展覧会・文化財を見てきました。

─展覧会鑑賞・文化財見学に関する勝手な感想─

最終更新日 10月8日


2019年度

4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月


4月30
中之島香雪美術館
 特別展 明恵の夢と高山寺
(3月21日~5月6日)

 自分の担当展覧会をオープンさせ、約2ヶ月ぶりの展覧会鑑賞。村山コレクションに収蔵される、明恵筆の夢記1巻(建仁4年〔1204〕ごろ)を結節点として栂尾高山寺の文化財を核としつつ自館コレクションを散りばめた明恵&鳥獣戯画展。樹上座禅像と夢記、そして仏眼仏母像を通じて明恵とまみえるありがたい機会。溢れる慈悲と真摯さ、そして明晰な思考、かくあるべしと背筋を伸ばす。鳥獸戯画も贅沢に参考出品。行列もほぼなく、かくあるべし。図録あり(176ページ、1800円)。

5月1日
東京国立博物館
 特別展 国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅-
(3月26日~6月2日)

 東寺宝物の東京出開帳展。風信帖(空海筆)、御請来目録(最澄筆)の国宝書蹟に始まり、真言七祖像、五大尊像、西院曼荼羅、京博十二天像の国宝絵画、唐請来密教法具、西院御影堂天蓋の国宝工芸品、そして講堂諸尊の数々と女神像の国宝彫像と、タイトル通りのラインナップ。東博平成館の強みである大空間を活かして広々と林立させた講堂諸尊像は、等間隔に配置された丸い台、そしてその間に多数参集する善男善女も一体となって、仏の充満する立体的な曼荼羅空間を実現しているかのよう。空海の意楽による特殊な羯磨曼荼羅であるので、いろんな再解釈や再構成も許されましょう。普段見られない背面のようすをたどりながらぐるり一周。図録あり(272ページ、2700円)。本館では特集「密教彫刻の世界」(3/19~6/23)を連動させて開催中。東博のおなじみの彫刻コレクションをうまく再配置。

 特集 2019新指定国宝・重要文化財
(4月16日~5月6日)

 恒例の新指定国宝重文お披露目展。彫刻主体に大阪・壺井八幡宮の頼円・実円作の神像をじっくり鑑賞(ちょうど自館で同じ頼円・実円作の広利時十一面観音立像を展示中)。ほか兵庫・朝光寺千手観音立像や新薬師寺地蔵菩薩立像、萬行寺阿弥陀如来立像といった、地域の中で地道に調査され評価されてきた作例をピックアップしているのが、素晴らしい方向性。和歌山県からは阿須賀神社の懸仏群が考古の分野で阿須賀神社境内(蓬莱山)出土品として指定。戦後、台風被害で倒れた社殿裏の木の根元から出土し、東博が発掘調査しているという珍しい事例。世が世なら東博収蔵品だったかも。

埼玉県立歴史と民俗の博物館
 特別展 東国の地獄極楽
(3月16日~5月6日)

 地獄極楽をテーマとしつつも、3章副題の「浄土宗第三祖良忠と関東三派の東国布教」を基軸として展覧会構成。白旗派・名越派・藤田派の浄土宗関東三派の教線拡大の状況を地道な資料調査と地域史研究の成果を踏まえて丁寧に提示。善光寺式阿弥陀三尊像は、下野国那須伝来の東博建長6年(1254)在銘像、栃木・円通寺(名越派)の作例、福島県いわき市所蔵の如来寺旧蔵嘉元2年(1304)修理銘を有する作例(伝良忠所蔵像)を紹介。ほか熊谷市東善寺の快慶風が顕著な阿弥陀如来立像も出陳。図録あり(128ページ、1000円)。

群馬県立歴史博物館
 企画展 大新田氏展
(4月27日~6月16日)

 新田義貞を巡る研究の大幅な進展を、実物資料を集約して展覧会として共有化を図る意欲的な内容。昨年発見された足利尊氏像(神護寺の肖像と似るもの)や福井・藤島神社の新田義貞像、太田市総持寺の伝儀貞像(本来は怖い顔の随身像)など肖像を集めるとともに、長楽寺文書など多数の中世文書を集約して、堅実な歴史叙述に努めて新田一族の鎌倉~南北朝期の動向をあきらかにする。地域史研究の観点から仏像・神像の調査も行われ、その成果も反映。太田市十二所神社の神像は正元元年(1259)造像。神仏分離で隣の円福寺から神社に移されたという、普通とは逆のパターンで、重要な新資料。その円福寺からは南北朝時代とされる毘沙門天立像も出陳。総持寺の不動明王立像は10世紀の重量感あふれる作例で県指定文化財指定。迫力満点。世羅田の長楽寺の文化財も多数出品され、新田荘の中世をモノ資料から見つめる。図録あり(152ページ、920円)。

5月5日
弘法寺(岡山県瀬戸内市牛窓)
 弘法寺踟供養(岡山県指定無形民俗文化財)

 阿弥陀如来と菩薩・天童の仮面をかぶった聖衆が来迎を再現する迎講のうち、現在唯一阿弥陀如来について鎌倉時代の被仏を用いて行われる貴重な事例。聖衆は菩薩6人、地蔵2人、天童2人の10人からなり、往生者は中将姫。脇を支えられながら、ゆっくりと移動し、またお辞儀を行う阿弥陀の姿は、来迎の光景を臨場感をもって再現するもので感動。昭和42年に主要堂宇の火災により中断されていたが、平成9年から復活。『千手山弘法寺踟供養』(關信子著、1000円)に詳細が記される。

5月9日
石川県立歴史博物館
 特別展 いしかわの神々-信仰と美の世界-
(4月27日~6月2日)

 石川県内の資料を中心に神像・本地仏像・垂迹画・懸仏・神社奉納品及び祭祀に関わる考古資料を集める。七尾市・久麻加夫都阿良加志比古神社の男神坐像(木心が二つあり神木を使用したか)、珠洲市・須須神社の男神坐像5軀のうち3軀など重要文化財を含む約20軀の神像の中では、能登半島の突端、珠洲市・白山神社の男神坐像、同・古麻志比古神社の男神坐像がともに10世紀に遡る法量も大きな作例で重要。ほか志賀町・龍護寺薬師如来坐像(県指定)は少彦名社本地仏、羽咋市・正覚院阿弥陀如来坐像(重文)は気多神宮寺講堂本尊。冒頭ごあいさつに過疎化・高齢化による文化財継承への危惧が開催動機とされていて、共感。図録あり(172ページ、2000円)。会期中無休。

石川県埋蔵文化財センター
 春季公開 
(4月27日~5月26日)

 同センター収蔵の「重要文化財 加賀郡牓示札(津幡町加茂遺跡出土)」(4/27~5/6)と「県指定文化財 野々江本江寺遺跡出土品(珠洲市)」(4/27~5/26)の展示公開。加賀郡牓示札は嘉祥2年(849)銘を有する現存する唯一の古代の牓示。本江寺遺跡出土品からはこれも現存最古の木製笠塔婆と木製板碑。笠塔婆は梵字バンを表した額が残存。歴博展示の神像も含め、宗教文化を考える上で能登半島先端の珠洲市の資料が極めて重要であることをしっかり把握。手作りリーフレットあり。

5月14日
奈良国立博物館
 特別展 国宝の殿堂 藤田美術館展-曜変天目茶碗と仏教美術のきらめき-
(4月13日~6月9日)

 現在休館中の藤田美術館コレクションの優品を、指定文化財の全件を含んで網羅的に紹介。曜変天目茶碗(国宝)を展覧会のアイコンとして押し出しつつ、奈良に伝来し明治期の混乱の中で流出した仏教美術・宗教文化に関わる資料群を重厚に選定。興福寺大乗院伝来の玄奘三蔵絵、内山永久寺伝来両部大経感得図(前期)、快慶作の地蔵菩薩立像、千体聖観音菩薩立像(興福寺千体仏)、伝西大寺旧蔵の仏像彩画円柱、灯明寺旧蔵四天王像扉絵、東大寺戒壇院伝来十六羅漢図、薬師寺休ヶ丘八幡宮伝来の花蝶蒔絵挾軾、手向山八幡宮伝来の唐鞍などなど。仏教美術の再発見・再評価と、「国宝」保護の営みへの啓発的視点を通底させることで、他機関コレクション展でありながら文化財保護法に基づき設置された仏教美術の殿堂という奈良博の特徴が存分に発揮されていて違和感がないのはさすが。図録あり(286ページ、2300円)。

高野山霊宝館
 企画展 高野山と不思議な話
(4月20日~7月15日)

 山内伝来の数々の文化財を展示し、高野山における祖師や先師、神々、聖地や神器にまつわる伝承や神話を紹介。地蔵院本高野大師行状図画(重文)は大師と狩場明神出会いの場面を展示。竜光院厨子入倶利伽羅竜剣(重文)、伝船中湧現観音像(国宝)、成福院天河弁才天像、影向した姿を描いた宝寿院高野明神像・丹生明神像のほか、正智院道範大徳像、浄菩提院の覚海尊師像、金剛峯寺の応其上人像、豊臣秀次の辞世の句を書いた直筆短冊、江戸時代に雷に打たれて割けた大塔心柱などなど。図録なし。ついでに壇上伽藍の御社にお参り。

5月17日
龍谷ミュージアム
 企画展 因幡堂 平等寺-京に飛んできたお薬師さん-
(4月20日~6月9日)

 因幡堂平等寺の伝来資料と関連資料を集約して展観。東京国立博物館所蔵の因幡堂縁起(重文)のほか、因幡堂縁起の諸本を徹底集約。本尊薬師如来立像(重文)は因幡堂縁起に長保5年(1003)に因幡国から橘行平邸に飛来したと語られる「飛んできたお薬師さん」。造像時期を検討する上でも縁起の「飛来」時期は示唆的。やはり因幡国から飛来と伝承される延算寺薬師如来立像(重文)も関連資料として出陳。ほか平等寺伝来の中近世仏像が多数公開され、中でも元和7年(1621)康正作の弘法大師坐像はその最晩年の作で、近世仏像研究の上で重要な発見。平等寺近隣西念寺の阿弥陀如来坐像は、湛慶あるいはそのごく周辺の有力仏師の手になる洗練された鎌倉時代の作例で、ありがたい出陳。仏教文化をテーマとする博物館として、京都の寺院の文化財を新規調査を踏まえて水準高く紹介するこうした活動は重要で、大学ミュージアムの地域貢献のありうべきかたちをも体現している。図録あり(104ページ、1800円)。

京都国立博物館
 特別展 時宗二祖上人七百年御遠忌記念 国宝 一遍聖絵と時宗の名宝
(4月13日~6月9日)

 真教上人700年遠忌の西国での先行展示。時宗本山清浄光寺と、七条道場金光寺を引き継ぐ長楽寺の資料群を中心に時宗(時衆)の歴史を紹介し、真光寺・清浄光寺・金蓮寺ほかの遊行上人縁起絵の諸本を集約して二祖他阿真教を顕彰する。目玉の一遍聖絵(国宝)12巻の全巻公開にあたっては、その美術史的鑑賞の便に留まらず、各巻模本も活用しつつ多数の場面を展開して一遍と時衆の(縁起的)歴史の紹介にも目配りする。また長楽寺・蓮台寺・常称寺の真教像、長楽寺・西郷寺・迎称寺の一鎮像をはじめ、鎌倉~南北朝期の遊行上人像を集める貴重な機会。各地の時宗道場伝来の仏像仏画も取り上げ、阿弥陀寺・聞名寺の行快作例ほか鎌倉時代彫像や、金蓮寺阿弥陀如来像(南宋)や阿弥陀浄土変相図(南宋~元)の宋元仏画など、時宗の幅に留まらないラインナップ。図録あり(282ページ、2500円)。

5月20日
東大寺ミュージアム
 特集展示 華厳経の絵画
(4月24日~5月28日)

 華厳経にまつわる経典と絵画を展示。紺紙金字華厳経(重文)は建久6年(1195)の大仏殿落慶供養会に際して書写された後鳥羽天皇奉納品。華厳五十五所絵断簡は、勝熱婆羅門、大願精進力救護一切衆生主夜神、堅固解脱長者の3面。貴重な平安仏画。図録なし。同行の皆さんと多聞天立像・持国天立像をじっくりと鑑賞。

6月18日
香雪美術館
 羅漢さん-仏教を護る聖者たち-
(5月18日~7月15日)

 村山コレクション中の羅漢に関する資料を、絵画と画中に描写される調度から紹介。展示面積的には南北朝~室町の十六羅漢図と江戸時代(古様に見えるように写したもの)の十六羅漢図が大きく占めるが、通底するのは明恵上人の羅漢信仰への接近。ポスト「明恵の夢と高山寺」(於中之島香雪美術館)展の様相。
 明恵の羅漢信仰を示す重要資料として十六国大阿羅漢因果識見綬頌(建久10年、明恵・喜海写、個人蔵)。パネル展示で明恵上人樹上坐禅像に影響を与えた図様の羅観図を含む和歌山浄教寺の十六羅漢を取り上げ(大心院系)、この系統の羅観図の零本を紹介。大心院系十六羅漢は西大寺本(室町後期)、聖林寺本(桃山)も写真で紹介され、研究が一気に進展。この系統の羅漢図は十八羅漢の可能性がありそう。パネルの内容も掲載したリーフレット(A3両面)あり。

6月20日
東京国立博物館
 特別企画 奈良大和四寺のみほとけ
(6月18日~9月23日)

 国宝・重文の本尊を擁する奈良県中央部の四ヶ寺からなる「奈良大和四寺巡礼」(H27年結成)の構成寺院の仏像を本館第11室に集める。岡寺義淵僧正坐像(国宝)、菩薩半跏像(重文)、天人文甎(重文)、室生寺釈迦如来坐像(国宝)、十一面観音立像(国宝)、長谷寺銅造十一面観音立像(重文)、難陀龍王立像(重文)と、古代~中世の重要作例がずらり。安倍文殊院からは快慶作文殊菩薩坐像(国宝)の納入経巻。大和の古寺の長期出開張展。図録あり(48ページ、864円)。

びわ湖長浜KANNON HOUSE
 野瀬町大吉寺聖観音立像
(5月28日~終了日未定)

 大吉寺の秘仏本尊のお前立ちの聖観音像がお出まし。平安末~鎌倉初の作例ではあるが、正面観では首が肩に沈み、随分腰高で足の長いプロポーションで何か古様で個性的。大吉寺と集落の結びつきは密接で、自治会長経験者が信徒総代をつとめるとともに、観音の分霊を預かる「頭人」制度があり、またその経験者で構成する大吉寺史跡保存会もあるとのこと。仏像の継承の背後には、信仰の場を地域の人々が維持し関わる仕組みがある。解説カードあり。

6月21日
三井記念美術館
 特別展 鎌倉禅林の美 円覚寺の至宝
(4月20日~6月23日)

 円覚寺大用国師・釈宗演老師の大遠諱を記念して、円覚寺とその一門寺院の文化財を展示公開。円覚寺開山の無学祖元に関する資料が充実。円覚寺無学祖元坐像(重文)、慈照院無学祖元像(春屋妙葩讃)、相国寺無学祖元墨蹟(国宝)、無学祖元所持品と伝わる開山箪笥収納品(重文)からは丹地霊芝雲文金襴九条袈裟、木印、堆朱・堆黒の優品、払子等々。頂相では、建長寺蘭渓道隆坐像(重文)、正統院高峰顕日坐像(重文)、瑞泉寺夢窓疎石坐像(重文)、白雲庵東明慧日坐像(重文)、正伝庵明岩正因坐像を集めて豪華。ほか円覚寺銅造阿弥陀三尊像(重文)、清雲寺瀧見観音菩薩遊戯坐像(重文)、東慶寺観音菩薩立像(重文)など仏像多数。図録あり(172ページ、2300円)。

6月25日
佛教大学宗教文化ミュージアム
 特別展 ほとけの手-黙して大いに語る-
(5月25日~6月30日)

 本体から分離して伝えられた仏像の手を集め、そこから「ほとけの手」の宗教的機能を推察する。京都大学人文科学研究所所蔵のパキスタン・タレリ寺院とメハサンダ寺院出土の手部断片23点、徳島県・雲辺寺の千手観音像腕部26点、兵庫県・達身寺の天部形像腕部4点など。仏手に着眼してテーマとすることで、仏像断片を展示する文脈を構築した点が重要で、断片となってなお廃棄されずに維持継承してきた人々の信仰の歴史をも背後にうかがわせる。図録あり(58ページ、1000円)。常設部分では壬生狂言の仮面等資料を展示中。

7月21日
奈良国立博物館
 わくわくびじゅつギャラリー いのりの世界のどうぶつえん
(7月13日~9月8日)

 夏休み期間にあわせ、館蔵品・寄託品を活用して宗教美術における動物表象にクローズアップし、職員作画のイラストで雰囲気を和らげつつ、親しみやすい展示作りに努める。普賢十羅刹女像(前期)、普賢菩薩像(後期)、一字金輪曼荼羅(前期)、孔雀明王像(法隆寺・後期)、星曼荼羅(前期眞輪院本、後期法隆寺本)、鳥獣戯画残欠(藤田美術館、前期)、辟邪絵(前期)、地獄草紙(後期)等々、絵画資料の優品・佳品の贅沢なお蔵出し展の様相。彫刻では海住山寺の普賢菩薩騎象像のうち象は大倉集古館の像を彷彿とさせるもの(ただし後補もあり)。ほか鳳凰文塼(南法華寺)、法華経妙音菩薩品(施福寺)など。図録あり(154ページ、1000円)

 特別陳列 法徳寺の仏像-近代を旅した仏たち-
(7月13日~9月8日)

 近年個人から奈良町の法徳寺に寄進された仏像のうち27体を紹介。鎌倉時代の文殊菩薩坐像(五髻文殊)、飛鳥時代の銅製観音菩薩立像(橋本関雪旧蔵)、平安時代中期の如来坐像、興福寺千体仏20軀、平安時代後期の地蔵菩薩立像(興福寺旧蔵)など、近代期に寺院より流出し巷間に伝えられた未紹介の彫像を、速報的に展示する意欲的な内容。興福寺千体仏については、春の藤田美術館展出陳の20軀(50軀のうち)に引き続いての大量出陳で、一気にアカデミックの対象としての水準に引き上げた(平安後期南都における造像功徳による作善の事例)。図録あり(42ページ、1000円)。

8月16日
MIHO MUSEUM
 紫香楽宮と甲賀の神仏-紫香楽宮・甲賀寺と甲賀の造形-
(7月27日~9月1日)

 紫香楽宮・甲賀寺の歴史(及び発掘調査の足跡)を紹介するとともに、甲賀地方の特色ある仏像・神像をかつての宮都の文化的遺芳として集める。甲賀寺跡出土の瓦、宮町遺跡出土の柱根、北黄瀬遺跡出土の大きな井戸枠、鍛冶屋遺跡出土の梵鐘内型等々、主要出土遺物が結集。甲賀市常明寺の大般若経、布施美術館の光明皇后五月一日願経などの奈良朝写経も充実。仏像・神像では、奈良時代の小金銅仏である極楽寺の観音菩薩立像、阿弥陀寺の薬師如来立像は量感ある充実した体躯の10世紀彫像、矢川神社の威相を示す10世紀の男神坐像、櫟野寺からは10世紀の観音像のほか、10~11世紀の拱手する僧形坐像と、甲賀市内の重要作例を集約する。信楽に所在する同館が、信楽と甲賀郡の歴史的・文化的重要性を伝える展覧会を開催するのは、博物館の公共性という観点からも意義深いもの。図録あり(212ページ、2600円)。
 鑑賞後、紫香楽宮遺跡(甲賀寺跡)に足を伸ばして散策。小丘陵上の伽藍には大仏作るスペースはないなあ。

8月21日
九州国立博物館
 室町将軍-戦乱と美の足利十五代-
(7月13日~9月1日)

 室町時代の文化史を、歴代将軍の動向を軸にしつつ重要資料を集めて俯瞰する。九博での開催は、足利尊氏の筑紫落ちからの快進撃ののち室町幕府が開かれたことに基づくもよう。前田育徳会宝積経要品など尊氏自筆資料、久遠寺夏景山水図など東山御物の数々、禅林寺融通念仏縁起絵巻など将軍家が製作に関与した絵巻、黒川能の絢爛豪華な装束など猿楽の資料(輸入唐物の観点も)、そして等持院の歴代将軍肖像などなど。
 等持院足利将軍坐像13軀がずらり円形に並ぶ最後の部屋は、迫力ある展示空間が構築された優れたデザインであるが、この部屋のみ撮影可とし、またフロアー中央に撮影ポジションを限定して観覧者動線との衝突を防ぐ手法はよく練られたもの。
 本展に彫刻資料が少ないのは、足利将軍坐像でさえも評価が定まっていないように、これまでの室町時代彫刻史研究の停滞によるものに違いない(自戒)。室町時代政治史・文化史の中における仏像(神像)研究の必要性を痛感。図録あり(304ページ、2650円)。

熊本県立美術館
 日本遺産認定記念 菊池川二千年の歴史 菊池一族の戦いと信仰
(7月19日~9月1日)

 熊本県・菊池川流域の文化遺産を核とした「米作り、二千年にわたる大地の記憶」の日本遺産認定を記念して、流域の武士の消息を伝える資料群、そして信仰に関わる文化財を集めて展観する。菊池一族の精神的支柱であった大智禅師の肖像彫刻(広福寺蔵)、その大智に継承された道元所持の二十五条袈裟(広福寺蔵)、時宗の祖師像である僧形倚像(願行寺蔵)、平安時代前期の地蔵菩薩立像(康平寺)、鞠智城跡出土の金銅菩薩立像など、仏像も多数出陳。神像では玉名大神宮の男神坐像(平安時代)と菊池神社の僧形神坐像(応永10年[1403])に注目。前者は菊池則隆像、後者は菊池武士像という伝承を付随している由。神仏分離時の対応措置かと想像するが、要検証。図録あり(227ページ、2300円)。

8月24日
高野山霊宝館
 第40回大宝蔵展 高野山の名宝-きらめく漆工の美-
(7月20日~10月6日)

 恒例大宝蔵展は、高野山伝来の平安時代~近代までの漆工資料をお蔵出し。澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃(平安時代・国宝)や、灌頂道具を収めた花鳥漆絵竹編箪笥(竜光院・明~清・重文)などのほか、宝簡集巻三四・後白河院御手印起請文(国宝)とそれを収めてきた梨地蝶菊文蒔絵文箱、紺紙金銀字一切経(国宝)とそれを収めてきた経箱(国宝附)、大正天皇下賜の螺鈿秋草蒔絵文箱などの多彩な奉納品を紹介。紫雲殿の小特集「天野社と丹生高野明神」では鎌倉時代の丹生・高野明神像(重文)など展示。隅廊で開催中の「新発見!圓通寺 八万四千塔」は近時発見された木製小塔を速報展示。天保7年(1836)に円通寺の龍海が発願・供養。近年の霊宝館の活発な展示活動は、毎回新たな高野山史を紐解き掘り起こす作業であり、新鮮な驚きに満ちている。

9月8日
高野山別格本山西南院
 第1回 西南院寺宝展
(9月5日~9月8日)

 近年整理作業が進められている西南院聖教調査の成果をもとに、平安時代から室町時代までの聖教類を特別公開。平安時代後期のオコト点(宝幢点)が付された蘇悉地羯羅経巻上、安元2年(1176)明空書写、高野山印接院の朱方印を有する略釈毘盧遮那経中義、奥書に「紀州名手荘江河村千手寺常住」とある永禄7年(1564)の神名帳、元中3年(1386)書写と推定される荒神祭文は南都伝来の可能性。ほか天正8年(1580)、春日社の神官が書写した神祇陰陽鈔など神道書もピックアップ。
 従来の西南院聖教に関する研究の蓄積を踏まえつつ、新資料も多数公開され、それらを共有化する貴重な機会。調査を担当されている高野山大学坂口太郎講師による解説集(16ページ・100円)あり。ぜひ第10回まで継続して、高野山の新たな歴史を紐解いて欲しい。

9月12日
泉屋博古館
 住友財団修復助成30年記念 文化財よ、永遠に
(9月6日~10月14日)

 住友財団による文化財修復への助成事業30周年の節目に際して、住友コレクションの展示施設である泉屋博古館を中核に全国4会場(泉屋博古館・同分館・九州国立博物館・東京国立博物館)で開催する文化財修理と保存の啓発展示。
 泉屋博古館会場では京都府下の修理助成作例を中心に集める。彫刻では平安末奈良仏師作例の浄瑠璃寺大日如来坐像、正和4年(1315)の躍動的な動きを見せる院派作例の大興寺十二神将立像(巳・午)、絵画では神護寺の山水屏風、栗棘庵の八幡若宮神像、聖護院熊野宮曼荼羅、ほか冷泉家時雨亭文庫の明月記など。
 図録あり(164ページ、1200円)。図録は4会場それぞれで発行するが、総論・概説・座談会は全て共通で、出品資料の解説付きのカラー図版部分(及び表紙)が異なる。オープン前の東博分以外は同時販売(分館分192ページ、1200円、九博分132ページ・1080円)。

京都市歴史資料館
 企画展 ICOM京都大会開催記念 京都市指定の文化財
(8月30日~10月20日)

 ICOM京都大会にあわせて、市指定の優品を集めて展示する貴重な機会。勝光寺聖観音立像は9世紀の作例で、真如寺伝来。真如寺は貞観4年(862)創建と伝承。鳥羽地蔵浄禅寺の十一面観音立像は等身に近い10世紀作例。赤間薬師堂の薬師如来坐像と慈眼堂(中院町文化財保存会)の千手観音立像は、修理の際の情報も紹介。ほか八幡宮社の室町時代懸仏や鎌倉時代鏡像、十念寺の曾我蕭白筆雲龍図(安永7年〔1778〕)など。図版・解説付きのリーフレットあり(A4・8ページ、無料)。

京都国立博物館
 ICOM京都大会開催記念 特別企画 京博寄託の名宝-美を守り、美を伝える-
(8月14日~9月16日)

 ICOM京都大会開催を記念して、京博寄託品から選りすぐって、日本美術史叙述の上で骨格をなす重要資料の数々を全館で展示。優品優品また優品で出陳品列記にきりがないけれど、仁和寺孔雀明王像、清浄華院阿弥陀三尊像の宋仏画並びや、仁和寺宝相華迦陵頻伽蒔絵𡑮冊子箱、宝相華蒔絵宝珠箱、延暦寺宝相華蒔絵経箱の平安蒔絵並び、正伝寺兀庵普寧(or東巌慧安)所用品と天授庵無関普門所用品の宋元袈裟並びなど、「美」にのみ収斂されない信仰の証の伝領の歴史にも思いをいたす。
 本展出陳資料とも重なりつつ、今回の機会に京博寄託品を選んで編集した同名の図録(248ページ、1800円)あり

9月26日
和歌山市立博物館
 特別展 雑賀衆と鷺ノ森遺跡-紀州の戦国-
(8月24日~9月28日)

 戦国時代の紀州惣国の動向と様相を、近年発掘された鷺ノ森遺跡の調査成果報告を核として、真宗の信仰を伝える仏画や戦国期の古文書から紹介。紀州の真宗道場の展開を考える上で象徴的な位置づけにある二尊像(親鸞蓮如像)や顕如像、准如像など鷺森別院の仏画をじっくり。真宗寺院や個人所蔵の雑賀衆関連の古文書を丁寧に集めて釈文も用意。図録あり(96ページ、1000円)。

10月2日
神奈川県立金沢文庫
 特別展 聖徳太子信仰-鎌倉仏教の基層と尾道浄土寺の名宝-
(9月21日~11月17日)

 中世の真言律宗周辺の聖徳太子信仰に基づく美術資料を集約。茨城県から善重寺聖徳太子立像(重文・摂政像)、妙安寺の聖徳太子立像(孝養像)と聖徳太子絵伝(重文)、上宮寺聖徳太子絵伝(重文)、小松寺如意輪観音坐像、千葉県・円勝寺聖徳太子立像(二歳像)と関東地方における太子信仰の優品を揃える。また広島県・浄土寺からは聖徳太子立像3軀(摂政像・孝養像・二歳像〔重文〕)、釈迦涅槃図(文永11年〔1274〕、重文)、弘法大師絵伝(県指定)、定証起請文(嘉元4年〔1306〕、重文)などなど、多数出陳されて有益な機会。幸俊作の暦応2年(1339)聖徳太子立像の体型と衣紋処理をじっくり。図録(112ページ、1800円)は鋭意製作中で、校正刷り見本による予約販売中(現在館内でのみ受付)。

東京国立博物館
 住友財団修復助成30年記念 文化財よ、永遠に
(10月1日~12月1日)
 住友財団による文化財修復への助成事業30周年を記念し、その成果を4会場(泉屋博古館・同分館・九博・東博)で紹介。東博会場では、東日本大震災において被災した福島県の杉阿弥陀堂阿弥陀如来坐像、楞厳寺釈迦如来坐像および迦葉阿難立像、龍門寺虚空蔵菩薩坐像のほか、埼玉県・保寧寺の宗慶作阿弥陀三尊像、福井県高成寺の千手観音立像、滋賀県・金剛輪寺十二神将立像、三重県・一色町能楽保存会の能面、和歌山県・熊野那智大社の下御門仏師作の神像、高知県・北寺の仏像群など、全国(九州・京都府以外)のバラエティに富んだ彫刻資料を集約。文亀元年(1501)高野山龍光院より伝来したと伝わる長野・不動寺の不動明王立像、2015年の長野県信濃美術館「“いのり”のかたち」以来のうれしい再会で、風貌の新様と体型の旧様を眺めつつ平安時代末の転換期の作例と想像。もっと調べてみよう。図録あり(112ページ、1100円)。

びわ湖長浜KANNON HOUSE
 余呉町上丹生 源昌寺 聖観音坐像
(8月27日~10月27日)

 小さいながらも平安時代後期風が顕著な源昌寺の観音像を紹介。実際の制作時期は、建保3年(1215)作の同寺本尊薬師如来坐像、翌年造像の洞寿院観音菩薩立像と表現が近く、鎌倉時代に入るとの評価。「仏の本様」たる定朝様の惰性が地域の仏師の中でとても強く残り続ける事例。彫刻史のムズカシイところをさらりと示す貴重な機会。東博にお出かけの皆様、例え5分でも隙間があれば、ぜひ観音ハウスにお立ち寄りを。解説カード(無料)あり。

泉屋博古館分館
住友財団修復助成30年記念 文化財よ、永遠に
(9月10日~10月27日)
 住友財団による文化財修復への助成事業30周年記念展。泉屋博古館分館会場では、称名寺の十二神将像、大倉集古館の十六羅漢像、永青文庫の長谷雄草紙、慈光寺の法華経一品経、泉屋博古館の水月観音像、練馬区立美術館池大雅筆比叡山真景図、アルカンシェール美術財団円山応挙筆淀川両岸図巻、増上寺狩野一信筆五百羅漢像などなど、修理助成した関東地方の所蔵者を中心に絵画資料に特化して集約。永青文庫・伝雪舟筆富士三保清見図の落款と印がはめ込みとの指摘。へえー。図録あり(192ページ、1200円)。後は九博会場だけ。

大倉集古館
 リニューアル記念特別展 桃源郷展-蕪村・呉春が夢みたもの-
(9月12日~11月17日)

 5年半の工事を終えてリニューアルなった同館の再オープンにあたり、吉祥図像の桃を取り上げる。新収蔵資料の呉春筆武陵桃源図屏風をメインテーマとして、その師与謝蕪村の武陵桃源図(個人蔵)と比較しながら、画中に亡き師を投影した呉春の画風変遷の画期を示す資料と位置づける。新たな作品解釈に果敢に踏み込む一方で、桃や桃源郷をモチーフとした中国絵画(林原美術館武陵桃源図巻ほか)から、日本における桃源郷イメージの受容と展開を示す作例(三井記念美術館中村来章筆武陵桃源図ほか)まで目配りして堅実。図録あり(112ページ、2200円)。1階では名品展。古今和歌序(国宝)、普賢菩薩騎象像(国宝)、石清水八幡曼荼羅(重文)、一字金輪像(重文)などなど。ミュージアムショップは地下1階に移動。

10月7日
東寺宝物館
 東寺御影堂と弘法大師信仰
(9月20日~11月25日)
 屋根葺き替え工事中の御影堂の歴史と奉納品について紹介。大師将来の真言七祖像を忠実に模写した浄宝本真言七祖像、東寺御影堂牛王宝印版木、鎌倉時代の両界種字曼荼羅、大師御筆と伝わる十喩詩跋尾(平安時代)のほか、昭和9年の大師千百年遠忌の際に旧女官により寄進された明治天皇・皇后御下賜品の金工・漆工・染織・竹工がずらり。リーフレットあり(12ページ)。


11月


12月

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