展覧会・文化財を見てきました。

─展覧会鑑賞・文化財見学に関する勝手な感想─

最終更新日 3月29日

2023度

4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月


4月5
龍谷ミュージアム
 特別展 真宗と聖徳太子
(4月1日~ 5月28日)
 親鸞生誕850年記念に、真宗における聖徳太子信仰の諸相を紹介。真宗では親鸞が六角堂にて聖徳太子の示現を得て専修念仏へと進んだことから聖徳太子を重視する。順照寺和朝太子先徳連坐像(至徳元年・1384)、佛道寺光明本尊(応永5年・1398)、豪攝寺南無仏太子像、頓受寺南無仏太子像、光照寺聖徳太子童形立像、西光寺童形立像(暦応4年・1341)、松岡寺聖徳太子孝養立像、常楽臺存覚像(応安5年・1372)、瑞泉寺聖徳太子絵伝、正雲寺聖徳太子絵伝、)などなど、中世の作例多数。真宗系絵伝や祖師像の多様なバリエーションを一望できるありがたい機会。出陳リストにないが、展示の最後にハーバード大学美術館所蔵の南無仏太子像の像内納入品の精巧な複製を紹介。科研「宗教テクスト文化遺産アーカイブス創成学術共同体による相互理解知の共有」の成果を反映。図録あり(152ページ、2000円)。


5月2日
奈良国立博物館
 特別公開 奈良・不退寺本尊聖観音菩薩立像
(3月21日~5月14日)

 保存修理が施された不退寺本尊非聖観音菩薩立像について、作風が共通し本来一具であったことが確実な文化庁観音菩薩立像とともに並び立たせて公開する貴重な機会。文化庁像の像内納入品にもと不退寺伝来像であることを示唆する文言がある由。両像の保存状態の違いに思いをはせつつ、同室安置の新薬師寺十一面観音立像とも比較しながらじっくり鑑賞。リーフレットあり(A4、両面)。

5月5日
香川県立ミュージアム
 弘法大師生誕1250年記念特別展 空海-史上最強、讃岐に舞い降りた不滅の巨人-
(4月22日~5月21日)

 弘法大師生誕1250年を記念し、空海ゆかりの重要資料と四国所在の関連文化財を集めて公開する。金剛峯寺諸尊仏龕(国宝)、仁和寺三十帖冊子(国宝)、京博・奈良博金剛般若経開題残巻(国宝)のほか、與田寺稚児大師像、虎屋秘鍵大師像、覚城院善通寺御影、圓通寺弘法大師像(三尊合行法と関わる図像)、極楽寺日輪大師像など大師像のさまざまなバリエーションを紹介。仏像では井戸寺十一面観音立像、願興寺聖観音坐像、行徳院六字明王立像、與田寺不動明王立像、工芸資料では善通寺錫杖頭、弥谷寺四天王五鈷鈴等々、重要資料多数紹介。図録あり(144ページ、1800円)。

5月9日
龍谷ミュージアム
 特別展 真宗と聖徳太子
(4月1日~ 5月28日)

 見学実習で再訪。天満定専坊本願寺聖人親鸞伝絵、四天王寺聖徳太子絵伝、勝鬘皇寺聖徳太子絵伝、福田寺聖徳太子勝鬘経講讃像・震旦和朝高僧先徳連坐像など後期展示の資料を確認。図録あり(152ページ、2000円)。

京都国立博物館
 特別展 親鸞 生涯と名宝
(3月25日~5月21日)

 親鸞聖人生誕850年を記念し真宗十派が連携して宗派の重宝を集約する大規模な記念展。教行信証はじめ聖教類から消息まで多数の親鸞自筆資料を展示室の各所に配置し、また本願寺聖人伝絵や親鸞聖人絵伝をストーリーテラー的に活用して、親鸞の生涯と思想・信仰、教団化及び分派の様相と祖師・派祖崇拝の諸相を紹介する。終章に親鸞の肖像(鏡御影・安城御影・熊皮御影の諸本を細かく展示替え)と名号(西本願寺本・専修寺本・妙源寺本を細かく展示替え)の2点のみを配置する会場レイアウトはよく練られた展示手法。図録あり(344ページ、3000円)。

5月16日
大阪中之島美術館
 デザインに恋したアート・アートに嫉妬したデザイン
(4月15日~6月18日)

 見学実習で訪問。デザインとアートの境界と重なりを1950年代から2010年代までの多数の作例から紹介。東京オリンピックポスター、ヤノベケンジ《アトムカー (黒)》(国立国際美術館)、奈良美智《どんまいQちゃん》(和歌山県立近代美術館)、深澤直人 《INFOBAR》(KDDI株式会社)等。図録あり(2980円)。

中之島香雪美術館
 企画展 修理のあとに エトセトラ
(4月8日~5月21日)

 香雪美術館が所蔵し、順次修理が施されている文化財について、その修理工程や成果を丁寧に紹介する。上畳本三十六歌仙絵 猿丸太夫、岩佐又兵衛筆堀江物語絵巻、長谷川等伯筆柳橋水車図屏風、一字金輪像、聖徳太子絵伝、薬師如来立像、南無仏太子立像等々さまざまな形態・材質の優品がずらりと並び、それぞれ修理過程の情報を画像を多数用いてパネルで示して、資料に応じた文化財修理のあり方を丁寧に伝える。台帳類や誂えた表装裂など収集者である村山龍平による修理への取り組みも紹介。図録はないが、『書物学』23号(勉誠社、1980円)が「特集 文化財をつなぐひと・もの・わざ-香雪美術館書画コレクションを支える装?修理の世界」と題して作例及び修理内容について特集。

5月20日
和泉市久保惣記念美術館
 特別陳列 日本美術の名品-和泉の文化財とともに-
(4月9日~6月4日)

 同館所蔵のコレクション及び和泉市内の仏教美術を紹介。山崎架橋図(重文)、法華経巻第一方便品第二(重文)、胎蔵旧図様、山王霊験記絵巻(重文)、歌仙歌合(国宝)など館蔵指定品を中心に選定し、館外からは松尾寺孔雀経曼荼羅図(重文)、槙尾山経塚出土の経筒や青磁・白磁類、納花町会と万町町内会の十六羅漢像を紹介。図録なし。

5月23日
福田美術館・嵯峨嵐山文華館
 橋本関雪生誕140周年 KANSETSU-入神の技・非凡の画-
(4月19日~7月3日)

 共通の運営体制である両館と白沙村荘橋本関雪記念館の3館合同で開催する関雪の大回顧展。青年期から晩年期まで、さまざまな画風・画題の作品を集約。京都国立近代美術館《失意》、橋本関雪記念館《琵琶行》《猟》《木蘭》、福田美術館《後醍醐》など屏風の大画面作品から、《玄猿》ほか動物を描く小品まで、いずれも優れた画技で破綻なく整うとともに、漢詩を重視して書にも優れ、オールラウンドに才能を発揮した近代期の巨匠であることを、多数の作品により語る構成。図録あり(224ページ、3300円)。村田隆志「紙碑としての橋本関雪論-『橋本関雪先生之碑』を巡って-」をはじめコラム・特論多数掲載された力の入った一書。

松尾大社神像館
 同社伝来の平安時代前期三神像ほか神像群21軀を拝観。康治2年(1143)銘男神坐像や笑相老翁の男神坐像など。

5月25日
和歌山県立博物館
 特別展 きのくにの小浪華-湯浅ゆかりの文人の書画-
(4月29日~6月18日)

 江戸時代、商業都市として栄えた湯浅における文芸活動の足跡を明らかにする初めての機会となる展覧会。漢詩をよくした豪商菊池海荘の肖像や関連資料、海荘が中心となって活動した詩社・古碧吟社の活動を示す資料、馬上清江や平林無法ほか湯浅ゆかりの絵師の作品など書画や典籍を集める。文人画ではほかに柳川星巌、大江霞岳、黄仲祥、上辻木海、野呂松蘆、浜口灌圃など。図録あり(90ページ、1200円)。

5月27日
高野山霊宝館
 宗祖弘法大師御誕生1250年大法会記念展 お大師さまから・お大師さまへ 1期
(4月15日~5月28日)

 弘法大師生誕1250年を記念して、大師ゆかりの手蹟や唐請来品と御影堂への寄進資料を展観し、あわせて空海伝を絵巻や肖像ほかを活用して紹介。国宝聾瞽指帰、金念珠、四天王独鈷鈴、高野大師行状図画、厨子入倶利伽羅竜剣、宝寿院文殊菩薩像等々。弘法大師像としては善通寺御影、秘剣大師、瑜祇大師、稚児大師、弘法大師及び四社明神像、弁才天十五童子に弘法大師が併せ描かれる作例など豊富な事例を紹介。図録なし。

5月28日
奈良県立橿原考古学研究所附属博物館
 特別展 神宿る島 宗像・沖ノ島と大和
(4月22日~6月18日)

 宗像・沖ノ島祭祀の資料群と大和盆地の祭祀やまじないに関する資料とを対比しその共通性を示すことで、沖ノ島の祭祀が大和王権による海上交通祈念の性格を有することを紹介する。宗像大社の杏葉と藤ノ木古墳の杏葉が並び、かつ藤ノ木古墳資料の出来映えがより優れていることなどモノに雄弁に語らせる。同館でこそ実現できる巨視的かつ意欲的な内容。図録あり(88ページ、900円)。

歴史に憩う橿原市博物館
 博学連携企画展 これ、おもろ。知らんけど。
(3月25日~6月18日)

 同館が引き受けた博物館実習生による展示。考古資料の魅力を幅広く捉えることを目的に、さまざまな入り口を示して資料への興味を喚起する内容。土器に残る焼成不良の黒い煤染みをゴリラに見立てたり、焼成時の赤斑を夜空の星に見立てたりと、自由な発想で遺物を楽しむ。手作り触図を用意して展示のユニバーサルデザインを目指した点も博物館の先端事例の把握に基づくもので好感。図録なし。

5月30日
長谷寺

 見学実習で長谷寺参拝。宗宝蔵では春季特別寺宝展(~7/9)鑑賞し、本堂では本尊十一面観音立像の内陣ご拝観。

6月6日
新薬師寺
 美術史実習で薬師如来坐像と十二神将立像をご拝観。

6月7日
円成寺・浄瑠璃寺・岩船寺
 大学院ゼミで見学。円成寺では運慶大日如来像、本尊阿弥陀如来坐像のほか、脇間の十一面観音立像をしっかり拝観。浄瑠璃寺の九体阿弥陀(2体は修理中)の作風を比較しながら拝観。岩船寺の本尊像の実年代と作風との差を考えつつ拝観。

6月9日
法華寺・海龍王寺

 出勤前に法華寺本尊十一面観音立像をご拝観。海龍王寺にもお参り。

6月10日
東北歴史博物館
 東日本大震災復興祈念 悠久の絆 奈良・東北のみほとけ展
(4月15日~6月11日)

 東日本大震災復興を祈念し、南都の寺社の仏教美術が東北で結集。学術協力として奈良国立博物館が参画し、東北と奈良の仏教文化の関わりとつながりを仏教美術を主体にして紹介する意欲的な展示。奈良と東北の奈良〜平安時代前期の仏像がずらりと居並ぶ空間は圧巻で、東北地方を代表する勝常寺薬師三尊像、四天王立像、十一面観音立像、十八夜観世音堂観音菩薩立像、宝積院十一面観音菩薩立像、勝常寺像の風貌に似た吉祥天立像と、優れた出来映えの仏像群に間近にまみえることのできるありがたい機会。新宮寺文殊菩薩五尊像、新宮熊野神社文殊菩薩騎獅像、龍宝寺釈迦如来立像もじっくり鑑賞。一つ一つの名を挙げるのも難しいほどの奈良の名宝の数々が出陳されることも稀有なことであるが、なにより鑑真、叡尊、行基、忍性と仏法求通と衆生救済に生涯をかけた高僧たちの肖像がはるばる来錫したことこそ、本展開催の意義(心の救済)を象徴的に示すもの。図録あり(204ページ、2750円)。巻頭の長岡龍作「悠久の想像の物語-美術が伝える大乗仏教の世界-」は本展構成と造像の背景を詳述、ほか内藤航「会津の仏像-出陳作品を中心に」はじめ充実したコラム多数。

新宮熊野神社
 福島県喜多方市の新宮熊野神社参拝。平安時代末期の長床、中世末~近世初頭ごろの三社殿、宝物館の多数の文化財群を拝観。車走らせ本宮熊野神社、那智熊野神社にも参拝。

6月12日
有田市郷土資料館
 有田市と青木梅岳-仏画を中心に-
(4月1日~6月18日)

 近代期に活動した南画家青木梅岳、妻の玉鱗、弟子の小野寺梅邱ほかの作品を展示。巻贈品の十六羅漢図袈裟や、千人針に描いた白虎図など。海南市歴史民俗資料館、南方熊楠顕彰館、南方熊楠記念館、田辺市立美術館と連携した画期的な青木梅岳展。リーフレットあり。

6月17日
大阪大谷大学博物館
 椿井文書をめぐる人々-拡散する偽文書-
(4月3日~6月19日)

 江戸時代後期に偽作され、現代においても各地の地域史叙述に影響を及ぼす事例もある偽文書群「椿井文書」について、作成した椿井政隆とその一族との関わり、偽文書の流通・拡散のあり方を紹介。偽文書中でも最も著名な興福寺官務牒疏と連動して制作されたとみられる金勝山大菩提寺八宗教院四至封疆之絵図や、河州石川郡磯長山寺伽藍全図会など中世成立として偽作された古伽藍絵図や、染めたり汚して時代を出した紙に中世らしくはないやや傾いた書き癖のある複数の筆致で記された系図や寺社縁起類などを紹介。絵図は古いものを後世に写したと画中に記すことで偽作を隠す巧妙さで、空想の古伽藍図が優れたビジュアルイメージにより今なお受容されてしまうことも理解できる。いつか現場で出会う可能性もあるので、いろいろ特徴を目に焼き付けておく。展示内容を詳述した博物館だよりあり(8ページ)。

7月1日
和歌山県立博物館
 夏休み子ども向け企画展 きのくにのかたな-和歌山県立博物館の赤羽刀-
(7月1日~8月27日)

 紀州の文珠鍛治と石堂鍛治、そして大和守安定ほかの刀剣を、和歌山県立博物館に収蔵された赤羽刀43口を通じて紹介。メインの解説文は極力わかりやすい内容にし、あわせて大人向け解説として刀剣鑑賞上級者向けの解説分を用意するほか、用語解説や刀剣にまつわる慣用句を紹介するなど、かたなをめぐる歴史と文化を示す好企画。刀剣入手時や未登録刀剣発見時の対応方法まで紹介。図録なし。

7月2日
大津市歴史博物館
 ミニ企画展 大津の文化財調査中!-未指定文化財調査速報展示-
(6月9日~7月2日)

 市域の文化財調査を継続的に行ってきた同館が、令和4年から新たに開始した約1050か所の寺社の悉皆調査の最新成果を速報展示する。大正寺地蔵菩薩立像(平安時代)、西光寺阿弥陀如来坐像(鎌倉時代)、関蝉丸神社獅子頭(室町時代)、教誓寺方便法身尊像(大栄3年[1523])など14点。あわせてパネルで文化財調査のようすや梱包・輸送、燻蒸について紹介する。各資料の解説を記したリーフレットあり。ホームページに公開。

7月4日
東大寺ミュージアム

 美術史実習で見学。戒壇堂へのお帰りが間際となった四天王立像をしっかり鑑賞してもらう。法華堂日光菩薩・月光菩薩像とともに6体が林立している空間のありがたさ。今世紀中にはもうないなあ。8月27日まで。特集展示「戒壇院の夏安居」(6/2~7/18)では対の表具仕立てとなる鑑真和尚像(天境霊致讃)と南山大師像(中巌円月讃)をじっくり。鎌倉時代の重要作例ながら未指定。

7月8日・9日
密教図像学会見学会
 学会見学会で松阪から熊野をめぐる。松阪市薬師寺(薬師如来坐像・天部立像ほか)、多気町霊山寺(十一面観音立像)、那智勝浦町大泰寺(阿弥陀如来坐像・不動明王立像・十二神将立像ほか)、補陀洛山寺(千手観音立像ほか)、那智山青岸渡寺(那智経塚出土曼荼羅壇ほか)、熊野那智大社(那智経塚出土品ほか)、熊野速玉大社(古神宝類ほか)、東仙寺(熊野三所権現本地仏像)、新宮市歴史民俗資料館(阿須賀神社出土懸仏)。疲れた。


7月11日
奈良国立博物館
 浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念特別展 聖地 南山城-奈良と京都を結ぶ祈りの至宝-
(7月8日~9月3日)

 浄瑠璃寺九体阿弥陀の修理完成を記念して、南山城地域の寺社の仏教美術を一堂に集約して公開する。海住山寺十一面観音立像、禅定寺十一面観音立像、常念寺菩薩形立像、寿宝寺千手観音立像、神童寺不動明王立像。川合京都仏教財団所蔵の旧灯明寺仏像群、浄瑠璃寺阿弥陀如来坐像2体、西明寺薬師如来坐像、現光寺十一面観音坐像等々、挙げきれないほどの彫刻の重要資料がずらり並ぶ。浄瑠璃寺薬師如来坐像と浄瑠璃寺旧蔵の静嘉堂文庫美術館・東博分藏十二神将立像12躯はおよそ140年ぶりの再開。仏画も含め寄託の優品も活用。南都に隣接する近隣地で南都僧の山林修行地や隠遁地としても歴史的に関係の深い南都文化圏であり、同館での展示の意義は大きい。新規調査により近世の南都と南山城にも目配りする点も重要。図録あり(288ページ、3000円)。 

7月19日
大和文華館
 特別企画展 追善の美術-亡き人を想ういとなみ-
(7月7日~8月13日)

 亡くなった人の死後の安穏を願い行う追善供養に着目して資料を集約。館蔵の代表作である笠置曼荼羅図(重文)を追善の機能から読み解き、仏像像内に納められた印仏を多数展示。館蔵婦人像(重文)、妙蓮寺渡辺浄慶妙慶夫妻像、西教寺前田菊姫像など俗人肖像の系譜も本展文脈にこそ合致。追善の文脈構築のために死のさまざまなイメージも提示し、極楽寺六道絵(重文)や、病草子や平治物語絵巻ほか断簡類の小品を多数選択。武人俑や埴輪など中国・日本の副葬品を並べるなど、コレクションの有効活用を図る。借用資料を中心に一部資料を掲載した図録あり(32ページ、800円)。

7月27日
中之島香雪美術館
 企画展 唐ものがたり 画あり遠方より来たる-香雪美術館所蔵の中国絵画-
(6月17日~7月30日)

 同館所蔵コレクションの中から、中近世の段階で日本に伝来していた唐絵(中国・朝鮮の絵画)を選んで展示するとともに、そうした唐絵に影響を受けた日本の作品をあわせて紹介。因陀羅筆維摩居士図(重文)、明・正徳8年(1513)賛ある魚籃観音図(君裾が揺れる表現あり)、伝呂紀筆花鳥図、伝除煕筆蓮池水禽図、伝笵安仁筆魚面図、祥啓筆楼閣山水図、狩野元信・狩野永徳筆四季山水図屏風など。伝夏珪筆蟹図・鯰図は高野山宝亀院旧蔵、伝呂紀筆花鳥図は高野山常喜院旧蔵で、高野山上の子院が世俗画も含めた唐絵(と見なされた作品)の集積地であることをうかがわせる(中国・朝鮮の仏画も多い)。図録なし。全資料写真撮影OK。

8月1日
高野山霊宝館
 宗祖弘法大師御誕生1250年大法会記念展 お大師さまから・お大師さまへ 3期
(7月15日~8月27日)

 弘法大師生誕1250年を記念して、大師ゆかりの手蹟や唐請来品と御影堂への寄進資料を展観し、あわせて空海伝を絵巻や肖像ほかを活用して紹介。諸尊仏龕(国宝)、飛行三鈷杵(重文)、崔子玉座右銘断簡(重文)、遍照光院一字金輪曼荼羅図(重文)など。丹生・狩場明神像(重文)、山水屏風(重文)は露出で間近に鑑賞でき眼福。ほか五大尊幷千体不動明王像(室町時代)は初見資料。図録なし。

8月4日
なら歴史芸術文化村
 企画展 すごいぞ!レプリカ-文化財を未来に伝える-
(7月15日~10月15日)

 同館が作製・保管する文化財レプリカや模型類を軸に、文化財の維持継承や情報伝達手段などさまざまな場面で活用されるレプリカの多様な目的と可能性を紹介。奈良県立大学地域創造研究センター作製の長谷寺本尊十一面観音立像の全身計測データを元に出力された3Dプリンター製レプリカは(約30分の1ほどの縮尺)、現地では膝上から下が見えないため、その全身像の初めての公開で、同像研究をする研究者として感動のご対面。金峯山寺所蔵の仁王門安置金剛力士像の縮尺模型も3Dプリンター製(東京芸術大学作製)。美術院による修理に際して検討するためのモデルとして作製、活用。会場内では和歌山県立博物館と県立和歌山工業高校他の連携によるお身代わり仏像作製事業を紹介する動画も紹介。展示鑑賞をサポートする『ワークつき!ハンドブック』(A5判、22ページ)を無料配布。会場内掲示のコラムパネルも収載。

8月5日
天理大学天理参考館
 インドのヒンドゥー世界
(7月12日~9月4日)

 同館に収蔵される世界の民族資料群のなかから、ヒンドゥー教にかかわる資料を集約して紹介。マトゥラー伝来の仏頭(3c)、弥勒菩薩もしくはジナ頭部(2c)、仏坐像(3c)など初期の仏像群から近現代の宗教画や信仰道具まで約50件を展示。10世紀のサプタ・マートリカー(七母神)、13~14世紀のラクシュミーほか時代も地域もさまざまな重要なコレクション。常設展示の北魏の獅子や、興福寺伝来慶長17年(1612)銘獅子優填王絵馬なども見て回る。図録あり18ページ、550円)。

8月8日
石川県立歴史博物館
 特別展 いしかわの霊場-中世の祈りとみほとけ-
(7月22日~9月3日)

 石川県内の聖地や霊場を、仏像や古文書、考古資料など信仰に関わる資料を用いて復元的に提示。明泉寺秘仏本尊千手観音立像(10c)、石動山天平寺地蔵菩薩立像(10c).翠雲寺弥勒菩薩坐像(11c)など古様で風格のある仏像を間近に拝めるありがたさ。承元2年(1208)銘を有する志賀町高爪神社薬師如来坐像も、聖地高爪山についての情報とともに見るとその重要性が際立つ。常設展示に同じ志賀町の意冨志麻神社(宗像三神祭祀)の、宝徳2年(1450)銘本地仏菩薩形坐像2躯・不動明王坐像も展示(図録未掲載)。羽咋市福永ヤシキダ遺跡出土資料(三鈷鐃、錫杖頭ほか)や金沢市千田北遺跡出土の笠塔婆も興味深い資料。論考多数の図録あり(146ページ、2200円)。

国立工芸館
 所蔵作品展 水のいろ、水のかたち展
(7月7日~9月24日)

 館蔵資料から水に関わる作品を集約して夏にふさわしい涼やかなテーマを構築。水そのもののさまざまなデザイン化にとどまらず、水を入れる機能、水のある風景など、テーマーを広範に捉えて焼物、ガラス、織物から人形までバラエティに富む内容。ガラス製品を露出展示(テグス固定)するのもヒヤッと涼しい。図録あり(16ページ、無料)。

金沢能楽美術館
 企画展 面に酔う-後藤祐自・能面の宴-
(4月22日~8月27日)

現代を代表する面打の1人であり、能面修復も広く手がける後藤祐自氏の作品と、金沢市域の神社に所蔵される近世の装束ほかを紹介。本面の写しは、元面の彩色再現に優れて風格をも写している一方で、各解説に付けられた自らの言葉を見ると、とてもかなわない、難しい、といった抑制的なコメント。誠実。図録なし。

福井市立郷土歴史博物館
 特別陳列 福井の里山・文殊山ゆかりの神仏
(7月27日~9月3日)

 古代の東大寺領糞置荘に接し、福井市と鯖江市にまたがる文珠山の聖地のあり方と周辺地域の信仰史を、考古資料と多数の仏像・神像から浮かび上がらせる意欲的な展示。ずらり仏像神像が並んだ圧巻の展示室の中で一際目を引く鎌倉初期の十一面観音坐像は奈良仏師の作(HP・チラシ等に図版なし)。重要資料。県指定の鎌倉中期ごろの弘法大師坐像も凛々しく堂々とした優作。先般ご開帳が行われた二上観音堂の十一面観音立像(重文)はパネルで紹介。A4・4ページの解説シートあり。

8月9日
福井県立若狭歴史博物館
 若狭・麗しの密教世界一ようこそ密厳浄土へ
(7月29日~8月27日

 若狭地域の寺院に伝わる仏画を多数集めて密教美術を詳しく紹介。重文3件、県指定10件を含む中世資料25件31点を展示。萬徳寺の弥勒菩薩像(鎌倉時代・重文)や、画面上部に九曜を描き文殊と四天王を配した珍しい文殊菩薩像(鎌倉時代、県指定)、羽賀寺の一具同作の両部曼荼羅、四大明王、十二天像(室町時代後期、県指定)をずらり並べて灌頂の堂内空間をイメージするなど、密教を体験的に伝える。仏像では円通寺観音菩薩立像は胴を絞って裙裾をあげた軽やかな立ち姿の10世紀彫像。若狭を密教から見るという視点を提示する意欲的な展示。図録なし。

愛知県美術館
 企画展 幻の愛知
県博物館
(6月30日~8月27日)
 明治時代初期、各地の博覧会ブームのなか設立され、その後展示機能を引き継げず忘れられた「愛知県博物館」について、その時代相とともに復元的に紹介する。民間からの寄附金を集めて当初会社として建て、のちに県立としたもので、殖産興業に比重をおいた物産館・商品陳列観の性格を有する博物館であったことを、関連書籍や旧蔵資料を集めて紹介。図録あるが予約販売で会期末ごろに刊行予定(ページ数不明、1500円)。

8月11日
かつらぎ町笠田公民館佐野分館
 み仏のおめしもの
(8月9日~8月13日)

 町内に伝わる仏像の魅力を身近に知ってもらうことを目的に、服装に着目して仏像仏画を公開。無量寺阿弥陀如来坐像(県指定、12c)、真明寺観音菩薩立像(11c)、愛染明王坐像(17~18c)、釈迦十六善神像、両界曼荼羅を展示。またあわせて公民館すぐそばの佐野寺跡の紹介として、出土したセン仏や瓦、石製鴟尾など紹介。佐野寺は日本霊異記中巻11話の狭屋寺の可能性ある飛鳥時代後期建立の古代寺院。図録なし。

8月19日
紀の川市歴史民俗資料館
 企画展 戦前・戦中の記録
(7月19日~8月20日)

 第二次世界大戦時に徴兵され戦地に赴いた青年の資料などから、戦前の教育や軍事教育、戦地でのようすや銃後のくらしを紹介。軍事郵便はがきの文面や、戦死した友人を悼む手紙を同行した娘と読解しながら読み込む。 

8月25日
神戸市立博物館
 特別展 神戸の文化財Ⅲ -今伝えたい、私たちの宝・街・心・技-
(7月22日~9月10日)

 神戸市域所在の重要資料を多数集約し、文化財継承の意義を語りかける内容。太山寺四天王立像、温泉寺黒漆厨子の後壁と扉の平安仏画、綱敷天満宮の伎楽面を堪能。図録あり(80ページ、2000円)。同時開催のコレクション展示「信仰と美を伝えるもの-聖なる文化財-」では破損甚大ながら美麗な截金が残る平安末期の太山寺不動明王像や、本紙部分のみがまくりで残る須磨寺の両部種子曼荼羅など展示。

8月30日
川原寺
 おかえりセン仏-夏期特別公開-
(8月1日~8月31日)

 終了間際に滑り込み。川原寺裏山遺跡より出土した、川原寺創建期の堂内に張り詰められていた7世紀のセン仏を、意外なことに初めて寺内で公開する貴重な機会。遺物の中に含まれていた平安時代初期の銭貨から、そのころに大規模な火災が発生し、焼けた仏体やセン仏のうち原型を留めたものを選別して拾い上げ、埋納したとみられるもの。展示では出土した塑像片や銭貨、金具類も紹介。向かいの橘寺経堂内のケースに展示されたセン仏断片も拝観。

9月3日
岡山県立博物館
 特別展 慈悲のほとけ-観音と古寺の名宝-
(7月28日~9月3日)

 最終日に滑り込み。中国観音霊場会の特別協力による展覧会で、観音信仰に関わる資料を軸に、岡山県だけでなく中国地方の仏教美術を集約し公開する。鳥取・大山寺の白鳳時代銅製観音像2躯、特徴的な髻の岡山・法界院聖観音菩薩立像、鳥取・三佛寺の十一面観音立像や蔵王権現立像、広島・浄土寺南無仏太子像、山口・般若寺聖僧坐像などなど、彫刻多数。絵画では山口・龍蔵寺の四天王図鎗金絵扉は元時代にチベット密教由来の図像により沈金技法により描かれたもので、作者銘を伴う。頂相では島根・雲樹寺の三光国師孤峰覚明像は正平25年(1370)の賛あり。ほか広島・西国寺の梵釈四天王五鈷杵鈴、錫杖頭など舶来の工芸品も紹介。図録あり(104ページ、1500円)。

おのみち歴史博物館
 新指定文化財公開展-調査してみたら・すごいぞ尾道の仏様!
(9月2日~11月5日)

 おのみち歴史博物館に初訪問。平成28年度より継続して進めている、新たな尾道市史の「文化財編(下巻)」編纂のための美術工芸品調査によって把握された多数の重要資料の中から、彫刻・絵画資料を紹介。11世紀の西国寺吉祥天立像、12世紀の正念寺聖観音菩薩立像、14世紀の持光寺阿弥陀如来立像など彫刻5体と、類例のない特殊な図像の宝冠阿弥陀三尊来迎図(13~14世紀)を紹介。尾道の仏教美術は本当に水準が高い。市史文化財編は建築等を収載する上巻が刊行中。下巻の刊行が待ち遠しい。彫刻資料5件を紹介したリーフレットあり(無料)。館を後にして浄土寺を訪れ、境内丹生高野明神社にて高野山と尾道のつながりに思いをはせる(高野山領大田荘の倉敷地)。

9月6日
和歌山県立博物館
 企画展 法燈国師−きのくに禅僧ものがたり− 
(9月2日~10月1日) 

 法燈国師無本覚心とその弟子たち(法燈派)の紀伊国による活動や痕跡を示す、最新の研究成果に基づく多数の新資料を含む54件の文化財を展示公開。法燈国師の展示としては50年ぶり。法燈国師像としては新出の三重・大通寺本(南北朝時代)、興国寺の慶長2年銘版木など。新資料や重要資料はパネルでも紹介。彫像では観福寺二十体羅漢像が、宋代と想定される特徴的な表現の羅漢群像であり注目される。法燈国師が入宋時に入手し、帰国時に風難に遭った際、20人の羅漢により救われたとする伝承あり。担当する坂本亮太氏の科研「鎌倉末~室町期における臨済宗法燈派の動向に関する基礎的研究」の報告書兼図録(96ページ、無料)あり(ただし配布は小部数で館内のみ)。

9月9日
高島屋史料館
 万博と仏教-オリエンタリズムか、それとも祈りか?-
(8月5日〜12月25日)

 万博における仏教的要素の取り扱われ方の展開を紹介。万博や各種博覧会における日本の仏教文化紹介のあり方(オリエンタリズム)と、1970年大阪万博における仏教国のパビリオンにおける信仰要素の提示を対比し、アジア初の大阪万博で仏教表象が信仰と切り離さず提示されたこと、戦争死者への祈念があったことを指摘。ラオス館及び本尊釈迦如来立像(現・長野県昭和寺に移築・移座)ほか大阪万博の仏教系施設のその後の継承についても紹介。図録なし。和光大学君島彩子氏の監修。同じく監修の「陶の仏-近代常滑の陶彫-」は高島屋史料館TOKYOにて9月16日から開催(~2月25日)。

9月17日
靖国神社遊就館

 教育懇談会(学資出資者向け講演会+相談会)の校務のため上京。校務開始より早く市ヶ谷に着いたのですぐそばの靖国神社に行き遊就館初訪問。武器・武具・戦争資料及び戦没者顕彰・追悼展示施設としての位置づけを把握。帝国主義国家による東アジア解放というプロパガンダに基づき構築された戦争史展示に面くらいながら、心の中で切り離して膨大な戦争犠牲者の遺影を拝する。時間なくて特別展見られず。

静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)
 あの世の探検−地獄の十王勢ぞろい
(8月11日~9月24日)

 校務が予定より30分はやく終わり、タクシー拾って駆け込む。豊富に所蔵する館蔵仏教美術の中から近時修復した仏画を中心に選んで展観する。元〜明の十王図・二使者図は、高麗時代の被帽地蔵を中幅として13幅をずらり並べる。表具は13幅とも共通し、近世段階では現在の取り合わせになっていたもよう。圧巻の空間は撮影可で、ありがたく表具のようすを一部撮影。高麗仏画ではほかに水月観音像と、雲中より半身を湧出させる苦行釈迦像も高麗と位置づける。美麗な千手観音二十八部衆像、普賢菩薩騎象像(重文)をじっくり鑑賞。初公開の兜跋毘沙門天立像は10世紀作例。地天女と雲気文をあらわす台座も古いもの。なんと曜変天目(国宝)も並ぶ。図録あり(48ページ、1500円)。

東京ステーションギャラリー
 春陽会誕生100年 それぞれの闘い−岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ
(9月16日~11月12日)

 「各人主義」のもと画風さまざまな著名作家の集まりである同会の足跡を作品からたどる。岸田劉生《近藤医学博士之像》(神奈川県立近代美術館)、中川一政《駒ヶ岳》(真鶴町立中川一政美術館)、三岸節子《自画像》(一宮市三岸節子記念美術館)、木村荘八《私のラバさん》(愛知県美術館)、鳥海青児《セリスト(B)》(平塚市美術館)、岡鹿之助《観測所》(静岡県立美術館)などなど、各地の美術館の目玉作品が集まって見応えあり。タイトルの「闘い」には展示構成上は特に踏み込んでいないもよう(見落としただけかもしれない)。図録あり(235頁、2750円)。

高島屋史料館TOKYO
 陶の仏−近代常滑の陶彫
(9月16日~2月25日)

 コンパクトな室内に常滑の職人たちの手になる陶器の仏像がずらり並ぶ。鯉江方寿が開設した常滑美術研究所、その後設立された常滑陶器学校(現愛知県立常滑高等学校)にて学んだ多くの陶彫家のなかから特に柴山清風に注目し、その生涯を通じての観音像制作を紹介。清風の普賢菩薩騎象像や十一面観音立像には著名な(写真のある)仏像を本歌取りしていることが見受けられ、作家性(個人様式)が前に出ないところがある。祈念や鎮魂を目的に観音像制作を続けた「陶の仏師」。和光大学君島彩子氏監修。図録なし。

9月26日
龍谷ミュージアム
 みちのく いとしい仏たち
(9月16日~11月19日)

 東北地方各地に継承される専業仏師の手にならない民間仏の、儀軌に即しない自由で大胆な造形に着目し、ずらり136体を紹介。メインビジュアルに使われる兄川山神社の山神像、松川二十五菩薩保存会の如来立像、青森市観音寺の如来立像などなど、造形の自由度が生みだす独特のホトケの表現に、最初は戸惑い、最後はそれら個性的な彫刻に惹きつけられ、積み重ねられた信仰のまなざしをも実感して魅了される。宝積寺の六観音立像は、頭部の小さなすらりとした体型で、尊名と対応する表現はないものの、六体全てで印相や着衣表現を変えて自由度が高く、一部面相は神楽面にも似る。これらと並ぶと、一体だけ出陳された円空仏に儀軌面での整合性を感じるのも不思議な経験。図録あり(180ページ、2400円)。東京ステーションギャラリーに巡回(12月2日~)。

東寺宝物館
 真言宗立教開宗1200年記念 東寺の宝物をまもり伝える-修理の軌跡 継承の志-
(9月20日~11月25日)

 近年文化財指定されたり修理を施された資料を中心に紹介。平安初期の獅子狛犬、大日如来台座の獅子を間近にじっくり。ほか弘法大師行状絵巻、御影堂牛玉宝印版木などのほか、国宝の両界曼荼羅図(伝真言院曼荼羅)は原本の両幅が並んでの公開中(〜10/21)。図録あり(114ページ、2700円)。

9月28日
MIHO MUSEUM
 特別展 金峯山の遺宝と神仏
(9月16日~12月10日)

 吉野・大峯の聖地を総称する金峯山の歴史と文化を、金峯山経塚出土の膨大な資料と大峯山寺本堂発掘調査出土資料、そしてさまざまな蔵王権現像を集約して一望する。流出して諸家に分蔵され全貌も見えにくい金峯山経塚資料を丹念に集め、これらが間隙なく並ぶ奇跡の空間。西新井大師總持寺蔵王権現鏡像を初め、神像そのものを鏡面にあらわした鏡像が次々に現れて圧巻。本地仏ではない神像鏡像及び懸仏がメインであるのが金峯山経塚の特徴。役行者が金峯山上湧出岳で感得したとする蔵王権現像も本展の主役。東京・御社神社像(金剛童子像か)、奈良博像、佐野美術館像、吉野如意輪寺像、大峯山寺出土の銅像を集める。役行者像は山梨円楽寺像、奈良博慶俊作銘像。展示の最後には笙ノ窟本尊の天ヶ瀬八坂神社の銅造不動明王立像(寛喜4年・1232)、同じく笙ノ窟安置と推定される京都市蔵銅造不動明王立像(建治2年・1276)が並ぶ。修験道美術の根本資料を堪能。再訪を期す。図録あり(320ページ、3300円)。

9月31日
新薬師寺

 入試業務を終えて学校を後にし新薬師寺へ走る。堂内で修理作業中の本尊薬師如来坐像の背面側を拝める貴重な機会。しっかり目に焼き付けておく。境内地蔵堂も開扉中で鎌倉時代の十一面観音立像(長谷寺式)他をありがたくご拝観。

白毫寺
 新薬師寺から白毫寺へ。本堂の阿弥陀三尊像、聖徳太子二歳像、宝蔵の閻魔王・泰山府君・司録・司命像、平安時代初期の文殊菩薩坐像ほかをご拝観。

10月3日
なら歴史芸術文化村
 企画展 すごいぞ!レプリカ-文化財を未来に伝える-
(7月15日~10月15日)

 美術史実習で再訪。施設内の修理工房で修理の様子を解説いただいてから展示鑑賞。学生が木心乾漆の構造と技法に興味津々。復元模型や構造模型の教育的効果はやはり大きい。

10月5日
奈良県立美術館
 特別展 仮面芸能の系譜−仮面芸能のふるさと奈良-
(9月30日~11月12日)

 奈良において花開き継承された仮面芸能を伎楽面・舞楽面・能面と使用される仮面を軸に系統立てて紹介する。猿楽面(能面)は、「まつりといのりの仮面」と「大和の猿楽・山中の伝統」に分けて紹介し、かつ前後期で大幅展示替え。前期は天河弁才天社、正福寺、水間八幡神社、長尾神社など、後期(10/24〜)は奈良豆比古神社、談山神社、大保八阪神社、狭川両西敬神講など。大和の猿楽面を一望できる貴重な機会なので後期も行く。春日大社の室町時代の伎楽面も興味深いもの。奈良博・奈良県立万葉文化館・薬師寺が所蔵する伎楽面や装束の復元品を集めた一角は伎楽の華やかさ賑やかを復元的に演出。入館料一般1800円。図録あり(144頁、3300円)。

奈良大学博物館
 企画展 富山市・長松山本法寺「法華曼荼羅図」の世界Ⅱ-描かれたものがたり-
(10月2日~12月9日)

 本法寺法華曼荼羅図(重要文化財)の高精細複製により、法華経画のさまざまな「ものがたり」を解説。第3,4、5、6、8、9、12幅を紹介。リーフレット(16ページ、無料)あり。

10月13日
東大寺法華堂
 秘仏 国宝・法華堂執金剛神立像特別開扉
(10月1日~10月16日)
 良弁僧正1250年ご遠忌を記念して、ゆかりの執金剛神立像が長期にご開帳。ありがたくご拝観。堂内には東京藝術大学が作成した執金剛神立像の復元像も安置。側面など確かめながら、両像の間を行きつ戻りつ。

10月14日

和歌山県立博物館
 特別展 紀州明恵上人伝
(10月14日~11月26日)
 紀州有田に生まれた華厳僧明恵が、故郷に隠遁して修行し、湯浅党の人々と助けあった行跡と、今日まで語り継がれ敬われてきた歴史を、最新の調査成果をもとに展示室内に立ち上げた意欲的な展示。施無畏寺の明恵上人坐像(康音作)や本尊千手観音立像、施無畏寺文書(重文・県指定)等、浄教寺の大日如来坐像(重文)や仏涅槃図(重文)、歓喜寺の地蔵菩薩坐像(重文)や歓喜寺文書等、成道寺千手観音立像、神光寺の春日赤童子像や神光寺文書等、勝楽寺釈迦如来坐像(重文)などなど、明恵や湯浅党ゆかりの文化財が一堂に集まる。明恵中興の高山寺からは文殊菩薩像(重文)、華厳海会善知識曼荼羅(重文・後期)、春日・住吉明神像(後期)のほか重要な聖教類は写真パネルで紹介。また京都国立博物館明恵上人歌集(国宝)、春日大社春日権現験記絵(春日本)、大谷大学博物館湯浅景基寄進状(重文)など重要資料も集める。施無畏寺明恵上人坐像とその背後に巨大な仏眼仏母像(複製)が重なる第一室の空間や、久米田寺明恵上人像と明恵上人樹上坐禅像(複製)、樹上坐禅像の近世~近代の写し、明恵上人石上坐禅像の個人所蔵の新出資料、奈良博明恵上人持経像写などが並ぶ一角は圧巻。必見。図録(244頁、2200円)は詳細な資料解説・年表・参考文献とともに論考・コラム多数。高橋修「紀州有田郡の明恵と湯浅氏三代」、島田和「生誕八五〇年記念紀州・明恵房成弁伝」、坂本亮太「明恵の師-文覚・上覚の流れ-」、野呂靖「『華厳経』を実践した明恵」、伊東史朗「施無畏寺神像拝観記」、関根俊一「「鹿座仏舎利」誕生の道のり」と斯道の碩学が筆を執るとともに、川口修実「紀州ハ所遺跡と中西正雄」(有田川町教委)、中原七菜子「令和五年能「春日龍神」上演会」(湯浅町教委)、松井美香「国史跡明恵紀州遺跡率塔婆の保存修理について」(有田市教委)、川岸光司「こころ美しきひと明恵上人を偲ぶ」(明恵上人讃仰会)と関係自治体や顕彰団体の人々から寄稿を受ける。和歌山県博の活動は地域とともにあり、その大きな協力・支援あっての展覧会活動であることを表明する構成。必読。

10月15日
有田市郷土資料館
 企画展 魅惑の初島 流転のみほとけたち 
(9月23日~11月26日)

 有田市内初島地区の寺院に伝わる仏像や縁起、古文書、経典類から、それぞれの伝来や寺院の変遷をたどり紹介する。正善寺の平安時代の天部形立像や室町時代ごろの十王像、新発見の正善寺縁起、地域から市に託された館蔵の西福寺文書のうち多数の中世文書、上自治会の平安時代に遡る薬師如来坐像や大日如来坐像など、これまで知られていなかった重要資料から地域の宗教文化を浮かび上がらせる。会期中の10月1日と11月18日に正善寺現地の収蔵庫で康平5年(1062)銘大日如来坐像(重要文化財)を企画に連動して公開するのもすばらしい取り組み。図録無し。

10月17日
京都国立博物館
 特別展 東福寺
(10月7日~12月3日)

 美術史実習の見学。臨済禅の古刹東福寺の歴史と寺宝を一堂仁紹介する。開山の円爾像をはじめ多数の高僧の頂相やゆかりの品、墨蹟など、継承された法灯のあかしを核にして、明兆の五百羅漢図や宋元仏画、旧本尊の巨大仏手、迦葉・阿難立像(鎌倉時代)、二天立像(鎌倉時代)など巨像も配置し、巨刹の偉容をも展示室内に立ち上げる。書蹟の部屋の無準師範の優れた禅院額字幷牌字が並ぶ空間に心震える。密かにまねする大好きな書風。図録あり(392ページ、3300円)。

大谷大学博物館
 特別展 宗祖親鸞聖人誕生850年・立教開宗800年記念 古典籍の魅力 2023
(10月10日~11月28日)

 東本願寺学寮の資料を引き継ぐ大谷大学博物館収蔵の古典籍・経典・古文書類の優品を軸に、関連資料をも他機関等から集めて展観。前期・後期で大幅展示替え。前期は宋拓多数、大谷本と京博本の春記、後白河院庁下文(重文)、真宗大谷派顕浄土真実教行証文類(坂東本・国宝)ほか親鸞真筆多数。後期(11/7~)は奈良博親鸞聖人像(熊皮御影・国宝)、湯浅景基寄進状(重文)、京博明恵上人夢記(重文)、三教指帰注集(重文)、高野雑筆集(重文)など。図録あり(88ページ、2000円)。

10月21日
元興寺法輪館
 特別展 菅原遺跡と大僧正行基・長岡院
(10月21日~11月12日)
 元興寺文化財研究所が発掘調査を行った行基供養の長岡院に関する調査成果を遺物をもとに紹介する。研究所保管の瓦のほか、1981年に奈良大学が菅原遺跡で発掘した小型瓦や鬼瓦、薬師寺行基菩薩坐像(宝暦3年・1753、北川雲長作)ほか、行基ゆかりの竹林寺や大庭寺などの資料、頭塔や円形建物に関する資料も集める。図録あり(64ページ、550円)。

10月24日

興福寺国宝館・北円堂
 美術史実習で興福寺へ。国宝館の諸尊像をじっくり拝んでから北円堂の特別開扉(10月21日~11月5日)へ。運慶仏拝観。

10月26日

飛鳥資料館
 特別展 川原寺と祈りのかけら
(10月6日~12月10日)
 川原寺で仏像調査してから、飛鳥資料館で川原寺裏山遺跡出土の塑像や磚仏鑑賞。7世紀後半創建の伽藍が9世紀に火災にあい、その後被災資料のうち尊像断片類をまとめて板葺神社のある小丘陵に埋納されたもの。昭和49年に関西大学網干善教氏が発掘調査を行い、そのまま同大考古学研究室が保管してきた資料多数と明日香村が保管する資料から、その概要を紹介。著名な、でも鑑賞機会の少ない塑像断片の数々を間近に鑑賞できる貴重な機会。図録あり(52ページ、1000円)。

10月28日
奈良国立博物館
 第75回正倉院展
(10月28日~11月13日)
 吉例の正倉院展に初日に参上。九条刺納樹皮色袈裟、楓蘇芳染螺鈿槽琵琶、平螺鈿背円鏡、銀平脱鏡箱、雑色瑠璃、刻彫梧桐金銀絵花形合子、紫檀小架、良弁署名文書、青斑石鼈合子などなど今年もバラエティに富むラインナップ。伎楽面はなく布作面が並ぶ。なんといっても漆金銀絵仏龕扉。神将形や天部形を目をこらしながら書き起こし図と見比べながら鑑賞。見える、見えるぞ!。図録あり(182ページ、1500円)。

10月31日
大和文華館
 特別展 いぬねこ彩彩-東アジアの犬と猫の絵画-
(10月7日~11月12日)

 主タイトルから可愛い犬猫いっぱい集めてゆるふわ系展示かと思いきや、ガチガチの美術史正統派展示で見始めて2分で背筋が伸びる。犬猫を画題とした中国画をいかに受容し学び写し影響を受けたかをさまざまな重要作品を集め、中世から近世末までの展開を示す。個人蔵の伝李迪筆狗図と李迪筆犬図など南宋・明・清の犬猫、東博伝毛益猫図や日本民藝館李巌筆花下遊犬図など朝鮮王朝の犬猫と、狩野探幽の李迪筆犬図模本などそれらの模写、西新井大師總持寺俵屋宗達筆犬図などその影響を受けた作例など多数。図録あり(112ページ、1980円)。

11月1日
神奈川県立金沢文庫
 特別展 廃墟とイメージ-憧憬、復興、文化の生成の場としての廃墟-
(9月29日~11月26日)

 廃墟を見つめる眼差しと表現、そこから生成される再生の萌芽という重厚で重層的なテーマを展示で表現。本法寺法華経曼荼羅、本興寺法華経曼荼羅、聖衆来迎寺六道絵、平野美術館二河白道図、京博病草紙、東大寺東大寺大仏縁起、奈良博東大寺縁起など。ほか称名寺文書のテクストの上にも廃墟イメージを浮かび上がらせる。広範な対象を少しずつ取り上げたことでテーマの中核はやや拡散したが、廃墟と再生という新たな美術史研究の手法を立ち上げる最先端の営みとその成果。図録あり(128ページ、2000円)。

鎌倉歴史文化交流館
 企画展 金剛三昧院展-鎌倉殿を弔った寺院の軌跡-
(9月25日~12月2日)

 北条政子創建、高野山金剛三昧院の国宝多宝塔建立八五〇年を記念し、ゆかりの鎌倉で展覧会を開催。同寺の中世文書及び近世の頂相を中心に紹介。仏像では平安時代後期の地蔵菩薩立像は後世に体型を膨らませる改造を施し、部材は現状着脱できる特殊な作例。天文五年(1536)銘を有する南都・宿院仏師作の弁才天坐像は、仏師名として「国光(源四郎)」「国次(源次)」という番匠名を示す、宿院仏師が独自の造仏を開始するごく初期の新出作例。図録あり(80ページ、1000円)。

鎌倉国宝館
 国府津山寶金剛寺-密教美術の宝庫-
(10月21日~12月3日)

 小田原の国府津山寶金剛寺の仏像・仏画・聖教類を紹介。本尊秘仏地蔵菩薩立像(10c)、銅造如意輪菩薩半跏像(10c)、銅造大日如来坐像(12c)、延慶2年(1309)銘を有する不動明王二童子像、応永3年(1396)制作を示唆する軸木銘のある真言八祖像など。躍動感ある動勢と筋肉表現に優れる特殊な誕生釈迦仏(鎌倉時代と果敢に判断)や文殊菩薩像として伝来した西洋画の手法による人物像(西洋童子像)など、最新の精緻な調査成果を存分に反映。近世文書も活用して資料の伝来史を丁寧に追跡するのも堅実な作業。図録あり(148ページ、1500円)。

鶴岡八幡宮宝物殿
 社殿脇の宝物殿に久しぶりに入り、鎌倉時代の住吉明神倚像を拝観。

鎌倉文華館鶴岡ミュージアム
 鶴岡八幡宮の季節展 秋
(9月14日~12月3日)

 同社のさまざまな宝物を展観。特に刀剣にクローズアップする。国宝古神宝のうち胡籙や、重文行道面をじっくり鑑賞。図録なし。

鎌倉・吉兆庵美術館
 横浜眞葛焼 宮川香山の技
(9月30日~12月17日)

 吉兆庵美術館コレクションの中から横浜眞葛焼歴第のさまざまな作品を紹介。初代の眞葛窯変釉蟹彫刻壺花活、仁清意鳳凰雲透し香炉、二代の眞葛窯子供獅子舞置物、三代の極彩色孔雀香炉など。図録なし。

神奈川県立歴史博物館
 特別展 足柄の仏像
(10月7日~11月26日)

 神奈川県西部・足柄地域に伝来する仏像神像を、各自治体による調査成果を踏まえ、飛鳥時代の塑像から江戸時代の彫像まで網羅的に集める貴重な機会。箱根神社の万巻上人坐像や男神・女神坐像、朝日観音堂の仏像群、京福寺釈迦三尊像や男神立像、蓮台寺他阿真教坐像、三嶋神社薬師如来坐像などなど、興味深い重要作例多数。興福院菩薩頭は箱根山の常行三昧堂本尊像の可能性を見て、奈良仏師成朝か康慶作の仮説を提示(図録概説)。髻形状から平安末奈良仏師は確定的で、特に成朝説は興味深い意見。箱根神社銅製男神坐像については『筥根山縁起幷序』に藤原秀衡奉納とするものにあたる可能性を提示。造像の下限を文治3年とする。本誓寺の仏足文を有する鎌倉時代の阿弥陀如来立像2軀については、中世末~近世の資料や銘記を追跡してその伝来をあとづける。こうした各作例の伝来に関する情報や資料を博捜し解釈する中で仏像を通じた地域史理解も深まるといえ、これからの仏像展・仏像研究のあるべき方向性。会場内で配布する関連文献リストもすばらしい対応。図録あり(160ページ、1500円)。

11月2日
和歌山市立博物館
 特別展 葛城修験の世界
(10月28日~12月10日)

 和歌山市内に伝わる関係資料の調査成果を軸に葛城修験を紹介。加田・迎之坊伝来の中世~近世文書群(県指定文化財))を活用しながら、奈良大学との連携で調査した和歌山市内一之宿関連資料を伝える常行寺、二之宿関連資料を伝える西念寺、三之宿関連資料を伝える本恵寺の文化財を取り上げるとともに、七之宿葛城中台中津川行者堂の文化財や八之宿犬鳴山七宝瀧寺や槇尾山施福寺、松尾寺の資料も集める。葛城修験の日本遺産登録後、堅実に地域内の関連文化財調査を続けてその実態把握に努めてきた途中成果を展示を通じて広く共有するものであり、博物館・教育委員会の大切な役割を果たす。図録あり(92ページ、1700円)。

11月3日
浜松市美術館
 みほとけのキセキⅡ-遠州・三河のしられざる祈り-
(10月14日~12月3日)

 同じ主タイトルの前回展示(2021年)に引き続き、静岡県西部と隣接する東三河の古代から近世までの仏像神像を、最新の調査成果を反映して紹介。大宝院廃寺出土の菩薩立像塼仏や遠江国分寺出土の塑像片、定光寺の平安時代後期・等身の千手観音立像、岩室観音堂の巨大な仏頭など優美な中央風の作例、普門寺阿弥陀如来坐像や熊野神社不動明王立像など堅実な鎌倉時代前期作例、神像研究上に重要な府八幡神社の11世紀の早いころの僧形八幡神坐像と女神坐像、像内に延慶三年(1310)銘を有する林慶寺大日如来坐像、宝林寺の康祐作黄檗様四天王立像など、当地の仏教文化の諸相を一望できる貴重な機会。今回の展示には間に合わなかったものの像内に仁治3年(1242)造像銘を有する玖延寺薬師如来立像を一日造立仏とみなせることについて、速報的にパネル紹介する。前回展に引き続きほとんどの作例が写真撮影可とした英断も、所蔵寺社との高い信頼関係を構築していることの現れ。子ども向けサブキャプションほか鑑賞支援も充実していて、新時代の仏像展示の理想的なカタチ。図録あり(112ページ)。担当島口直哉学芸員の総論・論考5本(!)掲載。

応賀寺
 湖西市の応賀寺が開創1300年記念大法会の当日であることを島口さんに教えてもらって駆けつけ。ご高配を得て開帳されていた秘仏本尊薬師如来坐像(鎌倉時代)と四天王立像(平安時代)をご拝観。宝物館の阿弥陀如来坐像(平安時代)、文永七年(1270)の毘沙門天立像と像内納入品ほかをありがたく拝観。

11月5日
尼崎市立歴史博物館
 特別展 尼崎市指定文化財の精華(前期)
(10月1日~11月30日)

 初めて尼崎市指定文化財が指定されてから40年目を記念して、市指定文化財を一堂に公開。仏像では治田寺十一面観音菩薩立像(11c)、ぐいっとくびれた胴が特徴的な白衣観音寺の毘沙門天立像(11c)のほか、お目当ての寶樹院の豊臣秀吉坐像(豊国大明神像)及び菊桐文蒔絵厨子と桑山重晴坐像をありがたくじっくり鑑賞。桃山時代彫刻を考える上での重要資料の一つ。長遠寺の鰐口・雲板のうち、天文6年(1537)銘の鰐口に「紀州松江池大明神鰐口也」とあって紀州伝来資料であることを把握。ほか長遠寺の天正16年銘を有する日蓮大聖人註画賛図録、本興寺の海北友松筆押絵貼屏風など(80ベージ、1500円)。

西宮市大谷記念美術館
 画人たちの仏教絵画-如春斎再び!-
(10月21日~11月26日)

 近世画人が描いた仏画を多数集めて展観。西宮ゆかりの勝部如春斎筆茂松寺三十三観音図、一休寺の原在中筆三十三観音図はともに東福寺の明兆筆三十三観音図を基にしたもの。一休寺の仏涅槃図や釈迦十六善神像など原在中のうまさにうなる。ほか鈴木其一筆荼枳尼天曼荼羅、池大雅筆観音図、田能村竹田筆白衣観音図、呉春筆地蔵菩薩二童子像、紀広成筆聖僧文殊像などさまざまな絵師のさまざまな画題を紹介。作者名を伴わない絵仏師作例や、専業絵師ではない林丘寺光子内親王の観音像なども紹介して、近世仏画を巡る諸相を幅広く捉える。近世仏画研究の展望が開かれつつあることを展示を通じて共有する。図録あり(2500円、176ページ)。

池田市立歴史民俗資料館
 特別展 池田のたからもの
(10月14日~12月3日)

 池田市内の指定文化財を紹介。仏像は久安寺増長天立像(11c)、東禅寺天部立像(11c)、両脚部の大半も含め一材から彫り出す古様な不動明王坐像(10c)、市蔵の阿弥陀如来坐像(13c)を出陳。絵画では久安寺の久安寺縁起(真名本、仮名本)。ほか民俗資料、考古資料、歴史資料も並ぶ。図録あり(40ページ、800円)。

久安寺
 そばまできたので久安寺初訪問。重文仁王門は室町前期とのことで、仁王像は鎌倉時代末〜南北朝、14世紀ぐらい。境内に建立されたストゥーパ内には像長6メートルを超える涅槃釈迦像。

11月7日
奈良県立美術館
 特別展 仮面芸能の系譜−仮面芸能のふるさと奈良-
(9月30日~11月12日)

 美術史実習で再訪し後期展示鑑賞。奈良豆比古神社仮面群、大保八坂神社仮面群をじっくり観賞。図録あり(144頁、3300円)。

11月14日
和歌山県立博物館
 特別展 紀州明恵上人伝
(10月14日~11月26日)

 美術史実習で再訪。東大寺華厳海会善知識曼荼羅をじっくり。図録あり(244頁、2200円)。

和歌山市立博物館
 特別展 葛城修験の世界
(10月28日~12月10日)

 美術史実習で再訪。図録あり(92ページ、1700円)。

11月15日
般若寺

 大学院ゼミで本像文殊菩薩騎獅像拝観。本堂縁側の旧本尊像獅子座の石製台座をじっくり鑑賞。

11月17日
東大寺法華堂
 秘仏 国宝・良弁僧正坐像 特別拝観
(10月28日~11月19日)

 法華堂でのご開帳に結縁。9世紀彫像としての評価が定まりつつある同像の、側面、背面の表現をありがたく拝観。

11月20日
高野山霊宝館
 企画展 弘法大師空海の弟子たち
(10月14日~1月14日)

 弘法大師の弟子に注目して資料を集める。鎌倉時代の竜泉院弘法大師像をじっくり拝観。御影堂本の弘法大師十大弟子及び真然・定誉像、宥快筆の宝寿院中院流血脈、龍光院明算像、東南院智泉像、浄菩提院覚海像、浄菩提院道範像、蓮華定院応其像などのほか、灌頂道具や仏具の優品を多数紹介。図録なし。

11月21日
大阪中之島美術館
 特別展 生誕270年 長沢芦雪
(10月7日~12月3日)

 美術史実習で芦雪絵鑑賞。西光寺の龍虎図襖、大乗寺群猿図、薬師寺松虎図襖の空間にゆっくりじっくり滞在。図録あり(304ページ、2800円)。

 特別展 テート美術館展 光-ターナー、印象派から現代へ
(10月26日~1月14日)

 美術史実習続き。時代もジャンルも異なる近現代美術の流れをたどる多様な作品を楽しんで鑑賞。図録あり。

11月23日
観峯館
 特別企画展 近江・聖徳太子伝承社寺の美術-地域に根付いた文化財たち-
(9月23日~11月26日)

 東近江地域の聖徳太子伝承に着目して、関連社寺から資料を集める。瓦屋寺南無仏太子立像(鎌倉時代)、成菩提院聖徳太子像(十禅師像)、百済寺聖徳太子像、元時代の長命寺勢至菩薩像、市神神社千手観音二十八部衆像などのほか、正明寺の後水尾法皇勅賜正明寺寺号など墨蹟や縁起、聖教類も丁寧に展示に組み込むのは書道博物館としての同館ならではの目配り。図録あり(48ページ、1500円)。

瓦屋禅寺
 秘仏千手観音立像特別大開帳
(10月1日~12月3日)

 秘仏本尊のご開帳にありがたく結縁。平安時代、11世紀の真千手像。重要文化財。

11月26日
東大寺

 奈良大主催の全国高校生歴史フォーラム優秀賞のみなさんといっしょに大仏蓮弁登壇。

12月3日
秋篠寺・霊山寺・長弓寺
 密教図像学会の見学会で3か寺訪問。ありがたく仏像をご拝観。

12月6日
大安寺

 宝物殿にて奈良時代彫刻の数々をご拝観。

12月8日
佛教大学宗教文化ミュージアム
 企画展 拝まれてきた仏像-ふたたび拝まれる日をまつ-
(10月28日~12月9日)

 過疎・高齢化がすすむなか宗教法人の解散を選択した浄土宗寺院において「拝まれてきた仏像」を紹介し、今後の行く末を考える現代社会の課題と直結した仏像展。整った造形の江戸時代彫刻多数を、その台座や光背など付属部品とともに、壊れているものはあえてそのまま現状を把握するために紹介。解散寺院の仏像は、一部は宗派が管理し、また別の寺院へ譲る事例も紹介。宗派だけでなく法脈間でも同様のことは行われていると推測されるが、「ふたたび拝まれる仏像」という希望が展示室内に示しされていることも重要。リーフレットあり(16ページ、無料)。

12月19日
東大寺

 美術史実習で大仏蓮弁登壇。ありがたくご拝観。

東大寺ミュージアム
 特別展示 良弁僧正と東大寺-東大寺開山良弁僧正1250年御遠忌記念-
(前期10月1日~11月16日・後期11月17日~12月21日)

 良弁僧正の遠忌を記念して関連資料を紹介。南都絵所の手になる東大寺縁起をじっくり鑑賞(前期は執金剛神縁起出陳)。良弁念持仏とされる襟掛観音像は銅製で5㎝の小十一面観音立像。良弁所持とされる風字硯は平安初期のもの。ほか四聖御影の永和本(前期建長本)など。図録あり(22ページ)。

奈良国立博物館
 特集展示 新たに修理された文化財
(12月19日~1月14日)

 奈良博にて近時修理された文化財を紹介。総持寺釈迦三尊像は早く明治31年に国宝指定されながらパネル装で状態も悪く展示機会の少ない作例であったが、掛幅装に戻して修復、本来元興寺薬師如来立像に付属する奈良博蔵の背板部品は剥落止め等の処置。奈良博蔵の南都寺社古文書・古記録等は襖の裏張りになんと奈良時代や中世の文書が張り込まれたもの。ひえー。図録なし。

 特別陳列 おん祭と春日信仰の美術-特集 春日の御巫-
(12月9日~1月14日)

 恒例おん祭展は神楽を舞う御巫(みかんこ)を特集。春日信仰にまつわる掛軸多数。奈良博春日文殊曼荼羅、長谷寺地蔵菩薩立像(弘安6年銘)、久戸神社春日社寺曼荼羅など鑑賞。図録なし。名品展では奈良博春日荼枳尼天曼荼羅、宝厳寺北斗九星像、氷室神社縁起絵巻など珍しい資料多数。錦織寺熊野垂迹神曼荼羅もありがたく鑑賞。

12月23日
和歌山県立博物館
 企画展 高野山寺領の村
(12月16日~2月12日)

 近世の高野山寺領の成立過程とともに、村の暮らしのようすを紹介。豊臣秀吉の側近として寺社の造営に携わった木食応其関連資料が充実。応其寺木食応其像、応其が記した連歌の指南書である無言抄、ほか応其書状など。芸能関連では古沢厳島神社の重文尾長鳥文様繡狩衣狩衣(2領を展示替え)、猿楽面4面、河根丹生神社の猿楽面4面。ほか和歌山大学紀州経済史文化史研究所蔵の菅野家文書、県立文書館蔵の北家文書等。図録なし。

12月28日
藤田美術館
 護 (10月1日~12月28日)
 妖 (11月1日~1月31日)
 山 (12月1日~2月21日)

 難波で買い物して藤田美術館へ滑り込み。「護」展では重要文化財の密教法具(四面具は一部出陳)、梵釈四天王五鈷鈴、四天王立像(鎌倉時代)、神像3軀、十二天図屏風。「妖」展では長沢芦雪筆幽霊・髑髏・白蔵主の三幅対、永久寺伝来の卒塔婆小町像など。「山」展では黄公望筆の天地石壁図をじっくり鑑賞。隣には野呂介石筆の天地石壁図写が並ぶ。各テーマごとにミニ図録あり(セットで1000円?)。

1月6日
熱田神宮宝物館
 特別展 熊野三山と紀伊半島の神話
(1月1日~1月29日)

 世界遺産登録20周年の節目の熊野展を熱田神宮で開催。熊野の三社の文化財と、和歌山県立博物館、大須観音寶生院、西尾市岩瀬文庫などから多数資料を集めて展観。熊野権現蔵王殿造功日記ほか大須文庫の熊野関連の重要聖教が並ぶのは地元ならではでありがたく拝見。熊野速玉大社の古神宝類(国宝)、熊野本宮大社の熊野本地仏曼荼羅、熊野那智大社の女神坐像、男神坐像、那智参詣曼荼羅、熊野本地仏曼荼羅など。展示後半は紀伊半島の神話として神武東征と蓬莱伝説を紹介。図録あり(124ページ、1000円)。

1月23日
京都国立博物館
 修理完成記念特集展示 泉穴師神社の神像
(1月2日~2月25日)

 このたび修復された泉穴師神社の神像群のうち26軀を、修理時の情報とともに紹介。大小様々で彩色が良好に残る男女神坐像のペアが多数並んで壮観。最も大きい主祭神像のペア(天忍穂耳命坐像・栲幡千々姫命坐像)は一木から木取りして正中で左右に割り離し、像底から内刳りを施して腰部を棚板条に残すという特殊な構造。女神像(その47)は頭部に左右二つに分かれた髻を結い、三道をあらわして襟を立て、体厚も大きい10世紀の作例。ほか肉身を漆箔仕上げとする男神像も多数。ありがたく鑑賞。リーフレットあり(無料)。

龍谷ミュージアム
 仏教の思想と文化-インドから日本へ- 特集展示:眷属-ほとけにしたがう仲間たち-
(1月9日~2月12日)

 仏菩薩に従う護法善神としての眷属を、さまざまな作例から紹介。平等寺薬師三尊十二神将像(伝土佐光茂筆)、永観堂禅林寺千手観音二十八部衆像はそれぞれ三幅対で眷属を重視する。個人蔵文殊五尊像は正面から群像を見る珍しい構図。七条仏師が制作した仏像雛形を多数活用。図録なし。

2月1日
奈良県立美術館
 漂泊の画家 不染鉄-理想郷を求めて-
(1月13日~3月10日)
 開館50周年記念として同館で3度目の回顧展。木下美術館《山海図絵(伊豆の追憶)》、奈良県立美術館《山》、愛知県美術館《南海之図》、個人蔵《いちょう》など初期から晩期までの代表作とともに、赤膚焼や染色品等多様な作品も集める。独特な構図や画風に引き込まれる。南都正強中学(現・奈良大学附属高校)理事長・校長の経歴あり。図録あり(160ページ、2500円)。

2月5日
奈良教育大学教育資料館
 密教寺院 妙法寺と八幡信仰
(2月5日~2月8日)
 文化遺産教育専修の教員・院生・学生による妙法寺(みずし観音)の文化財調査成果を展示として発表。元亀2年(1571)椿井式部作の大日如来坐像は、新たに撮影した像内銘記のビデオスコープ画像も掲示。「代々椿井聖霊有縁無縁」など親族の結縁を示すのは同時期の宿院仏師と共通。ありがたく学。絵巻では元禄9年(1696)制作の御厨子山妙法寺縁起絵巻、隣接する御厨子神社に関わる資料である八幡大菩薩縁起絵巻を紹介。パネル展示では新出の鎌倉時代の不動明王立像を紹介。地域の中で継承された美術資料を共有させてもらうありがたい機会。図録あり(41ページ、無料)。

2月10日
茨城県天心記念五浦美術館
 天心が託した国宝の未来-新納忠之介、仏像修理への道-
(12月9日~2月12日)

 同館所蔵の新納忠之介に関する重要資料多数と、東京芸大美術館所蔵の新納作中尊寺一字金輪仏頂像の模刻や多数の伎楽面(作者不明)を用いて、新納の生涯の事績と彫刻資料の修復のあり方を紹介。スケッチ類がさまざまに紹介される中で、明治31年和歌山県国宝修理旅時のスケッチ帖を初めて見て感動。展示では道成寺千手観音とした仏像は紀三井寺の千手観音のよう。修理のためのスケッチではなく、ある種の感動を写す態度で、異国風の連眉の威容に新納も魅せられたことをうかがわせる。リーフレットあり。

東京国立博物館
 建立900年特別展 中尊寺金色堂
(1月23日~4月14日)

 金色堂建立900年の節目に、中央壇の国宝諸尊像と荘厳具の数々を紹介。阿弥陀三尊・六地蔵・二天の11軀を間近に張り付きながらありがたく鑑賞。隅々まで実見できることで、各像の作風の違いも見えてくる(中尊と脇侍も含め)。西北壇◦西南壇の諸尊も含め、制作時期や移動の状況について、先行研究を尊重しつつもまだまだいろんな可能性がありそうと実感。超大画面の8K映像も3回見る。図録あり(180ページ、2800円)。 

 特集 塔と厨子
(1月16日~2月25日)

 小塔形の工芸品と厨子を多数展示。法隆寺献納宝物の塔鋺、百万塔、銭弘俶八万四千塔(那智経塚出土史料)や、春日宮曼荼羅彩絵舎利厨子、永仁3年(1295)造像の聖徳太子坐像を納めた黒漆厨子、十王が描かれていてもと地蔵菩薩を安置したとみられる黒漆彩絵厨子など。リーフレットあり。

2月16日
高野山霊宝館
 平常展 密教の美術-祈りの龍姿-
(1月20日~4月14日)

 冬季恒例の高野山の密教美術展。紫雲殿中央には応徳3年(1086)銘の仏涅槃図(国宝)展示中(2月10日~3月3日、以降は愛知芸大模写本に展示替え)。ありがたくしばし独り占め。八大童子像のうち龍に乗る阿耨多童子像(国宝附)、紺紙金銀字一切経(国宝)のうち大品経、龍の姿の厨子入金銅水神像(重文)、九頭竜が配された元時代の九鈷杵・九鈷鈴、西南院の龍と狐の上に立つ珍しい弁才天像や親王院の天河弁才天像などなど、龍をあらわした資料を多数展示。図録なし。

2月21日
奈良県立万葉文化館
 館蔵品展 7人の万葉歌人からたどる万葉集
(1月13日~3月3日)

 額田王、柿本人麻呂、山部赤人、山上憶良、大伴旅人、大伴坂上郎女、大伴家持の7人の歌人の有田焼製人形をアイコンにして、時期を分けながら万葉歌の世界観を館蔵日本画で紹介。平山郁夫《額田王》、畠中光享《春柳葛城山》、片岡球子《富士》、加山又造《月と秋草》、上村淳之《佐保の詩》などのほか、狩野永納筆三十六歌仙色紙帖、管楯彦筆大伴旅人卿羨酒壺、賀茂真淵の讃のある柿本人麻呂像等々館蔵資料を活用。歌人の履歴書風解説版や漫画風解説版、顔ハメ撮影用パネルなど来館者を楽しませる演示の手法を組み込んで、館蔵資料の新たな見せ方を提示。解説・目録収載の展覧会だよりあり(10ページ、無料)。

2月22日
あべのハルカス美術館
 開館10周年記念 円空-旅して、彫って、祈って-
(2月2日~4月7日)

 江戸時代の遊行僧円空の手になる行者系彫像の数々を、代表作を多数含んで初期から晩期までを見はるかす。岐阜・千光寺の彫像群が展示の中核をなし、同寺資料については撮影も可。千光寺両面宿儺坐像、三十三応現身立像、奈良・栃尾観音堂護法身像、岐阜・中尾薬師寺薬師如来坐像、園城寺善女竜王立像、法隆寺大日如来坐像、栃木・不動明王及び二童子立像などなど。愛知・荒子観音寺の補修仏像(菩薩形立像)は平安時代の朽損した仏像を円空が面部を彫り直して右前膊を補ったもので、荒れた像表面をそのままに仕上げる。円空と古仏との関わりを示すだいじな痕跡。図録あり(160ページ、2800円)。

2月28日
和歌山県立博物館
 企画展 新収蔵品展2024
(2月23日~4月14日)

 近年同館が収集した新資料のなかから37件59点を紹介。粉河寺本尊の信仰史を伝える千手観音及び役行者・丹生明神像の三幅対や、祇園南海筆南海詩稿、寛永5年(1628)の徳川頼宣書状(円満院宛)、和歌祭礼行列図屛風、紀伊国名所図会高野山図下絵、南紀高松焼色絵牡丹図土瓶などバラエティに富む内容。光川亭仙馬作の南紀男山焼染付不老橋図菓子鉢や隅入方形小皿土型と三田焼の型や製品との類似を示して仙馬の学習を読み取ったり、「偕楽園製」銘交趾写寿字文花入から近代における近世陶磁器の写しの問題に切り込むなど、コレクションの中核をなす陶磁器の展示に新視点を盛り込む。図録なし。

3月3日
奈良国立博物館
 特別陳列 お水取り
(2月10日~3月17日)

 前夜、二月堂にて修二会聴聞してから恒例お水取り展へ。本尊光背拓本の表裏を確かめ、仏像館の実物を鑑賞。二月堂曼荼羅と南都絵所の手になる東大寺曼荼羅とをじっくり見る。寛政9年(1797)実忠和尚一千年遠忌法事執行記には遠忌に際して二月堂内に小観音厨子や宝物を配置してご開帳を行っていることがわかる。図録は令和2年発行の同名図録を持って充当。

3月17日
和歌山市立博物館
 企画展 花鳥風月-めぐる四季と花鳥-
(3月16日~5月12日)

 館蔵品の中から花鳥風月を題材とした近世の絵画資料を中心に紹介。坂昇春筆赤坂御庭図画帖、祇園南海筆墨梅図、徳川治宝筆雪中牡丹図、吉野和歌浦真景図巻など多様な佳品をゆったりと展示。図録なし。

3月24日
かつらぎ町役場
 庁内展示vol14 丹生明神とその装い
(1月10日~3月29日)

 丹生都比売神社の天野の御田でかつて使用されたとされる尉と父尉の2面を小さなケースに展示。尉は室町初期ぐらいの大型の尉面、右の父尉は南北町?室町前期ごろの制作。中世天野社の仮面芸能の歴史を今日に伝える。普段は県博寄託で、地元で見る機会は貴重。図録なし。

3月26日
国立中央博物館(韓国)
 스투파의 숲, 신비로운 인도 이야기(ストゥーパの森、見知らぬインド物語)
(12月22日~4月14日)

 南インドのストゥーパを装飾する神々や欄楯等の仏伝図を集約。メトロポリタン美術館から巡回。大英博物館のサタバハナ王像、象の崇拝を受けるストゥーパ、アーンドラプラーデーシュ州考古博のヤクシャ像、アマラヴァティヘリテージセンターの舎利容器を表したストゥーパ、インド博物館の転法輪図、パニギリ仏塔遺跡の塔門の釈迦成道図、ンドナガルジュナコンダ考古博の龍蓋を伴う釈迦を表したストゥーパ、テランガナ州立博物館の釈迦如来立像などなど、インド各地の博物館を中心に重要資料が林立する。タイトルはその林立するさまを森に例えたもの。図録(216ページ)と論考集(180ページ)あり。全資料写真撮影可能。ハンドマイクを使った展示解説ツアーも毎日複数回催行しているようで聴衆多数。すばらしい。

3月27日
湖巌美術館(韓国)
 진흙에 물들지 않는 연꽃처럼(泥に染まらない蓮の花のように)
(3月27日~6月16日)

 東アジア仏教におけるさまざまな芸術表象を通じて、仏教における女性像と女性の祈りのあり方を提示する意欲的な展示。二部構成で、前半「再浮上する仏教徒の女性像」は女性の身体、観音菩薩、女神の世界の3章、後半「女性の宗教的誓いと実践」は敬虔な祈り、儒教社会における女性仏教徒、女性の仕事(繍仏・刺繍)のそれぞれに分ける。ボストン美術館の摩訶波闍波提図(元)や院政期の如意輪観音像(平安)、吉祥天曼荼羅(鎌倉)、メトロポリタン美術館の楊柳観音像(高麗)、維摩不二図(元・1308)、大英博物館弁財天像(鎌倉~南北朝時代)、クリーブランド美術館阿弥陀三尊像(南宋)、薬師三尊十二神将図(朝鮮・1477)、永平寺三帝釈天像(朝鮮・1483)、本岳寺釈迦誕生図(朝鮮)等々数え切れないほどの優品に、国立中央博物館や、湖巌美術館と一体であるリウム美術館の重要資料を組み合わせて展示を構築。扶余で発見された百済時代の可能性がある観音菩薩立像が韓国初公開。若々しく微笑する面貌表現に優れる隋様式の影響を受けた像高26.7㎝の金銅仏。図録あり(392ページ、35,000ウォン)。