、高邁な諸事業による家産の破綻が売立にいたった経過をも如実に示していることである。一見、紀州徳川家の名宝展であっても、紀州徳川家の家産の整理から散逸にいたる近代史を展示室内全体で見事に立ち上げて、現代のミュージアムやライブラリー、文化財保護行政を巡る問題に接点を設けた重厚な内容となっているのは担当者の力量。図録あり(94ページ、1000円)。

10月4日
多摩美術大学美術館
 加東市×多摩美特別展 神仏人 心願の地
(9月1日~10月14日)

 加東市内に所在する主に宗教文化に関わる文化財を東京で紹介。清水寺の銅造菩薩立像(重文)、秘仏本尊厨子内安置の毘沙門天立像、朝光寺の秘仏本尊千手観音立像(重文、東本尊)、独特な風貌の翁面のほか、東古瀬地区の地蔵菩薩立像、花蔵院釈迦十六善神像、持宝院熊野観心十界図など、拝観・鑑賞の機会の限られる資料多数で貴重な機会。清水寺の大日如来坐像(五智如来坐像のうち)は、髻に毛束で表した花形飾りや、背面腰帯の横皺の表現、正中で左右矧ぎとする構造など、平安時代末期の奈良仏師作例と見られるもの。光背・台座も古様なところがある。各作例の年代比定には検討が必要なものもあるが(偉そうにごめんなさい)、この機会でなければ見られず、知ることのなかった作例に出会えたことの幸せ。図録あり(184ページ、2500円)。

三井記念美術館
 特別展 仏像の姿-微笑む・飾る・踊る-
(9月15日~11月25日)

 仏像の顔・装飾・動きに着眼し、造像に携わった仏師の感覚や技量を実作例を通じて共感的に鑑賞する試み。四天王寺阿弥陀如来及び両脇侍像(重文)、聖衆来迎寺薬師如来立像(重文)、誓願寺毘沙門天立像(重文)といった教科書的な名品とともに、鑑賞機会の少ない個人所蔵資料を積極的に集めて、バラエティに富んだ顔ぶれの出陳品群を形成する。かたちの面白さとともに、素材としての木の聖性にも目配りしていて、瀬古区十一面観音立像(重文)、長円寺十一面観音立像(重文)、本山寺観音菩薩立像(重文)、個人蔵の観音菩薩立像、個人蔵弥勒菩薩立像、四天王寺十一面観音立像と、檀像の系譜をたどるような見方も可能。東京藝術大学文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室による模刻像や修復作例も紹介。図録あり(108ページ、2000円)。

10月13日
愛荘町立歴史文化博物館・多賀町立博物館
 仏師の世界-文化財修理にかける心
(9月8日~10月14日)

 愛荘町と多賀町の2会場でテーマを揃え、美術院で活躍した仏師飯田雅彦氏の仕事を中心に、文化財修理の意義や実際を紹介。愛荘町会場は「文化財修理に携わる仏師」として飯田氏の生涯とその道具を紹介、多賀町会場では「木を刻む」として道具類とともに木材の樹種等を紹介。愛荘町会場に飯田氏が修理した五百井神社男神坐像と獅子・狛犬、多賀町会場に近隣の胡宮神社との関わりで重源上人坐像模刻を展示。元琵琶湖文化館学芸員の井上ひろ美氏の監修で滋賀における新しい展示作製のあり方であり、開催の経緯や対象の選定理由も今後知りたいところ。図録あり(16ページ、500円)。見学後、多賀大社にもご参拝。

櫟野寺
 日本最大坐仏観音秘仏本尊十一面観世音菩薩大開帳
(10月6日~12月9日)

 櫟野寺本尊十一面観音坐像の33年に一度の大開帳に結縁。先年の東博での展示はこれに合わせた本堂改修に伴うもの。ずらり並ぶ仏像群には東博キャプションを再利用。展示されていなかった平安時代の僧形神坐像あり。檀家・役員総出で拝観者対応されており祝祭感あり。拝観後、甲賀総社の油日神社も参拝。

10月16日
大津市歴史博物館
 湖信会設立60周年記念企画展 神仏のかたち-湖都大津の仏像と神像-
(10月13日~11月25日)

 大津市内の十社寺によって組織される湖信会60周年記念として、各社寺及び関連寺院所蔵の仏像・神像・仏画を、尊像の種類別に集めて紹介する。石山寺大日如来坐像(快慶作)や西教寺薬師如来坐像といった著名な作例とともに、聖衆来迎寺の愛染明王坐像や吉祥天立像など、近年の同館の調査によって見いだされた新出資料も多数。作品に付せられた各作例の特徴を的確に伝えるパネル(図録にも掲載)は、仏教美術を親しみやすく、またより深く鑑賞するための視点を提供する丁寧なもの。図録あり(144ページ、1200円)。

京都国立博物館
 特別展 京のかたな-匠のわざと雅のこころ-
(9月29日~11月25日)

 平安時代後期から現代までの山城鍛冶の作刀の歴史を、三日月宗近(東博・国宝)、後藤藤四郎(徳川美・国宝)、有楽頼国光(個人・国宝)、圧切長谷部(福岡市博・国宝)などなど、数々の名物を含む177口(展示替えあり)の刀剣(太刀・刀・脇差・短刀・剣・鑓・薙刀)によって凝縮して伝える意欲的な展示。刀剣ブームの中であえて総花的な内容にはせず、地域を絞った緻密で重厚な刀剣史叙述に徹していて好感。一方本館(明治古都館)のイベント展示は熱量不足。図録あり(276ページ、2600円)。

10月17日
福岡市博物館
 特別展 浄土九州-九州の浄土美術- 
(9月15日~11月4日)

 九州における浄土(阿弥陀)信仰の所産を、地獄・極楽の対比を導入にして、鎮西上人弁長による浄土宗の教線拡張、来迎美術の諸相、真宗寺院萬行寺の調査成果報告から構成して紹介。肥後国川尻荘の満善寺から禅林寺に伝来した正安4年(1302)制作の當麻曼荼羅(重文)、福岡・萬行寺の仁治3年(1242)快成作阿弥陀如来立像、事前調査で像内より承久4年(1222)仏師琳賢銘のある納入品が取り出された佐賀・弥福寺阿弥陀如来立像のほか、佐賀・称念寺、福岡・玉樹院、鹿児島・光明禅寺といった、歯吹き・螺髪植え付け・仏足文表現に伴う銅製棒枘などを伴う生身像も集める。九州全体を俯瞰した仏教美術研究の最前線に接する貴重な機会。図録あり(240ページ、2500円)。
 
九州国立博物館
 特別展 オークラコレクション-古今の美を収集した父子の夢- 
(10月2日~12月9日)

 大倉集古館改修中の機会に、オークラコレクションの精華を紹介。類品の少ない十六羅漢像、普賢菩薩騎象像(国宝)、古今和歌集(国宝)、高麗時代の乾漆菩薩坐像など鑑賞。図録あり(256ページ、2400円)。実業家による広汎な美術品収集とコレクション形成のようすが整理されていて参考になる。
 また文化交流展示室の特集展示「坂本五郎コレクション受贈記念 北斎と鍋島、そして」は古美術商のコレクション寄贈を受けた展示であるが、特別展とも一部資料を連携させ、全体として個人コレクションに脚光を当てる構成とする。
 近現代期の古美術コレクション形成には正負両面の歴史があるが、歴史の断絶(伝来情報の喪失)を収集者のパーソナリティーによって上書きし正当化することではない、現代社会において共有すべき知見へと昇華する工夫は、公立館の場合特に考え続けないといけない課題。

10月21日
中之島香雪美術館
 珠玉の村山コレクション-愛し、守り、伝えた- Ⅳ.ほとけの世界にたゆたう
(10月6日~12月2日)

 大阪中之島にオープンした新たな美術館の、1年間にわたる開館記念展の第4期。朝日新聞創業者村山龍平の仏教美術コレクションを展示。平安時代前期の薬師如来立像(重文)、稚児観音絵巻(重文)、永禄2年に高野山西院・報恩院来義が寄進した旨を裏書きする阿弥陀二十五菩薩来迎図、独尊の釈迦金輪像など。不動明王八大童子像と阿弥陀如来・観音菩薩・地蔵菩薩像については、明治24年に宮内省臨時全国取調局が発行した監査状が付随することも紹介。図録あり(254ページ、2500円)。所収論考2編(臼倉恒助「新聞人と収集家がクロスする時」、勝盛典子「村山コレクション形成の軌跡を追って」)は村山が庇護した雑誌『國華』、そして朝日新聞紙面の記事を足がかりに、明治時代の収集家による古美術保護へのまなざしを浮かび上がらせるもので有益。

10月22日
高野山霊宝館
 企画展 “香り”の荘厳
(10月13日~1月14日)

 高野山に伝来する名品・稀品で、仏と儀礼の場を荘厳する“香り”を可視化した意欲的な展示。香炉が描かれる蓮華三昧院阿弥陀三尊像(国宝、前期)、壇木を用いた諸尊仏龕(国宝)、普門院釈迦如来及び諸尊像(重文)、竜光院蓮華形柄香炉(重文)などの名品から、天文12年銘のある香木沈香、寛文4年銘のある赤栴檀木片、桃園天皇遺品の香盆并香具といった稀品が並ぶ。不断経用の大きな香木をそびえ立てた青磁大香炉は、元文元年(1736)の寄進名があることから制作時期もそのころとするが、中国・元時代の作品のよう。本館紫雲殿では、正智院釈迦三尊十六羅漢像は、大画面の中央に釈迦三尊像、周囲に16の区画を設けて十六羅漢を描くもので、明~清時代とされるが、鎌倉時代前期ごろの類品の少ない新資料。高麗仏画では至正10年(1350)銘の五坊寂静院弥勒下生変相図、近世絵画では伝曽我二直庵筆鶏図屏風、海北友松筆周茂叔愛蓮図、近代絵画では親王院岩田正巳筆高野草創図「大師・明神」など見どころいっぱい。香りの体験として、五香(白檀・沈香・丁字・鬱金・龍脳)の嗅ぎ比べもできる。白檀や丁字のすかっとした香りに比べ、龍脳の湿ったような香りにくらくらする。図録なし。

11月
12月
1月
2月
3月